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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

奈良絵本・絵巻の美

東大阪市民美術センターで「奈良絵本・絵巻の美」展が開催されている。
慶應義塾大学絵入り本プロジェクトの成果であり、精華である展覧会。
近年、しばしば奈良絵本の良品を眺める機会も増え、たいへん喜ばしく思っている。
そしてこの仕事に打ち込んでおられる石川透さんらのおかげで様々なことがわかってきて、ますます興味深く思う。今はただ奈良絵本の世界へ溺れ込んでゆくばかりだ。
思えば最初にこの慶應のプロジェクトの成果を展覧会で見たのは2004年の思文閣美術館でのことだった。あれからさらに研究が進んだのである。
展示品は個人所蔵のもので時代判別がつくもの100点とその他にも50点ばかり。
100本の作品については黎明期・絢爛期・生産期・最盛期・終息期・末裔期と分けられ、中には作者の判明しているものもある。

絵はないが本や絵巻の形態と内容とを簡素に記した冊子をもらった。
これは以前、八幡市松花堂美術館での展覧会の時にもらったものをさらに発展させたものだった。
つまり、八幡では50点の展示だったが、ここでは100本のほかに50点近い断簡も展示されているのだ。
東大阪市民美術センターで初めて見るものも多くあったので、たいへん貴重な機会となった。

チラシは「一寸法師」の宰相の家に来た一寸法師と「どこどこ?」と探す宰相殿。
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寛文年間の作だという。<最盛期>の作品。
人物はおおらかだが、背後の襖絵がなかなか手が込んでいる。
金地に桔梗と秋草。この絵から邸宅の建物の構造なども知れる。
ところでトリックスターたる一寸法師は履物の歯の間に隠れるという芸当をしてのけている。
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彼は自分を売り出すのに色んな手を使ったが、まずこれなどはほんの小手調べ。
なにしろお椀の舟で渡ってくるくらいだから何をするか知れたものではない。
漆塗りの綺麗な椀。そして松のある岸辺と言うことからここが住吉だと推定されたようだ。
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<黎明期>
「花鳥風月」「四十二の物あらそい」「八幡縁起絵巻」「歌物語絵巻」などがある。
まだ絵は多少稚拙なところもあるが、それぞれ物語を思い起こさせる情景を描いている。

<絢爛期>
鼠の草紙 槍持ち鼠五匹の並ぶ一枚が残されている。孫右衛門、平八などと言う個別の名も見える。物語はサントリー美術館の「鼠の草紙」と同様。
この物語は人気があったようで、丹波笹山の青山歴史村でも、また別な手による「ねずみ草紙」を見ている

堀川夜討 土佐坊昌俊(ここでは正尊)が義経を討とうと夜襲をかけるが失敗し、一旦許されて後に再び義経を攻撃してついには処刑される話。
1.土佐坊が義経を襲撃して逆に捕らえられた後のシーン。座敷には判官と女たち。回廊に坐すのは色黒坊主頭の弁慶、そして庭に円座を敷いたものに座る土佐坊。
2.白馬に乗った弁慶が盾持つ敵をバーンッと打ち倒す。
弁慶も古い絵では色黒の坊主頭と相場は決まっている。

<生産期>
物くさ太郎 色黒大男が女を抱き上げる。お付きの女たちは慌てふためく。道行く女たちも立ち止まって見上げる。
このときの太郎は小汚い大男として描かれているが、後に色白の美丈夫になり、ついにはこの女とともにお多賀の明神になるのだった。ストーカー太郎の出世譚。

玉水 姫君に恋した狐は化身して玉水と名乗る女房となり姫に仕える。
姫の部屋はなかなか凝っていて、朝顔の襖絵もかわいい。歌を作る姫と女房たち。
異類婚だけでなく女装と言う状況も加わり、なかなか興味深くはある。

