美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

青児とパリの美術

東郷青児コレクションを見に行った。あの長い名前の美術館である。
ここは冠に「東郷青児記念」がついているが、今まであまりそのことに注意を払ってこなかった。
今回の展覧会は、何故「東郷青児記念」とついているのかを改めて知ることになった。
企業と芸術家の幸福な結びつき、それを知ったのである。
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「青児とパリの美術」というタイトルがついている。

・はじめに パリの香り 暮らしに身近な作品群
1950年代から1970年代までの東郷青児の作品が8点並ぶ。
52年の「建物と少女」はキュビズム風な趣がある。この絵の少女は頬もふっくらした子供で、後の東郷スタイルの娘ではない。むしろパリで学んだ成果が現れた少女だと思う。

スタイルが完成してからの娘たちの絵を眺める。言葉から遠く離れた領域にあり、完全な形を身に着け、なんら他者が入る余地を持たなくなっていた。

ただ、四枚組の「パリ」は水彩画で、これにはまだある種のゆるさというかゆとりがある。
わたしにはとても好ましい作品に見えた。

東郷青児がスタイルを完成させて以後は、他者に一切の余地を持たさぬ作風になっているが、これは日本画の伊東深水と同じだと思う。どちらも完璧なので手を伸ばすことを拒絶されている。

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第1章 パリ滞在とモダンボーイ 戦前の油絵
1920年代の東郷青児の作品が並ぶ。後の作風とは全く違うスタイルで、まだまだ模索中という感じがある一方、自由さがある。
石川淳がさらりと鉛筆で肖像画を描いてもらったのはこの時代だったろうか。

藤田嗣治 家 1934 少女がチューリップに水をやっている。それがどこか不安な感じがある。いえば井上洋介的な、やたらと巨大な幼女が何か日常的なことをしているはずなのに、妙に殺戮の匂いがするような、あの感覚。それがこの絵にもあった。遠近感のためにか少女の背後の家がえらく小さいのも不安の種になっている。

ピカソの版画が二点。エッチングの午睡とリトグラフのバッカス。時間差があるから画風も違うのだが、どこか共通するものがある。たぶんちょっと幻想的なところがあるからか。

シャガール よく見る夢 裸婦が空を飛んできて画家と共に浮かぶ。画家の静かに楽しそうな表情がいい。

1930年代の東郷青児の作品が並ぶ。モダンでカッコイイ。
黒い手袋 これは損保のポスターのための絵の原画
微風 灰青色の綺麗さに目が見開かされた。
洋菓子店モンブラン、プチフランセ、アルプス…それらの包装にもオシャレな東郷青児の美人画がある。

第2章 イメージの中のパリ美術 戦後の展覧会発表作
1950年頃にはもう東郷青児のスタイルは完成されている。
それらの作品が並び、題材が何であろうと静謐な美女がその場に佇む。

バイオレット 黒の中に薄い黒紫が息づいている。色彩の美が女の美しさを支える。

赤いベルト 大胆にグレーを使い、そこに赤いベルト。1950年代のカッコよさが沁みる。
この時代、赤いベルトというものは憧れの対象だったはずだ。
例えば藤本義一のこの時代を舞台にした小説にも赤いベルトが象徴的に使われている。
たとえそれがどのような女であろうと。

牧歌 このあたりから男に抱かれている娘の絵が増えてゆく。牧歌的イメージということとそれが結びついているのがやはり時代を感じさせもする。

第3章 二科展の交換展 パリの展覧会出品作
完全なスタイルを確立してからの東郷青児の絵は冒険することはなくなくったが、様々な背景を描き、そこに人間を配するようになった。

「脱衣」や「妖精」は裸婦の美しさを見せるが、「魚籃観音」はインドのターバンを巻いたような美女だというのは面白い解釈だった。

二科展は先般百年展を見たが、もともと昔の二科展は好きなので嬉しかったが、この展示ではパリから来た作品が並ぶのもよかった。

ロラン・ウド タイトルはないがベニスの運河に黒いゴンドラが並ぶ情景が魅力的な作品があった。
解説によると1923年から亡くなるまでバレエ・リュスの美術を担当していたそう。
もうその時代のバレエ・リュスは終盤を迎えていた頃か。
バクストの知己を得ていたそうだ。

リトグラフが多かったが、いずれも東郷青児のいた時代を体現するような作品ばかりで、東郷青児の内側から見たような東郷青児の世界、そんな感じがした。

第4章 パリから世界へ 1960年代以降の二科展発表作
東郷青児がアラブに行ったあたりの絵が集まっていた。
彼はそこでスタイルは変わらないが新しい世界を開きもしている。
スケッチが特にすばらしく、むしろその方が私は好きだ。

モロッコの娘、イスラエルの女、ラムセスの寵姫などが特にいい。
憂愁がにじみ、しぃんとしている。

第5章 イメージの中のパリ美術 企業カレンダーの原画
1965―1977年の作品が出ている。
全て前面に美人が佇み、背景に町や山や海や丘がある。
もらうと嬉しいカレンダーだと思う。

個別にどうのと言うより、全体として楽しめる展覧会だった。
現実感のない美しさを堪能した。

常設のグランマ・モーゼスで一枚なかなか怖いものを見た。
プロポーズ 田舎の食堂でプロポーズするカプなのだが、犬や猫が妙にリアルでヒトよりも存在感がある。なんだろう、なんか平気でしゃべりそうな奴らだ。

12/23まで。
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