美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 **なお現在コメント欄を閉鎖中です。

城下町和歌山の絵師たち―江戸時代の紀州画壇―

和歌山市内のミュージアムはいいところが多い。
県立博物館も近代美術館も市立博物館もみんないい企画展が多い。
このレベルの高さは本当に凄いと思う。
姫路市と和歌山市は関西の中で公立ミュージアムが突出して良い市だと思っている。
イメージ (65)

その和歌山市立博物館での展示の感想。
城下町和歌山の絵師たち―江戸時代の紀州画壇―
通期展示も多いが、4期に分かれているのでタイミングよく見たいものを見る、というわけにはなかなかいかない。
わたしは1期目に行った。今は後期の1、通算3期目。

Ⅰ 紀州藩のお抱え絵師たち
狩野興以 狗子仏性図 江戸時代初期(17世紀) 紙本墨画 1幅  意外なことに洋犬風な犬。
これやと仏性具せるか否かというより、という感じがするな。
坊さんは払子でこの犬を追い払う気まんまん。

狩野興甫 三十六歌仙額 万治3年(1660) 板絵著彩 2面(36面のうち)玉津島神社   和歌の神様のお社にある額。

狩野興甫 紀州友ケ島図 寛文元年(1661) 紙本淡彩 1面 和歌山県立博物館   おお、友が島。なんとなくパラダイス。わたしのアタマの中では現代の姿と戦時中の姿しか浮かばないが、そうだ、ここは紀州の殿様たちにとっても近いリゾート地だったのだ。
とはいえ絵は怪獣がうずくまっているように見える。

これで思い出したが乱歩「孤島の鬼」は和歌山のどこかの孤島を舞台にしているが、和歌山はけっこう小さい島をたくさん持っているのだった。

狩野栄興 草花写生図巻(紀伊狩野家伝来絵画資料) 江戸時代中期(18世紀) 紙本著色 1巻   柿に椎茸に豆花に、とリアルな絵が続く。博物誌的なものはやはり面白い。

狩野興永 魚貝写生図巻(紀伊狩野家伝来絵画資料) 江戸時代後期(19世紀) 紙本著色 1巻   これまたスゴイ、何がかと言うと、表面にたとえばエビ、タイ、カレイとか描いてあるだけでなく、その裏面にも表に描いた魚介を裏から見たらこうなる、という図が描かれているのだ。ひーっ 凄い情熱。

トド図摸本(紀伊狩野家伝来絵画資料) 文政2年(1819) 紙本著色 1枚  ビックリするわ、トドですがな、トド。そして同じくムササビまである。
チラシの上部で、空飛んでます。

山本伊球 鶴図 江戸時代後期(19世紀) 絹本著色 1幅 初公開 和歌山市立博物館   この作者は残る作品が少ないそうな。朝日差す海辺に松と鶴と。めでたい絵というだけでなく、海辺に松に朝日というのは紀州の場合、とても実感のある風景なのだと思う。

岩井泉流 唐獅子図 江戸時代(18世紀) 絹本著色 1幅 初公開   これは可愛い。パパかママか知らんが、一応「唐獅子」らしく子供を谷底へ蹴落としたものの、すごーく心配というのが顔にありあり。可愛い喃。イメージ (70)

岩井泉流 遊豫画苑 宝暦9年(1759) 紙本著色 3巻   アシカの島で狩猟の紀州の殿様ご一行図!正直、こういうのが主題の絵を見たのは初めて。地域性というのを感じるねえ。

並河甫仙 鷹匠図・業平図・官女図 江戸時代(19世紀) 絹本著色 3幅 和歌山県立博物館   どうしてか鷹匠図しか記憶がない。月下の川のほとりに柳があり、その下で一休み中の鷹匠。ちょっとばかり大津絵風にも見える。

堀端養恒 鶴図 嘉永4年(1851) 絹本著色 1幅 原田集古館  雛も二羽いる鶴ファミリー。
めでたさだけでなく、やっぱりほんわかムードがよろしいです。

笹川遊原 唐美人図 江戸~明治時代(19世紀) 紙本著色 1幅   初公開の美人。毛皮つき赤のガウンでくつろぐ。なかなか色っぽい。
イメージ (71)
尤も「唐美人」というより西洋婦人ですな。「唐」の概念が拡がりすぎている。

これで思い出すのが赤瀬川原平の「老人力」の起源の話。路上観察学会の人々で都内をうろうろして撮影したまではいいが、さて赤瀬川さんはその撮影場所を忘れてしまい、撮影したのをスライド上映したとき、場所を訊かれては「本駒込」と言うてしまったそうだ。
全然違うかもしれないが、とにかく何でもかんでも「本駒込」「唐美人」というのはナカーマのような気がちょっとする。

