美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

初期浮世絵 版の力・筆の力 その3

続き。
  2  荒事の躍動と継承 −初期鳥居派の活躍
鳥居派の始まりを描いた小説「修羅の絵師」というのがある。かなり面白かった。
菱川との闘い、過去との闘い、芸術との闘い、創始者の無残なまでの努力。
鳥居派の栄光を守るため、百年の計のために、自然死に見せかけて自ら命を絶つ主人公。
あのイメージがわたしの中に残っている。

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(無款)鳥居派 草摺曳図 板地着色絵馬額 1面 享保10年(1725) 館山市・那古寺蔵
やたらと巨大な絵馬にド迫力な筆致で二人の引くもの・抗うものとを捉えている。
丸い目玉に丸い鼻。どこかポパイのようにも見える。

(無款)初代鳥居清信 「四野宮平八」 細判丹絵 元禄11-12年(1698-99)頃 千葉市美術館蔵
「丹前六方」ピシっ。この時代のかっこいい歩き方というか、今ではこの時代に作られた踊りに残るはずだが、既に40年前に八世三津五郎が、元禄だろうが天明だろうが文政だろうが全部同じ表現なのを嘆いていた。
演者が既にそうなのだから観客にも見分けがつかないどころかそんな違いがあることなど知らないのも当然だ。とはいえ知ってどうなるとも思うのだが…

初代鳥居清信 屏風前の男女 中判墨摺絵 宝永期(1704-11) 大英博物館蔵
男の上に座る女、という構図もいい。だが、ここまでしか見せてもらえない。

(無款)初代鳥居清信 抱擁 大判墨摺絵 宝永期(1704-11)頃 千葉市美術館蔵
(無款)初代鳥居清信 蚊帳外の男女 大判墨摺絵 宝永~正徳期(1704-16)頃 千葉市美術館蔵
このあたりの機嫌のよい仲良しさんぶりなのも微笑ましい。

女形二人の一枚絵を見る。
初代鳥居清倍 筒井吉十郎 大々判丹絵 宝永期(1704-11) シカゴ美術館蔵
初代鳥居清倍 中村源太郎の羽根つき 大々判墨摺絵 宝永期(1704-11)頃 シカゴ美術館蔵
どちらも美しく描かれている。これらの一枚絵の主たる購買者はどの層かが気になるところ。

初代鳥居清倍 二代目市川団十郎の虎退治 大々判丹絵 正徳3年(1713) 千葉市美術館蔵
初代鳥居清倍 金太郎と熊 大々判丹絵 正徳期(1711-16)頃 ホノルル美術館蔵
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どっちもほんとに力強いわ。
クマも虎も「…わしら、よぉやるわ」みたいな顔つきなのがまたいいね。

初代鳥居清倍 市川団十郎の竹抜き五郎 大々判丹絵 正徳期(1711-16)頃 東京国立博物館蔵
冒頭の「修羅の絵師」の表紙絵にこの絵が使われていたと思う。
前身真っ赤なのだが鼻孔だけ白いのが妙に面白い。

(無款)初代鳥居清倍 張良 大々判丹絵2枚続の内の右図 正徳期(1711-16)頃 東京国立博物館蔵
「靴落とされましたよー」とダッシュのあまり龍に乗ってしまう可愛い張良くん。
張良と言えば来月号の月刊マガジンで川原正敏の新連載「龍帥の翼」が始まるが、主人公は張良だとあった。最近の川原は美少年を描くので嬉しい。

初代鳥居清倍 初代市川団蔵と初代大谷広次の草摺曳 大々判丹絵 享保2年(1717) 大英博物館蔵
ガバッッと取り付く、バッッと手を伸ばす!
擬音で大体様子がわかると思う。

二代鳥居清倍 「無けんのかね大あたり瀬川菊治郎」 細判漆絵 元文5年(1740) ホノルル美術館蔵
梅が枝の「無間の鐘」を描く。ここでは大雨の中、柄杓で水を掬う中、小判がどんどん落ちてくる。

(無款)鳥居派 無間の鐘図 紙本着色 1幅 宝暦期(1751-64) 公益財団法人 摘水軒記念文化振興財団蔵
こちらは水が逆立ちするような中で、小判が降ってくる。紅梅が綺麗に咲く。

