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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

松本かつぢ/小林かいち

弥生美術館の今期の展覧会は、松本かつぢ、小林かいちをメインにしたものだった。
夢二美術館の方でかいち展を開催しているので、どちらの規模も小さくはない。
三階はいつもの通り高畠華宵。

今期で会員期限が切れるので更新。来年もよろしく。
いつまでも弥生美術館の会員として東京に遊びに行けますように。

さて松本かつぢ。
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「少女の友」「女学生の友」といった戦前の雑誌で大活躍し「くるくるクルミちゃん」というマンガも連載して、戦後は童画や赤ちゃんグッズのコンビ社の製品などで、長く長く愛された。
ご本人の写真などもあるけれど、丁度今現在ビッグコミックオリジナルで連載中の村上もとか「フイチン再見」に出てくるその姿が、なんだかイメージに一番近い気がする。
江戸っ子弁でダンディで子供好きで世話焼きで、しかし仕事に厳しく、弟子である上田としこ(「フイチン再見」主人公)を厳しく育て上げつつ、励ましの心を温かく向ける、そんな「いい男」なのである。

以前に弥生美術館でかつぢの展覧会があった。
2006年春季である。そのときのささやかな感想はこちら
図録も手元にある。
あの当時は河出書房が出していた。

それから6月には姫路の兵庫県立歴史博物館で「かわいい!女子ワールド 松本かつぢと少女文化の源流」展が開催され、わたしは二日に亙って感想を書いた。
1はこちら
2はこちら

このときの図録はまことに残念ながら抄録という形なので、その世界を網羅できているわけではない。惜しい。

今回はかつぢの生涯にも視点が向けられている。
立教中学の同級生に、灰田勝彦、河原崎国太郎、上原謙らがいたそうだ。
みなさん来年が生誕110年。

わたしの好きな作品がたくさん出ていた。
アンデルセン「絵のない絵本」をかつぢが描いたもの、まずこれが一番だと言っていい。
月の見た話 昭和9年の名品。イワン・ビリービンを思わせる装飾や森、そこにかつぢの健康で健全そうな少女がいる。
「流燈」するインドの美少女がとても好きだ。
このインドの行事は大観も描いているが、わたしのイメージとしてのインドへの憧れの第一に当たる。伏せ目のインド少女の慎ましい美しさ、心のありよう、それが描かれている。

真夏の夜の夢 昭和25年 戦後しばらくの混乱期にこんな愛らしい絵を描くかつぢ。どれだけの人々に夢を与えたことだろう。

戦前の物語絵を見る。名作・偉人伝の口絵である。表記が現行のものと違うのも楽しい。
マリ・アントワネット 昭和13年 4シーンある。牢獄での嘆きと断頭台への道と。

ハイヂ 昭和13年 4シーン。楽しいアルムの暮らし、花とヤギ、一室での鬱屈にはランプの煙が流れる。まるでアヘンのように。

幼き天使 昭和13年 パール・バック原作、ラインの黄金 昭和14年 シグルトやラインの女たち、ナイチンゲール 昭和14年、人魚の嘆き 昭和12年4月 人魚姫…
パンドーラの箱 昭和14年 これは幼い少女と少年が箱を間にみつめあう図で、幼さゆえのエロティシズムが漂う。
他にもまだある。
旗手 昭和14年 ドーデ原作 その力強さ、パホームの土地 昭和14年 トルストイ原作 コサック風な少女と馬車 などなど…

昭和30年のキャサリン・マンスフィールド「人形の家」もよかった。これはドールハウスの方の意味。
シリアスな「少女なれば」「運河」といった作品の良さにも惹かれる。

人物もさることながら、すごくいいと感じるのが建物。
とても可愛らしく描いていて、こういう建物が並ぶ街に行きたいと思うくらい。

かっこよさと可愛らしさが同居するのが素敵だ。
抒情画にかっこよさと明るい楽しさを持ち込んだ感じがある。

テニスコートでの少女のファッションも健全で、しかしセンスもいい。
年代を感じさせないところがある。アイビーにも見える。昭和初期の時代にあっても。

昭和10年代の便箋類は欧州を背景にしたものが多い。蔵書票も作り、多くの少女たちを喜ばせたことだと思う。

かつぢは実に多くの技法で描き分けた。
「アベ・マリア」での白百合と少女の慎ましい横顔、少女小説「月光の曲」の日本的な佇まい、すべて少しずつ違う。
江戸っ子ではあっても神戸育ちという所にセンスの良さがあるのでは、と解説にある。
戦前の神戸は確かにおしゃれだったろう。

