美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

幽霊塔へようこそ展 ―通俗文化の王道―

三鷹ジブリの森美術館にわたしが行くのは、いい企画展示があるからだ。
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昨秋から開催中の「幽霊塔へようこそ展 ―通俗文化の王道―」は本当に楽しみにしていたので、チケットを取りに行くのもドキドキだった。
なにしろ売り切れと言う状況がある。
しかもその観客の大半は別にこの企画展に惹かれてゆくわけではないのだ。
ジブリの世界に入り込む、それが目的なのだから、わたしのように企画展に気合が入る人はごくわずかなのだ。
初めてジブリの森に行った時も企画展が目当てだった。
三年前の企画展「挿絵が僕らにくれたもの 通俗文化の源流」展である。
当時の感想はこちら
あの時も大いに楽しませてもらい、宮崎駿さんの想いに共感した。

さて「幽霊塔」である。長らく謎の存在だったと言っても差し支えはないと思う。
わたしが最初に知ったのは乱歩の小説としてだが、そのとき既に黒岩涙香の「幽霊塔」を原案として、というのを目にしていた。
それでわたしも調べたのだが、当時は概要くらいしか掴めず、それが本当は何の小説からの翻案ものなのかも実に21世紀に入るまで完全には突き止められていなかったそうだ。
それは一つには黒岩涙香が萬朝報の主筆であり、他社に連載小説のネタバレをされぬ為に出鱈目を並べた、という事情がある。
素人のわたしはおろか研究者もみんな踊らされてしまったのだ、百年以上も涙香に。

宮崎駿もそうだった。
かれも乱歩から入り、ドキドキしていたのだ。涙香の原作を読んでも英国の元ネタ小説は未読で憧れだけが募っていたのだ。

わたしは黒岩涙香の作品自体、今に至るまでほぼ未読ではあるが、彼の小説をリライトしたというか、原案とした乱歩「白髪鬼」などはもう何十度読み返したか知れない。
黒岩涙香の名前自体は以前にも書いたが「プラレス3四郎」に出てきた主人公のライバル名前だった。あのマンガでは資材提供が京セラだという設定もあり、アニメではまた変わっていたが、マンガでは細部のリアルさがたいへんよかった。
だからというのでもないが、黒岩涙香は今もわたしの中ではあのヴィジュアルがある。

展覧会では宮崎さんの自画像である白髭の豚のおじさんが子豚たちに「幽霊塔」について熱く語ることから始まる。
物のない時代に読む謎の時計塔、怪しい美人、解けない疑惑…少年の胸をどれほどの力で掴みあげたか想像に難くない。
宮崎さんの凝りに凝った憧れが形象化するのは、彼がアニメーションの道を進んだ時だった。そこに絵がある。文章が姿を見せたのである。
そして彼が創造した時計塔に憧れたのはわたしたちだ。

マンガ仕立てで宮崎さんの「幽霊塔」愛は語られる。
宮崎さんによる幽霊塔のヴィジュアルについての解読も面白い。
わたしなどは宮崎さんが描く=「長靴をはいた猫」「カリオストロの城」の時計塔しか思い浮かばず、その絵を見て「え゛っ」となった。
和風の時計塔なのである。いや、正確には擬洋風の時計塔である。それが廃墟化した幽霊塔。見た目は開智学校に似ている。
開智学校は2006年に行ったが、なんだか改装中だったような…まぁとりあえず、ご存知の方は「あああれか」というあの建物。
子豚たちにもやはりそこのところを問われる宮崎さん。

ここで小説の筋を追って主人公のハンサムな青年が廃墟化した時計塔に入ってゆき、謎の美女に出遭うシーンが、絵コンテで表現される。
この絵コンテがさすがというか当然と言うか素晴らしいもので、指定も細かく入り、これはそのままアニメーション制作に使えるのではという思いが誰の胸にも兆す。
子豚たちのツッコミに対し、おじさんというか老豚・宮崎さんは強く否定する。
否定するが、その言葉とは裏腹にやたらと力の入った絵コンテが続くのだ。

・・・一回引退宣言したからというても撤回したらええやん、とわたしなどは思うが、意固地になったか、絶対に復帰しないと強く言い切る。
しかしどう見ても本気の絵コンテが続く…

