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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

小田富弥 生誕120年 時代小説の挿絵画家 2

昨日の続き。
小田富弥は無類の引っ越し好きで、北斎ほどではないがそれでも38回も引っ越している。
かれは北野恒富の弟子で島成園の弟弟子になる。

昭和十年代の美人版画がある。
これらはやはり恒富の弟子で成園の弟分だという感じがある。大阪の美人画は東京や京都とはまた違う艶めかしさと同時に健全な明るさとがある。
髪の生え際の描写の濃さ、これがいい。

少し飛んで昭和35年の美人画カレンダー原画。なかなか綺麗で楽しい。
イメージ (32)
白梅に太夫、夜梅に平安時代、蛍に室町美人、七夕に願う美人、紅葉にお女中などなど。
戦後のカラー美人画は、戦前のよりも綺麗だと思った。

物語絵いくつか。曾我兄弟、平手造酒、丸橋忠弥、虎の巻。いずれもとてもかっこいい。

昭和19年、小田富弥は長男が絵を習っていた奥村土牛とその妹を自宅に引き取り、同居した。
戦時下の同居である。
そのときまだ土牛は日本画家としては有名ではなかったものの、その様子を見ていて、小田富弥は挿絵がイヤになってしまったそうだ。

これは非常にもったいないことだ。
挿絵画家は日本画家・洋画家に比べて作品が後世に残らず身分も下に見られているが、それでも記憶に残る名作をものすのは同じなのである。
悲しい状況だが、これで小田はとうとう戦後になるや挿絵から距離を置き始めたのだった。残念である。

僚友・岩田専太郎は生涯を挿絵画家として働き続け、亡くなるまで現役だった。仕事の残る中で亡くなってしまったくらい現役だったのだ。
だが、誰しもが岩田専太郎ではないのも事実である。

京都へ移住する小田富弥。95歳でなくなるが、元気である。
晩年は日本画を描いている。
「辰巳や よいとこ 素足で歩く 羽織ゃお江戸のほこりもの」
粋で鯔背で蓮葉な辰巳芸者をかっこよく描く。

5女スミエのためにカッパを描いている。その夫と共に釣りに行く。
みずみずしい夫婦だな…。

犬5匹と猿のゴローと暮らす日常である。
昭和45年にはスミエの長男のために桃太郎を描いている。
張子の犬にまたがる桃太郎は隈取をしている。

小田富弥が自分の描きたい女について語っている。
これは吉祥寺の図録にも掲載されている。
一癖ある女が描きたい、と小田富弥は言う。
玄冶店のお富、妲己のお百、紀伊国屋ばりの女(四世沢村源之助のことである)などなど。
紀伊国屋は「田圃の太夫」と呼ばれた悪婆が得意の女形で、人気が高かった。

ここで深水の描きたい女の話が出ている。妖婦型は描きやすいが、複雑な性格の女は描きにくい。
菊池幽芳「白蓮紅蓮」のヒロインなどは描きにくいとか。
おとなしいが利発で活発でモダンで…???

小田富弥と同時代の大衆時代小説の絵が出てきた。
白井喬二 富士に立つ影 河野通勢  これも妙な面白みのある話で、なるほど通勢の絵もいい。
かれは長与善郎「項羽と劉邦」のが素晴らしくよいが、こちらもいい。

吉川英治 鳴門秘帖 岩田専太郎  丁度お十夜孫兵衛の秘密が暴露されるところ。
これはもう全編艶麗な挿絵で、アールヌーヴォーの味わいのあるたまらない作品。
この挿絵全部の掲載された上下本を神戸で手に入れたときの嬉しさは、今も忘れない。

