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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

前川國男展

前川國男展をみた。
開催前夜の会場での写真をpenkou師のブログで見て以来、心が逸るばかりだった。

わたしの本来の嗜好は、明治大正昭和戦前までの近代建築にあるが、この世界に分け入れば分け入るほど、モダニズムとの対峙を迫られるようになり、必然的に、現代へ至る道を作り出してくれた巨匠たちの作品にも眼を向けるようになった。
先ほど逝去した丹下健三、清家清、現役として活躍する安藤忠雄、黒川紀章、没後久しいが現代都市を生み出した建築家たち――前川國男、堀口捨己、村野藤吾たち。
(安井、渡邊は私にとって愛する『近代建築家』なのである)

保存と使用と再生と、色々難問が山積みされている。それらの問題はクリアーされることはない。

今回、前川國男展の会場に立ち、前夜祭の写真で見たと同じ、あるいはそれ以上の熱気を感じた。
お客は老若男女入り乱れている。
模型と設計図と写真で構成された会場のそこここで、こんな声を耳にする。
「あっ、ここ知ってる知ってる、行ったよね」
ナマナマしい実感のこもった言葉。
「あっ、この建物この人が作ったのか」
新しい発見と、様々な追想と。
現代に生きる建築を残した作家への無意識で純粋なオマージュ。

わたしもその一人に過ぎない。

前川展の前日、東京都美術館でバーク・コレクションを愉しんだ。
その展示会場の『空間』『使い心地の良さ』『見て歩く実感』それらを生み出したのが、前川國男である事実。
わたしの愛する近世風俗画の屏風絵が並ぶ空間は、連続性のある『離れ』のような空間である。
以前ここで『アールヌーヴォー展』が開催されたとき、この空間にはパリのメトロ入り口が再現されていた。
何年経っても記憶に残る情景。それを演出したのは作品と、この場の構造なのである。
ここをそのように使用しようと言う意図が最初から前川にあったのかどうかはわからない。この空間は他に較べて多少狭く、展示する数も限られる。しかしそのことが却って学芸員の意欲を高める役割を果たしているのかもしれない。
見る側であるわたしなどは、この空間を見おろす位置にまで階段を上がった後、必ず『眺める』のである。
作品が置かれた空間を愉しむ為に。

今わたしは『見おろす』と書いたが、前川の美術館にはそうした特徴があるように思われる。
例えばこの都美は、場所柄、半分以上を地下に空間設定しなければならなかった。しかしそれが別な楽しみを生み出す作用を齎した。
面倒くさいし、バリアフリーの面から考えれば問題はあるが、一旦中に入るとそれは忘れられてしまう。
地下の会場が広々と眼下いっぱいに見える。そこでは二次元作品より、彫刻や盆栽などの三次元的造形美を具えた芸術作品がふさわしい。見おろすことで、全体を把握し、今度は細部を濃密に見たくなってくる。巧妙な手法だと思うのだ。
予告編の次は本編へ、と期待が高まるように。

美術館では他に熊本県立美術館がある。
二年前、私は熊本城の一隅にあるその美術館を訪れた。
広い広い熊本城の初夏、緑の芝、清正の誉れの城砦、そこからの眺めを愉しんでから、シンプルな外観の美術館へ入る。
入る前にツゲか何かの植え込みがあり、そこに大阪では見ないような鮮やかなアゲハが縺れるように飛んでいた。
それに誘われるうちに玄関へ向かった。
仰々しさのない、もう少し装飾が欲しくなるような建物。
しかし、中に落ち着くとその考えはどこかへ消える。
ここも空間の分割が見事だった。
作品を見て回るのに適度な距離感がある。そして迷うことのない構造。作品を見せる為に作られた空間だと言うことを実感する。

京都会館。
これは美術館や平安神宮のある岡崎公園一帯に広がる建物である。ただ、これに関してはわたしはある種の不満を感じている。
それを説明することは難しい。
ただ、ここには『入りづらさ』を感じてしまうのだ。広々と奥までのぞけるにも関らず。もしかすると、それが答えかもしれない。

戦時中の前川の仕事で眼を見張るものは自邸である。
現在小金井市のたてもの園にある。すばらしい空間だった。住んでみたくなる家。二人の師匠から学んだことと自分の考えとが結実した『民家』。個人的感慨として、わたしは前川作品では自邸が一番好ましい。


私は自分の経験した前川作品の空間にばかりこだわりすぎているようだ。視線を変える。


東京ステーションギャラリーの窓からのぞく場所に、前川の高層ビルが見える。本来はもっと高層だったはずが、さまざまな経緯のためにあの高さにとどめられたと言う。
工事中の丸ビルの後ろ。赤いようなビル。
しかし親しみを感じる建物ではある。
これは、前川にとっては不本意な感想かも知れず、彼の信奉者にしてもバカなことをと思われるかもしれない。
それでも目の当たりにしたあのビルは優しく見えるのだ。