浄瑠璃物語 流浪の貴公子たる義経と矢矧の長者の娘・浄瑠璃姫の恋物語。物語は岩佐又兵衛のそれと同じ。ここでは義経は武術だか忍術だか魔法だかわからぬものを会得しており、それで色々と立ち働くが、それでも悲運は払えない。
1.庭に佇む御曹司。扉を開く。室内には姫が立ち上がって後を見ている。
2.松林の中、一旦死ぬ御曹司を必死で介抱する姫とお付きの女。
倒れる男を救おうとする二人の女と言う構図は青木繁「大穴牟遅命」を髣髴とさせる。
一人の男の蘇生には二人の女の優しい手が必要なのか。

判官都話 こちらも義経の話である。鬼一法眼の兵法書「虎の巻」を得たい義経。
文楽や歌舞伎でもなじみの「鬼一法眼三略巻」と大筋の話は同じ。ただしこの御曹司は身をやつしはしない。
1.鬼一の座敷。妻と三人の娘らもいてくつろぐ鬼一。黒の総髪にヒゲの鬼一。畳の縁も綺麗に描かれている。そこへ来る御曹司。
2.夜、そっと訪れる御曹司。赤い花や青い松がかわいい。

<最盛期>
橋姫物語 これは恨みの念のこもった宇治の橋姫とは別な話である。大変巧い絵で、土佐広通の落款があるそうだ。土佐広通は後の住吉如慶。うまいはずである。
二人の女房を持つ男が龍王に囚われその婿となり、地上へ帰れなくなる。橋姫は老婆の手助けで夫を見ることが出来るがもう一人は失敗する。
この男はよっぽど艶福家なのかなんなのか。
1.老婆と旅する女(橋姫)、松の根に昼顔が咲き、一人川面をみつめる。
2.素晴らしい邸内。阿古陀型の香炉に蒔絵の文箱、池には鴛鴦。紅葉も散り、ただならぬ風情がある。

蓬莱物語 秦の始皇帝が方士・徐福に蓬莱山へ行き仙薬を得るよう申し付ける。
徐福は48対の男女の子供を連れて船出する。
1.拝命する徐福。ただし装束は和風である。
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2.大海原で二頭の竜が現れ、船上の子供らは大パニックになる。
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泣く子・慌てる子・逃げ出す子などなど描写が細かい。

熊野の本地  16枚の断簡のうち今回出ていたのは、ラストの王・女御・王子の三人が天車に乗り、天空を飛んで熊野へ降り立とうとするところ。拝殿の前の人々の様子も描かれている。
金砂子が鏤められ、たいへん綺麗。
この物語は御伽草子の中でも特に好きな一編で、伝奇性の高い面白い物語である。

百合若大臣 丁寧な絵。自分の身分を奪った裏切り者たちの前に引き出された浮浪者としての百合若大臣。人々の見守る前でかつての愛弓を引き絞り、敵を討とうとするところ。
百合若大臣の説話はユリシーズを遠祖に持つという説もあるが、この話もかつての日本人の愛したもの。わたしとしては鷹のみどり丸が可哀想で、百合若の妻の浅慮がいまだに気に入らない。

文正草子 塩作りにいそしむ情景。この文正草子はめでたいものだということで、異本がたいへん多い。わたしもいろんな文正草子を見てきたが、これもかなり綺麗だった。

天狗物語 仮の題。天狗会議のメンバー。羽団扇なのか八つ手なのかわからないものを持つ者もいた。これは「是害房」とはまた別な物語らしい。

猫の草子 慶長七年まで猫は繋がれていたらしい。解き放ちの令が出たところ、ネズミがその窮状を高僧に訴えるが、今度は猫が夢に出て結局猫の自由が確定。
綱つきのキジ猫、夢の中に出るトラ猫、なかなか個性的。
平安時代の飼い猫は女三ノ宮の猫もそうだが、たしかに綱つきだったが、自由猫も当然いたろう。わざわざ法令も出たとは。

稚児物語の「秋夜長物語」、肉付きの鬼面の「磯崎」、「御曹司島渡」などなど、この時代はいい作品が多い。


<終息期>
猿源氏草子 稚拙な絵だがその分可愛らしい。橋の上での出会いの場。
これは舞踊劇にもなり、しばしば今はなき中村勘三郎が猿源氏・坂東玉三郎が遊女蛍火になって軽やかに明るく演じていた…