オソレ・ミオ、ポリアナ、ケンタッキー・ホーム、牢獄の紅い花、純白の舞踏着。
当時の少女たちのときめきがつたわる。

少女小説「南十字星」のロマの少女が夜の街を走る躍動感。
「友情記念日」で2ショット写真を撮ろうとする二人の少女。

マンガがまた面白い。
「ポクちゃんとエカキのシェンシェイ」「ポクちゃんとリューチンサンの宝塚見物」
シンプルなササッとした絵で動きがいい。
他にも「ピチ子とチャー公」姉弟の話など。

ここでお弟子の上田としこさんのコメントが入る。
読んでいると、連載中の「フイチン再見」が蘇ってくる。
いいなあ。

今回「?のクローバー」の全編が展示されていた。
手塚治虫より早くの少女マンガだということである。
「なぞのクローバー」と読む。
今回の展覧会を機に本も刊行されたらしい。
そしてyoutubeでも画像が見れる。

原画はA3で12ページ。簡単なあらすじを書く。
悪い家来が王を監禁ね悪政を敷く。反対する人々は殺され、羊飼いの少女は胸を痛める。
そこへお世話になっている寺の和尚さんまでもが殺され、少女はついに覆面の義賊として立ち上がり、町のこどもたちが彼女に続き、とうとう正義が取り戻される。
…舞台はヨーロッパのはずだが「寺の和尚さん」というのが面白すぎる。絵はテンクルの老僧、つまりカトリックの修道士みたいなおじいさんなのである。
そんな恰好でありつつ「ナンマイダ」と祈る。
可愛い絵で悪逆無頼な様子を描くのも面白い。どこか杉浦茂のシュールさに似たものを感じる。そして構図が巧い。風俗は洋風で、三日月のかかるお城の絵などはすごーく素敵。
王様が引出しの中にいたというのも面白い。「フクメンさん」はパレードで顔を見せてそこで終わり。

さていよいよ「クルミちゃん」である。
実にたくさんある。うちの母なども「クルミちゃん」のファンだった。
可愛いなあ。
少女マンガの先駆としての「スタコラサッちゃん」は田川水泡だった。
わたしはこの漫画は読んだことはないが、久世光彦「謎の母」に出てくるので、名前だけは知っていた。

富田常雄、横山美智子らの少女小説の挿絵もあり、西條八十の「アリゾナの緋薔薇」もいい。

五月雨の葉陰 陽だまりの中に座る少女の周辺に白い影をつけることで、切り抜きを貼りつけたように見せる。不思議な立体感もある。

戦後10年経ってもこのような素敵な抒情画も描いていたけれど、方向転換して、童画へ向かう。

「たのしい幼稚園」の挿絵が懐かしさ漂う優しい絵。いいなあ。
これについては兵庫県立歴史博物館の展覧会の感想で詳しく書いた

コンビのベビー用品のイラストも懐かしい。ちっとも古くない。かわいいなあ。
幼児にはやっぱりスタイリッシュなものより、まず愛らしいものが必要だと思う。

ところでかつて松戸だったか、昭和ロマン館という挿絵や抒情画を見せてくれる施設があった。わたしはしばしば弥生美術館から次に向かうコースをとった。
2000年ごろの話。今はなくなったが、かつてここに松本かつぢルームがあったのだ。
本当に懐かしい。そこがなくなって作品を引き上げた。