柴田錬三郎 眠狂四郎 鴨下晁湖  以前に弥生美術館で回顧展があったとき、たまたまコミックバンチで眠狂四郎の連載があり、さらに市川雷蔵、田村正和、片岡孝夫(当時)の写真も出ていた。もぉ本当に素敵。あの後、GACKTも青のコンタクトレンズを入れて眠狂四郎を演じたが、かっこよかったな…
小説が面白く、挿絵がかっこいいから読者が熱中し、映画化したら雷蔵さんがあまりに綺麗で、いよいよ大ヒットしたのだ。そして半世紀以上経った今でも人気がある。
ここでは活きた雛にふんした男女の話が出ていた。闊達な姫と気の毒な男雛。

ところで丹下左膳は志村立美も描いている。
「こけ猿の壺」の表紙などはもう本当にカッコいい。口で風呂敷包みを噛み咥えた左膳の姿。妙な色気にドキドキする。

だいたいわたしは男性の前歯にときめくので、こんな絵を観たら本当にゾクゾクしてくる。市川雷蔵が好きになったのも、「忍びの者」の五右衛門が実家が燃えてるのを見て「あっ」と叫んだその前歯にドキッとしたのが、愛の始まりでしたわ。

再び小田富弥。
侍ニッポン これは楽譜も出ていた。西条八十の詞。わたしはこの歌が大好き。
♪人を斬るのが侍ならば 恋の未練がなぜ斬れぬ 伸びた月代淋しく撫でて
新納鶴千代 苦笑い
♪昨日勤王明日は佐幕 …どうせおいらは裏切り者よ…
今度4/29と5/7にフィルムセンターで「侍ニッポン」が上映されるが、到底見に行けそうにないのだった、む、無念…

「丹下左膳」の林不忘(本名・長谷川海太郎)は別名をいくつも使って書き倒していたが、あまりに働きすぎて若いのに急死してしまった。35歳。可哀想だし勿体ないことである。
彼の次弟が猫のタローを描いた画家の潾二郎、三弟濬はロシア文学者、末弟四郎は小説家という長谷川兄弟の長男だった。

その跡をついで丹下左膳を書いたのは川口松太郎だそうだ。
わたしは松太郎は「鶴八鶴次郎」くらいしか読んでいないが、文壇や芝居関係でなかなかの大立者だったというのは知っている。

真山青果 荒川の佐吉  これは随分前に片岡孝夫(当時)が主演したのを見ている。色々あって盲目の養い子を懸命に育てるやくざの話で、可哀想だった。
今も時々舞台に出る人気作だが、挿絵も切ない。

佐々木味津三 天保水月双紙  家斉ご乱行の話らしい。これはもう墨絵の世界。


小田富弥の弟子たちの絵があった。
中一弥がいる。
中は百歳を超えて現役の画家である。
代表作は池波正太郎の「鬼平犯科帳」「剣客商売」「仕掛人梅安」などなど。
そして子息の逢坂剛の挿絵も担当している。
最新作の池波正太郎ムックの表紙絵もある。

週刊 池波正太郎の世界2 剣と人生の達人・秋山小兵衛の誕生 剣客商売 (朝日ビジュアルシリーズ)週刊 池波正太郎の世界2 剣と人生の達人・秋山小兵衛の誕生 剣客商売 (朝日ビジュアルシリーズ)
(2009)
池波正太郎

商品

中先生、いつまでもがんばって描き続けてください。

弟子の中一弥の挿絵、姉弟子の成園の口絵、師匠の北野恒富の絵、みんな全く違う世界を構築している。
それはとてもいいことだと思う。それぞれがきちんと自分の世界を持っているのだから。

今回こうして小田富弥が再び世に出たことは誠に喜ばしい。

怪剣士丹下左膳あらわる 剣戟と妖艶美の画家・小田富弥の世界怪剣士丹下左膳あらわる 剣戟と妖艶美の画家・小田富弥の世界
(2014/12/24)
不明



なお、展覧会では小田富弥を顕彰するのに熱意を懸けた「資延勲」さんについても紹介があるので、ぜひご一読を。
3/29まで。
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