野際蔡真 和歌浦図巻 江戸時代後期(19世紀) 紙本著色 1巻   鳥瞰図風な描き方。初公開でこういうのが出てくる懐の深さ。和歌山、スゴイなあ。

Ⅱ お殿様の絵ごころ
紀州徳川家も文芸に深い関心を寄せるお殿様がいた。

徳川頼宣 宝船図 江戸時代前期(17世紀) 紙本墨画 1幅  …なんかシュールな絵ですな。

徳川光貞 布袋図 江戸時代初期(17世紀) 紙本墨画 1幅 和歌山市立博物館(西本コレクション)  この布袋さん、スタンプになってたので、後で挙げます。

徳川吉宗 鳩図 徳川頼職賛 江戸時代中期(18世紀) 紙本墨画 1幅   兄弟コラボ。

姫路の酒井さんところは父母・兄弟そろってお絵かき大好き一家だが、この兄弟はやはり大名家の嗜みという感じかな。

徳川治宝 松鶴図 文化元年(1804) 絹本著色 1幅 和歌山市立博物館   さすがに巧いですな。このお殿様が樂家などを保護したのだ。あと三井家との深い関わりもあるし。また学問好きで立派なお殿様なのでした。

徳川斉彊 柳鷺図 江戸時代後期(19世紀) 絹本著色 1幅 和歌山市立博物館  養嗣子として来られた殿様。白鷺が可愛い。

イメージ (66)

Ⅲ 多彩な紀州画壇
個性的な絵師たちの絵が並ぶ。

祇園南海 墨竹図 江戸時代中期(18世紀) 紙本墨画 1幅 和歌山市立博物館  対聯。(レンを思いだせてよかった…)

桑山玉洲 野馬図 明和元年(1764) 絹本著色 1幅 和歌山市立博物館  実にたくさんの馬。イキイキしている。

桑山玉洲 雲鶴清暁図 安永6年(1777) 絹本著色 1幅 和歌山市立博物館  変わった色の取り合わせ。なんだろう、洋画家の川口軌外とか柳瀬正夢とか思い出すな。

野呂介石 山水図 文政9年(1826) 絹本著色 2幅  これは3Dで見たくなるような絵。

松丘 寿老人行列図 江戸時代中期(19世紀) 紙本著色 1幅   ふふふ、へんな爺さんばっかりずらーーーーっと。初公開か、面白いよね。
中の何人かをピックアップしてスタンプ作ってはったので、前述の布袋さん共々挙げることにする。
顔つきを見ると水木しげる「悪魔くん」(松下一郎の方の)に出てくる蓬莱島の八仙の一人みたいな感じ。
イメージ (74)

坂昇春 赤坂御庭図画帖 江戸時代後期(19世紀) 絹本著色 1帖 和歌山市立博物館  すごく繊細で丁寧で細かな描写。

塩路鶴堂 宮子姫伝記 文政4年(1821) 絹本著色 2巻 道成寺 上巻  母親が海女で、という「珠取り」話の娘版。
「珠の段」は房前の母という設定だったように思うがこちらは宮子の話で、しかも丸坊主の姫が母の犠牲により「髪長姫」になる説話。
海底に光るものがある。魚たちもいる。どちらかと言えば近代的な絵。
イメージ (72)

絵巻もので、こちらが全体の絵。
イメージ (73)

塩路鶴堂 清姫鐘巻伝記 文政4年(1821) 絹本著色 2巻 道成寺 上巻  川辺で火を噴いてるよーー。遠近法がしっかりしている。
この絵師は大正末から昭和初期の日本画家だと言ってもおかしくはない。
16111401.png

岡本緑邨 春秋百花図 明治10年(1877) 紙本著色 1幅  雀の下に鳩もいたりと和やかな百花の空間。段々と文明開化が広がってきた感じがする。

崖龍山 鍾馗図 江戸時代後期(19世紀) 紙本著色 1幅  面白い掛け軸。描き表装なのだが、絵そのものが楽しい。初公開ということだが、ほんまにこれは楽しいわ。
16111402.png
絵から抜け出して鬼を探す鍾馗。実は鬼たちはエライコッチャとばかりに表具の中に紛れ込んでいるのだった。

南蘋派風のも色々。時代のムーブメントとしてのものなのかもしれない。
次はリアルな図鑑用の絵。
小原桃洞 魚品図 、 魚譜 江戸時代後期(19世紀) 紙本著色 1冊ずつ   
山中信古 増訂南海包譜 慶応元年(1865) 紙本著色 1冊
上辻木海 柑橘図絵 慶応3年(1867) 紙本著色 1帖
ギョッとするような魚類図鑑にミカン類の絵。
楽しかったわ。博物誌の本は意図するところと違うところでウケてしまう。
他にもキノコ・ブックがあった。今だと喜ばれそう。
阪本浩雪 『菌譜』 天保6年(1835) 紙本墨刷 2冊
いいよなあ、こういうのがあったというのが。

