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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

永青文庫・三井記念美術館で「能」の美を楽しむ

永青文庫と三井記念美術館とで、能楽の美を堪能した。
永青文庫「能を読む―細川家が一族で楽しんだある日の能」
三井記念美術館「能面と能装束 みる・しる・くらべる」
大名家の能と近年寄贈された金剛宗家伝来の能面などを楽しく眺め、どちらも長居した。

まずは永青文庫から。
イメージ (34)

花伝書抜書 細川忠興筆 細川幸隆奥書 慶長4年(1599)奥書  世阿弥の「風姿花伝」は現在に至るまで読み継がれ、その精神を尊ばれている著書。
お能に愛着のある大名家ではこのように写本を拵えることもあったろう。

関係ないが山崎正和「世阿弥」では晩年の世阿弥がこの著書を拵える動機が物凄い。
「躓きの書」として何百年も伝わるだろう、という呪詛がそこにあった。


演目ごとに分かれての展示。

・敦盛 
謡本 細川忠興筆 桃山~江戸時代  例の信長がよく舞ったのは敦盛は敦盛でも「幸若舞」の方で謡の文句も違うのではないかなあ。字面が違うからそう思うけど、詳しい勉強をしてないので知りませんわ。

十六 出目満永作 江戸時代(17世紀) 敦盛のための面。朱唇の、その口元の美に惹かれる。とても綺麗。
思い出したことがある。横溝正史「蔵の中」は彼の作中随一の耽美小説だが、主人公が最後に、ある春の昼下がりに蔵の中で自害する。
そのとき「敦盛さまのように綺麗にお化粧をして」と発見したばあやが語る。
敦盛はいつの時代も美少年の手本なのだ。

長絹 萌黄地花籠垣秋草文様 江戸時代  優美な装束。

・松風村雨
小面 児玉満昌「天下一/近江」焼印  チラシよりもずっと色白で、唇はややぼってりして、それが大きめに開いている。もっちゃりと、ぼえぇとした可愛らしさがある。
もっとはっきり言うと、知性は欠けているが、色っぽくて可愛いのである。

小面 児玉満昌「天下一/近江」焼印  もう一面あり、こちらはまた表情が違う。
明るく溌剌としている。
どちらが松風でどちらが村雨かは知らない。
そしてどちらも少し離れた地から眺めると、違う表情を見せてくる。

・杜若
深井 中年女の顔。口の開き方がリアルである。確かにこんな表情を見かける。

装束なども様々ある。
腰帯 藤紫地鉄仙唐草文様 江戸時代  これは綺麗。大胆な花の大きさがいい。

能絵合かるた 明治時代  楽しそう。四枚一組ずつ。鶴亀が可愛い。

芥川龍之介が大正六年に観た能について書いている。その様子を描いたものがある。
彼はポール・クローデルらと並んで金春会の「隅田川」を見ていたらしい。
そのエッセーは青空文庫で読める。
こちら。

曲見 児玉満昌「天下一/近江」焼印  何か心に思うことがあり、それで空虚になったかのように見える。

イメージ (35)

ほかに夏季コレクションを少々楽しんだ。

犬追物図屏風 まぁ正直いやなゲームをしてるよな。外では三味線弾いたりふざけあったり、猿回しもいる、という賑やかな状況。蹴合せの少女ら二人もいるし、覗く人もいる。
左は秋で踊る人々が見える。犬はやっぱり気の毒。酷いなあ。

葡萄棚図屏風 金地に灰紫の葡萄。よく生っていておいしそう。

うなぎ 森一鳳 にょろ~~鰭が可愛い。

婦人像 野口弥太郎 フォービズムの影響を受けた大胆な色調の婦人像。いいねえ。

永青はこれまで。

次は三井。
丁度3年前に橋岡コレクションが入った時以来の再会が多い。
その時の感想はこちら。


薄闇の中に浮かび上がる面、面、面。
ガラスケースの中で展示されている面たちが存在感をもって迫ってくるようである。

翁(白色尉) 伝日光 室町時代
三番叟(黒色尉) 伝日光 江戸時代
父尉 室町時代
「三番叟」は本当にいまだに理解が出来ない。
この笑顔がなにやら恐ろしくもある。
三面のうち一番古い室町時代の「父尉」は目がつり上がっている。古様だという。
笑ってはいない顔。

