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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

博物館は おばけやしき

子供の頃からオバケ屋敷が大好きだ。
遊園地に設置されているオバケ人形の活躍するオバケ屋敷に始まり、東映の俳優さんらの出演と深作欣治監督演出のオバケ屋敷も楽しくて、本当に好きで仕方ない。
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兵庫県立歴史博物館の特別展「博物館は おばけやしき」は本当に楽しかった。
浮世絵や大和絵の幽霊・妖怪画を出すだけでなく、現役で最後のオバケ人形師の中田市男さんの人形が出演していたのだ。
こんな魅力的な展覧会、めったにないですがな。

入り口からして凝っている。
このあたりは撮影OKならみんなますます喜ぶのに惜しいことをするよ。
お城の入り口を拵えていて、向かって右には白い狐の尻尾をいっぱい見せたバケモノ、これは姫路城の本当の城主と言われる「長壁姫(刑部)」とその眷属たちで、左には井戸から飛び出すお菊さんがいる。
お菊さんの周辺には染付のお皿と蝶々が華やかに舞う。
どちらも姫路のお祭り・三ツ山大祭の今年の拵えもので、長壁姫と眷属は地元の大学生たちが、お菊さんは地元の高校生が作ったそうだ。
かなりよく出来ている。

それでお菊さんに蝶々キラキラというのは何も意味なしのことではなく、姫路つまり播州が舞台の「播州皿屋敷」には殺されたお菊さんがお菊虫に化身したという伝承がある。
そのお菊虫の成虫がジャコウアゲハだということで、蝶々キラキラなのである。
バックに花を背負う少女マンガのキャラ、周囲に蝶々をまといつかせるオバケのお菊さん。

ちなみに長壁姫の物語は旧くは宮本武蔵の肝試し、近代では泉鏡花「天守物語」としてよく知られている。
わたしなんぞも子供の頃から姫路城の天守には刑部姫とその眷属がいて、城主よりも偉いという話を聞いていた。
尤もその姫路城主は酒井抱一ファミリーではなく、それ以前の話だが。

江戸時代、既にオバケ屋敷は興行として成り立ち、人気があった。
いつごろからそれが人気になったのかは知らないが、見世物を喜ぶ人々の絵は近世風俗画の初期の作品に顕れているので、同時期のことかと思う。
橋爪紳也さんの「化物屋敷」にそれが詳しい。
20年ほど前に出た中公新書で、当時ワクワクしながら読んだ本である。

さてオバケ屋敷は絵にもなっていて、有名どころでは「林家正蔵」などがあり、そちらは三井・横須賀そして巡回の「幽霊・妖怪画大全集」でも見られる。
この兵庫歴博の凄いところは、その資料ではなく、江戸時代に開催された実際のオバケ屋敷の様子を描いた本や、オバケ屋敷のやり方のノウハウ本を展示しているところだった。

胴試真絵 これが江戸時代のオバケ屋敷を描いた本の一部。うーむ、なかなか怖いですがな。なにしろ出てくる奴が凝ってる凝ってる。

化物草子、土蜘蛛草子、怪談絵巻、稲生物怪録など、あるあるあるある。
土蜘蛛草子はトーハクでも見たが、これは天保8年の写本で国際日本文化センター蔵。
やたらと顔の巨大なタラチネなのが座敷に坐っている。
戦前の日本まではこんなヒトも多かったから、一概にバケモノとも言い難いのだが。

それで思い出した。乱歩「孤島の鬼」の副主人公でゲイの美青年・諸戸道雄は養母に挑まれて、それがトラウマとなりゲイになったのだが、「オバケのように大きな顔が」とその養母の様子を主人公に語っている。今の人より昔の人の方が顔が大きかったのは事実だが、それでなおこのセリフだから、推して知るべしな巨顔なのである。

稲生平太郎のひと夏のバケモノ対峙(退治ではなく対峙である)の記録を描いた「稲生物怪録」は当時から有名で、今も毎日新聞の今月の童話「平気の平太郎」になり、また諸星大二郎「紙魚子と栞」のシリーズにも出てくる。水木しげるももちろん描いている。
とはいうものの、どうも平太郎は何を見ても動じない肝の太い人と言うより、どこかズレてる人に見えて仕方ないのだった。しかもある意味すごく面倒くさがりのような。