川合小梅 観梅円窓美人図 江戸時代後期(19世紀) 紙本著色 1幅 和歌山市立博物館   雪のような白梅がいい。唐美人。

俳画と言うか戯画と言うか、面白いのを見た。
松尾塊亭という絵師の絵がみんな楽しい。
自画自賛像 江戸時代後期(19世紀) 紙本墨画 1幅 和歌山市立博物館    汗ふいてる自画像。
雷公子図自画賛 文化11年(1814) 絹本著色 1幅   風呂桶に落ちる雷さん。
『俳諧百画賛』 文化13年(1816) 紙本多色刷 3冊  色んなシーンが面白い。

永楽保全 狐和尚図 大綱賛 江戸時代後期(19世紀) 紙本墨画 1幅   タヌキやなしにキツネの化けた和尚さん。見返る後姿。
白蔵主ではない。狸の和尚さんは杉浦日向子「百物語」にもあるし、今細見美術館で開催中の「驚きの明治工芸」にも出ているし、11世片岡仁左衛門こと大松島屋が十三辺りでタヌキの和尚さんの語る平家物語を聴きに行った話がある。

彦坂犢庵 蝦蟇図 明治~大正時代(19~20世紀) 紙本墨画 1幅 和歌山市立博物館  前掲のスタンプの奴ですわ。

Ⅳ みんなで描く、一緒に描く、描き継ぐ
コラボ作品とか寄合などの。席画会の絵は勢いがあり楽しい。

後世の補筆もコラボとみなしての作品が出ていた。
桑山玉洲 旭日群鶴図 安永4年(1775) 絹本著色 1幅 個人蔵(和歌山県立博物館寄託)   鶴がさらに増やされていて、絵の都合で描かれなかった鶴の足や羽根が軸に描き足されていたり。
これをみて思い出したのが山上たつひこ「中春こまわり君」に出てくる既存の短編小説などに自分の付け加えた一文を紛れ込ませる男や、ゆずの歌う歌で昔の古い歌を加えたりするあれ。
こういうのは成功しているのはいい。

岡本緑邨 明光浦十景図 江戸~明治時代(19世紀) 紙本著色 10枚 和歌山市立博物館    和歌の浦のこと。そういえばわたしは和歌浦をモデルに作庭された六義園は行ったが、本物の和歌の浦には行ってない。
そもそも和歌浦なのか和歌の浦なのかも知らないのだ。

野呂介石・阪上淇澳 梅竹図蒔絵弁当重箱 江戸時代後期(19世紀) 木製黒漆塗蒔絵 2合 和歌山市立博物館   けっこう大きいぞ。

Ⅴ ようこそ和歌山へ―来和の画家たち
池大雅や木村蒹葭堂ら著名人も多くこの地へきている。

木村蒹葭堂 名花十二客図 寛政8年(1796) 絹本墨画 1帖  言葉の意味を調べるとこうある。
「宋の張景修が一二の名花を一二種の客にたとえたもの。牡丹を貴客,梅を清客,菊を寿客,瑞香(沈丁花)を佳客,丁香(丁子)を素客,蘭を幽客,蓮を静客,酴釄(とび)を雅客,桂を仙客,薔薇を野客,茉莉(まつり)を遠客,芍薬を近客とする。南画の画題とされる。」
見たのは蓮で静客。

上田公長 虎図 江戸時代後期(19世紀) 絹本墨画 1幅  横向きのトラーーーッ ちょいとおなかが白くて、物騒なツラツキだが可愛い。

上田公長 『公長画譜』 天保5年(1834) 紙本多色刷 4冊  鳥やフナなどの絵が出ていた。わたしはこのヒトは猫の絵が好きだ。

西村中和 高野山図 江戸時代後期(19世紀) 紙本著色 1幅  ロングで描く。
そういえば紀州からみて高野山もその仲間なのか。わたしの友人で高野線の代々の住人は、和歌山市内はむしろ遠い地だというていた。

川合春川 遊友ケ島記 寛政10年(1798) 紙本墨書 1巻 和歌山市立博物館  友が島で楽しく過ごしたことなどを記している。

たいへん見ごたえのある立派な展覧会だった。
それが安価でこうして開催されている。
宣伝ももっとしやはったらよいのに、と思った。
とてもいい展覧会だった。





関連記事
スポンサーサイト
最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

フリーエリア