美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

国芳ヒーローズ 前期

太田記念美術館では二か月で全点入れ替えの「国芳ヒーローズ」展を開催中。
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これがもう本当にかっこいい。シビレ具合が半端ない。
観ながら「発生可能展覧会なら、ウォォォォッッと唸ってる」と思うものばかりで構成されていた。

大出世作の「通俗水滸伝」シリーズを軸にそこから派生したものも集まっていた。
戯画や二次創作の「本朝水滸伝」もあり、にぎやかにぎやか。
しかもいいタイミングを見計らって原作の「水滸伝」120回のあらすじを紹介している。
天罡星三十六星と地煞星七十二星の好漢たちを描いた一枚絵、それを回を追うごとに展示。
いい方法だなあ。

まず登場するのはおなじみの九紋龍 史進 それから跳澗虎 陳達。
史進は全身に9頭の龍の刺青が入る。それをさせたのは父。美しい雪膚に似合う刺青を、と名人に仕事をさせた。
その史進が陳達と戦うところ。史進の刺青は手の甲にまで及んでいる。

当時の庶民がこの無頼にして美麗な刺青に熱狂したキモチはわかる。
多くの人々がこのシリーズを買い求め、ガエンやトビといった膚を見せることの多い職業の者たち、その膚に綺羅を飾ることを欲する男たちを駆り立てて、国芳えがく水滸伝の好漢たちを髣髴とさせる刺青を入れていったのだ。

この絵の主役は史進であり、敵はいようとも「一枚絵」、「一枚看板」といった立場で世に出ている。
続いて他を見る。

花和尚 魯智深 無頼の僧侶であり、物凄い大力で赤松をぶっ壊している。肌の色はあまりきれいではない。
「花和尚」の綽名はあっても花よりもその全体の魁偉さの方が目立つ。
この魯知深と史進とは仲良し。彼は後に本当の意味での僧侶となり、感動的な最期を自ら迎える。

青面獣 楊志 既に青黒くなっている牛二という敵にとどめを刺そうとするところ。梁山泊の好漢とは悪く言えば人殺しの集団、それに関してはモラルはない。
この楊志をみていると、水木しげる「東西奇っ怪紳士録」の2巻に妻を精霊に奪われた男の話があるが、この楊志はその精霊にとてもよく似ている。他人の空似。

操刀鬼 曹正 かれは東京開封府の居酒屋主人で人肉をそーっと供していた。これなら仕入れに元手はいらない。
肉はそれでいいが、レストランはけっこうメニューが豊富なので魚介類は仕入する。それでか、イカやタコの柄を左肩に。

梁山泊の中では大した役目を負わない者たちでも国芳の手にかかれば無頼の美を纏い、勇猛でただただかっこよくなる。

武力はなくとも知力の高い入雲龍 公孫勝の絵もいい。ここにも国芳の工夫がある。かれは道士だから様々な技を持つ。それを暗示させる目つき・手つきがいい。日本では道士はいなかったので、絵を見て「魔術を使うのか」とドキドキした客も少なくはなかったろう。

このように一枚絵の無頼の美をまとった好漢たちの絵が続く。
ドキドキしながら彼らの描写を見つつ、国芳の力業に唸らされる。

三枚続きの好漢たちの絵もいい。
一枚絵のシリーズもいいが、三枚続きになるとよりドラマ性が加味される。

豹子頭 林冲 、短命二郎 阮小五らのいる図では阮兄弟の次兄・小五の様子にシビレた。
ぐぅぅっと喰いしばる口元と言い、冴え冴えとした肌と言い、豊かな蓬髪といい、凄艶極まりない。
ゾワゾワするよさがある。

阮兄弟は三人ともとてもかっこいいのだが、その仇名がまた物凄い。
立地太歳 阮小二、短命二郎 阮小五、活閻羅 阮小七
三人とも怖くて魅力的な呼び名なのだ。
そして三人とも漁師なのでしばしば水中での戦いが描かれ、その濡れた髪の魅力にこちらも絡み取られる。
国芳が水を描くとき、そこには怖いような魅力がある。様々な青で表現された水。そこに纏わる人々、物の怪。

前述したとおり、梁山泊の好漢たちは殺人者であり、お上から見れば犯罪者集団、個人的にお付き合いするには熱すぎる無頼漢が大半である。
気の毒な林冲にしても降りかかる火の粉を払うために殺人は当然のことであり、その様子がまた何とも言えずかっこいい。
国芳ヒーローズとして選ばれたキャラたちは全員が無頼の美の体現者なのだ。
日常から逸脱した彼らに観る者は陶酔する。

