美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 **自宅でログイン出来ないので、現在「遊行七恵、道を尋ねて何かに出会う」で感想を挙げています。

耽美・華麗・悪魔主義 谷崎潤一郎文学の着物をみる ~アンティーク着物と挿絵の饗宴~

弥生美術館の今期の展覧会は「耽美・華麗・悪魔主義 谷崎潤一郎文学の着物をみる ~アンティーク着物と挿絵の饗宴~」ということで、開催するまでにクラウドファンディングで資金を集めたところ、予定の倍近い金額が集まったようである。
詳しいことはこちら。映像もある。

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展覧会では谷崎の10の作品を選び、彼の文が表現する着物の様子と、その作品の挿絵と、そして描かれた着物を<再現>したものが見られる。
アンティーク着物コーディネーターの大野らふ氏という方の手で作中に現れるのと同じ・類似の着物が集められ、マネキンがそれらを装い、作品世界を立体化していた。

「細雪」から展示が始まる。
東京とは違う、京阪神の好みの派手な着物、みるだけでわくわくする。
レトロモダンな着物と小物。帯留にしてもモダンで明るくて可愛い。
紹介された本文を読んでも生粋の上方人であるわたしには納得のゆくことが多い。
着物を着る生活をしていなくとも、共感することがとても多いのだ。
渋い江戸小紋より派手な友禅などの方が好き。
こういうアプローチの仕方をされた「細雪」、親しみがわいてくる。

挿絵は小倉遊亀さんのが出ていた。ただし1970年刊行のだから、その当時の着物の絵。
小説はこれより20年以前どころか戦前が舞台なので30-40年前の流行が正しい。
ご自分も着物を着られる方だから遊亀さんはあえて今の着物に替えられたのかもしれないな、などと想像する。

口絵挿絵は他に1966年版が田村孝之介。田村の挿絵はシンプルだが要を掴んでいるところがとても好ましい。
・阪急芦屋川駅ホームにいる三人の姉妹の華やかさ、妙子のモダンな洋装には当世流の狐の襟巻がつく。
・リアルな道修町のその町並み。これは「春琴抄」でもそうだが、大阪だけの街並みだったので、よその人にはなかなかわからない。尤も今はほぼ壊滅状態なので現代の大阪人も本当にはわからない。
「コニシ」さんの黒いお屋敷、あれが活きているだけでもありがたい。
これで思い出したが、戦前に「春琴抄」を映画化するとき、小村雪岱がその装置でえらく苦労したという話がある。川越から東京に暮らした雪岱は上方の古い家の構造が理解できなかったそうで、靱あたりに残る旧家を見てやっと納得がいったそうだ。
・田村描く幸子はえらくべっぴんさんである。
水害の後のシーンなどもいい。
田村孝之介の挿絵のついた里見弴の小説を持っているが、ちょっと今そのタイトルが出てこない。里見弴と志賀直哉がモデルのちょっとばかりBL風なところのある作品で、「君と私」ではない方の。あの挿絵もとてもよかった。

次に「肉塊」
これはわたしは未読。挿絵は田中良。妖艶な挿絵がとても魅力的。
チャイナドレスを着た女。彼女は白人である。
この挿絵は作家・坂本葵さんのHPで少しばかり見ることが出来る。
田中良といえば「第二の接吻」がとてもいい。

着物はチラシのこれ。主人公の妻のものから。
パールの長いネックレスを掛けて着る着物。それにふさわしく孔雀の柄に薔薇の帯留。
豪奢な着物。

文中に現れる妖艶なグレンドレンの美貌、それにそぐうのは高価なビロードコート、絢爛たる刺繍のチャイナドレス。姿を消すときの彼女は闇を纏うている。
貞淑な民子もまた映画の撮影のために人魚となり王女となる。その艶やかな姿。
豪奢な挿絵にふさわしく、並ぶ着物も大正ロマンに満ち満ちたもの。

