美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

北野恒富と中河内

大阪商業大学の商業史博物館で「北野恒富と中河内」展をみた。
元・芦屋市美術博物館の学芸員の明尾さんがここに入ってから、アグレッシブで魅力的な展覧会が続くようになった。

「浪花の悪魔派」と謳われた(称えられてのことかそうでないかは知らない)恒富の回顧展は東京では開催されているが、主に活動した大阪では初のことになる。
明尾さんや橋爪さん方のような大大阪時代の美術や文芸に詳しく、その頃を愛される方々のおかげで、近年は少しずつとはいえ往事の大阪画壇の展覧会が開かれるようになり、本当によかった。
とはいえ、まだまだ足りない。
これはやはりこの方々の努力だけでなく、われわれ観客もまたセェダイ応援するべきだ。
(セェダイは古い大阪弁)

ところで大商大は河内小阪と八戸ノ里の間にある。中河内である。恒富は大正の末に大阪市内から小阪に転居した。
中河内の住民になったのである。そして河内花園に移ってから没するまでその地に住んだ。
封書の宛名をみると駅前とある。これは戦前の大阪にはよくあることかもしれない。
わたしの母方の祖父は裁判官で、なんだかんだと封書がよく届いたようだが、それもすべて「△△駅前」また近くの古く名高い神社の名が宛先に書かれていたそうだ。
これで届くのだから、昔はのんびりしたものである。

恒富は金沢から大阪に出てきて大阪人になった人である。
「浪速御民」と名乗った菅楯彦も鳥取から出てきて大阪人になった。どちらも大阪の温気にやられ、気づいたときにはすっかり大阪人になりきってしまっていた。
そんなだからよけい大阪的な味わいが出るのかもしれない。
(ここでホナ大阪的なものてなんや、と訊かれても、それを書くのは差し控えたい、とあえて言うておこう)
さてわたしは前後期をみているので感想を混ぜながら書く。

明治の作品「燕子花」「六歌仙」はどちらも明治のほかの画家同様「明治らしさ」の漂う作品だと思う。それは色彩とか描き方によるのかもしれない。

花の夜 大正 いかにも大正ロマンのムードが漂う、可愛らしい女がたたずむ。赤い着物と赤い唇に魅了される。
関大蔵だが、似た作品を白澤庵でも見た気がする。眼を閉じているのがいいというのもある。

茶々殿 目の描き方が近世風俗画風なのもいい。モデルは根津松子。
イメージ (36)
着物だけでなく、案外大柄な感じがする。豪奢な着物を着ているが、背後の薄暗さが画面を引き締めつつ、将来を暗示しているかのようでもある。

飛天 エキゾチックな顔立ちで、笛を吹く唇のぼってりとした厚みが目に残る。

願之糸 七夕の「裁縫上手になあれ」を描く。別なバージョンもあり、恒富がこの題材を愛していたのを感じる。
おっとりとした女の風情がいい。

青葉の笛 平家の公達である。烏帽子から流れる垂髪。太目に描いた眉。人形風なその様子。

時鳥  貴人が肘掛に凭れながらツト顔を上げるところ。これは和歌を題材にしたもので、見ていたお客さんがお連れさんに説明するのをお相伴で聴いた。

享保美人、寛政美人、慶長美人とその時代風俗を描いた美人画がある。
享保のは懐月堂か宮川長春風、寛政は却って近代的で、薄紅色の着物の美しさに惹かれる。慶長は二枚あり、一枚は関大所蔵で、これは随分昔に大丸で関大コレクション展のチラシ表にもなった様式的な美人で、もう一枚は目元口元に情がある。

宝恵籠 ほえかご。これは大阪の夏の愛染祭に出るもので、この時代だから南地の舞妓さんや芸妓さんが乗っている。
これがまた可愛らしい舞妓で、この絵は2003年の東京STギャラリー展の図録表紙になっている。

このように日本画の一枚絵美人に魅了されるのだが、もう一方、商業デザインの美人にも大いに惹かれる。
「クラブ」はみがき、高島屋、阪急電車のポスターなども手掛けていて、それらかいずれも非常に魅力的で、忘れがたい作品となっている。
恒富は様々な表現で美人を描く人なので、そのことにも感心する。
わたしは彼のポスター美人が大好きなのだ。

イメージ (39)

大正末近くの「大近松全集」のための木版口絵も何点か出ている。先般白鹿ミュージアムでも見ている
イメージ (21)

版画ではほかに「廓の春秋」の4連作がある。
べったり座って黙ってにぃっと笑うものはタブローにもなっていた。
滋賀近美にある。たまに無性に会いたくなる女である。
四枚とも静かな頽廃がある。なんともいえないエロティシズムに溺れる。

ほかに聖徳記念絵画館の明治大帝の生涯を描いた連作にも参加していて、碁盤に立たされて髪の毛をカットされる幼い明治大帝の絵があった。
そう、源氏絵などでもよくあるあれですね。平安時代からの風習。

最後に谷崎の「乱菊物語」挿絵が出ていた。
谷崎は挿絵の価値をよく知る人で、その著作の挿絵にほれ込んで話の筋を変えることもあるくらいだった。
ここでは長らく行方不明だった原画四点が出ている。墨の肥痩のはっきりしたなかなかに力強い挿絵である。

また弟子の木谷千種の絵が二点。彼女のことは時折このブログでも挙げているが、このように近世・近代の大坂画壇の絵師たちの作品がどんどん世に出ることを、心の底から願うている。

11/28まで。
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