  3  床の間のヴィーナス −懐月堂派と立美人図

懐月堂安度 立美人図 紙本着色 1幅 宝永~正徳期(1704-16) 千葉市美術館
青系の着物の色も綺麗。

懐月堂度辰 遊女図 大々判墨摺絵 正徳期(1711-16) Lee E. Dirks 氏蔵
これはまた賢そうな女。

他にも懐月堂派のふくよかで官能的な美人がずらりと並んでいた。
なんというか、懐月堂派の美人たちは春画に出なくてもそれだけで非常に官能的だと思うのだ。

松野親信   立美人図 紙本着色 1幅 宝永~正徳期(1704-16) 千葉市美術館蔵
上品な美人。これはとても感じのよい婦人。

宮川長春 立美人図 紙本着色 1幅 正徳(1711-16)後期〜享保(1716-36)前期頃 千葉市美術館蔵
宮川長春 立美人図 絹本着色 1幅 正徳(1711-16)後期〜享保(1716-36)前期頃
公益財団法人 摘水軒記念文化振興財団蔵
どちらも褄を取って薄く微笑む。
長春は先年の大和文華館の大きな回顧展以降、特によく見るようになったように思う。

英一蝶 立美人図 絹本着色 1幅 元禄期(1688-1704) 千葉市美術館蔵
なにやらちょっと不思議な違和感がある。なんだろう、誰とも合わない感じの美人画。

  4  浮世絵界のトリックスター −奥村政信の発信力

奥村政信 武者絵尽 大判墨摺絵 10図(もと画帖) 正徳期(1711-16)頃 千葉市美術館蔵
面白かった。こういうのは好きだな。
・「藤戸」の盛綱による口封じの殺人 ・「曽我物語」での女装した五郎丸が曽我五郎の油断を誘って捕獲する ・「羅生門」で妖しい風が吹いてくる ・滝行の文覚をみつめる不動明王 ・瀬田の唐橋で俵藤太に懇請する龍 ・村上義光が錦の御旗を取り戻す
・巴御前が敵を倒す ・「碁盤忠信」の暴れるところ ・「紅葉狩」で鬼と気づくところ
 などなど。

奥村政信 『遊君仙人』 墨摺画帖 1冊 宝永期(1704-11) 大英博物館蔵
見立てもの。三酸図の。
この後もちょっと見立てものが続く。

三條勘太郎という役者の絵が並ぶ。
奥村政信 「三條かん太郎」 細判漆絵 享保10年(1725)頃 大英博物館蔵
上品でとても綺麗な顔。

奥村政信 「都のおくに 三條かん太良 よしののみや」 細判漆絵 享保9年(1724) 千葉市美術館蔵
こちらもまた美人さんで、見てて嬉しくなる。

奥村利信 「蝉丸みだいなを姫 勘太良」 細判漆絵 享保10年(1725) 千葉市美術館蔵
物売りに身をやつし。うーむ、ここまで綺麗に描いてもらえるということはやはり美人さんの女形だったのだろうな。

石川豊信 佐野川市松の傘を持つ若衆 幅広柱絵判紅絵 寛延期(1748-51) シカゴ美術館蔵
おお、帯がその名の通りの「市松模様」。いいねー

奥村政信 物見窓 幅広柱絵判紅絵 延享〜寛延期(1744-51) ホノルル美術館蔵
馬に乗る若衆を見る二人の女。わくわくですな。

奥村政信 志道軒 幅広柱絵判墨摺筆彩 延享〜寛延期(1744-51) 千葉市美術館蔵
おお、エロ講釈師の志道軒。当時大人気で平賀源内の「風流志道軒」の主人公にもなった。彼は水木しげる「東西奇っ怪紳士録」の平賀源内の話の時に出てきたので知った。
なんでも浅草寺でエロ講釈をしていたそうだ。深井志道軒という名だとある。
弟子もいて、そちらの絵もだいぶ前に見ている。
この絵も見るからにやらしそうな目つき。手には△△棒を持ってニマニマ。

奥村政信 「風雅火鉢無間鐘浮絵根元」 大々判墨摺筆彩 寛保〜延享期(1741-48) シカゴ美術館蔵
これは遊女屋の二階からお客がばらばらと女に小判を降らせているところ。
わりとこの絵は好きなのでよく出てきてくれたと喜ぶ。

西村重長 「浮絵海士龍宮玉取之図」 大判墨摺筆彩 延享期(1744-48)頃 千葉市美術館蔵
これは領海外の船で待機中の不比等も加勢するーーっという絵で、それを周囲のものが止めているところ。海女の奮戦も激しいし、魚人たちもたいへん。

