美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

秘蔵の名品 アートコレクション展「旅への憧れ、愛しの風景 マルケ、魁夷、広重の見た世界」

夏恒例のホテルオークラのチャリティーイベント「秘蔵の名品 アートコレクション展」も22回目を迎える。
わたしは第1回目から毎夏訪れていて、惜しくも2回ばかり行けなかったものの皆勤に近いと言っていいか。
毎年の事だから再会する絵もいくつかあり、秘蔵と言っても地方の美術館で展示されているのを見たこともあったりするから、年によっては印象の薄い時もある。
しかし今年は違う。
今年はたいへん興味深い内容だった。
近年出色の出来だと勝手ながら思っている。
まずタイトルからいい。タイトルがいいのは内容がいいからの命名で、チラシを一目見ただけでも大いに心惹かれるようになっている。
「旅への憧れ、愛しの風景」そして副題が「マルケ、魁夷、広重の見た世界」である。

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チラシをまず見ていただきたい。
マルケの海景、魁夷の北欧風景、そして旅の最中の江戸の庶民を描く広重の絵。
何のつながりもないはずが、共通するキモチがここに見出される。
それがタイトルにもなった「旅への憧れ、愛しの風景」ということなのだ。

今回の展示ではマルケ作品が非常に重要な位置を占めていた。
1990年代以降、日本でマルケ展が開催されたかは知らない。
マルケは知ってはいたが、なかなか実物を見ることはかなわない。
それがなんと今回18点も集まったそうだ。

事前の告知などでマルケが出るということを知った。
この展覧会の監修をなさる熊澤先生のツイートを読んでわたしは狂喜する。
ドキドキドキドキし続けた。
実に久しぶりに「まだかなまだかな」というセワシナイ気持ちになり、早く始まればいい、と思った。
わたしが行ける日は8/4.それ以前は難しいが、初日に行かれた方々がおそらくは何らかのマルケに対するツイートをされるだろうと期待してもいた。
実際、いいツイートが散見された。マルケマルケマルケ♪とわたしは心の中で歌う。

わたしは大阪から神谷町のホテルオークラ・アスコットホールへ向かう。
目的はこれだけではないが、大きな目的の一つでもある。
わたしはいつも「東京をハイカイする」と言う。
「東京ハイカイ録」と題して自分の足跡をブログで再現する。
旅とハイカイは違う。しかし地元の友人知人からみれば、東京へ行くわたしのその行為は「旅」になるという。
そうか、わたしも旅をしているのか。
そんなことを改めて口にするのは、この展覧会が「旅への憧れ」というタイトルを持つからだ。
わたしがマルケマルケマルケ♪と歌うのも「旅への憧れ」があるからだ。
そして事前に得た情報ではマルケの絵は全て風景画だというから、「愛しの風景」をみることになるわけだ。

サイトに挙げられた言葉を借りる。
「本年は、「旅」を主題とした様々な絵画をご紹介いたします。古くから人々は信仰のため、観光のため、または商いのために旅をし、その地で様々な景観を目にしてきました。そして画家たちは、自らの目に焼き付けたモティーフを描き出したのです。本展では、日本および西洋の画家たちが旅を通じて得た視覚体験に注目します。
第1章は、明治以降日本画および洋画にみられる風景表現に焦点を当てます。
第2章では明治以降の日本人画家が学んだヨーロッパ等の風景画とともに、20世紀のフランス人画家、アルベール・マルケの穏やかな風景画を特集します。
第3 章は、明治以前の日本の街道の名所や旅姿を描き出した代表作、歌川広重の《保永堂版 東海道五十三次》続絵55枚をご紹介します。
かつてホテルオークラを常宿としていた川端康成は「歩み入る者にやすらぎを、去り行く人にしあはせを」という言葉を色紙にしたためて贈りました。
旅人を迎え入れ、温かく送り出すこのホテルのホスピタリティ精神を思い起こしながら、本展をお愉しみください。」


わたしはホテルオークラのご飯やお菓子は食べていてもまだ宿泊したことがない。
ホテルを拵えたバロン大倉に憧れているのにこのテイタラクである。
そうだ、大倉集古館が復活した時には宿泊しよう。そして宿泊客として大倉集古館に行こう。