舞尉 伝三光坊 室町時代  ヒトに近いからか、表情に険しさ・物思いの深さが現れている。

阿古父尉 近江満昌 江戸時代  瘤状に盛り上がる頬などを差した名称らしい。

癋見悪尉 洞白満喬 江戸時代  このベシミさん、とても立派なツラツキである。ぐっと巨眼で口をつぐむ。言いたいことも飲み込む強さ。コワモテだが決して嫌な顔ではない。

中将(鼻まがり) 伝福来 室町時代  横顔からでは案外曲がっているようにも見えない。
「中将」だから美男という役どころ。鉄漿が綺麗。

景清 出目満照 桃山時代  額に四本も血管が浮き出ている。無念な顔である。

小面(花の小面) 伝龍右衛門 室町時代 三年前にも見ているが、そのときは偶然同時期に京都で「雪」の方も見ていた。
今回、どういうわけか若手タレントの剛力彩芽に似ていると思った。
どうしてそんなことを思ったのかはわからないが、位置を変えて眺めてもそう見えた。

不動 室町〜江戸時代  ♪♪♪な前髪である。

黒髭  伝赤鶴 室町時代  顎を出した顔で、これは「竜神」などのときの面だという。

獅子口 伝赤鶴 桃山〜江戸時代  力強い。とても力強い。

展示室 2は三井記念美術館でも特別な一室。
そこに孫次郎がいた。イメージ (33)

孫次郎(オモカゲ) 伝孫次郎 室町時代  たいへん美しいと思った。やや細い目は想いをこちらへ伝えようとする。開いた唇からは言葉が出来るようだった。
「あなた  」そんな声が聞こえてきそうだ。

展示室 3 茶室の中にただ一つ「鵺」がある。ノンコウの鵺。今度新しく重文指定されたそうだ。ノンコウが好きなわたしは嬉しい。

能装束をみる。
蜀江錦翁狩衣 江戸〜明治時代  緑色系の万華鏡が連続しているかのような文様。不思議な綺麗さに打たれた。

白繻子地鱗模様摺箔 明治時代  金と白。白は生姜砂糖を掛けたような滑らかさがあった。

黒繻子地油煙形縫箔 明治時代  油煙形は六片の花のような形を指すそうだ。この形をそのように呼ぶのか、とそちらに感心する。

紅地毘沙門亀甲鳳凰丸獅子模様厚板 明治時代  6頭の獅子が吠える吠える。ピンク、灰青、サーモン、黄色、金色、白。縫い取られている獅子たち。

吉祥文様として蝶々の柄も多い。
紅白萌黄段亀甲石畳雲板蝶火焔雲笹模様厚板唐織 明治時代
紅地網目蝶罌粟模様厚板唐織 明治時代
飛ぶ蝶、止まる蝶いろいろ。

刺繍七賢人模様厚板唐織 明治時代  裾みてびっくり。大トラがいる!(酒飲みの七賢人の変化やなく、本当に虎)あ、よく見たら鹿も象もネズミもいた。

能面の比較という展示もあり、面白く思った。
興味のない人はよく「能面なんかみんな同じ」と言うが、こうして比べると全然違うことに気付かされる。それでまだ「みんな同じ」と言うなら、その方がどうかしているかもしれない。

翁(白色尉) 伝春日 室町〜桃山時代
三番叟(黒色尉) 伝春日 室町時代  やっぱりどちらがどっちかがよくわからんのよ。

大飛出 伝赤鶴 室町時代
小飛出 伝赤鶴 江戸時代 こっちはややおとなしそう。

大癋見 伝赤鶴 江戸時代  天狗に使う。
小癋見 伝赤鶴 江戸時代  鬼神に使う。ちょっと賢そうに見える。

喝食 伝夜叉 室町時代
大喝食 伝春若 室町時代
前髪の銀杏型のそれで大小を決めているとか。どちらも可愛らしい少年。

中将 金剛頼勝 江戸時代  憂いがち。
平太 伝夜叉 室町時代  見るからに元気者。

般若  伝龍右衛門 桃山時代  まだヒト。
蛇 室町時代  もうヒトではなくなった…

三人の女というより、三つの世代。
小面 江戸時代  よく見ればあの書き眉が太く丸く大きい。
孫次郎 伝金剛頼勝 江戸時代  眉が少し薄くなる。
増女 伝増阿弥 室町〜江戸時代  小さくなる。
曲見  伝龍右衛門 室町時代  そして憂いがちになる。

