美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

ボンジュール! フランスの絵本たち ―カストール文庫やババール絵本の誕生を中心に―

二つの絵本原画展をみたので、そのことを書く。

『ボンジュール! フランスの絵本たち ―カストール文庫やババール絵本の誕生を中心に―』うらわ美術館
『1ねん1くみ』シリーズ 町田市文学館
どちらもとても印象深い展覧会だった。

フランスの教育者ポール・フォシェが1931年に「カストール文庫」という絵本の出版社を拵えた。
そこでは白系ロシア人らの作家が大活躍し、今に残る絵本を生み出している。
その原画を観る。
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ナタリー・パラン わたしのねこ ロシア構成主義の影響を受けたシンプルな可愛い絵。
飼い猫との様々なふれあいを描く。わりと暴れん坊な猫で、わたしなんぞはそうした猫との暮らしの方がリアルだ。
1930年、2006年と刊行された本がそこにある。

ナタリー・パラン まほうつかい バーバ・ヤガー ロシアの伝統的な魔法使いのばあさんバーバ・ヤガーが登場する。
1932、2010年刊行されたが、1998年には福音館からも出ている。

まほうつかいバーバ・ヤガー―ロシア民話 (世界傑作絵本シリーズ―フランスの絵本)まほうつかいバーバ・ヤガー―ロシア民話 (世界傑作絵本シリーズ―フランスの絵本)
(1987/02/20)
松谷 さやか


少女たちの輪舞が描かれている。ほかにも猫の縫い物、バーバ・ヤガーと猫など興味深い絵がある。
そしてこれは「呪的逃走」をも描いていた。
日本をはじめ世界に広がる「三つのものを投げると敵から逃走できる」事象である。
ここでは食べ物が森に、タオルが川になっていた。

ナタリー・パラン こんにちは、さようなら 1934年と1998年と。60年の隔たりがあろうとも決して変わらないものがある。幼い子供たちへのあいさつ。それだ。
コラージュ作品で面白い見た目だった。

ナタリー・パランの他の作品も色々と並んでいた。
「旅のおはなし」1935年、「ペルシャ猫のお話」1940年、「アリ・ボロンのきれいなアザミ」、最後は1969年の「自由な庭」小鳥とスグリなどのベリーが描かれていた。

ナタリー・パランの友人にエレーヌ・ゲルティックという作家もいて、彼女の作品もここから刊行されていた。
ペール・カストールの農場 1937年と2002年。いかにもその時代らしさを感じさせる色調。不思議にレトロな線。ロバ、犬、ウサギたち。
懐かしさがモダンさにも見えて、とても素敵な絵本。

ルドルフ・ヤルーチェク プラハ生まれの作家。1935年の「ハチの王国」の原画が未掲載のものも含めて出ていた。レトロなグリーンが魅力的。
擬人化された蜂たちが担架で運んだり花の蜜取りをしたり、女王を檻に閉じ込めたり、殺されたり。牢の見回りもいる。なんか凄い話やな。

普遍・不変・不偏。いずれも魅力があるのを感じる。

イヴァン・ビリービン ああ、ビリービンの作品が出ていたのか。嬉しいなあ。
小さな金の魚 1933年 老人と魚の交流。木造建築の美。ビリービンが諸国で見歩いた建物が更に美麗に再現されている。林の奥にそびえる壮麗な城。老人と王と。
グァッシュで描かれた美麗な作品。

イメージ (26)
フェードル・ステパノヴィチ・ロジャンコフスキー この作家の名は知らずとも「リスのパナシ」を知る人は多いと思う。
いしいももこの翻訳で日本でもなじみが深い。
本当の発音はどうやら「パナシェ」らしいが、「パナシ」で通る。
シートンの「リスのバナー」とはまた別なリスの物語。
リスと言えば同じフランスでジャンヌ・ロッシュ・マゾン「おそうじをおぼえたがらない リスのゲルランゲ」のゲルランゲがいる。わたしはその続編「けっこんをしたがらない」も持っているが、このゲルランゲはヤンチャでひねくれもので面白かった。
我が日本でも「正チャンの冒険」の相棒のリスは存在感の濃いやつでした。
オレンジ色のリスがなかなか賢そう。

りすのパナシりすのパナシ
(2003/04)
リダ フォシェ


ロジャンコフスキーはどうぶつをモチーフにした絵本が多いようで、ほかにも「くまのブリュー」「あざらしのスカフ」「はりねずみのキピック」「くまのミシュカ」「動物園の鳥たち」などの本がある。