(無款)奥村政信 「朝鮮人 浮絵」 大々判墨摺筆彩 寛延1年(1748)頃 東京国立博物館蔵
通信使の一行。丁度日本橋を通過中。

川又常行 草刈山路 紙本着色 1幅 元文〜寛保期(1736-44) 千葉市美術館蔵
用明天皇が身をやつして山に入り、山の仕事もできないから所在無げに笛を吹き、目の前にいる山の娘と牛とをうっとりさせているところ。
たいへん綺麗な青年として描かれている。
川又の美青年の絵を他にもみているが、なかなか素敵だ。

川又常行 阿古屋の三曲図 紙本着色 1幅 元文〜寛保期(1736-44) 公益財団法人 摘水軒記念文化振興財団蔵
阿古屋は土の上にじかに座らされ、演奏中。畠山はすぐそばまで来て真剣にその音曲を聴く。
これを見て中里介山「大菩薩峠」のお杉・お玉を思い出した。「間の山節」を演奏するのにお杉がべたんと土に座って演奏するところを。

西村重長・河原道樹 海上郡浄國寺事実 紙本着色 1巻 享保13年(1728) 銚子市 浄國寺蔵 (2週おきに巻替え)
縁起絵。わたしが見たときには二河白道図。文にも総ルビなのでところどころはっきりとわかる。

  5  紅色のロマンス −紅摺絵から錦絵へ

奥村政信 芝居番付を見る芸者 大判紅摺絵 宝暦6年(1756)頃 大英博物館蔵
むかしはもう本当に娯楽も少ないから芝居への楽しみは想像以上に強かったろう。

鳥居清広 独楽まわし 大判紅摺絵 宝暦(1751-64)中期 大英博物館蔵
二人のちびっ子が真剣にコマ回し。それを見る若衆。彼の刀の先には手紙の束が括りつけられている。実感のある絵。

鳥居清広 梅樹下の男女(見立玄宗皇帝楊貴妃) 大判紅摺絵 宝暦(1751-64)前期 江戸東京博物館蔵
二人で並んで座って笛を吹いているところ。何にもない若いカップルがこんなのしててもそりゃ構いませんが皇帝がこれではなあ。

石川豊信 佐野川市松と瀬川菊之丞の相合傘 大判紅摺絵 宝暦期(1751-64) ホノルル美術館蔵
いい感じのカップル。役者絵の場合、実際の取り合わせでなくてもこういうのを描くときはそこに二人の役者の綾まで描いたりすることが多い。
そんなことを思うからかついつい喜んで見入る。

石川豊信 「相傘三幅対」 大判(細判三丁掛)紅摺絵 延享〜宝暦期(1744-64) シカゴ美術館蔵
3組の相合傘カップル図。お好きなのを選びなされ♪

石川豊信 見立琴碁書画 大判紅摺絵 宝暦(1751-64)前期 大英博物館蔵
寺子屋のようですな…ケンカするちびっことかもいてにぎやかで結構。

鳥居清満 「市川雷蔵」 細判紅摺絵 宝暦12年(1762) 千葉市美術館蔵
「曽我物語」で三宝を持つ場面。
そういえば昭和の市川雷蔵さん、彼は何代目に当たったのだろう…
素敵な映画俳優だった…

鳥居清広 「ぢかみうり 中村富十郎」 細判紅摺絵 宝暦2-8年(1752-58) 千葉市美術館蔵
男装する娘を描く、というわけだがその男装する娘は実ハ役者だから、二重の倒錯があり、ときめく。

石川豊信 清水の舞台から飛び降りる娘 柱絵判紅摺絵 宝暦(1751-64)後期 ホノルル美術館蔵
ジャンプ!傘開いて飛ぶ。7階くらいの高さらしい。こないだの「カバチタレ!」で書いてあるのを読んだが、ほんまにとんだ人も少なくないらしい。
膝上どころか桃の半ばまで露出。

ここから春信が現れる。好きな絵が並ぶのも嬉しい。
鈴木春信 見立鉢の木 細判紅摺絵 宝暦(1751-64)末期 大英博物館蔵
「風流やつし七小町 雨ごい」「風流やつし七小町 関でら」 細判紅摺絵 宝暦(1751-64)末期 大英博物館蔵
可愛いなあ。
他にも見立為朝、坐舖八景などもあった。

随分長くなったが、本当に凄い内容の展覧会だった。
こういうレベルの展覧会を年に数回開催する千葉市美術館、本当に恐ろしい…
また今年もよろしくお願いいたします。
2/28まで。
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