ここでは色んなバケモノが登場するが、指先がさらに枝分かれしている枝毛ならぬ枝指はキモチわるかったな~

稲垣足穂はこの平太郎のひと月に亙るバケモノとの遭遇・対峙は、愛のイニシエーションだと書いていたと思う。最後の最後にとうとう化物たちの頭領・山本五郎左衛門から勇気を称えられ、木槌を与えられる。
その木槌で何がどうということもないのだが。

姫路と言えばお菊さんの話が本場だが、これが江戸だと「番町皿屋敷」になり、皿も高麗青磁だというのを読んだが、出典を忘れた。
一方、宝暦4年刊行の「西播怪談実記」では信楽焼の皿だとある。
信楽焼で皿というのはちょっとどうだろうか。
浮世絵などでは染付のお皿が描かれている。
どちらにしろ昔の身分制度による悲劇がある。

お菊さんはお岩さんと並ぶ日本の二大幽霊で、だからこそ吉川観方も二枚絵を描いている。そちらは「幽霊妖怪画大全集」に展示されている。
お岩さんはお江戸の人だが、各地に皿屋敷伝承があることも、民俗学的な見方で見ればとても面白い。

さてそのお菊さんが出演する読み物も錦絵も少なくはない。
落語にも出るし、明治の新歌舞伎にもなった。
ここでは芳虎の仕掛け絵本もある。

扶桑皇統記図会がある。これはデジタルライブラリーで見ることができる
オバケ話があるようだ。

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さて、いよいよオバケを作るコーナーに来た。
オバケを作るとは何か。オバケ屋敷のノウハウ本や仕掛けものなどがたんと並んでいた。

「即席手妻種」「放下筌」「天狗通」といった本があり、いずれも平瀬輔世の著作。
中でも「即席…」には巨大な三つ目の黒ん坊(!)がぬーっと出ていて、それが妙に可愛い。これでターバン巻いたら「お呼びですか、ご主人様~」とか言いそうだし、または
♪メタルーインドーカレー♪とか歌いそうである。

写し絵のフロと種板がある。これは嬉しい。三井にも出ていたが、本当に楽しい。
今は上方落語にこの演芸が伝わっている。
ここにあるのは簡単なバケモノ変化のもの。物語性のあるものはない。
国立演芸場の資料室には「こはた小平次」の種板があり、わたしは'93年頃にそれを延々と写生したことがある。
そんな頃から今とあんまり変わらない暮らしぶりだったのだ。

蔀関月の「伊勢参宮名所図会」がある。挿絵が丁度妖怪を的にした吹き矢の図。
こういうのも面白い。お伊勢さんで妖怪吹き矢。
膝栗毛でも水口の辺りでそんな挿絵があるから、やっぱり今の三重から滋賀にかけては、妖怪吹き矢が人気だったのかもしれない。

見世物ではほかに独楽の竹沢藤次の絵が出ていた。当時の人気ぶりがしのばれる。

明治36年(1903)に歌川国政が児雷也をモティーフにした4枚続きの組み上げ絵(立版古)を出した。蝦蟇たちが可愛い。特にちびの蝦蟇たちの可愛さは撫でてやりたくなるほど。

次は化物細工と生人形。
随分以前のINAXギャラリー「上方下りの細工見世物」では錦絵だけでなく現物もあった。
百五十年以前の人々が楽しんだのを実感する。
その時に松本喜三郎や安本亀八の生人形を知り、その艶めかしさにときめき、後年わざわざ熊本まで展覧会を見に行ったのだった。

人魚のミイラがある。キメラ的な工芸。残念。これはやっぱり和歌山産。これではないが、高野山の麓の学文路のお寺にやっぱり人魚のミイラがある。
それは2001年頃に大丸での「大妖怪」展で見た。

幕末、江戸に人気の化物細工の上手な人形師・泉目吉という人がいた。
芳艶がその拵えものを錦絵にしている。
こういうのを見ると、やっぱりいつの時代もホラー系の人形を拵えるのが好きな作家がいるものだと感心する。
オバケなんて大っ嫌いと言う人もいる一方で、わくわくする人もいるのだから、やっぱりこういう作家は必要だ。
現代でも一人でオバケ屋敷のコンセプトから演出までやり遂げる人がいて、かなりの人気者だ。彼のオバケ屋敷に行きたいと思っているが、なかなか行けない。いつかぜひとも。

