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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

池袋モンパルナス 歯ぎしりのユートピア

随分前から「池袋モンパルナス」に関心があった。
最初に気付いた展覧会は行き損ねて、それでいよいよ執着が募った。
そうこうするうち、やっと板橋で展覧会を見た。その感想はこちら。
「池袋モンパルナス展 ようこそアトリエ村へ!」 板橋区美術館
自分の好みからは本当は随分隔たっているのだが、最初に躓いたことが却って執着となり好意となって、「池袋モンパルナス」に対する愛情が湧き続けている。

東京芸術劇場は池袋の西口にある。
「池袋モンパルナス」の現場ではないか。
だから、そこのギャラリーで「池袋モンパルナス」の展覧会が定期的に開催されていたとしても、ちっとも不思議ではないのだった。

「池袋モンパルナス 歯ぎしりのユートピア」
…なかなかそそられるタイトルが付けられている。

大きなエスカレーターを二つ乗り継ぐとすぐギャラリーである。
無料展示である。
絵の大半は豊島区が所蔵している。
5章に分かれての展示で、真ん中に第3章「1945年4月13日の空襲」というコーナーが設けられている。
その日に受けた空襲の傷跡とその後の痛みがそこに集まっている。
絵画による歴史考証という面もあるかもしれない。


1.池袋の原風景 
思えば『原風景』の言葉を生み出したのは文芸評論家の奥野健男だった。かれは渋谷で生涯を全うしたのだった。
東京人ではないわたしは、渋谷と池袋の感性の違いを本当には理解しきれていない。
ましてや戦前のその地のことはわからない。だからこそ、絵を見て資料を読んで掴もうとしている。

小熊秀雄 夕陽の立教大学 1935年 ああ、実景とは違うだろうが確かに「夕陽」の中の「立教大」がそこにある。そして自分が歩いて行った日のことを思い出す。
この絵は前述の板橋でも見ているが、今回も同じ感慨を持って絵の前に立っていた。

長谷川利行 少女 1939年 遠目からでも長谷川だとわかる少女。

吉井忠 長谷川利行 1968年 死後随分たってからの彼の肖像。くろーい顔で瞑目している。白浴衣を着た長谷川。黒い顔ではあるが、暗い顔ではない。20余年経ってなお印象に残る、僚友の表情・姿。

鶴田吾郎 池袋への道 1946年 さすがその時代だけにリュックをしょった人が多い。活気はないがしかし生きようとする意志はある。

高山良策 池袋東口 1947年 終戦直後の現地の様子。闇市がある。女たちが闊歩する。
男たちより女たちが元気で勇ましいのは戦後の証拠とでも言うべきか。
この絵が豊島区立郷土資料館蔵なのは描かれた内容からなのかもしれない。


2.1940年代の表現 
戦争の時代としか言いようがない。前半は戦前・戦中で途中から敗戦国。いやそもそも真ん中から既にダメか。
その時代でもこうして何かしら芸術表現を通して自分の爪痕を残そうとする。

寺田政明 発芽A どう見ても怪獣ですがな。「発芽B」もあるが、やっぱり怪獣画のための何かに見える。1940年という時代がそうさせるのか、前衛とは怪獣を描くことなのか。
…尤もわたしは怪獣は大好きなんですけどね。

榑松正利 夢 1940年 くれまつ・まさとし。チラシにもなった絵はどこかルソーを思わせる。そしてルソーの夢想する夢の中に榑松が入り込み、そこでショパンになりつつ、怪獣から逃れようとする…そんな構図に見えた。
それにしてもこの森はキャベツか小松菜の葉で出来ているのか。
二人の怪物はなんなのか。何もわからないまま妙に惹かれる。
13052901.jpg

榑松正利 話 1942年 三人の少年が教室かどこかで小さなストーブを囲んで話をする。
先の「夢」と違い、確かな実感のある現場が描かれる。
しかし少年たちは何を語らっているのだろうか。


3.1945年4月13日の空襲
くらくらした。

杉浦茂 池袋空襲 この名前を見て大方の人は絶対「…あのシュールなギャグ漫画家の?彼はもともと洋画家を目指してたしな」と思ったはずだ。
だからわたしもそれかなと思って出かけると、なんだ別人らしい。
思えばよくありそうな名前である。
杉下茂だとピッチャー、杉山茂も野球人、杉山茂丸は国士で夢野久作の父。
…どうでもいいか。

吉井忠の描く「ひとびと」の姿が集まる。
そして高山良策の子供たちの絵がたくさんある。空襲半年後、終戦直後、半年後などなど。
悲惨な時期なのに、なんとなく日本の子供らの可愛らしさが際立っている。
いずれも水彩が少しばかり入っていたりするスケッチ。

そしてその翌日の池袋近辺の写真が出ていた。巣鴨2丁目付近。


4.風刺の態度
この風刺が実はあんまりわからない。同時代の空気を吸わないとわかりにくいものが多いからだ。

大塚睦 凶鳥 これは以前にも見たが、意図するものは不明でも、少しばかり怖い絵である。

大塚睦 闇市(香具師) 1946年 裸の少女が座している。男は「カンカン」と呼ばれるハカリで桃らしきものを売る。暗い時代の風景がシュールな空間に浮かぶ。

桂川寛 1954~1955年の絵が集まっているが、いずれも砂川闘争をモティーフにしたものらしい。北川民次のメキシコ絵画をイメージさせるような作品群。
正直なところメキシコ絵画風なものが苦手である
以前に世田谷美術館でメキシコ絵画展を見た時も鬱屈した。
しかもわたしのニガテな1950~70年代が舞台の日本の風景なんて、オトロシヤ。
逃げ出すしかなかった。


5.それぞれの場所へ
1950年代以降から'80年代くらいまでの作品が集まっている。

吉井忠 津軽の海 1982年 ホネらしきもの?が描かれている。

吉井忠 黙劇 1984年 四つの面が矩形に並ぶ。
ベシミ風なのもある。オカメもある。同じく能面を描いた坂本繁二郎の作とは全く違う重い沈黙がある。

丸木俊 ロシア人形 1958年 可愛らしい、赤スカーフにスカートをはいた人形。ロシアの民族衣装を着ている。しかしこの時代、この人形はソヴェートの外貨稼ぎとして生まれているのだ。

丸木位里 グランドキャニオン 水彩。アメリカに行ってたんだなあ…

井上長三郎 ドストエフスキーの庭 1956年 時代を感じる。

50点弱という見やすい数でもあり、気負わずに見て回れた。
タイトルの「歯ぎしりのユートピア」というのはやはり「池袋モンパルナス」を構成した人々の時代感覚を知らなければ、本当には伝わらない。

6/5まで。「池袋モンパルナス」に関心のある方は是非に。
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コメント
池袋モンパルナスに夜がきた、と書いたのは誰だったか。
練馬で小熊秀雄の展覧会ありましたね。
しかし、今日目黒区美術館行きましたけど、お客さんが全然いない、松濤美術館コレクションも誰もいない。
大型美術展にみな吸い込まれているような。
2013/05/29(水) 21:08 | URL | oki #-[ 編集]
☆okiさん こんにちは
しかしそれでもがんばって展覧会をしてもらわなくては。
2013/05/30(木) 08:56 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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