美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

英国の夢 ラファエル前派

ラファエル前派展が開催されると嬉しい気持ちが湧き起るとともに、随分昔のことを共に思い出す。
1989年、大丸梅田で「ヴィクトリア朝の絵画」展が開催されたが、そのときのラインナップがラファエル前派とフレドリック・レイトンらだった。
絵葉書も大変よく売れて中には完売したのもあり、わたしはどうにか図録を手に入れた。
あの展覧会で19世紀末の英国絵画に一気にのめり込んだのだった。
その後もいそいそと出かけたが、今回の展覧会はリバプール国立美術館の所蔵品で構成されていると知り、98年に大丸元町で開催された「英国ロマン派」展も確か大方はそこから来たのではなかったか、と思った。当時の感想はあるが、資料がちょっと手元にないので確定的なことは言えないが。

ブンカムラで「ラファエル前派」展がこうして開催されてとても嬉しい。
大丸もブンカムラも彼らの作品を集めた展覧会をしばしば開催しているが、いつもとても満足している。
これはやはり百貨店での開催だということが優美さを弥増しているように思われる。
ブンカムラは独立した存在だというかもしれないが、やはり百貨店関係では優美な作品に出逢えることをとても期待してしまうものだ。
その意味では本当にここで見ることが出来て嬉しい。

1.ヴィクトリア朝のロマン主義者たち
優美で物語性の高い作品が並ぶ。

ジョン・エヴァレット・ミレイ いにしえの夢―浅瀬を渡るイサンブラス卿 1856-57  
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チラシにも使われている老騎士の姿。当人と二人の子供と薪まで積んでいる。馬も大変である。鈴飾までつけられた黒馬は無言で浅瀬を渡る。少女は前に座らされ、その顔を眼だけあげてみつめる。騎士の後ろにはその弟らしき子ども。どちらも裸足なのは何か意味があるのだろうか。
気の毒にこの絵は当時随分不評を買ったそうである。
しかしこの絵の隣に数年後に描いた小さい絵があるので、ミレイは未練をもっていたのかもしれない。しゃくれた顎のこの卿は、アメリカの昔の俳優に似た面影の人がいたのを思い出させる。

ミレイ 春(林檎の花咲く頃) 1859  8人の娘たちがそれぞれ様子してその場にいる。
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彼女らは妻の実家の妹たち。手前で思い思いの様子でくつろいでいる。中には寝そべる娘もいる。頭に花を飾る娘もいれば、お茶を入れているのと、それに手を差し出す娘もいる。
こうした構図を見ると日本の近世風俗画を思い出す。<公界>にいる遊女たちがそれぞれまったりと時間を過ごすあれらの絵である。
どうも髪を完全に結い上げるようになったころから<公界>が<苦界>になったようだ。
話を戻し、こちらの娘たちは甘美なる無為を貪っているようにも見える。
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奥には白いリンゴの花が咲く。洋の東西を問わず旧い歌は林檎の花びらの白さを愛でる。
永遠に続くかのようなこの時間も実は儚いものだ。
一番右端に光る大きな鎌の刃には、この時間が断ち切られることを予感させられてしまう。

ミレイ ブラック・ブランズウィッカーの兵士 1860  別れがすぐ迫っている恋人たち。タイトルのブラック・ブランズウィッカーズとは、イギリス・オランダの連合軍と同盟を組んでナポレオンと戦ったプロイセンの部隊を差しているらしい。
黒い軍装の男が手にする兜からもそれは推測できる。
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なんと秀でた額だろう。脳がとても発達しているように見える。彼に寄り添う女のまとう白いドレスの質感。赤いリボンが目を惹く一方、彼らの足元でやはり別れを惜しむ黒犬もまた赤いリボンなのがちょっと気になる。
壁紙もいい感じのもの。だがそこにナポレオンの絵が飾ってあるのは、ダーツの的にでもする気なのか。←ないない。
この絵でミレイは悪評を振り切って復活したそうな。

ミレイ 森の中のロザリンド 1867-68  木の根元に座る。銃剣?何かそんなものを持ってきている。シェイクスピアの「お気に召すまま」の男装の美女。
そういえば90年頃に近鉄奈良でヴィクトリア朝時代のシェイクスピアを描いた絵画を集めた展覧会を見ている。近年にも「描かれたシェイクスピア」をみたが、前の方がいいラインナップだった。