ベアトリス・アッピア いかにもスイスの絵本作家らしい作風だと思う。
チラシになったのは「ひなぎくのおはなし」 1935年
イメージ (24)
擬人化されたひなぎくさんの話。

わからないのがフランソワーズ・テメルソンの「空飛ぶブタ『絹子』」シリーズ。日本に翻訳刊行されたようでもないし原題も『絹子』の部分は「soie-Cochon」=「絹のブタ」…そのままやん。
まあ豚の絹子さんが色んな色の…ちょっと不思議。

アレクサンドラ・エクステル 川の眺め 1937年 パノラマ絵本でちょっとカッサンドラを思い出す風もある。ちょっとかっこいい。

1930年代の豊かなフランス絵本の世界を実感する。

さて、ここまでは読む・見るの絵本だが、次は実践する・手を動かす・考えるの絵本。

ナタリー・パラン 「お面を作る」このシリーズは実際に本から切り抜いて自分で工作するように出来ていた。
インディアン、エスキモー、アフリカーナ、ロシアの農婦、ノルマンディーの農婦、アラブ人…

切り絵の絵本もある。「お店屋さんをしましょう」も教育絵本の一種。
楽しく学ぼう。

エレーヌ・ゲルティックもこうした面白い見方の出来る絵本を製作。
「妖精の絵本」1933年 では、赤と青のセロファンの眼鏡でそれぞれ見てみると、同一画面で違う絵が浮かんでくる工夫が凝らされている。
これは面白い。赤に反応して消える絵・青に反応して浮かび上がる絵。一画面で全く違うものを楽しめる。

たとえばシンデレラの変身がある。赤で見れば完成した馬車とドレスアップのシンデレラ。
青で見ればかぼちゃとネズミが馬車の位置に並び、シンデレラも平服。

美女と野獣、眠り姫、長靴をはいた猫などなど、有名な物語がこうして二重の情景を見せてゆく。二重構造による異時同時図という構想が楽しい。

ハメルンの笛吹、蜂とサルタン、白雪と紅薔薇、白鳥の王子、人魚姫…
いずれも多面性を見せる存在がいる物語。

楽しかった。


次は同時代の別な出版社から刊行された絵本の紹介など。

ラドヤード・キップリング なぜなぜ物語 おお、あのキップリング。「ジャングル・ブック」の作者であり、映画「王になろうとした男」にも出てくる…。20世紀初頭の英国作家。フランスでも人気があったのだ。今日でも人気のある作家のひとり。

そしていよいよ「ぞうのババール」が登場する。
作者のジャン・ド・ブリュノフのセンスの良さがあちこちに見いだせる。
英語版には英国の親しい作家AAミルンが序文を寄せている。
くっきりした線、明快な色彩。可愛いなあ。ファッション誌「VOGUE」で働いていただけに、ババールに着せた服のセンスもいい。
ババールは全世界から愛され、98年にはなんとギニア共和国で切手にもなっている。

ババールのしんこんりょこう (評論社の児童図書館・絵本の部屋 ぞうのババール 2)ババールのしんこんりょこう (評論社の児童図書館・絵本の部屋 ぞうのババール 2)
(1974/10/20)
ジャン・ド・ブリュノフ



この可愛さ・センスの良さをみていると、坂田靖子の「エレファントマン・ライフ」は後継者だと思ってもいいのだろうか。
幸せな気持ちが湧いてくる。


現代もまたフランスの絵本は躍動している。

アンヌ・ベルティエ 「数を数えましょう」「数のかくれんぼう」2006、2008年 これらはあまりに数学的というかむしろ抽象表現と言うべきなのか?わたしには理解不能なのだが、こうした作品が絵本として活きているのもいい。

アンヌ・ベルティエがどういった人かは知らないが、「割り算」「掛け算」といった概念を絵にするのは本当にすごい。
アタマがついてゆかないが、やっぱりこういうのを小さいうちから見ていると面白く感じるのだろう、と思う。

黄金の1930年代の絵本が21世紀の今日も再刊行により、人気を得る。
アレクサンドル・ロトチェンコの「動物を作ろう」も、あのロシア構成主義の!という驚きとときめきがある。

そしてわたしの大好きな作品があった。
ジャニック・コート「びっくり」 これは2012年のBIB展で見たもの。このうらわで。
その時の感想はこちら

丁度二年前の喜び。再会できてとても嬉しい。
グレーのふっくら猫と大人の女性との楽しい暮らし。家族が増えて、そして。
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最後までいいものを見た。やはり絵本の世界は素晴らしい。
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