美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

広重ヲ楽シム ―原コレクション、太田コレクション、平木コレクションから

広重の展覧会が今年あちこちで開催されている。
どこもみんないい作品が出ている。
とにかく摺りの綺麗な原コレクションの「広重ビビッド」展、太田美術館での五十三次と富士三十六景、美術館えきでも五十三次のいいのを見せてもらった。
五十三次と江戸百とは知らぬ者もない連作物ではあるが、五十三次は一種だけでないので、比較も出来たり新発見もちょっとあったりで楽しい。
また、恒例のホテルオークラのアートコレクション展、今年は「旅への憧れ、愛しの風景-マルケ、魁夷、広重の見た世界-」展として広重が現れるようだ。

永谷園のおかげで昭和の子供らはほぼみんな五十三次を知っていると思う。
わたしなどは家にミニマッチ箱サイズのそれが勢ぞろいしている。
しかも父が三冊揃いの画集を持っていたので、ほんの子供の頃から広重には馴染んでいる。
自分から好きになったのは国芳、国貞だが、それ以前から好きなのは広重だ。
広重の絵と十返舎一九の膝栗毛が混ざり合い、そこに双六まで絡んできて、
江戸時代の風景画=広重がいちばん!!
のキモチがある。
だからどことも純粋な鑑賞を・・・要するに機嫌よく見歩いて、楽しんだ。

サントリー美術館で展示中の原コレクションの原さんは凄まじく綺麗な色の摺りを集めていて、特に今回が初公開となる「六十余州名所図会」は摺り立てほやほやのような鮮やかな色合いをみせていた。
やや赤色が強いなと思ったのは全く褪色していないせい。
本当に色が濃くて、深い色浅い色の違いがはっきりしている。
イメージ (5) イメージ (4)
 
嬉しいのは多くの作品に現在地の写真や紹介があること。はっきりとしない所などは地図だけの案内だが。
こうした比較がいよいよ親愛感を呼び起こすのだ。

ところで「六十余州」と言えばわたしはすぐに黙阿弥の芝居「白波五人男」の名乗りを思い出す。
「六十余州に隠れのねえ賊徒の張本・日本駄右衛門」
これですな。
全国津々浦々・・・

さて60以上のクニということだが、作品は69か所+目次絵で70点。この目次絵は全部の絵を購入した人だけに贈られる特典ポイントもので、描かれた地の四季それぞれの分類があったりするなかなかのスグレモノ。

始まりは山城の嵐山、次に大和の龍田川、そして河内の枚方男山と続く。
この男山は石清水八幡宮のあるところで、絵は川を挟んだ向かいの天王山辺りからの眺めらしい。そしてその地は大山崎で、サントリーの工場があるところ。
現在なら工場の屋上からの眺めを描いてもわるくない。
向かいへは高槻―枚方間でバスが頻発しているので、そう遠くない。
尤も「枚方男山」とあるが、実際には枚方から即男山へ行けるわけではないのだが。
(今なら枚方の図としてひらパーの絵があってもいいかもしれない)

伊賀上野は鍵屋の辻。これも今の人ではわからないかもしれない。荒木又右衛門の助太刀とか言うても??かもなあ。
ただし伊賀=忍者の里という認識は遠く海外にも知られているから、現代版ならニンジャの絵が描かれるかもしれない。

甲斐の猿橋は北斎の絵がよく知られていると思う。紅葉が赤く色づいた風景。
江の島の岩屋、琵琶湖の石山寺、養老の滝といった有名な地もある。

飛騨の籠わたし これはあれだ、メテオラなんかと同じで<ごくシンプルな>ロープ・ウェイ・・・つまり綱で籠をくくったのをその綱をたぐって・・・おお、こわ。
水上勉の小説にもそんなのがあったなあ。

播磨 舞子の浜 松林が描かれている。基本、変わらない。ただし今は明石大橋や色々と施設が集められた舞子公園があるのだが。
松ぼっくりがコロコロ転がるのが可愛い。

能登金剛、天橋立、厳島祭礼図。今の眼で見ても遊びに行きたくなる。

備後阿武山観音堂 これは巴水も描いていた。巴水は「昭和の広重」と謳われだが、本人は喜んではいない。なお「大正の広重」は鳥瞰図の吉田初三郎。
今はこの観音どうもないらしい。

土佐の一本釣りは広重の時代でも普通の漁法のようだ。青柳裕介を思い出す。

長崎の稲佐山もいい。見ていると久しぶりに行きたくなる。94年、84年に行ったきり長崎には出かけていない。今の目で長崎を見に行きたい。

ベロ藍の見事な出の阿波の鳴門、桜咲く桜島、いずれも綺麗な絵と構図。
そして必ずしも正確ではないものの「画」として見事な風景画が少なくない。
情報と美意識とで再構築される風景。
われわれは広重の描いた風景画を見て、その土地に愛情を懐きもするのだ。