ミレイ ソルウェーの殉教者 1871  本宮ひろ志のマンガに出て来るような美少女である(つまり森田じゅん描く美少女)。眉が太いめの意思的なタイプの美少女。
オレンジシャツには小さなドット。そしてチェックのスカートをはいているが、腰を鎖で縛られている。海辺で。この海はあくまでも暗い。もう助かる見込みはなく殉教して神の身元へ行くしかない。
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フォード・マドックス・ブラウン 花束 1865-67  腰回りから尻尾に書けてヒョウ柄の猫が寄ってきた。花を摘む女は猫を見る。猫も女を見る。幸せな関係がある。この猫は耳もヒョウ柄。いたずらしてはいけませんよ…

ブラウン コーディリアの分け前 1866-72  フランス王と手をつなぐ姫。犬もこの場にいる。にらむリア王。正直に言うけど、爺、鬱陶しいな。こういう目つきの爺の絵を見たら気分が悪くなる。というか、この爺を殴り倒してやりたくなる。わたしはリア王の話って本気でイヤ。ただしこの娘を応援とかじゃなくて、この娘自体もイヤ。
まぁシェイクスピアは「マクベス」「リチャード三世」しか興味ないのよ…

アーサー・ヒューズ 聖杯を探すガラハッド卿 ~1870  夜、白馬にまたがり荒れた岩の道を走る。中空に三人の女が浮かぶ。ガラハッドが行くのは岩の橋らしい。三人の女は天使だとか。馬の鬣にピンクブルーが使われているように思う。綺麗な色だ。
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ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ シビラ・パルミフェラ 1865-70  赤い衣の綺麗な女。羽ペンを持つ。背後の装飾はバラを生けた方には目隠しの子どもが刻まれ、ポピーを生けた方には骸骨がいる。
琥珀色の蝶も飛んできた…
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ロセッティ パンドラ 1878  箱を開けてしまった。カラーチョークで描かれたこの色彩がとても不穏。出てきたもの達には顔があり、それがまた不穏な顔つきばかり。 

シメオン・ソロモン 泉の少女 1865  顎ガシッとした女。薄朱のドレス。水をくむ。シメオン・ソロモンの悲劇も最初に見た展覧会で知った。

ダニエル・マクリース 祈りの後のマデライン ~1868 クローゼットの中に恋人が隠れている(キモイ)のも知らずパールの髪留めをとるところ。さて寝よかというところ。
室内にはリュートがあり、聖人のステンドグラスもある。

ラファエル前派の絵は総じて色彩豊かで典雅なのがいい。

ジョージ・ジョン・ピンウェル ギルバート・ア・ベケットの誠実ー夕暮れ時にロンドンへはいるサラセン人の乙女 1872  港。子供らにからかわれている中を歩く娘。様々な人々がいる疲れ果てた家族もいれば恋人たちもいる。
わたしはこの絵の背景の物語を知らないが、絵を見て「アデルの恋の物語」を思い出した。

2.古代世界を描いた画家たち 

ローレンス・アルマ=タデマの作品がずらり。やっぱりこの章にこの人がいなくては。
打ち明け話 1869  ポンペイの貴女二人が楽しそう。白カラーの入った鉢がある。贅沢な生活。赤い壁の室内で。

バッカス神の巫女(「彼がいるわ!」) 1875  窓を開け外を眺めていると「あっ!」とわくわくする。豹の毛皮をまとった巫女さん。

テピダリウム 1881  大理石に毛皮を敷いて裸で寝そべる。甘美なる無為の時間。温泉。ややぬるま湯。それがいい。

美しさの盛りに 1911  金髪の女とムーア人の女とが蕗の葉陰から顔を出すところ。

フレデリック・レイトン ダフネフォリアのための習作 1875  かつての勝利を祝うイベント。歩く人々、月桂樹を腕に巻きける女、きらきらしている。

レイトン 書見台での学習 1877  モスリムの人々が使うX型のもの。それで熱心に読書する少女。ピンクのサテンの服を着ている。螺鈿のような装飾が施された書見台といい、ここはハレムの一隅で、母親がここへ連れてこられたひとなのかもしれない。
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レイトン プサマテー 1879-80  海を向く後姿の女・プサマテー。アイアコスをちょっとばかり恨んでいる。