第一章 日本の風景をめぐる

赤松麟作 夜汽車 この絵が来ていたか。明治半ばの風俗を思う。たばこはもう紙巻きたばことなり、キセルは老人のもの。食べ差しのみかんは床に落ち、赤茶色の画面に少しの明るさを加える。
夜汽車というてもそんなに遅い時間ではないらしいのは窓の外の様子からわかる。外をのぞく老人の様子もリアル。
わたしはこの絵を見ると宮尾登美子原作の映画「夜汽車」を思い出す。十朱幸代主演のせつない映画。
夜汽車の旅には切なさを感じる。

しかし夜の次には朝がくる。
朝には明るい海と空がある。

藤島武二 日出海景 トルコブルーの鮮烈な海と空!とても綺麗な色調。
これは初見。武二の日の出の海を描いた絵はほかにも見ているが、こんな鮮烈なのは初めて。日通所蔵なのか。
そうか、これぞ「秘蔵のアートコレクション」ではないか。素晴らしい。
いいものを見たなあ。

霊友会からは大観の富士山や海浜を描いた絵が四点来ていた。いずれも紀元2600年の年に描かれたもの。
大観は終生明治の書生っぽさを持っていたと戸板康二「ぜいたく列伝」にある。
大観はこうした気宇壮大な風景画を戦前によく描いたが、彼の「旅」は愛すべき小品に見いだせる。
これらの絵は旅した人が見た風景なのだ。

放菴もかつては大観の旅仲間だった。
東海道を旅した絵巻が思い出される。

放菴 金太郎遊行 ご近所さんの泉屋博古館分館からおでまし。熊に乗ってアケビをお土産にした金太郎のうれしそうな笑顔が好きだ。

曾宮一念 平野夕映え スゴい色合いの夕映えである。だんだんと色が変わるがどこかグロテスクさもある。
鈴木信太郎が曾宮の絵について語った言葉が思い出される。静岡県のある企業の所蔵品。
よく探し出してきはったなあ、とそのことにも驚く。

山本丘人の力強い風景、牛島憲之の奥尻島を描いた「岬の島」の不思議なスプーンのような雲、山下清のペン画の宮島シリーズ、日本の特定の場所、あるいは画家の心象風景、それらをここで見る。

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第二章 愛しの風景
1.海外との出会い

田能村直入 万里長城図巻 休館中の大倉集古館から久しぶりのおでまし。日本人の多くが開国後に中国へ行ったことを思う。清国の崩壊と中華民国の成立と。その狭間に大陸へ向かった日本人たちの見たもの。
この絵がどのような経緯で描かれたかはここでは問題ではない。
この巨大な建造物を大陸に渡った日本人たちがみたことを想う。

百武兼行 イタリヤ風俗 旧主と共に海を渡った。その先でみた風景・風俗がこうして形になる。

テームズ河畔、エルベ川、フランス風景・・・
憧れの地は遠く、多くの人は海を渡ることすら考えられなかった時代にこうした風景画を生んだ画家たちにお礼を言いたくなる。

佐伯祐三、三岸節子の風景画、彼らの生涯を想う。
パリで若い生を終えた佐伯、晩年まで力強く生き抜いた節子。
二人の見た風景は全く違う。
しかし二人とも風景を愛し、描き続けることに執着した。
彼らの描くそれぞれの風景を見つめながら、自分はどのような思いを抱いて海外へ出向いたのかを自問した。

2-1.アルベール・マルケ:中間色と水景の画家
今回の展覧会で本当に楽しみにしていたのはこのマルケ特集。心の中で「マルケマルケマルケ♪」と歌ったと書いたが、それは六節からなるテーマ曲の始まりだった。
そう、マルケの絵は18点あるのだ。

最初にマルケの絵を認識したのは随分昔のことで、ボルドー美術館展でのことだったか、松岡美術館で見たときからだったかは、今はもうわからない。ただその頃から今に至るまで、人物画より風景の方に惹かれる。

こんなにも多くのマルケの絵を一度に見ることがかなうとは、本当に嬉しい。なんといういい企画だろう。
可愛らしい図録には8点も掲載されている。

チラシにあるのは名古屋のヤマザキマザック美術館の「アルジェの港、ル・シャンポリオン」。
この薄いミント色の海、薄い肉色の道路、クリーム色の建物、なにもかも柔らかな色彩で風景が構成されている。

