美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

岩佐又兵衛展 @福井県立美術館

昨日で終了したが、福井県立美術館の特別展「岩佐又兵衛」展は素晴らしいものだった。
わたしは土曜に出かけ、耽溺した。
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又兵衛の大きな展覧会と言えば2004年の秋に千葉市美術館で「伝説の浮世絵開祖 岩佐又兵衛 人は彼を「うきよ又兵衛」と呼んだ-」展を見ている。
あの当時はまだブログもしていなかったので自分のノートに感想を書き連ねただけだった。
それからMOA美術館が近年になり所蔵する三大絵巻物の公開をした。
三の丸でも昨夏には「小栗」をかなり見せてくれた。
また2006年には映画「山中常盤」を見た感想も挙げている。

自画像か弟子の手に依るのか又兵衛の画像がある。おでこがめだつ。
そして岩佐家譜(馬淵亨安)をみる。わかりやすい書体である。
二歳で(数え)一家離散の憂き目に遭う又兵衛。
だからこそ貴種流離、母子の別れの物語に力が入るのだろう。

さてわたしがこの日を選んだ理由は旧金谷屏風をみるためでしたわ。
行方不明の2点をのぞいてのずらり10点。10/12ですな。全図同時はこの三日間のみ。
虎に始まり龍で締めるこの屏風、間には10の人間模様が描かれている。
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虎図(旧金谷屏風)東京国立博物館
源氏物語 野々宮図(旧金谷屏風)出光美術館
龐居士図(旧金谷屏風)福井県立美術館
老子出関図(旧金谷屏風)東京国立博物館
伊勢物語 鳥の子図(旧金谷屏風)東京国立博物館
伊勢物語 梓弓図(旧金谷屏風)文化庁
弄玉仙図(旧金谷屏風)摘水軒記念文化振興財団
羅浮仙図(旧金谷屏風)
官女観菊図(旧金谷屏風)山種美術館
雲龍図(旧金谷屏風)東京国立博物館

中でも野々宮図、官女観菊図などは以前から親しく眺めていたが、この並び・このくくりで見るとまた全く違う感興が呼び起こされてきた。
官女観菊図は源氏物語の六条御息所母娘の伊勢行きのワンシーンだったそうで、そうか対になっていたのかと初めて知った。
老子を乗せる牛の踏ん張り、伊勢絵の男女の情念、仙人たちの精神の自由さ。
そして個人的にスゴくウケのは虎。竹を巻いてにゃーす!の虎もいいが、実はその竹の根元にご注目。笑うてますな、この竹。
「一笑図」はわんこだが、箎という字もあるしね。それにしても外輪の立ち方が多いな。
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行方不明の二点「花宴図」と「唐人抓耳図」のついた再現もの・完全版・金谷屏風が展示されているのもいい。いちゃいちゃする男女の様子は又兵衛の他の作品でもよく見受けられる様子だし、高士が侍童に耳かきしてもろてるのも面白かった。
人間を描くことが第一義だというのがよくよく知れてくる。

いよいよ豪華絢爛な絵巻物の世界なのだが、そこへ行く前にわたしは「へうげもの」の原画をみた。
実はこのマンガを全く読んでいない。読むタイミングを逸してしまって無縁のまま。
上田宗箇の展覧会の時にも紹介されていたが、それでも読みそこなってきた。
今回は又兵衛と宗達の絵の話が紹介されていて、それで初めてじっくりと見た。

織部から群鶴などを絶賛される宗達、墨絵で軽妙洒脱な人物を描く又兵衛。
先に宗達が衝撃を受け、やがて蓮に鷺の墨絵が生まれたのを見て今度は又兵衛が打ちのめされる。
・・・ああ、やはり今からでも読むべきやなあ。
そしてこの紹介されている一連の流れの中で、やはり又兵衛は人間を描くことにしか関心が向かない、というのも伝わってくる。

ただ、その人の得意分野と見做されているものからちょっと離れて、違うたぐいの絵を描いた時、存外魅力的なものが生まれる、というのはよくあることだと思う。
たとえば上村松園さんは気高い婦人像を本分にしているが、実は崩れたような女がとても良かったりするし、松篁さんも花鳥画でなく、万葉人を描いた絵が非常に魅力的だったりする。(万葉の春、「額田女王」挿絵)
そんなことを思いながら原画を見ていた。

