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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

生誕120年宮芳平展

生誕120年宮芳平展を見に練馬区立美術館へ行った。
全く知らない画家で、そんなに関心もわかなかったが、チラシを見て気が変わった。
ジョン・レノンのような自画像である。nec661.jpg


サイトの紹介文は以下である。
「森鴎外の短編小説「天寵」の主人公M君のモデルとなった画家・宮芳平(1893~1971)を紹介する企画展です。
宮芳平は新潟県魚沼に生まれ、理想の画家になるため東京美術学校に学びます。在学中の大正3(1914)年、第8回文展に自信作《椿》を出品するも落選、その理由を審査委員であった森鴎外に尋ねにいったことから二人の交流が始まりました。翌年の第9回文展にはアールヌーボーを取り入れた象徴派風の作品≪海のメランコリー≫が入選。この頃、キリスト教的雰囲気をもった作品≪聖夜≫なども制作。日本美術院洋画部では、デッサンコンクールで村山槐多をうならせたという伝説をもっています。
また、病床の中村彝のもとに通い絵をみてもらいながら、画家としての成功を夢見ますが、1923年に長野県諏訪高等女学校の美術教師の職を紹介してもらうと、諏訪に落ち着き、誠実に子供たちと風景を見つめ、生涯、市井の画家として絵を描き続けました。亡くなってから40年以上がたちますが、今でも教え子たちに愛され、熱心なファンを持つ知られざる画家です。
本展は生誕120年を記念し、鴎外に愛され、生涯を野の花のように素朴に生きた宮芳平の画業の全貌を紹介し、油彩画のほか、素描、銅版画、ペン画など多彩な魅力に迫ります。」

その「天寵」を読んでないし青空文庫にもないので話を知らないが、チラシのコピー「野の花のように生きた」こ
とや来歴を見ると、中央に知られずとも自分の心のままに、
良い作品を描き続けてきたことが、伝わってくる。

まず若い頃の作品が現れる。百年ほど前のころ。
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小さな赤い鉄橋  不透性の七宝釉薬で拵えたような画面に見えた。べた塗ではあるが心の透明性は感じる。

椿(旧題「愛」)  これが前述の落選品で、鴎外にじかに聞きに行った経緯などは自分を主人公にした小説に詳しく書かれている。
画面構成が見えないくらい濃厚すぎる絵だった。椿がどこにあるのかもわたしにはわからない。
愛もどこにあるのか…いや、それは目に見えなくとも本人があると言えばあるのだ。
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ガウンをまとった女  中国風な女である。昏い緑をまとう。
宮の絵は「暗い」のではなく「昏い」のである。
絵の具の塗が濃いためにそうなったのか配色のせいなのか。

濃密な空間には他者の手は差し込めない。見る者ですら拒まれる。
鴎外がどのように宮に落選の理由を語ったのか、そのことを知りたい。

落日の嘆美  宮にキリスト教への歩み寄りがある・なしを踏まえずとも、一目で宗教的な境地にある絵だということは分かる。女たちが海に沈まんとする夕日に向かって手を合わせて拝む。日想観ではなく、一日の終わりに際しての、神への感謝の気持ち。女たちの祈り。
しかし、ただ一人だけ祈ることなくこちらを見る少女がいる。顔立ちは判然としないが、表情を想像させられる。
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ふたつの「聖夜」を見る。ともに1916年の作品。
どちらの絵が紹介文にある絵なのかはわからない。

聖夜  パステルで描かれている。砂丘のようなところをマント姿のものが一人歩く。その影は長い。日は赤いが昏い空。

聖夜  油彩画。青昏い中を行く四人の女たち。とぼとぼと池の畔を歩く。そばには糸杉が並ぶ。糸杉は西洋では死者の葬列を見守り、見送る木である。
聖なる夜の敬虔な行列というより、沈黙と重い秘密を抱えたまま葬礼に向かう人々に見える。
場所自体は軽井沢のタリアセンを思い出させてくれた。
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無題  裸の男女が寄り添いながら天へと突き上がるように延びる塔を見上げている。
雷雲なのか、なにか不吉な空模様の中にいる。ふたりはアダムとイブなのかもしれない。

若きLの肖像  孔雀柄のガウンをまとっただけの若い、男性にも女性にも見える人物がいる。胸の薄さから思うと男性かもしれず、また「L」と名乗りつつも本人の肖像かもしれない。芳平は「琅」という名で自己投影させた小説を書いている。
琅はすなわちLowなのかもしれぬのだ。

ドント・オープン  小さな庭園に小さな可愛らしい家がある。ベンチで座る女は刺繍をしているらしい。リンゴの木。白椿の茂み。フォーゲラー風な雰囲気がある。
可愛らしさと共に、どこか静かな狂気すら感じてしまう。
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この絵の下にローマ字の詩が書き連ねられている。とはいえ大正頃の表記は現在と違うのか、単なる書き間違いなのか、妙な単語もあった。
ドント・オープンと言うのはあの閉じられたドアを言うのでも、閉ざされた庭園を言うのでもなく、この女(姫、と詩にはある)のことをさしているのである。
彼女を開く資格もない男、というような意味のことが書かれていた。

