美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 **自宅でログイン出来ないので、現在「遊行七恵、道を尋ねて何かに出会う」で感想を挙げています。

我が名は鶴亭

5/25で終了した神戸市立博物館「我が名は鶴亭KAKUTEI」展に駆け込みで行った。
長崎歴博で開催されているときに興味を持ったが、神戸でこの最終日に行くというミスをやらかしてしまった。
もったいないことをしたもんです、わたし。
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副題がまたそそるそそる。
「若冲、大雅も憧れた花鳥画かっちょいいが?!」
かっこいい花鳥画ということで「かっちょいいが」。いいなあ、こういうの。
鹿の番(カップル)をみて「鹿ップル」とか鴨の仲良しさんを「鴨ップル」と呼ぶわたしのセンスにピッタリやないですか。

というわけで展示を見るわけです。

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1. 我が名は鶴亭!
この人は長崎生まれの黄檗宗の坊さんで、南蘋の弟子・熊斐から絵を学び、京・大坂で活躍したそうな。大坂の「知の巨人」木村蒹葭堂、京の池大雅と特に深く交友したと記録にある。1722―1785の生涯。20代で還俗してから40代半ばでまた僧に戻り、萬福寺でも活躍して江戸で没。

神戸市立博物館の一階ホール、そこに名前に合うた「群鶴図」六曲一双が長々と広がり、薄墨色の背景に13羽の丹頂鶴が思い思いの様子で立っているのがみえる。
遠目に見ると鶴の動きがハキハキと面白く、近くに寄って細部を見ると、鶴の表情が一羽一羽みんな違うことに気付く。
褪色したのかと思うほどの薄い朱をアタマに戴いた丹頂鶴は目も小さく黒く温和で、塗り残しで羽根の白さを表現されているのとあいまって、鏝絵のような感覚があった。

この屏風の縁には鶴の刺繍のものが使われていて、そちらの鶴は連続文様で同じポーズを取っておとなしく、屏風の中の鶴たちの奔放な動きを持たない。
描かれた鶴たちは飛んだり跳ねたり止まったり、それぞれ好きなようにする。なにかおしゃべりしているようなのもいる。
そして鶴亭は「寉亭道人」とサインを入れている。

鶴はまだいて「竹鶴図」ではぐいーっと首を半円形に曲げて身づくろいをする鶴がいた。こちらはチラシの鶴で、目を細めているのだが、鳥のことだから人とは逆に瞼を下から押し上げているのだが、それが頭を下にしているからこれまた面白い目つきに見える。

ここには鶴の絵を集めて「我が名は鶴亭」というのをまず押し出したわけですな。
ツルテイやなくカクテイ。
西鶴はサイカク、仁鶴はニカク、丹鶴姫はタンカク・ヒメ、その仲間。


2. 鶴亭のエッセンス
お師匠さんやそこへ至るまでの先達たちの作品が集まる。

逸然性融 羅漢渡水図巻 鶴亭より百年ほど前の絵。これがもうフルカラーで動作とか表情がリアルで、見ていてついつい笑ってしまった。なにしろおんぶしてもらいながら川か何かを渡っているのだが、陸に着いたら着物の裾を絞ったりするのだからなあ。
なかなか空を飛ぶ羅漢はいなかったわけですね、この世代は。

蘭溪若芝 群仙星祭図 仙人たち、一塊になって左の上を見上げたり指さしたり、歓声を挙げたり。鶴に乗ってきた仙人がこちらへやってきた、それに喜んでいるらしい。
寿老人=寿星=カノープス。星のおじいさん、南極老人。

大鵬正鯤 海老蟹図 これは墨絵で左上に大きな蟹、その下に大きな海老、その斜め上に海老、みんなの間に海藻。墨絵で黒いから、つまりみんなまだ生きているのだよ。
赤いと茹でられておる。イキイキしている海老蟹たち。
それにしてもこの人、凄い名乗りやな。
荘子が書いてたが、大魚の鯤が巨鳥の鵬になるのでしたな。
「本姓は王,名は正鯤,号は笑翁」とコトバンクにある。中国から黄檗山萬福寺に来たお坊さん。

沈南蘋 獅子戯児図 びっくりした!凄い顔つきの母獅子にこれまたよく似た双子の子ども。獅子ママが妙な顔で吠えてるその下でくんずほぐれつジャレ合う子供ら。
ブサカワでいいなあ。それにしても母獅子の首から下にかけて妙な白線が伸びるのは何だろう。

