美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

講演会と琵琶演奏への小さい感想

天理大学図書館の奈良絵本の展覧会の感想を挙げる前に、慶応大教授の石川透氏の講演の概要を挙げたいと思う。
ただ、聴いていたわたしの勘違い・聞き間違い・受け取り間違いがある可能性があるので、あまり本気で読まれない方がいいかもしれない。

スライド上映と共に話が始まる。天理大図書館の所蔵する奈良絵本のレベルの高さに始まり、その種類についての解説。
御伽草子、仮名草子、浮世草子の違い。
奈良絵本・絵巻とは手描きの豪勢な絵本・絵巻のことだが「奈良」絵本・絵巻と言う名称自体は実は近代のものだという。
奈良土産の扇子に描かれた素朴な絵、奈良時代の絵因果経をモチーフにしたもので、それがどうも「奈良」絵本・絵巻と呼ばれるようになったのではないか。
辞典などでは「興福寺の絵仏師が描いた」云々とあるが、その証拠が今のところ見つからない。

次いで作者の話になる。
本分の筆跡鑑定から浅井了以が仮名草子の作家だと確定した。
浅井は版下を直筆版下で作れるような人でもあった。
日本の彫師の異常な技巧がそれらを可能としたのは確かだ。
いくつかの本からの鑑定。(「難波物語」、浪速の遊女評判記など)
筆耕としても優れた人で、太平記、平家物語、源平盛衰記などなどがある。
ロシアにある「長恨歌」も浅井によるものだと思われる。

文と絵とを同時に担当したのが居初つな。世界初の絵本作家。
美人と誰が袖図も描いている。元禄8年の版本につな女のことが記されているのもある。
滝沢馬琴が日本初の「原稿料で食えるようになった作者」。
他の国でも大体「絵本作家」は近代以降で、その意味では居初つなは最古の絵本作家だと言える。

というようなお話だった。

その後、肥後琵琶の奏者・玉川教海師の「小栗判官」を聴いた。
以下、少しばかりの感想など。
説経節「をぐり」とほぼ同じである。
「この物語の始まりを申し上げ候」から始まる小栗判官の一代記である。
節回しを聴いていると、のぞきからくりなどのそれらと似たところがあると思った。
それは日本の古い「語り」の系譜にあるからかと思われる。

小栗が迎える嫁たちを次々と離縁し続ける顛末に父母が頭を悩ませ給う、までで一旦終わり、そこでその後の説明が入る。
そして毒殺後の地獄の話につながる。
閻魔大王の前の小栗と家来たちである。
「さて横山殿の策略で地獄へ落ちた小栗殿と家来衆…」
個人的に「をぐり」の中で最も好きな一文
「にんは杖といふ杖で、虚空を、はつたと、お打ちあれば、あらありがたの御ことや、築いて、三年になる、小栗塚が、四方へ、割れてのき、卒塔婆は前へ、かつぱと転び、群烏(むらがらす)、笑ひける。」
ここも大変良かった。
ここを聴きたくて仕方なかったのでとても嬉しかった。

ただ、どういうわけかわたしは随分昔からここを「にんは杖なるその杖で、虚空をはったと打てば、」と覚えていて、今でも自分で暗唱するときはどうしてもこう言う。
説経節「をぐり」と平家物語のいくつかの段は暗唱して、ひそかに自己満足にふけっているのでした。

蘇生した小栗が「かせにやよひと書かれたは、六根かたは、など読むべきか。」は飛ばされたが、「上人、墓所へ急げる」と入るのはいい。
そう、この説経節原文にはない一文が入ることで語りにスピードが入る。
ステキだ。

今回の語りで餓鬼阿弥であった時分の小栗は照手姫に気付いていない、ということを改めて知った。復活して後に木札の一文を読んでそうと悟ったということをここで加えられている。
照手が土車を曳く交渉を三日のままとしたのはどうしてかわからないが、聴いていて、自然とスーパー歌舞伎「オグリ」での金田龍之介の演技が思い出された。よろづ屋の憎めない主が「五日あげよう、一日はお前のために」とにっこりする顔を初演で見てから20年以上たつが、今も忘れない。

車を引くときの「えいさらえい」の掛け声は歌うようで、声が空へ上がってゆくようだった。このあたり、とても綺麗な語りだと思う。
地を這うのではなく、空へ昇る声。
そしてその「えいさらえい」を繰り返すことでリズムが生まれ、聴衆の身体にもそのリズムが浸透する。
「月の街道、星の屋根」「えいさらえい、えいさらえい、えいさらえい…」「夕日に映える天王寺」…地名をいくつも入れて物語が進む。
この詞はどこからのものかは知らないが、情景が目に見えるようでとてもよかった。

復活した小栗がよろづ屋へ向かい、照手との嬉しい再会はあるが、主を取り立てるとかの話はなし。横山攻めをやめるのはありで、復讐はなし。鬼鹿毛もなし。
これはこれでいい要約だと思った。30分ばかりの実演なので、よいまとめ方だと思う。いいお声での語りに魅力的な琵琶の音色、聴いていてとても心地よかった。

いい機会に恵まれて嬉しかった。
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