風景(原っぱ)  小さな建物の奥に巨大なビルディング。現代でもまだ活きているように見える風景だった。

平塚あたりを描くようになってきて、絵が変わり出す。
マチエールが分厚くなってきて、貼り絵のように見えるものもでてきた。
だが、そうなると今度は絵から信仰心が消えて行き、ある種の物語性も失われてきた。
とはいえ、風景そのものは明るい光を放っている。

素晴らしいのはペン画だった。
このペン画だけでも見ていたくなる。
宮はフォーゲラーと夢二に影響をうけたようで、1922年頃を中心に、ロマンティックなペン画をたくさん描いている。それらは当時大流行の絵葉書原画のためのものだったのかもしれない。
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接吻  二人の女がソファに並んでのこと。ロートレック的な愉しみからのことにも見える。この時代のひそやかな流行。

憔悴  座り込んだ女が一人腕組みをする。大正時代は享楽と憂愁とに満ちていたことを想わせる。

憂鬱  浜辺で寝転ぶ。憂鬱であることは昭和初期まで続く。

湖の乙女  ☆きらきら その下に佇む裸婦。花々が咲いている。モザイクで出来たような構成。

夜  バイオリンを弾く。こうしたポーズもまた大正イマジュリィ。

寂滅  おじいさん、水中へ深く歩み続ける。

木  青い夜。シビのついた屋根はお寺か。隣には塔。和の空間でありつつモダン。こちらも☆きらきらきらきら。

沈める鐘  大小七つの鐘が水中に沈む。ハウプトマンを想うより先に、わたしは「妖怪人間ベム」の1エピソードを思い出した。沈んできた鐘に封じられた魚が外へ出るまでの物語を。

落日の嘆美  前述の作品と構図は似ているが、こちらは大勢。

穏やかな南東の風よ  「ノアノア」を綴る。女の背が描かれている。南洋への憧れは何も西洋人だけのものではなかった。日本人もまた多く「南方」に憧れた。パラオに移住した人々の物語を想う。

黙示  百合の花畑。りんごと女と。意味の深いアイテム。

目覚め  母と赤子。母はベッドから赤子を見に起きる。

海の話2  四人の人魚たち。なにを話し合うのか。わたしはこれを見て、諸星大二郎の描く人魚たちの話を思い出した。

父と子の悲哀  背を向け合う父と娘。

耽溺  ソファに座る女二人。カードゲームをしている。タバコを持つ手、ワインを持つ手。

楽人と人魚  ギターを弾く楽人と、それを心地よく聴く人魚たち。じっくり聴く楽しみ。

今日よりは幸福の日ぞ  女二人の励ましあいか。

椿の傍らで 古代ローマ風な女がたたずむ。

絵の構図などを見ていると、やはり夢二の影響が強いようにも思われた。

Do not open  こちらはクレヨンで描く。花も赤椿。イスはスツール。微妙な違いがある。

ペン画の良さに本当にときめいた。すばらしい。
これだけでも欲しいと思った。


さて宮は信州に移住し、地元の教師として活躍し、多くの生徒を育てたそうだ。
そのころの作品が現れる。

八島  山と水と。昔風な青・ベージュ・ピンクの取り合わせ。なにか懐かしい。

蓮  マチエールがどこか重い。泥を塗り重ねたようなイメージがある。

街はずれ俯瞰  クレヨン画。たぶん上諏訪のような気がする。蚕棚のある倉庫が何軒か。懐かしい。

エッチングがある。
どうもあまりよくない。なにか暗い。


宮は歌人・宮柊二の叔父だった。びっくりした。
そして宮は甥の主催する短歌雑誌の表紙絵を担当する。
それらは全て1966年春の欧州から中近東巡礼ツアーで見た風景から選ばれたもの。

それらの作品はエルサレムの門をイメージした先に展示されている。

宮は25歳で受洗している。キリスト教信仰は深い。
彼は聖地巡礼をし、行く先々の風景にキリストの生涯をオーバーラップさせている。
中で最も気に入った作品は「サロメ」だった。

サロメ  赤いドレスの女。マチエールの厚さは女の顔を消す。

短歌雑誌「コスモス」表紙絵もまた面白い。
ロンドンにて  ウィリアム・ブレイクの支える人をモチーフにしている。

これら雑誌表紙絵はほぼ全て幻想的な作品。
最後になったが、展示のあちこちで宮自身の言葉がパネルで紹介されている。
彼の通信誌に掲載されたことばたち。

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晩年にいたった頃なぜあんなにも厚塗りになったのだろう。
そのことだけがなぞとして活きている。

母子  娘さんと孫と。nec660-3.jpg
聖母子としてでなくとも。

興味深い展覧会だった。




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