美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

成田亨  美術 特撮 怪獣

福岡市美術館に「成田亨」展を見に行った。
タイミングよく九州に行けることになり、土曜の一日を充てた。
バスに乗り大濠公園の一隅にある美術館東口バス亭で降りて、ちょっとわかりにくいのを歩く。


「成田亨 美術 特撮 怪獣」展。
2007年に三鷹市芸術センターで「怪獣と美術 成田亨の造形芸術とその後の怪獣美術」を見ている
これまでウルトラマン関係の展覧会もたくさん見てきたが、成田亨の芸術に関してのみの展覧会は三鷹のそれしか見ていない。

こちらは数種あるチラシの一部。
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わたしのもとへ来た時、コーフンのあまり哄笑してしまった。
ははははははははは。
凄いものを手に入れたぜ。
そして展示室入口では「来館者だけのご褒美」としてシークレット・チラシを2枚いただいた。フフフ。こちらは後にチラ見せ。

成田亨の歩んだ道について簡単に記す。
1929年生まれ、1歳で囲炉裏に左手を突っ込んで後に手術した、1937年に尼崎の大庄小入学、そしてムサビの前身で学ぶうちに色々あって東宝の手伝いを始め、円谷プロと仕事をするようになる。
抽象彫刻を制作する成田は学んだ近代絵画や彫刻を、怪獣の世界に取り入れてゆく。

展示を見る。
「作品数が多いのでどうか時間に余裕を持って」という美術館の注意は活きて、わたしはゆとりを持って臨んだのだが、やはり物凄い質・量に圧倒された。

美大生の描いたらしい絵から始まる。
顔と手 1950-60 武井武雄が描きそうな少女の顔が大きく描かれている。彼女は合掌する。
武井武雄だけでなく、これが3次元化すれば河井寛次郎の作品にも似る気がした。
武井も河井もこの時代<大家>として佳い作品を生み出している。

海・舟・男 1950-60 鋭角な線描。サバニのような小舟を押して海へ向かおうとするかに見える男の背面が描かれている。そぎ落とされた肉。背から尻への直線的な美。

八咫 連作物である。1962-71 数点の作品があり、いずれも八咫烏の鋭敏な姿を捉える。
現実に八咫烏を見たものなどこの世にはいない。しかしこの達者なスケッチにより、実在感を見るものに抱かせる。とはいえリアルな絵ではない。メカニックな八咫烏なのである。
ペンにより様々な八咫を描いている。
烏の彫刻といえば柳原義達が著名だが、このペン画を基にした立体作品があれば、どのような形になっていたことだろう。想像するのが楽しい。

いよいよウルトラの世界へ入る。
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「ウルトラQ」の怪獣制作に携わるうちに成田にある<真理>が宿る。
「神話は歴史に非ず、神話とは人間の夢である」
成田の心に根を下ろしたその考えは、後々の彼の仕事に形としても現れる。

著名な怪獣たちの初稿と決定稿とが共に並べられる。
2つの画を見ることで比較できるのが楽しい。

・カネゴン 初稿は胴回りがどんぐり風。しっぽなし。
・ケムール人 改めて考えると「2020年の挑戦」だからあと4年後に出現する予定。
・ラゴン 半魚人。大昔のホラー映画から名前をもらったようだ。
・セミ人間 よくよく見れば古代エジプト人ぽくも見える。

・ナキラ ガラモン似で顔はもうちょっと幼い。これが実は青島幸男・渥美清らの1話完結ドラマ「泣いてたまるか」に出演した怪獣なので、ウルトラものとは違う。
ドラマの中で青島に作られたという設定。このドラマの最終話から「男はつらいよ」が生まれたそうだ。

ウルトラマンの中の人・古谷敏が8頭身の見事なプロポーションの人で、かぶりものをしても7頭身だということから、実際的な話として、ウルトラマンの着ぐるみのサイズが設定された、ということを初めて知った。
当たり前のはなしだったのに考えたこともなかった。
多分わたしのアタマの中では「巨大化する」ことが占めていて、現実の「中の人」のことを考えていなかったのだ。

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成田亨のデザイン画は本当にカッコイイ。
彼は自分の美学を大事にしたが、一方で状況の理解も深かった。