熊斐 鯉跳龍門図 滝のカーテンの中に大きな鯉。上に桃の花が咲き、これで三月五月の節句をやってしまおうと。なかなか合理的というかなんというか。

3. 鮮烈!花鳥画ワールド
吉祥図の松に鷹のほか、黄鳥(高麗鶯)が多い。前者は受注もの・後者は趣味かな。

子供向けワークシートがまた楽しい。
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松に黄鳥図 明るい黄鳥たちのさえずりが聴こえてきそう。目の周囲一帯が黒の小鳥は高麗鶯だという。枝に一羽、幹に一羽。
なかなか可愛いし、キャプションにも面白いことが書かれていた。「僕とお友達になろう」
小鳥は仲間が多いから気の合う子がみつかればいいね。

黄鳥はほかにもいて、紅梅・白梅入り乱れる林の中を飛ぶものもいれば、静かに止まるものもいる。

鶴亭は黄鳥と黒い叭叭鳥と鶴と鷹とを描いている。
鷹は吉祥画として厳めしく松にとまり、騒がしい叭叭鳥は梅の間を飛ぶ。

梅花叭叭鳥図 「来たよー」と飛んできたのに対し、見返りざま「アレ、やだよお前さん」と答える。そんな会話が聞こえてきそうな二羽の黒い鳥。
ここでの鶴亭の印判は「暗香浮動月黄昏」と林和靖の詩が刻みつけられたものを捺している。

4.墨戯全開
人との交流の中で生み出された絵がかなり多い。

14歳で描いた墨菊図巻は様々な菊を集めたものだが、14歳でこれだけ描くのだからやはり本当に絵が好きだったのだ。

雪竹図がいくつかあるが、いずれも質感のよい作品ばかり。
そしてその質感が塗り残しから来ていることも面白い。
胡粉を塗り重ねるのではなく、塗り残し。足し算ではなく引き算の絵。いや、引きもしていないか。
雪梅図もそう。富岳図もそれは変わらない。

墨梅図は時折枝の鋭いのがあって、アザミのようなものも伸びていた。
いずれも個性的な風貌を見せている。

交友関係をうかがわせる資料もある。
桑山玉洲、池大雅、高芙蓉らの名が挙がる。
いずれも上方の絵師や儒者。

鍾馗図もある。赤いのは疱瘡避け。体を正面からやや斜めに向けて立つ。力強い。
高砂図では留守文様。熊手と箒があり、松とそこから垂れ下がる植物が描かれる。

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5.鶴亭を語るモノ

大根にネズミ図 こういうのを見ると展覧会のタイトルに偽りなしと思うのですよ。
若冲ぽいものな。白鼠が青々した葉っぱのところにいるのも可愛い。
べろーんと長い大根。構図そのものが若冲の先達。

木村蒹葭堂の日記が二冊。鶴亭の追善に画会をしたそうな。寒い頃だったらしい。
日にち書きもきちんとしている。
鶴亭に12歳の頃から絵を習っていたそうだ。

6.京阪流行る南蘋風/鶴亭風
流行るとみんなそっちへ向く。追随というてもばかにしてはいかん。その中からなにか光る人もいる。

鶴林 白薔薇黄鳥図 鶴亭のお弟子。ここの黄鳥も目元の黒がきりりとしてなかなか。淡彩なのもいい。下部に薔薇が咲き乱れている。

鶴洲 太湖石孔雀図 岩に止まる孔雀が小ぢんまりと可愛いのだが、その羽がそれこそ「孔雀の裳裾」になり、そこが愛らしいのだと気づく。太湖石もまるで荊のようだった。

鶴洲 雪中双鶴図 こちらは淡彩なのがよかった。雪の中、鶴のカップルが仲良く寄り添う。わりと幸せそう。「さむいねー」「さむいねー」

鶴翁 叭叭鳥補虫図 鶴洲のお弟子 …生物やからなあ。叭叭鳥、上向きでバッタを頭から丸飲み中。ンガググしてる…バッタかコオロギかイナゴか知らんけど、もぉほんまにパックンチョ。なんかスゴイな。

