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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

江戸妖怪大図鑑 妖術使い篇

浮世絵太田記念美術館の3ヶ月連続企画展もいよいよこの「妖術使い」をもって終了。
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第一期の妖怪は元ネタを知らずとも楽しめるが、二期の幽霊、三期の妖術師は元ネタを踏まえて眺めると、ますます面白くなる。
こんな時に自分が芝居好き、江戸文学好きで良かったと痛感しますわw

幽霊の時もそうだったが、この妖術師もキャラ別に作品が挙げられているから、比較も出来て本当に楽しい。

出演は滝夜叉、大友若菜姫、児雷也、天竺徳兵衛と他の皆さん。
幕末に大人気の彼らがクローズアップされているから、絵師もやっぱり幕末の皆さん。
正直、一番好きな分野ですわ。

実際自分の浮世絵愛好の道は永谷園のオマケの広重の五十三次に始まり、芝居絵、武者絵、と来たので、歌川がメインなんですわな。
というわけで、大いに楽しみました。

先般から歌舞伎役者の名称を略称で記すことにしているが、今回もそれに続く。
例:三代目尾上菊五郎 = #3菊五郎 こんな書き方です。
絵師もいちいち三代目豊国(国貞)とは書かず、リストに沿って国貞は国貞の儘にする。


・天竺徳兵衛は実在の船乗り(江戸初期に天竺へ行った)だが、芝居では幕府転覆を狙う大崩しの役柄。

春朗時代の北斎 仲蔵の徳兵衛実ハそうふくわん 口に巻物くわえている。足下には大きな蛙が顔を上げている。

国貞 #7団十郎の天竺徳兵衛 こちらも一世代前の北斎と同様のポーズだが、天徳の手足が蛙そのものになっている。大蝦蟇の術者だが、本人も蝦蟇になりそう。

国貞 #2多見蔵の天徳・#3栄三郎の仲秋奥方 バックに巨大な白蝦蟇。奥方は懐剣を逆手に持つがなにやらにやりと笑っている。二人の間の編み籠から多くの蛇が立ち上がって上下姿の天徳に向かっている。
多見蔵はほかの絵と同様下ぶくれ。

全然関係ないが、この多見蔵には跡継ぎがいたが途中でおかしいことになってしまったそうで、その倅は「寺子屋」の松王の工夫を訊かれてなかなかよいことを言った後に、「ここでひもを引っ張れば松王の髪が馬のようにあがり、お客は大喜びだ」・・・

多くの天徳をみる。
現代では先代猿之助が「天竺徳兵衛韓噺」を上演していた。やはり大蝦蟇を使う技を見せた。
どちらにしろ蝦蟇の親分のような様子で天徳がいたのだ。

世界が「綯い交ぜ」になると、徳兵衛の蝦蟇もネズミに変じることもある。
国芳の芝居絵の天徳は背景にネズミの大群が押し寄せている。

ほかにも武者絵の中での天徳が、アタマをかく蝦蟇仙人の傍らで蛙たちの相撲を見ている絵などもある。
このあたりの構図はいかにも国芳らしく面白い。

明治になっても天徳の芝居は生きたようで、明治16年に国周と国梅のコラボの#5菊五郎の天徳は背景に洋画風の蝦蟇がどーーーんっっっ


・滝夜叉
平将門の遺児である滝夜叉姫とその弟・太郎良門が妖術を身につけて、世界を壊そうとする。
今でも「忍夜恋曲者」の題で滝夜叉の芝居がしばしば演じられている。

太郎は蝦蟇仙人(上記の天徳のとはまた違う)から術を習う。

国芳 蝦蟇仙人 アタマにも蝦蟇を乗せ、周囲も蝦蟇蝦蟇・蛙蛙している。特に大きな蝦蟇を肘掛けにしてもたれているが、その大蝦蟇がなんとも愛くるしい。
大きな丸い目でじっとしているのもいい。

国芳 三枚続きで、大蝦蟇岩の洞窟で蝦蟇仙人が気を吐くと白い虹になり、その上を化身の女が歩く姿を描いている。太郎はそれをみて術を感得したのか。

芳艶 太郎と滝夜叉を諫める善知安方と錦木 安方と錦木夫婦は姉弟の野望を止めようとして殺されるが、死後も化身して二人を諫める。胡蝶のような夫婦。(本来は鳥なのだろうが蝶のようにみえる)
能「善知鳥」は死後も安らげず鳥になる男を描いているが、ここでも彼は安穏とした死をむさぼることはない。

国貞 奇術競 滝夜叉姫 アタマにたぶん五徳を乗せてそこに三本の蝋燭に火を灯し、口には細松明に火をつけたものをくわえ(無言の術)、首から鏡を下げ、右手に刀、左手に鐘を持って野に浮かぶが、それはススキの野に打ち捨てられたドクロから流れた気の中の姿だった。
滝夜叉の着物には文字がいくつも書かれている。「言」「魔」「行」「無」。かっこいい。

滝夜叉といえばやはり国芳の「相馬の古内裏」の巨大骸骨が思い浮かぶが、ここには大宅太郎光国がいる。
光国は滝夜叉一派の野望を砕くために彼らの懐に飛び込む。

彼は剛勇のひとで、幻術のこうもりの大群、骨たちの戦をみても驚きもしない。
コウモリは芳幾、蝶は芳年が絵にしている。

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明治になっても周延が彼らを描いている。
古御所でコウモリや敵と戦う光国を見て、その剛勇さを買った滝夜叉という構図。滝夜叉は大胆に笑っている。槍持ちの侍女は不安そう。背後に大蝦蟇の姿もある。