成田はなんとウルトラ兄弟の生命線であるピコーンピコーンと点滅するタイマー、あれを不要なものだとみなしていたのだった。
ウルトラマンはやっぱりあのピコーンピコーンがないと、わたしなどは淋しいし、今も「すまん、(タイマー切れが近くて)ピコーンピコーン言うてるから戦えない」とか冗談をよく言っている。

科学特捜隊のマークロゴのデザインもカッコイイ。いちいち音楽がアタマの中に流れだし、毒蝮三太夫や二瓶正也の顔が浮かんでくる。
そして「科特隊」という略称を聞くと、「科捜研の女」の先輩のような気がするのだった。

バルタン星人の初稿をみる。なんとあのハサミの手はまるで手袋というか後付なのか!という驚きがある。爪長の手にハサミ型巨大手袋。鉛筆で追加されたハサミ。
最初からハサミの手ではなかったのか!という疑念も湧いてきて(笑)、「シザーハンズ」に先駆けてのハサミの手もこうした紆余曲折があったのだと知る。

以前に世田谷文学館(略すと世文、セブン!!)で「ウルトラマン」展があったとき、バルタン星人の大群の大飛行をどのように撮影したか種明かしがされていた。
それを想うと様々な工夫が凝らされていることにつくづく感銘を受ける。
やっぱりバルタン星人にはハサミがないと淋しい。
怪獣博士大伴昌司の大図解でも、ハサミのないバルタンでは面白くなかったろう。

「バラージの青い石」というエピソードの時の神殿図があった。
旧き伝説の都市バラージに怪獣が現れしとき、「ノアの神」により怪獣倒さるる・・・
その神殿の装飾がインカぽい感じで面白かった。そして「ノアの神」はウルトラマンそっくり。装飾柱の一つのタイルが怒ってるドラえもんに見えるのはご愛嬌ですな。

レッドキングの背中の段々が瀝青(天然アスファルト)の積み重ねに見える。
建築素材というより、レッドキング・ハウスというのもアリかと思った。

ガヴァドン こいつ可愛いな。特に幼獣が可愛い。あんまり可愛くて下手な絵まで描いてしまった。成田亨の可愛いものベスト5に入るように思う。

偽ウルトラマン あ、目がまるでペイズリー。しかしよくよく偽物というのは悪人顔で描かれるものだな。偽物で本物より可愛いとかカッコイイというのはないのか。

哀しきジャミラもある。改めて見たらジャミラの肩やひび割れが餅のようでもあった。

地底人 目が中心点から何かが放射しているように見える。これはコクトー「鳥刺ジャンの神秘」によく似ている。そしてドラマの時の地底人よりかなり魅力的である。
女というよりグラムロックの頃のデヴィッド・ボウイに似ている。

ダダA 1983 後年のイラストはどこかバウハウス風な趣を見せる。あるいはトリックアート的な様相をも呈している。
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シーボーズ 亡霊怪獣だったか、これを見るといつも清水卯一の作陶を思い出す。
成田より3歳上の陶芸家だが、彼の作品の内、白いモコモコとしたものが田舎饅頭のようで、滋賀県立近代美術館に所蔵されているものなど、いつもいつも「・・・おいしそう」と思うのだった。
先にシーボーズを知った割に、後年見知った卯一のやきものを思う、というのは変な話かもしれないが、今では両者が結びついてしまい、離れがたいことになっている(わたしの中では)

成田亨の原画を見る悦びをつくづくかみしめる。これだけ見ていてもまだ1/3に到達したかどうか程度なのだが、全く飽きることがない。
そしてその成田の発想の根源にあるものを探ろうとするコーナーがあった。
成田亨は現在のムサビで教育を受け、抽象彫刻を制作したが、彼が見てきたものは近代絵画であった。前衛的な作品に感銘を受け、それを自身の怪獣制作にも活かした。
一方で、自然界の生物をモデルにしたものも少なくない。

自然界の生物たちの中には思い及ばぬ造形美を見せる者も少なくはない。
成田亨はアーチストとしての眼で彼らを見つめた。

カサゴとガラモン、エリマキトカゲとジラース、麒麟とドドンゴ・・・
ヤマトンなどは戦艦大和の艦橋をモチーフにしている。抽象彫刻家だからこその発想があるように思う。
アシカやアデリーペンギンの写真もあり、それらが活かされたかどうかは定かではない。