涙香、乱歩それぞれの「幽霊塔」の比較がある。それは財宝。
涙香は「紅宝石」ルビィのあることを懸命に説明するがイマイチ、乱歩は小判に変更。
そこで宮崎さんの考察と言うか解説が入り、改めて「あっ」となる。
「日本人の宝物は桃太郎の宝物なのだ 金や宝石じゃないのである」
珊瑚、巻物、反物、打出の小槌、水晶などの宝尽くしが描かれている。
そうだった、確かにそうだ。
乱歩くらいになると当然宝石、貴金属の類は見ているので描けるが、日本が舞台になっているのでやっぱりザクザクの小判にするしかないのだ。
宝のありかにたどり着くまでに地下の大迷路がある。

それで思い出すのが乱歩オリジナルの「孤島の鬼」の迷路。
「紙と仏が逢うたなら 巽の鬼を打ち破り 弥陀の利益を探るべし 六道の辻に迷ふなよ」
この暗号で二人の美青年が地下の大迷路に遭難するのだ。
それから乱歩の「白髪鬼」のお宝。
これは東シナ海を暴れまくった海賊の宝で、その男は白人を女房にしていたくらいだから、当然洋物。
大正時代の話だから実際に目の当たりにもしている。
そうそう、乱歩がテコ入れした雑誌は「宝石」でしたなw

とてもわくわくしたいいところで物語の紹介は終わり、実際に読める本をそこに出していた。
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ときめくなあ。
とはいえわたしのアタマでは先年まで連載していた乃木坂太郎「幽麗塔」が思い浮かぶのだが。

子供ら向けの迷路には入らないが、すぐそばにのぞき穴があり、覗いてみると珊瑚、巻物、反物、小判、砂金袋などの和風なお宝がザクザクザックリコと見えるではないか。
素晴らしい。お、あれは王冠。そういうのもありのお宝なのだ。

そして次の部屋へ出た途端、あっとなった。
カリオストロの城があった!
あの時計塔と朽ちた教会と湖が再現されている。巨大なジオラマ。びっくりした。
そして時計のところでは伯爵から逃れようとするクラリス、落ちそうなルパンらの姿がある。
何十ッ回見ても決して決して飽きない「カリオストロの城」。
とても嬉しい。

このジオラマを様々な角度から凝視するだけでも盛り上った。
あの朽ちた廃院はよくよくみればハイジの冬の家にも似ている。しかも湖底には古代ローマの遺跡がある…
そんな細部にこそわくわくが詰まっている。
いいものを見たなあ。

パネル展示で「カリオストロの城は幽霊上の子孫」と題された設定画があり、とても嬉しくなった。
わたしは宮崎さんの作品では正直に言うとジブリ以前のものばかりが好きなのだ。
「カリオストロ」「ナウシカ」「コナン」…
「ルパン」も大隈さんのクールでシニカルな前半と、後半の宮崎さんの明るいルパン、どちらも好きだが、あれは本当に何度でも再放送するたびに必ず見てしまうし、見ていたい。

話を戻す。
展示では更に宮崎さんが興味深いことを記していた。
たて方向の連続性、ということである。
言われてみて、確かに上へ上へ、または地下へ地下へと言うほうがドキドキは増す。
建築空間の面白味についても色々思いながらその説明を読みふけった。

展示では和風な時計塔が中央ホールにどーんと聳え立っている。
ねじの出たもので大名時計とはまた違う様式である。
これは乱歩の幽霊塔のイメージに即したもので、だから「渡海屋」の名称もそこに記されている。
時刻表示も十二支の時計。中は以前からある螺旋階段なのだが、入ったこちらの気分はクラリスである。
いや、本当は「幽霊塔」のキャラにならなくてはいけないのだ。

とても面白かった。
いやもう本当にこの「幽霊塔」をアニメーションにすればいいのに。

企画展時に溺れた後も全体の展示を細かく楽しめた。
いい資料もみつけたし、カフェそばの水道が実は水琴窟になっているのを気づいたり。
パンフレットも700円。それでこれだけいい情報が詰まっている。
いいなあ。

わたしは宮崎さんの言う「通俗文化」が本当に大好きだ。
今度また宮崎さんが自分の中にある大好きなものをかたちにする展覧会があれば、必ず行きたいと思う。
5/8まで。



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