美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 **自宅でログイン出来ないので、現在「遊行七恵、道を尋ねて何かに出会う」で感想を挙げています。

新宿中村屋と書道博物館でみる「中村不折の魅力」 

中村不折といえば洋画家、書家として名高く、挿絵、口絵の名手でもある。
わたしが最初に知った、いや、<認識した>不折作品といえば洋画だった。
日本神話をモチーフにしたもので、あれから不折の名を覚えた。
覚えると不思議なもので、どんどん目に付いてゆく。
古代中国の様々な故事を絵にしたものもよかった。
それから「我が輩は猫である」の挿絵もある。これは橋口五葉の仕事を追ううちに知った。
そして「神州一」「新宿中村屋」の看板文字、ロゴも不折だと知った。

その新宿中村屋の美術館で中村不折の展覧会が開かれている。題して「中村不折の魅力」。
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この展覧会では水彩、墨絵、油彩、挿絵が紹介されている。
そして驚いたことに、不折が「書や日本画は余技」と言って、あくまでも洋画家であることを標榜していたそうだ。
わたしはてっきり書家を本文としているのかと思った。
これは台東区書道博物館で中村不折の書いた書を中心に見ているからそんな風に思った可能性が高い。
そうか、本人は洋画家であり続けたのか。

さてその展示。
フランスの師匠ジャン=ポール・ローランス「オフィーリア」から始まっていた。水仙の咲く悲しくも美しい絵。
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歴史画の大家としての片鱗が伺えるのが、このフランスでの修行時代の作品群。
聖セバスチャンの殉教 首に矢が刺さり俯く若い男と、彼を処刑した二人の兵。その兵たちは少し離れた位置にいる。

様々な裸体習作がある。筋肉のつき方がリアル。なにもムキムキ・ムチムチだけが筋肉ではない。要は衰えた筋肉、大して使っていない筋肉、それらを描くのが巧いと言うことだ。

スケッチによる風景画もいろいろ。
水彩画もある。若い頃から相当巧い。
日清戦争の従軍記者として出かけた先の中国でもいい絵を描いている。

展示されているのは絵だが、そのほかにも不折の生涯と交友関係がそこここに示されている。
正岡子規との交友、中村屋とのいい関係などなど。
顔はコワモテだが知らん顔して面白いおっちゃんだったのだ。

南画もよくして、それもいい。
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書もある。

不折で好きなのはヒトコママンガめいた十二支絵など。

こういうのがとても楽しい。
戯画というか、洒脱で洒落てて面白い。
その流れの中に「我が輩は猫である」の挿絵があり、様々な作家の著書の表紙絵がある。

とてもよかった。
そして最後に「中村屋」と不折が書いた看板の現物がある。今も続くロゴである。
よい字だと思った。

7/24まで。

続いて書道博物館の企画展「生誕150年記念 不折作品を中心に」の感想をあげる。
ここでは書が中心である。
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西宮酒造株式会社長伊藤君紀徳碑稿軸 今の「日本盛」の社長の顕彰碑の原文とその拓本と。
のびやかないい字。

水彩画は都内の風景。
芝愛宕山、吉祥寺、築地、巣鴨、千駄木。日清戦争前の頃か。江戸からまだ地続きの風景。

子規と知り合ってから世間が開かれたようで、多くの文豪らと交流するようになった。
その中で興味深いのが、師匠の小山正太郎が書簡で不折の人柄を褒め、ダメな父親と同居するおそれもない、妹さんをお迎えするのになんの支障もない、という意味のことを書いて、結婚の援護射撃をしていたということ。

彫刻家の新海竹太郎とは骨董愛好仲間で、そこからもなんだかんだと世話焼きの手紙を出している。

九代目団十郎の像のプロジェクトにも参加している。
暫の像。作ったのは新海、碑文の中身は森鴎外、文を書いたのは不折。いいトリオや。
むろん中村屋サロンの人々との交流も深く、そのはがきもある。

ところで不折のいいところは、必ず締め切りを守るところで、それがために出版社から信頼され、多くの挿絵を描いた。
漱石の本では「猫」のほかに「漾虚集(ようきょしゅう)」の挿絵なども担当している。
この本は今の「幻影の盾」「薤露行(かいろこう)」が入る短編集だった。
古語のうつくしさを感じるタイトルである。
挿絵は、牢内で目隠しをされた女の首に斧を当てようとする男のいる図。彼女だけでなく他に泣く女もいる。
こちらはまたべつものだが、とてもロマンティック。
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それから伊藤左千夫「野菊の墓」の表紙絵もあり、せつないような菊の倒れがある。横たわる菊の花。
「若菜集」は蝶々、「馬酔木」は埴輪のお馬さん。他にも可愛い絵を知っている。
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不折の装丁、挿絵、ヒトコマ漫画がとても好きだ。
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ここでもフランス時代の裸体画がある。少年の絵が可愛い。
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ところでこちらの展示も中村屋のそれと同じく書簡類などがあり、やはりそこでも不折のいい人柄が偲ばれる。
コワモテながら素知らぬ顔でユーモアたっぷりの茶目っ気みっちり。
いいなあ、こういう人。

漱石「猫」の絵もこんなに楽しい。イメージ (41)

5歳の長女へのフランスからの絵葉書がある。
猫の絵の絵葉書。並ぶ四匹の猫。

ヨーロッパでも不折は健やかな日常を送っているのがよく知れる。
軽快なペン画で町の様子を描く。鳥瞰図風に往来を行く人々、犬、馬車などを記す。

師匠のローランスの絵もあった。
不法の君を責む 羽根のついた神が(架空の)王を責める絵。
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そのローランスの友人であるロダンに会いに行くと、ロダンは歓迎してくれ、裸婦のデッサンをサイン入りでプレゼントしてくれた。
女が着物を脱ぐところをロダンらしいシャッシャッとした線で簡素にしかし印象深く描いている。

ロダンは「花子」の件にしても「白樺」のメンバーとの関わりにしても、とても親切。
ロダン、不折ときたから、ここでもう一人森鴎外の話も入れると、鴎外はロダンと花子の出会いを小説にしている。
タイトルは「花子」。これもいい短編だった。

今回、中村屋とこことの交換展示も実現していて、両方を見て回れたのはよかった。

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書の方も当然ある。
頭上即是青天  正直なんだか釘を打ちこまれたような、鉈で叩っ切られたようなココロモチになる。

龍眠帖、楷書千字文、蘭亭序なども出ていた。
皇軍慰問ハガキもある。第二次大戦。絵は五姓田芳柳。多分二世かな。同年になくなってるし・・・
ちょっとわからない。

ここでも十二支帖がある。鹿に乗る猿は鳥獣戯画から、ウサギの書もある。
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出ました、坊主頭にコワモテの不折戯画自画像「海内無双美男子 不折山人己惚れの像」
二館とも良い展示でしたわ。
なお本館の古代中国の文物はここではなくまた別項で挙げます。

7/31まで。
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