前川の設計コンペへの積極的な姿勢は、これから建築家への道を進む人全てに感銘を与えるものではないだろうか。
落選しようがしまいが、未構築になろうが、試行と思考を重ねることは重要だ。わたしのようにただただ建築を見るのが好きだ、と言うような人間にさえ、ある種の感銘を与えるのだから。

設置されている模型の制作に携わったのは学生さんたちのようである。細かく出来ていて、それを見るだけでも楽しい。
コンサートホールの模型には、舞台に小さな人形が立つ。これは楽団の指揮者ではなく前川なのだろう。
なんとなく、愛らしい。

コルビュジェ、レーモンドの弟子として育ち、戦後の前川作品はそこから離れ、自身のスタイルを貫く。静かな空間。それが前川の魅力ではないだろうか。

最後に写真について一言。
木村産業だったか、入り口からの階段写真はとてもよかった。
一枚の写真からその空間へ踏み込んでゆける気がした。
(もしかすると、現実空間よりこの写真が優れている可能性もあるのでは、と思うほどによいショットだった)
前川の作品を撮影したものは、どれもこれもひどく魅力に満ちていた。エハガキを買う楽しみに私は溺れた。

この展覧会の後は東京ステーションギャラリーは何年も閉館され、場所を変えて新装オープンするようだが、寂しく思う。
しかしここでの最後の展覧会が前川國男でよかったと思った。
penkou師のその記事はこちらです。
http://blog.goo.ne.jp/penkou/e/604f299f9be7c4c182799285ee1a733d
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コメント
こんにちは。どうも、開催期間中には上京出来そうにもないため、地方巡回にかけております。新潟ならば、土地勘も有り、新発田のレーモンドをからめる事も出来そう。弘前ならば、友人と…。などと考えております。いずれにしても東京での開催はチャっチャと終わらせて、地方に出発して頂きたい!(笑)
2006/02/25(土) 13:33 | URL | xwing #lW1SJDGw[ 編集]
その『地方』にはまらないときの残念さは最早無念怨念になるクチですよね。

近年の建築家回顧展では出色の出来栄えでした。
来月東京に行きますが、たてもの園に行こうと思いましたもの、久しぶりに。

アスプルンド、前川といいのを見ました。
2006/02/25(土) 15:43 | URL | 遊行 #-[ 編集]
 私も来月、東京の地は踏むのですが、はたして自由な時間が取れるか微妙です。取れたらアスプルンドに行くつもりなのです。東京は新旧見るものが沢山在って良い街です。
 更に7月末を待たず、今年も5月には学生達を引き連れ、関西に建築を見にいくことになりそうです。今年は別の先生だと思っていたのですが・・・。ふぅ・・・。
2006/02/25(土) 16:52 | URL | xwing #lW1SJDGw[ 編集]
わー忙しいですね。
関西の現代建築で目立つもの・・・うーん、安藤さんのしか思い浮かびません。
司馬遼太郎記念館とか・・・
2006/02/25(土) 19:19 | URL | 遊行 #-[ 編集]
遊行さん、こんばんは。
コメントとTBをありがとうございます。

長期休館前のステーションギャラリーに相応しい堂々とした展覧会でしたよね。
所狭しと前川建築が並んでいて壮観でした。
また会場から実際の作品が見える計らいも素敵です。

>ここには『入りづらさ』を感じてしまう

中の空間が建物に守られているとでも言うのか、
やや堅牢な、険しい雰囲気がありますよね。

自邸が保存されているというたてもの園へは、
今度行ってみたいと思います!
2006/03/01(水) 01:21 | URL | はろるど #-[ 編集]
こんにちは はろるどさん

そちらにコメント入れましたように、厚手の靴下は必需品です。四月でしたら小金井公園の桜もみごとですよ。駅前でお弁当を買うて園内で気ままに、というのもいい感じです。
2006/03/01(水) 12:27 | URL | 遊行 #-[ 編集]
こんばんは。
TBありがとうございました。

ここでしか、経験できない「展示」やら
ステーションギャラリーの最後の展示やらで
いつも以上に気持ち入れながら観てきました。

プレモスの発想が素晴らしいです。
2006/03/01(水) 18:23 | URL | Tak #JalddpaA[ 編集]
こんばんは Takさん

ステーションギャラリーはこれまで素敵な展覧会を数多く開催してくれましたから、淋しいですね。

現代建築の流れと言うものを色々と考えさせられる展覧会でした。
2006/03/01(水) 21:47 | URL | 遊行 #-[ 編集]
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