美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

ようこそ日本へ:1920‐30年代のツーリズムとデザイン

東京国立近代美術館で開催中の「ようこそ日本へ:1920‐30年代のツーリズムとデザイン」展は非常にわたし好みの内容だった。
わたしをわくわくさせてくれる展示品だけで構成されている。
最初から最後まで楽しくてならなかった。
イゃもぉ、本当に良かった。
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とはいえ、こんなに楽しい展覧会を見せてもらったというのに、わたしはなかなかそれをカタチに出来ないままきてしまった。
反省すべきはこんな展覧会終盤になってからそれを言うことで、もっと早くにネットに挙げて、美術館のために宣伝でもすればよかったなーと思ったりもする。
まあわたしなぞに宣伝されても枯木も山の賑わい程度だが、それでもやっぱりよかった内容を隠すわけにはいかない、おそくなってもこうして挙げれば、またいつか第二弾の展覧会が企画されるかもしれない。
なによりも企画・展示して見せてくれた東近美に対し、感謝の気持ちを込めて、なんだかんだと書いてゆこう。

それとあれだ、折角楽しんだのに最終日に行ったがために感想を挙げれぬまま来ていた日本のポスター展ともリンクするし、そちらも最後に加えて感想を挙げよう。

なにしろあまりによかったので図録を買ったが、ほんまにこういう展覧会にはそそられて仕方ないわ。
印刷物の展覧会ってなんでこんなに楽しいのかなあ♪

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鉄道院所管線路図 1918年 吉田初三郎  おお、これはまたいいものが。
わたしはそんなテツではないけど、路線図やガイドマップの地図を見るのは大好き。
鳥瞰図が好きなのも吉田作品のいいのをあちこちで見たというのも大きいし。
きちんとした鉄道網の図を見るだけでもキモチが明るくなる。
今でもネットだけでなく紙ベースの路線図をみたりパンフ見ては旅心が刺激されるのですよ。

『汽車時間表』1916年 杉浦非水 こういうリーフレット表紙、本当にそれだけでも価値があるなあ。
この1910年代は非水の表紙ものが多かったようね。都会的でカッコイイからぴったりやね。

『鉄道旅行案内』1921年 吉田初三郎  ああもぉ、ほんまにこれを手にしながら「さーてここもいい、あそこもええ、こっちかて」となるやろな。百年前は今ほど好き勝手に行き来出来ないから、よけいに両行への憧れが募るだろうしね。
こちらはほかに1924年版のもある。

『温泉案内』1931年 杉浦非水  またまたこんな本が出てくる。
ガラス越しにしか見れないが、本のページを開いてあちこち検討したいものですわ。

日本郵船株式会社(船内でカレンダーを手にする女性)1913年 橋口五葉 ポスター
日本郵船 横浜みなと博物館  このポスターは有名ね。綺麗な配色の明るいポスター。
古風な壁紙の室内。窓の向こうには島や船が見える。この女性は庇髪でおリボンをつけている。
優雅な船旅を楽しむ女性。
こうしたポスターを見て「素敵、わたしも…」と思ったお嬢さん、奥様方も少なくなかったろう。

Osaka Shosen Kaisha(横綱太刀山)1917年頃 町田隆要 大阪商船 函館市中央図書館  この横綱は雷電以来のつわものだったそうだが、この年に引退している。
なんとなく聞いたことがあるなと思って調べて色々納得。

当時の憧れスタイルの女性の絵と、名横綱の絵と、どちらも人気が高かったろう。
ポスターは江戸時代の絵看板同様、ヒトの心を一目で掴む力がなくてはいけない。

身近な旅先として、朝鮮、満州、樺太などがあるあたりに時代を感じる。
そう、わたしの一番憧れの時代。
朝鮮郵船、東洋汽船株式会社(天洋丸)、北日本汽船株式会社などという船会社のポスターがある。
樺太と日本の絵地図も見るだけでそそられる。
村上もとか「龍 RON」の時代、安彦良和「虹色のトロッキー」の時代…

南満洲鉄道という名を見るだけでドキドキする。うちの祖父は中学の修学旅行先が満州だったそうだ。
横山光輝「狼の星座」、檀一雄「夕日と拳銃」、が胸に蘇る。

「朝鮮へ満洲へ」というコピーにときめく、
旧い歌が思い浮かぶ。
「僕も行くから君も行け 狭い日本にゃ住み飽きた…」

南満洲鉄道株式会社 (民族衣装の女性)1921年 真山孝治  西太后などの映画を思い出す「両把頭」の豪華な拵えの女性。
女真族の風俗は支配下にあった漢民族には広がらなかったのは、階級制度にもよるか。

続いて「玉の頭飾りの女性」伊藤順三 1930 このポスターは以前にある展覧会でメインヴィジュアルとして使われているのを見た。とても豪華な装飾に身を包んだ優美な女性のポスターだった。
イメージだとわかっていても、それでもこの絵の華やかさに惹かれて海を渡ろうと考えた人もいたことだろう。

白木蓮を背景に佇むなよなよした美しい女性の絵もある。こちらは日本画風。
綺麗やわ…

ほかにも朝鮮、台湾ツアー、スンガリ―、アムールのツアーもあった。
スンガリ―と言えばニコライ・A・バイコフの「偉大なる王」。額と首の後ろに「大王」の模様が浮かぶ偉大な虎・ワンの生涯を描いた小説が思い浮かぶ。

ハルピンや浦塩などは今回紹介されなかったが、どちらも多くの日本人が住んでいた。
ハルピンは上田としこ「フイチンさん」の舞台。村上もとか「フイチン再見」ではハルピンの美しい街並みが誌上に再現されていた。
浦塩は夢野久作「氷の涯」だったか。