そういえば石森プロダクションの「仮面ライダー」はバッタやコオロギやイナゴだったか。
今でも「妖怪ウォッチ」の妖怪たちの造形が他の生物や事象から採られていることを思うと、成田亨の先見の眼に感銘を受けるばかりだ。

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ウルトラセブンへと変わる。
(モロボシ・ダンからの変身ではなく、展示のことである)

成田亨がどうしても受け入れがたかった「タイマー」はセブンに於いては額の白毫という形で落着した。
セブンは後続の「ウルトラ兄弟」たちとは全く違う容姿だと思う。
わたしが小さいときに見たウルトラマンコミックでは、セブンは兄弟ではなく従弟という設定で、ウルトラの母から「タロウが反抗期で困っている」と相談を受けてタロウを正し、また旅立つというスナフキンのようなところを見せる男だった。
何で読んだのか忘れたが、今も忘れない。

セブンの初稿は「レッドマン」という名前で青い文様を見せていた。
これまた古い話だが、やっぱり昔よんだウルトラものの絵本では、赤いウルトラマンは成人で、青いウルトラマンはまだ宇宙に出られない青二才だという話だった。

さてそのレッドマンの原画を見ると、杉浦茂のマンガの背景にいきなり現れるアメコミの巨人像によく似ている。石を切ったのを重ねたようなタイプである。

ウルトラセブンはストーリーが大変重いものが多く、それだけに非常に人気が高いが、本放送の際は同時間帯に英国のスーパーマリオネット「サンダーバード」が放映されていて、けっこう大変だったようだ。
わたしはセブンもサンダーバードも再放送・再々再放送で見て熱狂した世代なので、そんな鎬を削っていたとはついぞ知らなかった。
セブンのメカニックはそれでかサンダーバードに似ている。

エレキングの幼獣 ありゃりゃ、成獣は二足歩行なのに幼獣は首から下が鮎!!びっくりですがな。とはいえ顔は同じか。

イカルス星人 1983年のペン画。掛け網で描かれたカッコいい図。
 
マイティジャックのコーナーがあるが、こちらはいっさい知らない。
 
ウルトラマンの墓がある。石膏で作られたマスクと木に色塗りをして大理石風にした墓標。そこには南無妙法蓮華経と髭題目の文字が躍る。
墓碑もある。「鎮魂歌」と題された、現代人への警鐘を鳴らす一文。
色々と物思いにふける。

成田亨は高名な映画の製作にも参加している。
1965年「飢餓海峡」の冒頭の海難事故シーン。ああ、あれは成田亨だったのか。
これは三國連太郎主演作の内でも特に名品の一つ。洞爺丸の海難事故と函館の大火とをモデルに水上勉が描いた小説を、内田吐夢が見事な作品に仕立て上げた。ラストシーンがまた素晴らしかった。
海に飛び込みスクリューに巻き込まれ、波に消える三國さんと、その上にかぶさるように流れる地蔵和讃。見事な映画だった。

他に東宝の菊田和夫の美術監督も続けている。
1968-75年には新宿伊勢丹のディスプレーの装飾もしている。
1970年の万博では太陽の塔の内部の生命の樹も成田の手によるもの。
わたしは実際のものを見ていないのでよくは知らないが。
1971年、横浜ドリームランド「大海賊」の基本設計も担当している。
この横浜ドリームランドは先般の横浜都市発展資料室の「団地」展で初めて知ったものだが、昔のハマッ子たちの楽しみの場所だったようだ。

1976年からの「トラック野郎」シリーズにも参加している。ううう、文太―――っ 主演の菅原文太=桃次郎、よかったなあ。
デコトラの写真があるが、凄かったなあ。

「悪魔が来りて笛を吹く」も成田の仕事か。これはどこだろう、東京の闇市か淡路島の爆撃跡か。
この映画は非常に映像的に魅力的な作品だった。東映の79年の作だったか。

1984年の和田誠監督作品「麻雀放浪記」の上野の焼け跡のセット、あれが成田の仕事だそうだ。ここにその再現があり、キャメラを動かすことが出来るようになっていた。キャメラ越しに見た焼け跡はもう完全に実景のようにしか見えず、セットだと思い込んでいただけにミニチュアだと知ってびっくりしている。
冒頭でこの上野の焼け跡が現れ、「東京の花売り娘」が流れるモノクロの映像は非常に魅力的だった。真田さんも可愛いし、高品格の演技もよかった。