流行人形双六を見る。生人形で拵えたシーンが色々あるようだが、それを絵双六にしたもの。武松の虎退治、近江のお兼、張順の水門破りなどなど水滸伝や当時喧伝されていた稗史の勇者たちが描かれている。こういうのを見るのは本当に楽しい。

おお、生人形の現物がある。松本喜三郎の池坊。明治4年の作。ちゃんと手は花を触る。
楽しいなあ。また生人形の展覧会や細工見世物の展覧会が見たい。


最後のお化け人形師・中田市男さんの特集があった。
中田さんについては、2006年に「オバケ屋敷などなど」でも少しばかり挙げさせてもらった。
その記事はこちら

中田さんの人形はいかにも「オバケ~」という実感がある。わたしは人形そのものが好きなので嬉しいが、やっぱり怖いなあ。
浴衣が可愛いのっぺらぼう、男顔の鬼母、一つ目小僧に三つ目入道、大入道、烏天狗などなど。

蚊帳の中にいる骨女はこちら向けの左顔はきりりとした顔だが、右は骨が露わ。雰囲気的に「豊志賀師匠」ぽい。
そしてその手が持つ団扇には吉川観方のお岩さんの絵が描かれている。
また、蚊帳の上をそぉっと見上げると・・・ギョッ!!大きい足がドーーーンッッと出ていた。
オバケの上に更に別なオバケがおったのでした。

今回、新作を拵えたそうだ。こちら。nec586-1.jpg
やっぱり女のオバケはちょっとキリリとしていないとね。

中田さんの人形で怖いエピソードが紹介されていた。
北海道の興行主が中田さんにお岩さんの制作を依頼した。
機嫌よく素敵に怖いお岩さんを拵えて送ると、程なく依頼主から「あの人形はおかしい」と、理由を決して告げることなく送り返されてきたそうだ。
中田さんはとうとうお人形を川に流してしまったそうだ。
人形に魂が入り込んでしまって、何かがあったのかもしれない。
それからか、それ以前からか、中田さんは決して人形を完璧には作らないそうだ。

中田さんの人形は昭和の真ん中から終わりくらいまでとても需要があったのだが、近年は残念ながら出演が激減。
わたしはやっぱりこういう和風の人形が展開するお化け屋敷が大好きなので、また復活していただきたいと切に願っている。
そして中田さんの技能を受け継ぐ若い人も育ってほしいと思っている。

img991.jpg 昔見つけた新聞記事から。


ピカッと光るものがあった。
明治13年(1880)刊行の「御伽秘事枕」は西洋風味のオバケの仕掛けなどを記していた。タイトルだけ見れば春本かと思うがさにあらず、オバケです。
そしてここでちょっとした仕掛けが設置されていて、楽しめるようにもなっていた。

思えばわたしは「幽霊・妖怪画大全集」からこっち、三井の「大妖怪」、横須賀の「日本の幽霊を追え」とオバケ系展覧会を追っかけ続けたが、この兵庫歴博は「博物館は おはげやしき」と名乗りを上げるだけに、所々に観客参加の仕掛けがあった。
どこの展覧会も楽しかったが、体験型があるのはここだけだったか。

オバケ屋敷の現在、ということで宝塚ファミリーランドの水木しげるのオバケ屋敷の資料が出ていた。
わたしもよく行ったなあ。
とにかくわたしにとって宝塚ファミリーランドは心の底から楽しめる遊園地だったのだ。
このことについてはしばしばこのブログ上で語っているのでここでは書かないが、常にあの遊園地のことを思うと涙が出てくる。
そしてそこで楽しんだ鬼太郎のオバケ屋敷の楽しさ・怖さを思い出すのだった。


江戸時代の絵巻物や版本が出ている。鳥山石燕らの本なので、このあたりはもぉすっかりおなじみ。
「兵六物語残巻」にはミミズクのバケモノが描かれていたが、確かに江戸時代はどうしてかミミズクもバケモノ仲間として描かれることが多い。
なんでだろう。