いよいよ「痴人の愛」
一番に思い出すのは岩田専太郎の「りべらる」あたりに出た口絵。ナオミが譲治を馬にして部屋を歩くあの絵。
あの絵でナオミの着る水玉の着物と同じようなものがそこにあった。
赤と黒の市松格子の兵児帯を前で締めている。

トンビがあった。インバネス・コートである。作中でナオミが海岸で若い男たちと遊んでいるときにかぶっていたコート。
彼女は裸身にコートをかぶっていた。そして笑いながら譲治にぱっと前をはだけて見せるのだ。・・・かっこいいな。
それでカッとなったのか逆上したのか、譲治は
「俺に恥をかかせたな、淫売、ぢごく!」と罵るが、ナオミは気にも留めない。

この時代でもまだ「ぢごく」が(それを意味するのが)通っていたのだ。
南北の「四谷怪談」に按摩・宅悦が経営する地獄宿が出てくる。
この言葉は南北のいた時代に通用していたが、「痴人の愛」の時代でもその言葉はあの意味のまま通じていたのだなあ。
しかしこれは江戸・東京だけの話だろうか。上方では通用したのだろうか。
ちょっとばかり気になる。

写真がある。モデルとなったせい子がホテルの前で笑っている。苦楽園。思えば近いところだ。明治末に鞄の町・豊岡で生まれて、欧米でもブームになった籠のバスケットをもって笑っている。この写真は初見だが、今見ても日本人離れした容子である。

「神と人と人間」、「黒白」中川修三の挿絵、「友田と松永の話」田中比佐良の挿絵、
これまでの展示でも見ていない作品たち。
モガのカッコイイ姿。そして「刺青」、「お才と巳之助」の男を惑わす女たち。
「富美子の足」では国貞の絵本の絵を使うている。

「蓼喰ふ蟲」でた。小出楢重の挿絵は非常に魅力的で、これに触発されて谷崎も当初の計画を変えたという。
こちらのサイトでいくつかの挿絵が見られる。

おいしそうな朝食。トースト用の食パンを挟む器材、ケーキもウエハースもマカロンもなにもかも。
これで思い出すのが小出の随筆にある神戸の洋菓子屋・ユーハイムでの彼のおやつ。
昭和初期に芦屋で洋風の生活をしていた、それがこうしたところに現れる。ステキ。

「猫と庄造と二人のおんな」・・・きましたね。
谷崎は深刻な話であってもどこかしら面白い。これは人間の滑稽さと言うか、大阪弁でいう「あほらしさ」のつまった話で、しかもちょっと身につまされもするのだ。
この男もまた谷崎のある一面・事情がモデルになっている。
芦屋の谷崎記念館には実際に谷崎が滝愛していたペルちゃんという猫の剥製がある。
それについては以前このブログで書いている。こちら

安井曾太郎の表紙絵のほか、1970年に出たときには先般ハマ美で回顧展のあった中島清之の挿絵がついている。
「夏菊」には佐野繁次郎の挿絵。

松子さんのと同じ着物が出ている。
レトロモダン。とてもしなやかでステキ。青、白、抹茶色の交差する文様を見ていると、先般の「俺たちの国芳、わたしの国貞」展でみた国貞の役者絵の背景処理を思い出すのだった。

「台所太平記」、ここで田中翼コレクションでも見た着物を思い出す。

「秘密」女装の男と上海帰りの女と、というのだけでもときめくな。
「月の囁き」には華宵の挿絵もついている。

ここで松子さんのドレス姿の写真があった。和装姿しか知らないから新鮮な感じがある。
「春琴抄」のコーナーで実際に触れる着物が支度されていた。そぉっと触れてみて、布の感触を楽しんだ。
アンティーク着物、いいなあ。
そうそう、アンティーク着物と言えば去年泉屋分館でもいい展覧会を見た。感想はこちら


展示された着物の華やかで派手で明るくて愛らしい様子に、観客みんなわくわくしている。
わたしだけでなく、来た皆さんがときめいているのがよくわかる。
これまでなかった、文学から見た装いの展覧会。
装いから見る文学、そして挿絵。

キモチが昂揚する展覧会だった。ありがとう、弥生美術館。
6/26まで。
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