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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

描かれたチャイナドレス─藤島武二から梅原龍三郎まで

「夕日と拳銃」をフィルムセンターで見た後、ブリヂストン美術館へ向かった。
「描かれたチャイナドレス 藤島武二から梅原龍三郎まで」展を見るのである。
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1915年(大正四年)の武二「匂い」から1942年の梅原「玉鈴と三鈴」までが並ぶ。
先にあの映画を見たことでいよいよ気持ちが高まっている。

この時代は日本が中国文化にのめり込んでいた時代でもある。先年、関西で多くの美術館が参加したリレー式展覧会「中国書画展」が開催されたが、たくさんの文物は同時代に将来したものだった。
中国を行き来する人々の中には画家も多く、彼らはそこでチャイナドレスの美に魅せられたのだろう。

武二 匂い これは東近美で会う度に黙って眺める一枚である。
ピンク色のチャイナ服の女が鼻煙壷の匂いを楽しんでいる。陶酔は深いものではないだろう。そこに匂いを漂わせ、まといつかせながら、彼女は物思いに耽っている。ピンクの服、ピンクの壷、ピンクのテーブルクロス、ピンクの花、ピンクの頬、ピンクの爪、ピンクの唇。
そしてブルーの花瓶、ブルーとピンクの混ざり合う背景。
それらを引き締めるのは女の深い黒髪。

武二 唐様三部作 どうやら壁画の下絵らしい。武二はヨウを持っていたそうで、これはそれをモデルに描いたものだろう。唐美人たちの優雅な一場。

武二 東洋振り これは2002年のブリヂストンでの武二展で見たのが最初かと思う。わたしはそれまでは武二の美人画はイタリア美人が最上のものだったのだが、この一連のチャイナドレスの美人たちから考えを変えた。
右向きの横顔は華やかである。青地に花柄のチャイナドレスに、青の七宝焼の髪飾り。首には珊瑚、手には団扇。背景の臙脂色もいい。
肌色の濃さも格別で、日本洋画の美人画とはこの肌色が魅力的か否かで決まるものだとわたしは思っている。

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女の横顔 今回のチラシの美人である。モデルは夢二、晴雨のモデルをも勤めた「お葉さん」こと佐々木カ子ヨである。優美な横顔は武二の要求に十分応えるものだった。
背景の荒い山の図はルネサンスの肖像画を再現したがったことからの取り組みである。
イヤリング、髪飾りなども綺麗で、一層その横顔の美しさを際だたせる。
この絵は長らく世に出なかったが、今は再び日本にある。

わたしはこの絵の変奏ともいえる「芳恵」にもひどく惹かれている。

武二 鉸剪眉 人形を写したものだという。確かに表情に生気がないし、台湾でみた人形にも似ているなと思ったはずだ。こちらは人形モデルバージョンだが、人間バージョンの絵もあり、そちらもいい。
この絵は神戸の小磯記念館での展覧会でみている。

武二 台湾の女 青いバンダナがとても印象的。これも12年前の回顧展でみた。真正面向きではっきりした顔の女。

小林萬吾 銀屏の前 青いチャイナドレスの上下を着ていすに寄りかかる。わたしはこの女の顔に親しみがある。わたしの友人にそっくりなのだ。それだけでも嬉しい。

児島虎次郎 西湖の画 とても華やかな情景。綺麗に飾られた船で遊ぶ人々。胡弓を演奏する男、歌う女、奥ではまた楽しそうな語らいがある。華やかな遊びの場。

虎次郎 花卓の少女 大きな目の少女がテーブルに倚っている。瞼の半ばまで前髪が伸びている。ややハレ瞼でよく見かけるような顔立ち。青紫のチャイナ服を着てこちらをじっと見ている。花瓶には薔薇、そして奥には牡丹。「牡丹と薔薇」という数年前のドラマを思い出した。

正宗得三郎のチャイナドレスは他の作家とは違う特性を持っていた。
彼はフランスで購入した布地で、日本で奥さんが拵えたチャイナドレスを描いている。
奥さんは昔の人だから洋裁和裁も出来る。旦那がチャイナ服の美人画を描きたいと言うので、はりきって型紙も何もないのに自分のオリジナルで拵えたそうだ。
とても偉い。
1925年の2作「赤い支那服」「支那服」はいずれも奥さんのオリジナルハンドメイド・チャイナドレス。しかもモデルも着用者も奥さん。
いい話だなあ。

それで思い出したが、岡田三郎助は同時代の中国の刀子コレクターとして名高かった。
かれは日本の小袖コレクターでもあり、美人の誉れ高い八千代夫人が豪奢な着物をまとったところをよく絵にしていた。
刀子コレクションについてはこちら

また西洋の近代ドレスを愛したのは中山忠彦で、彼もつい数年前まで美人の奥さんにドレスを着せて描いていた。
今は別な女に着せている。

正宗 中国服を着た女 後期に出てくる安井の「金蓉」と同じ小田切峰子を描いている。
彼女は「聖☆おにいさん」に出てくるぬいぐるみのカンダタによく似た、ただしこちらは黒色のぬいぐるみを持っている。
ところでこちらは以前「永青文庫の所蔵品から『近代洋画、セザンヌから梅原・安井まで』」展で見たのが最初だった。
その時の感想はこちら