酒呑童子関連の資料もある。右隻しか出ていない屏風もある。だから鬼の首が飛ぶシーンはなし。

桃太郎の鬼退治も思えばひどい。侵略者ですよ、桃さん。
だからか(?)戦中には「桃太郎 海の神兵」という見事なアニメーション作品もある。

淡路の人形カシラもたくさん出ていた。
淡路の人形は文楽のカシラより大きい。その分パッと見に迫力がある。
赤鬼、青鬼、黒鬼、赤鬼ガブ、天狗などなど。お岩さんまである。文楽でもお岩さんあるかなあ?
そんなことを考えるのも楽しい。
やはり顔の後ろに顔があるオバケの人形が出ていた。
わたしはこれを見ると必ず山田風太郎の小説を思い出すのだった。

錦絵もある。
芳年の「美勇水滸伝 天狗小僧霧太郎」がとてもハンサム。
北斎の百物語も少しばかり。
金毛九尾の狐の絵もある。
国芳 三国妖狐図会 玄翁  ドクロいっぱいある中に美女と対峙する玄翁。この玉藻の前が那須で殺生石になるのだが、玄翁はそれを砕く力を持つ。

それから北斎漫画のオバケ関連ページが開かれている。
累の怨霊と祐天上人の絵など。
そういえば昔わたしは祐天寺へ行ってその説話や資料などがあれば見たいと思ったのだが、いまだに祐天寺にすら出向いていない。

面白いのは寛政七年(1795)刊行「桃食三人子宝噺」。大人になった桃太郎と金太郎が仲良くくつろいでいる。

ほかにも山東京伝の黄表紙には「ももんじい」やカナで顔を作る、つまり「ハマムラ」の大先輩たる「ヘマムシ」などが出ていた。
それから「小夜の中山夜泣き石」などなど。


おもちゃも多い。
幕末から明治にかけてのおばけのおもちゃ絵など。
タイトルがまたすごい。
「新板お子様方に出きるかわりゑ」芳藤のおもちゃ絵。
オバケの種板もあるが、大うつし絵の皿屋敷は怖い。

明治になって駄菓子屋で売られもする、オバケのおもちゃ。
日光写真、うつし絵、オバケ花火、妖怪メンコ、夜光オバケ、そして平成の世にも「ようかいけむり」というおもちゃがあった。
やっぱりみんな、オバケ大好きなんですよ~

壁面に切り絵で作られたオバケたちが並ぶ。
実にうまい。
立体的な造形。バウハウスの教育のようだ。かっこいい。
昔からのものもあろうが、オリジナルもあろう。
とても器用で感心するばかりのハサミの動き。
いや~すばらしい。

それから郷土玩具のおばけたちが集められていた。
真っ黒な顔に体の神戸人形がいっぱいある。
さすが「兵庫県立歴史博物館」である。
神戸人形は大阪北摂のわたしには珍しいものだった。
西瓜喰い、木魚叩きと手妻、ろくろ首、鬼の船遊び、オバケ井戸、月見の宴会・・・

東北のオバケたちも負けてはいない。
ザシキワラシに河童、ベロ長。
館林の文福茶釜、大台が原の一本タタラ、蒜山のスイトン(なつかしい!!)、鳥取の張り子のオバケたち、土佐のシバテン、長崎のベロだしの凧(ベロだしは世界的に「魔除け」の意味を持つ)、奄美のケンムン・・・
そして「妖怪版 ご当地キティ」!!!
三つ目にろくろ首にちょうちんに天狗に・・・キティ万歳!!!

鬼太郎のソフビ、プラモ、そして昭和60年代の「霊幻道士」、キョンシーのゲームなどもある。

あーーー、本当にすごい。
めちゃくちゃ楽しい「博物館はおばけやしき」だった。
大雨が予測されているが、9/1までなので行ける方はぜひとも!!! 本当に面白かった。
蛇足な話。
この展覧会の後々に元町大丸で「旧居留地0番地 人形の館」という西洋風おばけ屋敷に入ったのだが、惜しいことに出演するおばけさんより、わたしたちのほうがどうやらエグかったらしく、ちっとも怖がれなかった。
今度はぜひとも「キャッ♪こ~わ~い~」とやるべきだと反省している。
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