さて絵巻である。ただし全面表示ということが不可能なのは仕方ない。
ここにある、ということ自体に感謝しよう。

堀江物語絵巻(残欠本)1巻 京都国立博物館
以前に見た「堀江物語」の感想はこちら
物語の概要もかなり詳しく記している。

出ているのはラスト近く、養父から与えられた兵を率いて仇の国司の館を急襲する。
彼の妻子を殺す岩瀬太郎少年。絵は国司の妻を斬首するところが出ていた。
頸椎がのぞき、赤い肉が見える。室内には上流らしく琴や琵琶などもあり、金地の襖には桔梗や朝顔の絵がある。

更に都へ出て国司本人を左肩から腹にかけて一撃で斬り下げる。
憤りと怨恨からの容赦ない殺害である。
そばにいた女は恐怖に駆られ、慌てて逃げる。
花頭窓には金の瓶や本が積んである。

御所への奏上。家来たちは更に外で待つが、屋根の装飾か、獅子がアタマに箱を乗せている。
次のシーンでは帝から関八州を与えられる。外の家来たちは喜んでいるが、官吏でもある公家たちは皆一様に「凄いねー」「すごいね」といった顔つきである。

祝宴の支度。オス・メスきちんと並べた雁が14羽、大きなのもあるし、雉も8羽。みんな忙しくも嬉しそう。
ただ一人太郎だけは上畳に座りながら物思いにふけっている。
やがて元凶である祖父の原を連れて来いと家来に申し付ける。原がおびえた様子で出てきたところまでが展示。

小栗判官絵巻 岩佐又兵衛 第11巻(15巻のうち) 宮内庁三の丸尚蔵館
展示は地獄から蘇り(黄泉帰りだ、本当に)、餓鬼阿弥として街道を土車でゆくシーン。
小田原から箱根を越え、三島大社を行き、富士の裾野をこえる。
人々の同情と好奇などの眼に晒されながら行く。
見守る人々の中には猿回しらしき人もいるし、犬と一緒にいる人もいる。
物語の概要などについては去年三の丸で見たときの感想に詳しく記している。こちら

山中常盤物語絵巻 第4巻(12巻のうち)MOA美術館
わたしはMOAの展示に行き損ねた。しもたことをした。ただ、2006年に羽田監督の映画を見ている。
映画「山中常盤」の感想はこちら
今回は常盤主従が六人の盗賊に殺されるシーンが出ていた。クリックしてください。
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とにかくこの6人の盗賊の描写が憎い。いかにも憎そげ。石で刀を研ぐ男、水色地に撫子柄の着物を着るのもいれば、豹や虎の毛皮を腰に巻くのもいる。
宿で寝込んでいる常盤主従を急襲。戸を蹴破り二人の女から豪華な小袖を引き剥ぐ。
そして呪詛する常盤の声を聴き、取って返してその胸を貫き通し、侍女もバッサリ斬り殺す残酷な連中。
この一連の無惨な描写は将に酸鼻としかいいようがない。

ただ、もるさんがツイッター上で教えてくれたように、女二人の下ばきの布質の違いにわたしも注目した。
侍女は多分木綿、常盤は絹らしい。胡粉がかかっていて、その表現の違いがさすがに細かい。しかも主は室内、従は下で殺される。

物音に気づき飛んできた宿の主人がこの凄惨な殺人現場を目の当たりにして仰天する。
そこまでが出ていた。

この「山中常盤」と「堀江物語」は共に遺児による復讐譚なのだが、とにかく殺し場が凄い。前者は高貴な女人が着物を剥がされ奪われ、無惨な死を迎える。被虐と嗜虐の鬩ぎあいを目の当たりにすることで、いよいよこの絵巻へのときめきが増大する。

上瑠璃物語絵巻 岩佐又兵衛 第4巻(12巻のうち) MOA美術館
(表記はその時々の展覧会による)
MOAで見た「浄瑠璃物語絵巻」の感想はこちら
詞書の面白さにも心惹かれた。

ここでは御曹司が女房に導かれ、姫の閨へ向かう様子が出ていた。
まず、あまりに素晴らしく綺羅を飾る室内に呆然としながら見惚れて歩く御曹司。
姫の眠る様子を見て、にんまり「こんばんは」と言いそうな顔つき。
口説く、ただただ口説く。姫の様子が少しずつ変化する。
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細部に渡り丁寧を通り越した詳細な様子を美麗に描いた絵巻。とても好きだ。