藤田嗣治 力士と病児 パリから出て行った後の作品は妙なカラフルさに満ちている。
見世物の力士の大きな姿と若い母親と。

小出楢重 周秋蘭立像 パリには行ったが上海にも北京にも行ってない小出が、やたらめったらチャイナドレスに憧れたそうで、これは友人等の尽力により描けるようになったもの。モノスゴイ配色なのはいつものことか。

清水登之 松江の茶館 松江というても不昧公の松江ではなく、上海の松江。さらっとした群像がいる風景。いかにも清水らしい構成力。
お茶を楽しみながら外の景色を眺める。

梅原龍三郎 姑娘とチューリップ これも武二「匂い」と共に東近美の名品の一つなのだが、今回ほどまじまじと凝視したことはなかった。
油彩と岩彩とを併用するのはいつからかのスタイルだが、この姑娘には非常に特徴的に、それらが使用されていた。
ソファでくつろぐ姑娘には青がとても効果的に使われている。
白目部分、髪のところどころ。そうすることで彼女の個性が際立ってくる。

梅原 玉鈴と三鈴 お気に入りの姉妹を描く。しかし何故か洋画における死人カラーの緑色を姉妹の顎などに使う。ふたりのはっきりした眼がこちらを見つめる。

岸田劉生 照子像 妹照子を水彩画で描く。チャイナドレスが似合う照子。かなりの美人である。照子像といえば油彩のチャイナ服の方を見知っているが、この水彩も悪くない。
ちょっとばかり目がイッてるが、美人でチャイナドレスがよく似合う。

久米民十郎 支那の踊り これも正宗版「金蓉」同様永青文庫で見たのが最初。
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2009年の春の話。異様な手付き、のけぞるポーズ。
1920年の支那のリアルな時代の絵なのだが、本当の中国ではなく、どこか遠い世界での情景にも見える。
少しばかり未来派風にも見える。本当の未来派ではなく、その当時の日本人が懐いていた未来派のイメージとしてのもの。

朝井閑右衛門 蘇州風景 黄色い空に蓮池。びっくりするくらい薄塗り。朝井の仕事と思えないくらいの薄さ。そして浮世絵的遠近法の使用。細い木のバランスの危うい美。

三岸好太郎 支那の少女 なにやら目がイッてるようだ。阿片中毒のような感じ。

絵の他に本物のチャイナドレスも展示されていた。
1910年代から1930年代の6着。いずれも綺麗だが、時代が下がるにつれてモダンになり、かっこいい。

1910年代の黒の長袖のドレスは葡萄、唐美人、花などを刺繍している。これは満州族の伝統旗袍(旧式旗袍)ではないかと思う。とても優美。


長背心というドレスもあり、これはノースリーブのワンピース、藍色の花柄が大きく、どこか同時代のモリス商会の壁紙を思わせる。

龍の刺繍の入った蟒袍もある。清朝の貴人の着るような感じ。

ほかに赤地に花柄・長袖のもの、ノースリーブで今日のわれわれのイメージするチャイナドレスそのものの形をしたものなどさまざま。

1930年代のラメ入りの大きな花柄ドレスなどは今日の西陣の帯に似ている。
かっこいい。

やはり1910、1920、1930年代で全くセンスが違う。モダンなものに惹かれる。
細くないと着れない綺麗なドレス。

映画「上海グランド」を思い出した。
あの映画の中で抗日の同志たちを拷問して殺すサディスティックな女がいるが、彼女のチャイナドレスはとても素敵で、それが主人公の目に残り、彼女の行方を知るために仕立て屋を尋ねるくだりがある。
チャイナドレスは仕立て屋さんで作らせるのだ。

それから戦後の日本映画黄金期の一本「憲兵」で岸恵子が何着ものチャイナドレスを着替えてみせたり、その後に作られたハリウッドの名作「慕情」でもジェニファー・ジョーンズがチャイナドレスの美女を演じていた。

チャイナドレスの魅力は深く、それをまとう女へのときめきも深いのだろう。
7/21まで。


なお、こちらは横浜のユーラシア文化館での展覧会。
「福を呼ぶ中国版画の世界―富貴・長寿への日中夢くらべ―」
ここではモダンなチャイナドレスの美女ではなく、民間の絵師が描いた柔らかな丸顔の旗袍姿の美人画が集まっている。
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奥様と侍女。どちらも足元は隠されているが、間違いなく纏足されているだろう。
蝶やコウモリと言った吉祥文様が縫い取られた旗袍を着た二人。

唐子絵もあり、こちらも可愛い服を着せられている。あらゆるところに吉祥を福を願う中国人。面白く思った。

関羽が神様なのは知っていたが、他の武将も神様になっていた。
唐初の尉遲敬德も神格化され、災いを除き福をもたらす護符として版画が作られていた。
彩色はさまざまである。版木も一つのものではないようだが、パターンは決まっているのでそうそう違いはなさそうだった。
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ほかには西遊記の版画もあり、キッチュな彩色も楽しい。
こちらは6/29まで。
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