かつぢの世界は明るい、いい心持にさせてくれる。
そのひとつ前の世代のメランコリックさが強い世界とはまた違う。
それはそれ・これはこれ、ということでわたしはどちらも好きだ。
ああ、いいものを見た。
来月末まで。


続いて小林かいち。nec702.jpg

シックな色合いの作品がある。黒と臙脂の合わせたものに親しみを感じもする。
健全で可愛らしく明るいかつぢの世界から、一転して大人のムードのかいち。

モガの佇む街角。楽しい夜でもどこかに憂愁が漂う。
連作物の不思議なアクティブさを感じる絵。
街灯の下の女の嘆き。
夜の墓地をさまよう魂。
教会、港、街路樹。どこを描いても舞台になる。

大正時代の人気者・正チャンとリスまで描く。著作権なんて無関係だった時代。
夜の街を走る二人。

京都の舞妓シリーズを見る。
風景と舞妓、素敵だなあ。こちらは余白がない。カラフル。そして団扇と帯も展示されている。
舞妓ものは色の使い方も明るい。

併設の華宵は女学生ライフ、夢二は日本画の「桃李図」やセノオ楽譜の「セレナーデ」など。

いくらでも見るべきものがある弥生美術館。来年もよろしくお願いします。


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コメント
帰宅しちゃいました
こんばんは。

「時差ぼけなう」なワタクシ。高齢の両親の衰えに心残しながらの
帰宅となりました。

それはともかく、さすが遊行さん!かつぢの絵も眼野付どころが違いますね!
こっちを読んでから行きたかったかも、と思っちまいました。
楽しい展覧会でしたよね~。
実は本当に長いこと、ワタクシ、この方を「松本かづち」という名の女流挿絵画家だと信じてたんですよ。
男性と知ったときはビックリでした。
しかし、なんでかな~~、勝手に変換してた名前ゆえかな~。
弟子に上田トシ子さんがいたのは驚きました。
フイチンさんの原画にも感動でした。
村上もとかの漫画、今回は買い損ないましたが、次回は絶対買おうと改めて決心。
そうそう村上もとかって「仁」の原作を描いた方ですよね。
なんと同じ母校(高校)の出身だそうで、それも驚きでした。

かいちは女性の嘆きがあまりにも多い以外は、その装飾性に
ものすごく惹かれて色々買い込んでしまいました。
いい作家さんだと思います。
2013/11/27(水) 08:00 | URL | OZ #-[ 編集]
魔の山の麓
☆OZさん こんにちは
時差ボケ解消までまもなくなう、ですかねw

フイチン再見はとてもいい作品なんですよ~~
前に弥生で上田としこ展を見たときに、かつぢの弟子だと知りました。
(女性だと思い込む、はなかったですけど、立原あゆみが男性だと知った時のショックは大きかったです)
「仁」も面白かったですね。
わたしは村上もとかが大好きなんです。
「龍 RON」なんて何回も読んではラストで涙ぐむのです。
小学校の頃に読んでた「赤いペガサス」以来ファンですから♪
いいなあ、お母様。

かつぢの健全さはホント、すがすがしいくらいです。
こういうのを好む少女はやっぱり明るい気持ちになっていたと思います。

そして打って変わってかいち。
メランコリックで少しばかり頽廃もあり、いいですよね。
この対比がすごい。
見応えのある展覧会でした。
2013/11/27(水) 09:42 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
No title
えええええっ?!!!!立原あゆみが男性っ!
2013/11/29(金) 05:16 | URL | OZ #-[ 編集]
マジよ
☆OZさん こんにちは

> えええええっ?!!!!立原あゆみが男性っ!

マジよ。スーパージャンプかなんかの雑誌が20周年とかで、いろんな作家にインタビューしてて、そこで立原さんが「昭和60年ごろか、ジジイに話を聞くなよ」と答えてて「はぁ?」と思ってたら、なんと男性でした。
「本気!」本気と書いてマジと読む、どころの騒ぎじゃなく、マジです。びっくりした。
2013/12/02(月) 10:42 | URL | 遊行 七恵 #-[ 編集]
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