いいキモチで次の展示を見ると、おやおや、大和文華館からあれが来ている。
稲富流鉄砲伝書 2帖(21帖のうち) 大和文華館  「綺麗に拵えられた」と見ているものが何故ここに?と思ったが、解説を読んで反省した。
この文章を書いた人の手が絵巻の詞書のそれと同じではないかと言うことだった。
これまで漫然と見ていたことを咎められた気がした。
なんということだ。やはりそこにある、という存在の意味をきちんと把握していなくてはならん。
これまで勿体ないことをしてきた。

岩松図屏風 岩佐派(推定) 6曲1双  工房のものなのかどうかしらないが、松が金地に浸食されていた。

伊勢物語 梓弓図(旧樽屋屏風)  金谷屏風のそれとはまた違う構図。女の姿もでていることで、両者の行き違いがよくわかる。
男の身勝手さに泣かされるのは女なのだ。そして悲劇が訪れる。その予測がつくような構図。

傘張り・虚無僧図(旧樽屋屏風)1幅 根津美術館   職人尽図の一種だとみなしていいのだろう。それにしてもまだ普化宗の虚無僧スタイルが完全には成立していない頃なので、笠もええ加減な形で、どちらかと言えば遊び人にしか見えない。
この様子を見て思い出すのが中上健次の路地の若者たち。
「歌舞音曲にうつつをぬかし、女を腰で落とし」と書かれた若者たちが遊びで虚無僧の様子をする。
のぞいた口元を見ながらやはり彼らも、と思った。とはいえ幼い兄弟が布施をしようとかけてくる。

本性房振力図 1幅 東京国立博物館   太平記から。大岩を落とすあれ。人々の表情がいいなあ。

このほかにも物語・故事からの絵が多い。
平家物語 通盛小宰相図  作中にはこのシーンはないが、ありえそうな雰囲気がある。
その意味でも「浮世絵」なのだと思う。

和漢故事説話図 岩佐又兵衛 12幅 福井県立美術館 半期6幅づつ  これは面白かった。
伊勢、源氏、平家などから恣意にシーンを選んで描いたのか、楽しく一枚一枚を見た。
浮舟、夕霧、佛御前の登場、怪異出現…

特定人物を描いた絵もよかった。それぞれ違った描きぶり。
維摩図、月見西行図 、柿本人麿・紀貫之図、三十六歌仙…
西行は自身の姿の様だとも言われている。妻子を置いて旅立つ又兵衛。

洛中洛外図屏風(舟木本)が東博から来ていた。大変うれしい。
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わたしはこの大仏殿にいる扉傍の青年が好きなのだった。

じっくり見てゆくと様々な発見があり、驚きもある。
坊さんと尼さんの密会などを描くところが又兵衛らしいし。負ぶわれた幼女が観客を見つめているのを初めて知った。
見れてよかった。
家にある舟木本の模本をまた愛でよう。

花見遊楽図屏風 4曲1隻  チラシの人々。赤裸々な動き・感情の発露、にぎやかでエネルギッシュな様子。
いいなあ。とてもいい。当時流行最先端の三味線を持つ人も少なくない。盲人だけでなく男も女も弾いている。
ちょっと数えても6人ほどが三味線を持っていた。
あちこちで宴会、とても楽しそう。そして左端では男同士がひっそりと仲良くしている。
こういうのを見つけ出すのがとても楽しい。

北野社頭遊楽図屏風 狩野孝信筆 6曲1隻  参考になったのでは、という作品。女たちの綺麗さに惹かれた。
特に双六をする眉を落とした女とおかっぱの女。幔幕を張り巡らせた中では男たちが調理中。
瓜実顔。そう、又兵衛キャラとは輪郭が違う。

美人風俗図屏風 岩佐派 2曲1隻 福井・西応寺 剥落が激しいからか、静謐なくせに妖艶だからか、シギリヤ・レディを想った。
完全なる横向きの女が特に好ましかった。
最後にこうした異様に艶めかしい女たちに会えてよかった。

たいへん見事な展覧会だった。
この充実ぶりには圧倒された。
素晴らしい。
今年のベストの上位に推されると思う。

多くの方々がツイッターでわたしに「行け行け行きなはれ」とすすめてくれたことに感謝する。

なお、ツイッターでお世話になっているConradさんのレポがまた見事なのでぜひご一読を。
こちら
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