実現しなかった作品や不運な作品が集められていた。
マヤラーとUジン、ヒューマンとMUとネクスト。
企画が流れることも多いし、折角放映したのに裏番組に負けたり色々。
MUはサンライズとの仕事だったのか。実現してたら成田初のアニメ参加作品になっていたのか。
ネクストはコンスタンチン・ブランクーシの影響が見て取れる、と解説にあるがジャコメッティにも似てないかな。
バンキッドのデザインは翌年のルーカスのSWに流れたような気もちょっとする…1976年、奥田瑛二のデビュー作。
それにしてもティーバス大佐の造形が凄すぎる。かっこいい。

成田亨にアトリエを貸出した人が、その交換条件に成田に怪獣の絵をねだったという。ここにその膨大な数の画が出ていた。
いずれも未発表の怪獣たち。これは成田の死後に青森の美術館に作品が入ったことを知った家主さんのコレクターが、多くの人に見てもらえたらと寄贈したもの。
いずれも素晴らしい鉛筆画。非常に魅力的な作品群である。

一本足のビィーラなどは画のトリッキーさにこちらの眼が痺れてくる。凄い捩れを感じる。カッコいいなー!!
微妙なコマ送りの連続体のような頭部。絶妙なブレ。ドキドキした。

他に海洋堂以来のオリジナル・ビッグホーンもすごい。
シノビマンには笑ったが。
ここで「宇論」という怪獣が現れたが、じつはこれが展覧会来客者のシークレットチラシに選ばれた怪獣だった。ちらりとお見せしよう。


映画「この子を残して」の浦上天主堂と原爆爆発とキノコ雲の連続コンテがあった。フルカラーの作品である。言いようのないつらさが身に染みる。

成田の油彩画を観る。いずれもどこかシュールな、あるいは幻想的な絵。
裸婦とダダやケムール人、あるいは不思議な6つの眼を持つ女とバルタン星人の組み合わせなどなど。
水彩画とアクリル画も素晴らしい。
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2000年、カネゴンが夕日の中、帰るに帰れず土管の上に座っている。
いい絵だ。

ミクストメディア作品も多い。これは作っていても楽しかったろうと思う。
二次元のものを三次元に、立体化出来る力を持つ成田亨。

大仕事の一つにモンスター大図鑑がある。そしてもう一つ「ナリタ・モンストロ・ヒストリカ」。
自身の創造した怪獣ではなく、世界中に伝わる怪獣や幻獣などを描いた作品群で、コラムも成田自身の手によった。
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オーク、ゴブリン、トロル、クラーケン、グール、ファントム…
いずれも幻想文学や魔法世界に関心のある人には親しみのある<怖い存在>である。
クリーピンググラットは妖怪人間のタレのように見えた。
物思いにふけるヴァンパイア、パイプを吸うホビット、現象ではなく怪獣としてのドッペルゲンガ―は女の顔で表現されている。
ノーム、コボルト、エルフ、ユニコーン、デュラハーン、ジャバウォック、ワイバーン、バジリスク…

日本では天狗の仲間も描かれている。
フルカラーの飯綱三郎の雄姿!イメージ (5)

インドの神様の一人であるガネーシャもまたこの仲間として描かれている。
ゾウの頭のガネーシャ。それが残念なことに解説が誤字をそのままにしている。
もしかすると成田のコラムそのものが誤字のまま放置されているのかもしれないが、これでは意味が通らない。
ここに書かれている文をあげる。
「奨を持ち、裳と仲良し」
これではなんのことかわからない。しかし後の文を読むと、正解は
「翼を持ち、雲と仲良し」
こうあるべきなのだった。ちょっと残念ではある。

大江山には酒呑童子の伝説がある。
「日本の鬼交流館」のためのモニュメントを制作したが、それが来ていた。
FRP製の凄まじい大迫力の鬼たちである。
成田はここで独自の解釈を文に残す。
「酒呑童子は稚児の成れの果てなのでいまだに童子を名乗るが、それは誇りである」という意味のことがそこにあった。

壁面にはこれまた大迫力の鬼たちの姿がやはりFRPで制作されていたのが貼り付けられている。
荒吐に前鬼・後鬼などである。

ああ、最後の最後まで本当にすごかった…
タイミングよく九州へ行けて本当に良かった。
とても気合の入った3時間だった。

2/11まで福岡市美術館。
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