木村蒹葭堂 桃花図 ああ、綺麗な。薄白紅の花がぱーっと咲いている。はっぱの緑だけが少しアクセントが強いが、全体の薄い白さがいい。

佚山 篆隷唐詩選書巻 おお、隷書体で唐詩選巻6の五言絶句を書く。
「心」の字を見て、漱石が自著「心」のこの書体を使いたがった話を思いだす。
「月」は髪を長く伸ばした女が軽くのけぞりながらこちらを見るような艶めかしさがあり、「宿替」という言葉がこの時代からあったのを知ったり、その「替」がニコニコ顔なのにも気づく。

後で唐詩選巻6を調べたら、賀知章「題袁氏別業」や駱賓王「易水送別」が入ってる巻だと知った。これならわたしも覚えているぞ。
しかもそれに千種有功が和歌に訳したのもあった。
あー「唐詩選ぬきほ」だーーーっ
久しぶりに思い出したわ!!これは探したら家にまだあるわ。
ただしここにある詩は挙げたものとはまた違う。何の詩かちょっとわからない。

その佚山と鶴亭の書と絵のコラボ作品もあった。
菊の絵と書と。それらがぺたりと押絵となって屏風に貼られている。
持ってはる方、ほまれのお宝でしょうなあ。いいもの、すごく。

泉必東 雪竹図  こちらも雪持ち竹なのだが、その穴の開き具合がドクロぽくて、広重の描いた清盛のみた怪異現象みたいになっていた。

鶴亭と若冲それぞれの「風竹図」が並ぶが、これがもう見てるだけでかゆくなってくる。
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なんというか、笹のシャキッとしたところやなんかチリチリしたところが当たってワシャワシャになるあの感じですね。
…いかにも大阪人的な説明やな。

鶴亭 松に茘枝図  これ、ライチやのーてゴーヤではないか。白ゴーヤで中の種が爆ぜて赤くなっている。
え?でもこの字はレイシでライチのことと違うの?しかしタキイの種のサイトを見てもゴーヤ(ニガウリ、太レイシ)とあるから字は一緒なのか。
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鶴亭はへちまも描いているが、これがもう展覧会のタイトル通り「若冲も憧れた」という根拠になるような、やたらと長いへちまで、なるほどなあと感心しきり。

他にも「南蛮芋に蕃椒図」があるが、これはやっぱりやたらと長い芋にとんがらしの細い枝なりがある。
この取り合わせでなんか料理が出来るとしてもおいしいんかな。

鶴亭 松鷹小禽図  えらそぉな鷹の下の方で小鳥がそーーーっと飛んで逃げてた。

これに対抗するように並ぶのが蕭白の鷹図。フルカラーで柏がドングリたんまりぶら下げてる横で鷹が爛々とした眼をむいている。木の下には秋の七草。

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7.鶴亭の花鳥画(かっちょいいが)

鶴亭の四君子図がいい。なんというか一枚絵の役者絵みたいなかっこよさがある。
しかも苦み走っている。いいなー。

花木図押絵貼屏風  これがまたとてもよかった。対にして花木の絵がずらりと並ぶ。
葡萄、蘭石、芭蕉、棕櫚、牡丹、菊石の左隻。梅、柳、紫陽花、蘇鉄、竹、松の右隻。
紫陽花が特によかった。それと棕櫚の自由さがいい。

梅柳叭叭鳥図  対幅。いいなあ。これは蕪村の絵をちょっと思い出した。でも蕪村は多分あんまり鶴亭に影響を受けてはいないように思う。
夜か、雪の中、柳が揺らぐ。右は梅を透かした向こうに月。そこに叭叭鳥が二羽と一羽。
とてもいい。

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牡丹綬帯鳥図  チラシの牡丹はこの絵から。この牡丹、本当に綺麗。
それでツイッターでこう書いた。


具体的に言うと、名香智子、森川久美、山岸凉子の絵かな。

海棠綬帯鳥図  こちらはまた白花が可愛い。蕾がピンクと言うのもいい。枝振りはティラノザウルス風なのもいい。

大きな金屏風があった。墨で梅と菊とが描かれていた。大胆でかっこいい。

墨梅図  シマシマのグラデーションの空。手前にフラメンコダンサーのような梅。

本当に面白い展覧会だった。
今後ももっとこの時代の埋もれている絵師の作品を世に出してほしい。

新聞の紹介があったので。
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