美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 **なお現在コメント欄を閉鎖中です。

清方描く 季節の情趣 大佛次郎とのかかわり

清方記念館では「清方描く 季節の情趣 大佛次郎とのかかわり」展として、戦後大佛が出した雑誌「苦楽」の表紙絵を中心にした特別展が開催されている。
この企画は横浜の大佛次郎記念館と連携したもので、来春まで続く。(清方記念館は12/4まで)
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戦前の大大阪の時代、中山太陽堂のプラトン社から刊行されていたオシャレな雑誌「苦楽」の名とロゴを譲り受けて、大佛次郎が上質な文芸誌を出すと決意した。
そこには絶対条件として、清方の絵が必要だった。
「清方と十五世羽左衛門だけで行くのだ」というほどの気概があったという。
既に天下の美男・羽左衛門は疎開先の湯田中温泉よろづやで永眠し、神奈川の山奥に疎開した清方は病中だったが、それでもその想いは止まらなかった。

清方も大佛の情熱に応えようとしてついに承諾したが、創刊号と次号はやはり体調が許さず、やむなく既製品を表紙絵に出した。
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清方は随筆も達者だから多くを書き残しているが、この辺りの事情は今回初めて知った。
「続々こしかたの記」でもあれば、なくなる寸前までの記録や記憶が残されたろう。
中公文庫本「続こしかたの記」の付属日記は娘婿が戦地から帰って来たのを出迎えるところで終わっている。
この辺りの清方の心持ちを彼の文章で知りたかった。
あるのかもしれないが、読んだことがない。
敗戦後のもののない時代によくこんな綺麗な雑誌を作ったものだ、と感慨深く思う。
以前から折々に見てはいたが、こうした事情を知るといよいよ好きになる。

今回初めて知ったことは他にもある。
表紙絵だけでなく、清方は「苦楽」タイトルの横に月ごとに変わる紋様を提供していた。
それは例えば源氏香の紅葉賀、オモダカ、桜などなど優美な絵柄だった。
清方の考案した紋がつく美本。素晴らしい。

絵を見る。
砧 秋、トントンと打つは武家の妻女。黙って静かに打つ。

ここからが原画、下絵、実際の表紙絵。
二年しか出せなかったのは佳すぎる美本だったからだから、ここにあるのも皆、素晴らしい本ばかり。

王子詣 初午か、狐人形を持っている。
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紅梅屋敷 鏡花の「註文帖」のヒロインお若を描く。お納戸色の羽織を噛む場面。
画帖を拵えるほど愛した物語を再び絵にする清方。
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春雨 物憂く三味線弾くならため息まで聞こえそう。
窓の外には山吹が咲いている。
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菖蒲湯 すっきり美人が暖簾を分けて現れる。菖蒲柄の浴衣の細面の美人。
下絵の唇の艶かしさにドキッ。
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宇治の蛍 これは「朝顔日記」の娘深雪。朝顔の扇を手にした息女。
これも清方は画帖に仕立てている。好きなものはいくらでも描いてしまうのだ。
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湯の宿 タバコがそばにある。トランプ占いする女。
ゲームはしない、トランプでは。
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ふた昔 追憶にふけるか。
里見 弴「大道無門が傍らにある。
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鏡花の縁から仲良くなったが、そう深くはつきあわなかったそうだ。とはいえ会ではよく会っていたようだが。
晩年、妻を亡くした清方は通夜に誰にも会わずにいたが、唯一人里見 弴にだけは面会し、その哀しみを語ったそうだ。
里見 弴は既に伴侶を亡くしており、その哀しみを共感出来たのだ。

舞妓 笹紅をつけた下唇。かなり長い顔の舞妓。
思えば清方は京都には昭和五年に行ったが、祇園の春を彩る都をどりを1週間前に控えたところで東京に帰り、後々まで妻のお照さんから恨まれたそうだ。
どうも舞妓というより新橋辺りの妓のように見える。

雪 弟子の深水は雪の日の傘と和風美人の取り合わせを無限に描いたが、清方はあまり描かなかったようだ。雨傘は少くないが。
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堀川波の鼓  松の木にかけて洗い張り。貞淑で美人と評判の女が・・・
近松らしい感情の動きを捉えた名作。清方はそれをごく上品に描く。
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たけくらべの美登里 リアルタイムのころから描いていたことを想う。
本当に好きだったのだ。
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牡丹 うっとり眺める女の横顔と、その花とを、こちらもうっとり眺める。
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箱庭 楽しく拵えた小さな世界。
玉堂の絵を形にしたかのようだ。
朝顔柄の着物がいい。
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芙蓉 手入れする美人。前髪を二つ分けし、先をアップに持ち上げる。
東近美にある新海竹太郎の「ゆあみ」像を思い出す。

神田祭 手古舞の粋な姿。颯爽として素敵。
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菊 顔を上げた少女を描くが、どうも寄り目すぎるな。

松の内 稚児輪髷の少女の清楚さがいい。
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チラシと絵はがきを集めたら、けっこう「苦楽」シリーズになったな。
買い集めていて良かった。

「苦楽」は他にも引き出しの中に集められ、楽しく眺めた。
金色夜叉、葛の葉、道成寺、日本橋、お七、田舎源氏といった物語のヒロインを描いたものや、季節、節句を描いたものなど色々。
中には雪岱美人を彷彿とさせる絵もある。
草枕、高尾ざんげ、吉野山。
いかに文芸への愛が深いかを思い知らされる。
これらがあの時代になあ。

一方、明治の挿絵口絵もいくつもあり、清方がどれだけ文芸的な作家かを改めて確かめる。新旧の出合いから知る喜び。
中でも好きなものがいくつか出ていたのが嬉しい。

小栗風葉 白浪女 洗い髪の女のかっこよさ。ただ者ではない。

小杉天外 魔風恋風 出ました、明治の女学生!

挿絵から本文を読もうと言う気になるわけさ。

いいものを見た。次は横浜の大佛次郎記念館に行こう。
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