捨命三郎 石秀 僧侶に変身し、巨大な木魚を首から下げ、編笠の向こうから鋭い一瞥を向こうへ放つ。
かれは不義の女とその相手の坊主とを殺す。

挿翅虎 雷横 自分の事では罰を素直に受けたが、母が彼を救おうとしたのを被害者の女芸人が罵り殴ったのに激昂し、その女芸人を惨殺する。

国芳だからこうしたシチュエーションであってもヒーローズとしてかっこよく映るが、これが芳年、芳幾になると不条理な無惨絵として陰陰滅滅な情景になったかもしれない。

混江龍 李俊 これはもう構図が面白い。水軍頭領のかれは水に潜るやその技能を発揮して、小舟の底に潜り込み、一気にその舟をひっくり返すのだ。凄い力。
この男は最後の戦いの後に中国に見切りをつけて、シャムに渡って王様になった…という都市伝説の人。

ところで梁山泊には何人か女もいて、全員が亭主と共に梁山泊のために働いている。
そのうち名家の出の美人の一丈青 扈三娘はリボンをつけていてカラフルな装いで描かれている。

元々地方で居酒屋をする夫婦ものは(全員が何故か人肉料理を得意としている…)それぞれ見張りの役目を負うて、各地に店を開き働いている。
彼女らの強さも尋常ではない。

母大虫 顧大嫂が神医 安道全に治療のため血を抜かれているが、そのとき知らん顔で肘をついて退屈そうにしている。
背景には芭蕉の鉢植えもあり、なにやら白い花も咲いて蝶々も飛んでいるようで、ちょっとばかり可愛い絵になっている。

三枚続きでまたシビレるいい男がいた。
毛頭星 孔明が他の者たちと一緒に街角で人殺しの最中なのだが、そのその男振りの良さに、何度も瞬きをしてしまった。
面長の白い顔を縁取る長く豊かな髪、はだけた体は存外毛深いが、髭は薄い。男の首を締めつつもなんら必死さも見せない。
なんていい男だろう…

やがて浪子 燕青の絵が二枚並んで現れた。
わたしが国芳えがく好漢の絵で初めて夢中になったのが、文政末期のこの背中をはっきり見せる姿のもの。
これは松田修「刺青・性・死」の口絵でもあり、わたしはこの絵に撃たれ、松田修の文に溺れたのだ。
かれは富豪・玉麒麟 盧俊義の家来であり、幼時から手元で育てられていた。
その雪白の膚を刺青により綺羅に飾ることを盧俊義は命じた。
彼もまた史太公と同じく自らの肌は穢さず、後進(わかいもの)の雪白の膚に、青と赤の美しくも無惨な華を咲かせたのである。
(松田修は文中でそのことを指摘している)
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背中一面の刺青は獅子の子落としを描いている。右足首に絵は続く。その染付のような美。さらに真っ赤な下帯がそこにあることで画面を更に華やかにしつつ、引き締める。
なんといい絵だろう…

次に近年に知った屋根の上で戦う燕青の絵がある。
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こんないい男の絵が二枚も並ぶのはもう本当に罪だ。
先のにはむしろ少年の名残りが濃く漂っていたが、こちらはそうではない。肘の角度、口元、怒る目つき、構図と言いなにもかもかっこいい。天保年間の世相を併せてわたしは想い、いよいよときめきが深くなる。
逆立つようになびく髪、白い満月を背景に暴れ続ける燕青。
かれは普段はにこにことおとなしくも小粋で、賢く、そして最後には身の処し方を過たずに去ってゆくのだ。

ああ、苦しいくらいだ…

ほかにも無限に見どころがある。
混世魔王 樊瑞 の二枚の絵が面白い。綽名からわかるように幻影・魔法系のと戦うのがうまいのだが、田虎との戦で魔軍の相手をしたのがこの人で、先の時代のは魔軍の魔物たちが妙にちまちまと可愛い。
晩年の嘉永年間のそれはけっこう化け物も進化し、ちょっとばかりコワイ。

12枚揃えのかっこいいもののほか、十枚揃えの戯画もあり、好漢たちもいろいろお忙しそうである。
戯画の中では武松と虎が仲良くタバコの火を分け合っている姿がいい。

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国芳による二次創作「本朝水滸伝」のヒーローズもかっこいい。
自来也、八犬伝の犬士たちの雄姿がある。
こちらも本当にカッコいい。

この展覧会は四月の展示のチラシの裏面から登場している。
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前期に溺れただけではいけない。
後期も同じ数だけの国芳ヒーローズの雄姿が待っているのだ。
何が何でも見に行かなくてはならない。

なお、2013年に東博でもこの通俗水滸伝のシリーズが展示されていて、その時に感想を挙げている。
こちら

前期は27日までだが、後期は10/1―10/30と期間が長い。
とても楽しみだ。
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