実際のアルジェをわたしは知らない。
映画「異邦人」「望郷 ペペル=モコ」といった懐かしい欧州映画で見たアルジェしか知らない。
後者はモノクロ、前者は半世紀前のカラー作品。
カスバの裏町を這い回るペペル=モコ、パリの香りを運んでくれた女ギャビー。
彼らはアルジェからパリへ向かおうとするばかりで、アルジェの重たさ・暗さが身に沁みる。
そして「異邦人」では「太陽が眩しかったから」と言う言葉も、主人公の見た景色も、なにもかも白がとても際立っている。
白が暑さを熱気を運び込む。

マルケのアルジェはそんな熱気も不快な暑さも感じない。
ただ、やさしい温度を感じるばかりだ。
この絵の二年前に描かれた「アルジェ港」はこの絵より色合いは濃いものの、やはり柔らかな作品で、夕方の心地よさを感じたりもする。

パリを描いた絵もいい。
ポン・ヌフを描いた三点も素晴らしい。
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雪の残る曇天のポン・ヌフ、同じ位置から描いた薄小豆色の風景もある。そしてポン・ヌフの夜景の美。
わたしはただただ楽しく、嬉しかった。

2-2.東山魁夷:清明な自然を描いた画家
チラシに選ばれた「スオミ」もまたご近所さんからやってきた。
泉屋分館の開館記念で初めて見たときの感動が蘇る。

善光寺そばの信濃美術館・魁夷館から日本各地の風景が来ていた。奈良を描いた絵が多い。
吉野、飛火野、布留の森、赤目、春日野・・・
春日野の鹿がどんどん増殖して見えてきた。なんだろう、ホラーのようだ。

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第三章 広重、旅への憧れ
まず先に近代日本画の名品について。

松園さん、伊藤小坡、深水の美人画がある。
そういえば松園さんはあまり旅に出られたという話を聞かない。若い頃に画塾の男子たちに負けぬように足拵えをして日帰りのツアーに出かけた話は「青眉抄」にあるが、旅に出てそれを絵にしたのは知らない。

清方、輝方、勝田哲の旅姿の婦人たち。いずれも培広庵コレクションから。なかなかこのコレクションは関東では見れないので(関西でもそうだが)、いいところで出会えた。

清方は挿絵画家時代、あまりに多忙でノイローゼになり、電車に乗れなくなり、遠出は車で金沢文庫くらいまでだった。
しかし意外に旅姿の女の絵が多い。
そんな清方も昭和五年の大倉男爵の多大な支援のもとで開催された羅馬展、日本美術展のために、東京から神戸港まで出かけている。名目はローマに出立する画家たちを見送ると言うもの。車で日にちをかけて京都へ向かい、その地で一ヶ月ばかり滞在し、夫人や娘たちに関西ツアーを大いに楽しませたのだった。
清方の「旅」と言えばこの昭和五年のそれと、少年時代に三遊亭圓朝について群馬あたりに出たくらいだが、絵では多くの美人が旅に出ている。

旅と言えば魁夷の他にも旅を愛した日本画家がいる。
「美の旅人」と謳われた池田遙邨である。
今回は彼の絵はない。惜しい。
また、現代の「旅の画家」は安野光雅だろう。
二人の絵が仲間入りしていたら、と楽しい想像をしてみる。

最後に広重「保永堂版 東海道五十三次」の発色のいいのがずらりと並ぶ。これも日通所有の名品である。
よく知られている作品ではあるが、こうしてお江戸・日本橋から京の三条大橋まで宿場を重ねて行くと、こちらも旅するココロモチになってくる。
誰かの追体験であろうとも、旅の楽しさが沁みてくる。

雪の庄野などをみるとこの暑さを忘れたようにもなり、のんびりした風景を前にしては平穏な明るい気持ちも湧くのだ。

「旅への憧れ、愛しの風景」
本当にいい展覧会だった。いい絵をたくさん集めてくださり、いいものを見せてくれて、本当に良かった。
スタッフの皆さん、お疲れさまでした。ありがとうございました。
心地いい展覧会に会えて今年も幸せな気持ちになった。
また来年もいい企画をお待ちしています。
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