明治26年には小国政という絵師による光国の絵もある。
古御所に立つ光国の前に姿を現す大蝦蟇をはじめとする化け物たち。
おばけへの迫害も消えた時代なのだろう。

蛙たちの相撲の絵もある。
国芳 姉弟と家来たちの前でノシノシした蛙たちがムンムンと相撲を取っていた。笑いながら見ている滝夜叉は珍しく髪を軽く結んでいる。彼女はどの絵を見ても洗い髪のまま(要するに今のふつうのロングヘア)なのだが。 

・児雷也
こちらも蝦蟇を使い魔にしている。敵は大蛇丸、味方であり、女房になりたがる綱手は蛞蝓を使い魔にして、三すくみの状態。
大抵この児雷也は男前が演ずるので、国芳の武者絵は別として、大抵は#8団十郎で描かれている。

杉浦茂「少年児雷也」では師匠の蝦蟇仙人が大蛇丸の師匠の悪計にやられて死ぬのだが、ヤニに汚れた内臓を川でジャブジャブ洗うシーンがすごかった。
洗ったモツをそぉっと盗まれて「おれたちゃ禿鷹♪」と歌う禿鷹たちに喰われてしまうのだった。

国貞 #8団十郎の児雷也・#5海老蔵の仙素道人・#3粂三郎の越路  美人の越路にそそられて声をかけても無視するので狭い家の中で刀を抜いて、女を脅すと、女は素知らぬ顔で読書を続けたまま銃で男を狙う。
実はこの越路は仙素道人の変身姿。…よかったね、口説けなくて。
その仙素道人は男女の真ん中で印を結んでいる。

国貞にはほかにこの師弟と#3粂三郎の怪力お綱(綱手)が夜の山中で一堂に会するシーンを描いている。お綱は「燕子」の文字が縫い取られたカキツバタ文様の着物を着ている。凝っていて、文字は鹿の子にしている。児雷也は男前だし、髑髏をかむカエルは可愛いし、面白い図。

滝夜叉のいいのは国芳だが、児雷也のいいのは国貞の方だと思う。
国貞はほかにも一枚絵で「奇術競」シリーズに綱手、大蛇丸を描いているが、いずれもかっこいい。


大友若菜姫
「白縫譚」のヒロインである。大友宗麟の遺児と言う設定で、こちらは蜘蛛の術を身に着けている。様々な怪奇な展開が続くようで、学生の頃から読みたいと思いつつ、なかなか読めないまま来てしまった。

国貞 この絵がわたしにとって最初に見た「しらぬひ譚」なのだった。
梅田のかっぱ横丁の古書店で絵ハガキを購入したのが二十歳になる前。
当時は国芳より国貞が好きだったのだ。
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国芳も白縫譚を描いているが、芝居絵ではやはり国貞には及ばない。
大蜘蛛が妙に可愛かったりするあたりにその本来の魅力がにじみ出ているのだ。

若菜姫は男装して「白縫大尽」と名乗り吉原まで遊びに行く。
一方、敵方の鳥山秋作は女装するのだが、男装の女の方が女装の男より態度が大きい。
トランスジェンダーとかそんなことを言い出すとややこしいので書かないが、面白くもある。
国貞の二人は秋作はもう男であることを隠していない。
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芳幾の二人は秋作が凛としつつも可愛くて、白縫大尽としてはちょっと苛めてやりたくもなる。
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幕末の読み物はこのように倒錯した性を楽しませてくれる。
わたしはこのあたりだけでも耽読したいと思っているのだ。

・鬼童丸、袴垂保輔
どちらも平安の人で、さらにいうと頼光一派とからみがある。
袴垂の話は小学校の教科書で読んだ。
鬼童丸は市原野のあたりで牛の皮をかぶって頼光らを待ち伏せと言う、常軌を逸した行動に出ている。

国芳 鬼童丸 やはり芝居絵ではなく武者絵がいい国芳。真正面顔の鬼童丸は不動のような火炎を背負いながら大蛇の上に座るが、その大蛇のアタマには倶利伽羅剣ならぬ蛇からみの剣を刺している。物の怪たちが騒ぐ中へ松葉を咥えて印を結んだ姿で降りてくる。

松葉で無言の行を行い、というのは「維摩の行」だったかな。八犬伝の犬村角太郎がそれをしていた。

芳年では袴垂と鬼童丸が術比べもする。この絵は何度も見ているが、ここにラインナップされているのが嬉しい。
巨大な雀風な鳥たちがいい。

二人の術比べは芳艶も描いているが、どちらにしろ鬼童丸は異形で袴垂はなかなか派手な装束である。

大蛇にもたれ術をかける袴垂の絵もある。
芳艶。大蛇はツキノワグマを脅かす。頼光と四天王が刀を抜いている。
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狂気のような鬼童丸の襲撃を描いたのは芳年だが、これは安政年間の作。
明治になってから描いていれば、却ってもっと怖いかもしれない…


他にも様々な妖術使いの絵がある。
中でも国貞の「奇術競 尼妙椿」はいいが、ここに出ていないので妙椿を描いたいいのがある。
ナマナマしいエロティシズムと妖気が漂う妙椿。

国貞の「奇術競」シリーズでも凄いのは「椿説弓張月」の悪者・蒙雲国師だろう。
この絵を最初に見たのは今はなきアサヒグラフだったが、これはその切り抜き。
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他にも金毛九尾のキツネなどもあり、見事なラインナップでとても楽しかった。

なお
江戸妖怪大図鑑 化け物篇 感想はこちら
江戸妖怪大図鑑 幽霊篇 感想はこちら

愉しい三か月をありがとう、太田記念美術館。
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