美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

蘇州の見る夢

大和文華館の特別展「蘇州の見る夢」展の前期後期をみた。
蘇州といえばことわざに「天に天堂あり 地に蘇杭あり」とも言われた素晴らしい都市である。
旧い流行歌でも「蘇州夜曲」がある。これは決して「上海」でも「北京」でも「香港」でもだめだ。
「蘇州」への甘い憧れがあるからこそ成り立つ歌なのだった。
西条八十はそのことを知るから、あの甘美な歌を作った。

元の頃には既に蘇州は甘い夢の地・憧れの都市になっていた。
明初期に少し廃れたが復興し、政治や貿易から離れた地としての繁栄を手に入れ、今日に至っている。
わたしも十年以前に蘇州に遊んだ。
本当は上海の近代建築を愉しむために来たのに、結局一番心に残ったのは蘇州という都市そのものだった。

特に心に残る作品の感想を挙げたいのだが、ATOKがその字を出してくれるかは不明。

1.蘇州文化の土壌 元末明初の文人墨戯
文人らはサロン作りに力を入れる。そして竹、蘭、枯木にときめく。
山中に住まう孤高の高士に憧れるような絵や文を書いていても、結局は俗世でいかに楽しむかが大切なのだ。

枯木図 朱徳潤 元 個人  ああ、枯木の林。

蘭竹図 雪窓 1353 三の丸尚蔵館  蘭は確かに蘭だが竹ではなくむしろ笹。掛軸の上下には百合のハンコがぺたぺた。

疎林図 倪瓉 元 大阪市立美術館  土坡から細い松が数本伸びる。水面は非常に静か。

朝陽舞鳳図 夏㫤 明 根津美術館  岩から生える笹のいい勢いを舞う鳳凰に見立てたらしい。
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墨竹図 夏㫤 明 個人  2幅だが、むしろ真ん中で断ち切ったくらいの連続性を感じる。
細い細い竹である。

2.呉派文人画の成立と継承 沈周・文徴明とその周辺
絵画が人気の時代である。

九段錦画冊 沈周 明 京都国立博物館  丁寧な筆致の山水画である。6図
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菊花文禽図 沈周 明 大阪市立美術館  絵画としてはある種の緊張感もあり、きりりとしたいい絵なのだろうが、わたしはパス。

山水図巻 文徴明 1502 個人  非常に細かい絵。山を埋めるくらいの手の込んだ…

夢筠図巻 唐寅 明 東京国立博物館蔵 虎の毛皮をシートにしている。侍童がお茶を沸かす。細部の丁寧な細かさがたまらんな。

白岳紀遊図册 陸治 1554 藤井済生会有鄰館 ガイドブックでもあるわけです。とても楽しそう。色んなシーンがある。
・前期…小帆船もいい。・後期…平岩の段々があり、そこでくつろぐ人。千畳岩の小型版。

山水図扇面 陸治 明 京都国立博物館 金箋墨画淡彩 元が金紙でそこにさらりと。

冬景山水図 陸治 明 大和文華館  カクカクした風景

琵琶行図 文嘉 1569 大阪市立美術館  ここではロングで描かれている。舟にのる女のしょぼんとした様子まではわからない。手前の陸地に楓が植わるが、その歯は△で表現され、緩い色彩が少しずつ違って塗られていた。そうした神経の細やかさがこの「琵琶行」のせつなさに合うと思う。小杉放菴から陽気さを取り除いたような雰囲気もある。

四万山水図 文伯仁 1551 東京国立博物館蔵 四季それぞれ一幅ずつ。大きな絵。特にいいのは冬山。万年飛雪か。湖面もいい。なんだか雄大な心持になる。

初夏山斎図 居節 1578 東京国立博物館  高士二人と少年とがいる。とても丁寧な絵。

春江晴嶂図巻 何驤逵 清 個人  こぢんまりとほのぼの。継ぎ足しで日本の文人たちの跋文がたくさんある。竹田、梅逸、海屋らの跋文。書いた年月は違う。

満城風雨図扇面 沈昭 明 京都国立博物館  金箋墨画淡彩 可愛い。小さな舟に重陽のための菊花をたくさん積んでやってきた。傘をさすお客と、蓑笠の漕ぎ手と。こちらも小さな愛らしさがある。

墨梅図扇面 張元挙 明 京都国立博物館 金箋墨画  これはやはりいい。没骨で梅をさらりと金の上に描く。

花卉図册 王武 1676 大阪市立美術館  この人はパトロンとして画家たちを庇護し、なおかつ自身も薄い色彩の優しい絵を描いた。岩に赤い植物などを。

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詩文を少しだけ読めた。
「旭日光遅々…芳樹…眠人不知雀…白頭」
言葉のイメージだけでも微笑ましい。

3.雅俗の交錯 謝時臣・李士達・盛茂燁 
プロの画家たちの作品。
 
山水図 謝時臣1557 相国寺 けっこう豊かな水がある。

春景山水図 謝時臣 明 相国寺  描かれた人々はみんな楽しそう。鶴もいれば桃もある。春風駘蕩な画面。

竹裡泉声図 李士達 明 東京国立博物館 高士が竹林の中でせせらぎを聞いているらしい。3人の少年が立ち働く。一番左の子は竹の端で水を取っているのか。

李士達は「青緑山水様式」の人で、明るい山水画を描いていた。
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秋景山水図 李士達 1618 静嘉堂文庫美術館  水がとても勢いがある。煙るくらいである。かというて静かではなく元気な音がしている。