そういえば漱石に「満漢ところどころ」という紀行文があるが、あれは鉄道総裁になった友人の中村是公の誘いにのってふらりと海を渡る顛末記だった。漱石が乗った船は「鉄嶺丸」。最初に泊まったのは大連のヤマトホテル。

その大連ヤマトホテル、星ケ浦ヤマトホテルのリーフレットなどなどと、特急あじあ号のポスター、写真入りリーフレット。
満鉄の超特急「あじあ号」といえば、森田信吾「栄光なき天才たち」で読んだのが最初だった。
マンガの場合、背景に描かれる建物はやはり資料を検討し、そのまま使用するかやや変更するかだと思うが、前述の3作品では多少名称を変更することはあっても基本的に資料を大切にして、その建物を作中に載せていた。実際の歴史を背景にするとあまり架空の建造物は出てこないもので、それだからマンガを見ながら「ええ建物、ええ列車」を知る・見ることになりもする。

あじあ号に乗るためにまず海を渡らなければならない。
魅力的な客船がいっぱいあり、各社が激しく競争をしていた時代。
まず客を取り込むのは眼で見るポスター、そしてサービスの良さのふれこみ。
宣伝のためにはポスターが一番有益。

それにしても実に色んな会社があるものだ。
大型客船の時代。
・・・可哀想な船たちは幸せな時代を過ごした後、軍に徴用されて撃沈されてしまうのだ…

今回のポスターの所蔵先を見ていて「函館市中央図書館」のが多く、これは凄いコレクションを持っているのだと思った。なかなかお目にかかれないこうしたポスターをとてもたくさん所蔵しているようで、憧れが募ってくる。

大好きな豪華客船の資料も色々出ていた。
浅間丸一等船客用プール 1929年頃 リトグラフ
新田丸一等カフェおよびダンシングスペース装飾デザイン原画 1940 中村順平
客船の装飾は高名な建築家が携わることが多く、中村や村野藤吾が見事なものをデザインしたり、高島屋、三越、大丸などが働いた。
戦前の高級な客船はそれだけでも素晴らしいのに、本当に可哀想に戦争なんかに無理やり連れて行かれ、海の貴婦人からやたらと勇ましい男名に変えられて、挙句は殺されてしまった…

ディナーメニュー(大洋丸1935年6月10日)竹久夢二
ディナーメニュー(秩父丸明治節1938年11月3日)竹久夢二
夢二の絵のついたメニュー表は弥生美術館でも折々に見かける。
やっぱりこういうときは綺麗なのや可愛いのがいい。

小磯良平の日本郵船ポスターもある。 小磯は印刷物の絵も丁寧に描く人で、ここにも優雅な三美人が描かれている。
ところでこちらは2012年の横浜みなと博物館の企画展ポスター。

今回の展覧会と共通する作品がいっぱい。

JTBがジャパン・ツーリスト・ビューローの略称だというのは今まで考えてこなかった。
日本交通公社だというのは知ってたが、まぁ正直なことを言うとあまり興味がないので調べなかったというのもある。
そのJTBの前前身たる…面倒なのでJTB、いいパンフを出して外国人誘客に是努めている。
表紙はすべて非水。シンプルな中に愛らしさがにじむ、いい表紙絵ばかり。
こういうのはやはり表紙がよくないとね。

川瀬巴水の優美な風景版画、初三郎の美人画などが旅心をさぞや強く揺さぶったことだろう。

吉田初三郎の日本八景名所図絵 1930 これがまた素敵な鳥瞰図もの。
雲仙、別府、木曽川、室戸、華厳の滝、上高地、十和田湖など。
そそられるなあ…

それに日本各地のモノクロ写真。桜と絡めて撮るところも巧い。
モノクロでは紅葉の美しさは伝わらないが、桜の魅力は伝わるのが不思議だ。
観光ポスターも桜の名所を選んでいた。秋の時期のもあるはずだろうに、ここでは桜ばかり。
一枚だけ紅葉のものがあったが、あまりそそられない。

それにしてもこれらの資料を見て歩くだけでも出かけたくなるなあ。
1920-1930年代はわたしのいちばん好きな時代だった。
今もし旅に行けるのならこの時代に出かけたい。
「ようこそ日本へ」
「ようこそパリへ」
「ようこそベルリンへ」
「ようこそNYへ」
「ようこそ上海へ」
「ようこそ満州へ」
「ようこそ 1920-1930年代へ」

ああ、本当にいい展覧会を見せてもらった。
この展覧会の図録を開いて、また旅する気持ちになってみよう。

2/28まで。


追記。
今年は本当に出だしから「旅」に関わるいい展覧会を見ている。
「旅と芸術 ―発見・驚異・夢想」展も誠に素晴らしかった。
一月二月と続けてこんなに素敵な旅を味わえるとは思わなかった。

どこかへでかける、それだけが旅ではないということを知った。
2016年の幸先のいい話。

これらのポスターを忘れたくないので、ちょっと大きな画像を挙げておく。
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こちらは1月に終了したが、これもいい展覧会だった。
八王子夢美術館「サカツ コレクション 日本のポスター芸術 明治・大正・昭和 お酒の広告グラフィティ」展。
こういう展覧会はもう本当に一途に鑑賞・鍾愛・愛でるばかりで、なんだかんだ書いたりするのは却ってムダ。
ほんと、いいものを見せてもらったわ。
そして多くのお客さんに喜ばれた展覧会のようで、たくさんの相客と共に楽しんだ。
ああ、いいなあ。
大方は知ってるポスターばかりだけど、それをこんなきれいな状態で見ることは少ないので、やっぱり嬉しく有難い。
ほんと、いいものを見せてくださりありがとうございました。
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印刷芸術は手元でいつくしみたいものがとても多い。
本当に素晴らしい…
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