レイトン エレジー 1888  伏せ目の女が白衣を着ている…それだけでも物寂しい。

レイトン ペルセウスとアンドロメダ 中空にいる翼竜が焔を吐く。女と共にこの先の戦いがある。

チャールズ・エドワード・ペルジーニ ドルチェ・ファール・ニエンテ(甘美なる無為) ~1882  カタツムリと遊ぶ二人の美人。欄干には花の文様が刻まれている。
ああ、確かに「甘美なる無為」がここにある。

エドワード ジョン・ポインター 愛の神殿のプシケ 1882  オレンジ色の大理石。ひまそうな空気。ちょっと向こうには噴水と白鳩。鳩はアフロディーテのアイテム。息子の嫁は見張られているのかもしれない。

ポインター テラスにて ~1889  こちらも優雅な大理石張り。鉢には葡萄が入る。扇をじる女、退屈そう。
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アルバート・ジョゼフ・ムーア 夏の夜 ~1890 
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四人の女ののびやかな姿。窓のずっと遠くには島が見え、海は月光で燿く。彼女らの寝そべるベッドの彫刻も優美。花の天蓋、木のモザイクの卓もある。何もかもが優美。
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アーサー・ハッカー ペラジアとフィラモン 1887  これは1853年刊行の小説から。埋葬の情景。遠くに禿鷹がいるのが何とも不気味。
これも以前に見ている。ただしこの絵ではないかもしれない。この小説のこのシーンを描いたものだと思う。

ハーバート・ジェイムズ・ドレイパー イカロス哀悼 1898  この絵こそ89年に見て以来の再会。懐かしい。イカロスの死を悼む人々が周囲に。

そうだ思い出した。89年の展覧会ではどの絵の額も素晴らしく、額自体も図録に収蔵してくれたらと思ったのだった。

3.戸外の情景
特に物語性のない絵が多く、正直な話「ラファエル前派」というくくりにしなくてもいいかもしれない作品がちらちら。

ケイト・グリーナウェイ お嬢さんたち 1879  この人の展覧会も以前に大丸で見ている。19世紀末のファッションリーダー。可愛らしい洋服を子供らに着せている。

ラスキン、ハントの絵もあった。

4.19世紀後半の象徴主義者たち

ジョージ・フレデリック・ワッツ プシュケ(クピドに置き去りにされたプシュケ) 1875  呆然とたたずむプシュケの足元にはクピドの残した羽根が一つ。

ワッツ 「希望」のためのスケッチ 1877-86  あの「希望」の一つ。89年に最初に見たのは単色ものとカラーものとの二種だったが、自分の持つ岩波書店版の画集には単色の青い方が入っていた。これは青い方の習作。実際には青緑。
目隠しをした女が糸のほとんどなくなった竪琴を抱え込む姿。
このスケッチはレイトンに贈られ、レイトンは生涯この絵をそばに置いていたそうだ。

ワッツ 愛と生 1904  天使に導かれる女を描く。この絵は人気で何作も描いたそうだ。ワッツは一つのパターンを大事にして何作も描く。そしてこの絵の仲間の一つがホワイトハウスに1921年まで飾られていたという。

バーン=ジョーンズ フラジオレットを吹く天使 1878  天使の吹くラッパ。綺麗でいいのだが、終末が近づくような感じもちらりと…
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バーン=ジョーンズ スポンサ・デ・リバノ(レバノンの花嫁) 1891 たいへん巨大な絵。それが水彩画。彼女の想念が人の姿を取って宙に踊る。百合の花は象徴的。
後の林はレバノン杉なのだろうか…
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最後にジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの登場。
エコーとナルキッソス 1903  近づけない断絶がある。せつないが、実は男だけでなくこの女もまた自己愛が深いのだ。
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魔法をかけられた庭 1916-17 中世の庭。ポピーとバラがいっぱい。ダンテらしき人もいる。ああ百年前。漱石もウォーターハウスを見ている。

デカメロン 1916  チラシにもになった。
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とにかくウォーターハウスは綺麗なので見飽きない。悲劇的なまでの美しさがある。
シャーロット・ランプリングを描けるのはウォーターハウスだけだと常に思っている。
この絵も題材などより一つ一つの小さなところや女たちの美しさにときめくのだった。
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ただただ美麗にして優雅なものに囲まれて、とても心地よかった。
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