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階段の下のフロアでは「幻のシリーズ」として北斎の「千絵の海」や富嶽三十六景、諸国名橋奇覧、国芳の東都名所などが出ている。
「千絵の海」は初めて見たように思う。これは日本各地の漁業に従事する人々の姿などが描かれている。

宮戸川長縄 隅田川の対岸に∧∧∧∧∧と並ぶ「お舟蔵」。
その宮戸川て何かというと「現在の隅田川のうち、浅草周辺流域の旧称である」とか。それで宮戸座の意味がわたしにもわかった。浅草公園裏にあった小芝居の劇場、ここから「田圃の太夫」こと沢村源之助、尾上多賀之丞らが出てきたのだ。

総州利根川 四手網の漁船。この四手網は昔の「水曜ロードショー」のOPを思い出させてくれる。諏訪湖のほとりで本物を見たこともある。

甲州火振 夜の漁法。まんが日本昔ばなしで見たような気がするなあ。
子どもの頃にあの番組を見ていて本当に良かった、と思うのは浮世絵を見ているときだ。

富嶽もいい色のものばかりで、すごいコレクションだと改めて思う。橋も瀧巡りもいいなあ。
国芳の東都名所は風景もさることながら、アホ面さらした人々やちょっとしたところが面白い。それらがイキイキした色で出ているので、今出来のようにも見える。
「天童広重」と呼ばれる肉筆画もある。みんなやっぱり広重の風景が好きなのだ。

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最後に江戸百。前後期で分かれていて、どちらも大いに楽しめたのは重畳。

それにしても「広重ビビッド」とは巧いタイトルだ。6/12まで。

次はこちらも前後期の浮世絵太田記念美術館の「東海道五十三次と富士三十六景」展。
ここでも原コレクションが出ている。
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肉筆画を見る。
待乳山雪中月夜之景 淡彩でしぃんとした情景をえがく。二つ並びの聖天さん。嘉永年間の絵なのだが、もう二つくらい後の時代のものにも見える。

高輪茶屋美人図 団七格子の女。高輪は二十六夜待ちなどをする名所。

播磨室之津 中世から江戸時代まではにぎわった港町だというが、今は昔の話。ここでは七隻の船が入っている。

ほかにも雪の渡し場、渡月橋などがあるが、いずれも版画と違い静謐な雰囲気がある。

そして五十三次は保永堂版から始まる。
イメージ (9)

原コレクションのと太田コレクションの色の対比などが出来るように設えられていた。
こういうのも面白い。
意図的に色を変えて時間の違いを生み出した吉田博を思い出す。
かれのような実験精神はないとは思うが、それでも変更があるのは初版と二版目とを比較したことによるのかもしれない。
これについては絵本作家の吉田稔美さんから興味深い示唆を受けた。
最初に摺ったものは色鮮やかだが、二摺りめはより作者の意図が反映されたようになるのかもしれない、という話である。
わたしのようなシロートではわからないことでも、印刷芸術である絵本を拵える作家の目から見れば、色々な発見があるのだ。

富士三十六景は北斎の富嶽三十六景への対抗心もあって、という解説を読んだが、影響を受けているところもいくつか見られるので、そんな後塵を拝するようなのはやめてもよかったのに、と思った。千鳥が飛んでゆく駿河の薩田あたりの様子。これがちょっと北斎風。

「モチーフの再構築」というのがいいと思う。なにもリアリズムがよいのではない。
恣意的な行為には感情が伴い、絵にはしばしば抒情が生まれる。

伊勢二見が浦 ああ、書割の世界ではこれらは一つの光景だが、ここにも・・・
上総黒戸の浦 「畔戸」という町。五大力船がある。五大力か。ときめくな。
「江戸を中心に関東近辺の海運に用いられた海川両用の廻船の事」という。

とても好きな一点が出ていた。
木曾路之山川 大きな深い山とその裾を走る川と降り続く雪。絵の構図がよく、そしてこの静けさがよく、抒情も深く、見事な絵。
ただ、わたしがこれまで見てきた中では中右コレクションのそれがいちばん好ましい色を見せていた。

他に行書・隷書の五十三次がいくつか出ていた。
いずれもリズムのいい、明るい作品群である。
6/26まで。

最後に平木コレクションの保永堂初摺でたどる東海道五十三次。
春先に美術館えきで見た分である。
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こちらも濃い色のものが多く、惹きこまれる。
宿場などで建て込む家々の様子や、のびやかな田園、林の様子を見れば、そこに住まう人々の暮らしが見えてくるようだ。

この展示は初摺と後摺とを同時に並べて見せてもいた。
切りこみ方が違うとまた新しく楽しみが増す。

イメージ (23)

原コレクション、太田コレクション、平木コレクション…いいものばかりを見せてもらえ、楽しく見歩けてよかった。
もうすっかり東海道や江戸のあちらこちら、そして木曾や日本国中を歩き旅したような気がする。

広重、やはりいいなあ。
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