梵天国 僧形の侍従の恋と冒険の物語。ラストシーンが出ている。迦陵頻伽が舞い舞う中、侍従と姫。やはり御伽草子は面白い話が多い。

瓜子姫 木に縛られている瓜子姫。あまのさぐめが化けた姫の駕籠がゆくのへ声をかけるところ。一行がそちらを見る。ドラマティックな瞬間。

竹取物語 出ていたのは幼いかぐや姫とまだ少し若い媼の温かなシーンと夫婦との別れのシーン。幼いかぐや姫にご飯を食べてさせてあげるおばさんな媼。月の迎えが来たとき泣く夫婦はだいぶ年も取っていた。

鉢かづき 可愛らしい姫。完全に顔が隠れているわけではない。この作画は居初つな女。
居初家は堅田の旧家だが、つな女はこの一族の一人ではないだろうか。
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姫の様子nec401.jpg

<末裔期>
道成寺物語 既に人の形を捨てた後の清姫が追いかけている。髪の長い龍のような様相を呈している。六十二段の階段の上では僧兵も稚児もみんな手に手に獲物を持って龍に対抗しようとしているが、龍は恐れない。
そしてついには倒れる僧の絵がある。

梅津長者物語 台所にいる。猿回しも来れば馬もいる図。めでたい物語。

百のうちこれだけを挙げておく。なお展示解説本は三弥井書店の製作によるもの。
それを思うだけでもこの冊子のありがたみが増す。

そしてここからは冊子にない展示について。リストがないのでわたしのメモばかりになるが、その中から特によかったものを挙げる。

雀の夕顔 ストーリーは不明。夕顔まみれの民家がある。なにやらみんながあわてている。
これだけ見ていたら愚か村系統の話かとも思う。雀の報恩譚だろうか。
雀を可愛がる老女、一方壺から蜂や蛇やトカゲまで出てくる…酒を集める村人たち。

七福神 外で宴会する七福神たち。

異国 鶴に導かれ子供ら7人がどこかの門前に佇む。手をつなぐ子供らだが、後には一人の子供だけが物語を行く。走る鬼たち。子供はもしかすると一寸法師サイズか、それとも。
鬼の国へ入る子供。驚く住人達。
この「異国」は2010年版の詩思文閣出版刊行の中では<最盛期>にランクインされていたが、何故か今回は外れていた。

他にも非常に多く作品があるので、ぜひともご一覧をオススメする。

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コメント
いつもありがとうございます
遊行七恵さま
おはようございます。しばらくご無沙汰いたしております。
ご覧いただきましたようでありがとうございます。
石川先生とは広島の美術館で知りあって以来、
いつかお願いしようと考えており、ようやく実現しました。
ご承知のように、美術センターは展示ケースがありませんから、
昨年のオールドノリタケ展と棟方志功展と同じく、
仮設ケースを作って、二つの展覧会で使うという工夫であります。
次回の河井寛次郎は、
瀬戸市美術館、はつかいち美術ギャラリーへ巡回しますが、
ちょっとね、展示で考えていることがありまして、
遊行さんにも是非ぜひご覧いただきたいものです。
どうお感じになるか、僕が意図しているものが伝わるか、どうお感じになるか、
楽しみです。
今は、これまた今までにない陶芸図録の校正に追われていますが、
またできたらお送りしますね。
ではでは、雨は少ないものの、不快指数マックスなので、
どうぞご自愛下さいね。

2013/06/16(日) 08:46 | URL | jun #-[ 編集]
こちらこそ
☆junさん こんにちは
好きな世界ですから本当に楽しみました。ケースもよかったですよ。
それにあれだけの数が出ていたのがまた嬉しい。
こういうのが一番好きですよ。

次回河井ですか。それも楽しみですね。
河井ばかり見ていると、自分の嗜好が変わってくるのを感じたりもします。
次も楽しみです。
2013/06/17(月) 12:58 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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