イメージ (33)-9

お能はここまで。次からは戦前の歌舞伎。パネル展示と歌舞伎衣装と。
三越伊勢丹所蔵 歌舞伎衣裳 「名優たちの名舞台」
三越では貸衣装もしていたそうだ。

「名優たちの名舞台」写真パネル展示
ブロマイドで見たものもけっこうある。わたしは戦前の名優たちのファンなのだ。
これも「見ぬ世の友」ということかもしれない。

・上州土産百両首 S8.9 #6菊五郎・#1吉右衛門  二人並んで何かを見上げる。
・熊谷陣屋 S15.2 #1吉右衛門  ブロマイドでおなじみ。
・六段目 S7.5 #6菊五郎  勘平が財布をそっと確認するところ。
・勧進帳 #7幸四郎 「またかの関」と言われても立派な姿にほれぼれ。
・関扉 S12.5 #7幸四郎・#6菊五郎  大鉞を振り上げたところ。
・戻橋 #6梅幸 小百合として柳の下に佇み、右指を柳の葉に絡める。
・庵室 T8.6 #5歌右衛門 完全に初見。玉手御前。袖を引きちぎった後の姿だが、かぶらず。#5歌右衛門の玉手御前は本当に知らなかった。こうして見る限り、#6歌右衛門の玉手はやはり父の演出を踏襲していたのだ。
・暫 #9團十郎 銅像にもなったあの写真。
・楼門五三桐 #5歌右衛門 これも初見。「絶景かな絶景かな」。これは#2延若のが絶品だと聞いていたし、歌舞伎座にも鍋井克之の名画がある。
思えば#5歌右衛門は鉛毒のために手足が不自由だったから、こうした座ったままの演技は多かった。貫録が凄い。

ああ、いいものを見た。川尻清潭の編集した「名優芸談」などが思い浮かぶ。
池田文庫、早稲田演劇博物館などで見た昔の名優の写真、またじっくりと眺めたい。

その彼らの使用した衣装が並ぶ。
三越伊勢丹所蔵 歌舞伎衣裳

唐花唐草石畳文様直垂 九代目市川團十郎 明治時代 大森彦七
雪持竹南天雀文様打掛 五代目中村歌右衛門 昭和時代  政岡着用。吹雪に雀がいい。
藤流水蒲公英文様打掛 五代目中村歌右衛門 昭和時代  「鏡山」の尾上。黒地に裾が蒲公英。 
雲龍波濤文様褞袍 五代目中村歌右衛門 昭和時代  「楼門」の五右衛門。立派。
蝶花車文様打掛 六代目尾上梅幸 昭和時代  「重の井子わかれ」。黒地でこちらも綺麗。
庵木瓜文様羽織・着付 七代目松本幸四郎 昭和時代  金と銀とで作られた、屋根の下に木瓜。
雲龍宝尽文様唐人服 七代目松本幸四郎 昭和時代  「毛剃」九右衛門の装束。
龍丸格子文様羽織・着付 七代目松本幸四郎 昭和時代  意休。派手でいい。袖も含め後だけで14龍。
雪持松蔦文様羽織・着付 六代目尾上菊五郎 昭和時代  「寺子屋」の松王丸。雪に耐える松。
枝垂桜文様振袖 六代目尾上菊五郎 昭和時代  「道成寺」引き抜きのための仕掛けが施されている。
藤花文様着付 六代目尾上菊五郎 昭和時代  「藤娘」紅と萌黄の片身替り。
正月飾文様打掛 六代目尾上菊五郎 昭和時代  揚巻。正月の吉祥ものを装束にしている。
三葉葵紋付羽織・着付 初代中村吉右衛門 昭和時代  「清正誠忠録」いい色。縹色より濃い色。好み。

いい気持で見て回った。
永青は9/28まで。
三井は9/21まで。
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