五百羅漢図 丁雲鵬・盛茂燁 1594 京都国立博物館  2幅。面白い構図のもので梅が咲く中、噛みあってじゃれる獅子たち。それを見守る羅漢たち。ガブッぎゃっ…他方、寛ぐ羅漢も多い。まったりしている。

王維と杜甫の詩から題材を得た絵が2点。
秋山観瀑図 盛茂燁 1633 個人  王維の詩から。「来たよー」「よぉ!」な人々がいる。
梅柳待臘図 盛茂燁 1633 個人  杜甫の詩から。木に登る奴もいる。

…これ2012年の大阪市美での橋本コレクション展で見ているな。感想は挙げていないが、間違いない。

月下訪隠図扇面 葉雨 明―清 京都国立博物館  これは例の「推敲」のだ。
「僧推月下門」を「僧敲月下門」にした故事。

蘭亭図扇面 王式 1635 個人 横長の画面にたんまい人々が楽しげに描かれている。
この画家は説明によると「宮女や秘儀図を多く描いた」秘儀なのか秘戯なのか自分のメモからでは推察不可。

雨中舟行図扇面 沈璉 明―清 個人  金箋墨画淡彩 小舟の人も傘をさす。扇の骨が雨のよう。陸へ向かう。

4.伝統からの展開 明末清初の蘇州文人

越中真景図册 張宏 1639 大和文華館  これは時折ここでみるが、やはりこうしたコンセプトの展覧会の会場で見ると、いつもより素敵に見える。長い橋のある図、弓なりの道のある町、ジャンクが突っ込む…急流すべり図などなど。
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楓橋夜泊図 袁尚統 1657 個人 そう、学校で習う張継の詩ね。
月落烏啼霜満天  江楓漁火對愁眠
姑蘇城外寒山寺  夜半鐘声到客船
「蘇州夜曲」の3番の歌詞のラストも「涙ぐむような朧の月に鐘が鳴ります 寒山寺」とある。

雲山平遠図巻 邵弥 1640 大阪市立美術館   雲海の中から山々の頂が浮かび上がる。
白い中に浮かび上がる薄い緑の山々。
なにかとても広々とした心持になる。

江山平遠図 文従簡 1614 大阪市立美術館  「一水両岸図」というパターン。木が一本手前にある。近代的なよさがある。

撫古冊 沈顥 1637 個人  石を切り出す山なのかな。そんな風にも見える山がある。色彩の繊細さがいい。

5.絵画市場の発展 仇英から蘇州片・蘇州版画
このあたりがやはり好ましい。

金谷園桃李園図 仇英 明 知恩院  久しぶりの再会。その当時の感想とあまり変わらないことを書く。
桃李園は李白の故事に由来する。大宴会。ちびさんらよく働く。女人より高士や侍童の方が目に付く。
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鹿の角を脚にした卓もある。

金谷園は西晋の大富豪・石崇の別業。珊瑚の飾りなども素晴らしい。まだ悲劇が訪れる前の、この世の楽園のような庭園の様子。孔雀などもいた。
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楼閣山水図 仇英 清 禅林寺  これも以前から好きなもの。池に蓮が咲き、主人と客らが機嫌よく過ごしているところ。

四季仕女図巻 仇英 明―清 大和文華館  夏と秋とを見た。夏は裸で蓮を採る女もいて、秋は庭にテーブルを出してお月見する女たち。
春のぶらんこもいいなあ。

九成宮図巻 仇英 明―清 大阪市立美術館  ロングで捉える。唐の太宗の宮殿の一つなのだが、これをみていると谷山浩子「休暇旅行」を思い出す。広々とした野、そして雲が浮かぶ空。無窮ということを思う。

清明上河図巻 趙浙 1577 林原美術館蔵  おお、久しぶり。
原本を見たときの感動が蘇る。
今から思えば夢のよう。そしてこれらカバー作品もまた素晴らしい。
ということで一つ大きい画像で挙げる。
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なんだかわくわくする。
現代ではこの絵をカバーできるのは安野光雅さんか山口晃画伯だけだと思う。

仇英のも出ていて、とても楽しく鑑賞した。

倭寇図巻 伝・仇英 明 東大史料編纂所  上陸して略奪とかしてる。逃げる人々。邸宅に放火もする。いかんのう。

蘇州版画が出てきた。「浮絵」にも通じる不思議な遠近感と静謐さがある。
なにかしらシュールでもある。
姑蘇万年橋図、西湖十景図、姑蘇獅子林図…
獅子林は一般公開されていた奇岩の多い庭園。こういうところに行くと、本当に明代清朝の庭園の良さに溺れてしまう。

6.夢の名残 清後期の呉派理解

虎丘三賢祠図巻 翟大坤 1797 個人蔵  白居易、杜甫、蘇軾の三人をお祀り。塔もある。ああ、虎丘にも行ったなあ。

燕園十六景図冊 銭杜 1829 個人蔵 ふしぎな静けさが心地いい。
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ここ数年の大和文華館の中国絵画の展覧会の中でも特にすばらしい特別展だった。
11/15まで。
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