美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

日本の伝統芸能展

三井記念美術館で日本の伝統芸能展が開催されている。
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日本の伝統芸能と言えばわたしの場合、まず歌舞伎に文楽に、能狂言に、雅楽に舞楽に、それから太神楽に獅子舞、廃れる一方のたとえば大黒舞…などと浮かんでくる。
実際今回の展覧会で取り上げられている伝統芸能は雅楽に舞楽に能楽に歌舞伎、文楽、演芸と一括りの雑芸、琉球芸能、民俗芸能などである。
日本でこれらを一カ所で把握しようとすれば、早稲田大学演劇博物館がある。
国立劇場・国立演芸場・国立文楽劇場それから歌舞伎座も資料を取り揃えている。
池田文庫、大谷図書館は全般ではないが、突出した資料を持っている。
とはいえ鳥瞰的に見ようとすればやはり早大がいちばんか。

さてその伝統芸能。
ライブで見るのがベストだが、その資料を見ることも楽しい。
知らないことを知ることにもなるし、観たかったものに逢えたりもする。
三井でのこの展覧会はその意味とてもありがたい。

日本の伝統芸能に関する展覧会と言えば、95年の春に江戸博で「江戸歌舞伎歴史と魅力」展が開催された。
場所にふさわしい展覧会で、とても楽しい内容だった。
あと、国立劇場、文楽劇場、能楽堂もいい展覧会をよく開催している。

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前後期どちらも見たので併せての感想を。

1.  仮 面 と 楽 器
舞楽面 抜頭 1面 江戸時代・寛永13年 (1636) 日光山輪王寺 前期
真っ赤な顔で眉が吊り上った面。頭頂部は薄いがロン毛である。

舞楽面 還城楽 1面 江戸時代・寛永13年(1636) 日光山輪王寺 後期
これはまた蛇喰いが好きというキャラで、その喜びを示しているそうな。吊り顎、真っ赤な顔、四つの金歯がある。

舞楽面 陵王 1面 江戸時代・17世紀 熱田神宮  金色で目をむいてはいるが、この面の向こうに美貌が隠されていると思うと、それだけでわくわくする。

舞楽面 納曽利 1面 江戸時代・17世紀 熱田神宮  こちらは緑色。以前に伊勢で舞うのを実際に見てもいる。

舞楽面 崑崙八仙 1面 平安時代・長久3年(1042) 三井記念美術館  「コロハセ」。嘴の目立つ顔。手向山伝来か。

いずれも個性の強い面ばかりで、しかも立体的である。
次は雅楽器。その来歴が魅力的。

琵琶 銘「実性丸」 1面 平安~鎌倉時代 三井記念美術館  東大寺―玉林庵―紀州徳川家。治宝公が勅許によりコレクションしたそうだ。

篳篥 銘「蘭」 1管 平安~鎌倉時代 国立劇場  アララギ。小さな笛、ミニリードというべきか。京の多(おおの)家が伝来。螺鈿の綺麗な扇形の箱がいい。

笙 銘「鹿丸」 1管 鎌倉時代 国立劇場  カシラに鹿と紅葉の蒔絵。可愛く造られている。

雛道具の楽器 五世 大木平藏 1具 昭和9年(1934) 三井記念美術館  さすが五世丸平。可愛らしいセットである。お琴も二面ある。わたしはよく知らないが片方はもしかすると「箏」かもしれない。

次は能面をみる。

翁(白色尉) 伝春日 1面 室町~桃山時代 三井記念美術館
三番叟(黒色尉) 伝春日 1面 室町時代 三井記念美術館
父尉 1面 室町時代 三井記念美術館
薄暗い空間に点在するガラスの中に浮かぶ老人の貼りついた笑顔、というものは怖い…

お能以外で翁など老人の面が現れるものをちょっと挙げる。
・映画「狂つた一頁」での幻想シーンで精神病院の下働き・井上正夫が騒乱の中で翁面をつける、たちまち「正気であること」から解放される。
・映画「千と千尋の神隠し」で汚れがすっかりとれた神様が翁面をつけていて、「善き哉」と言い残し飛び去ってゆく。
・マンガ「ごくせん」外伝で幽霊スポットの宿に出てくる主従の幽霊、じいやが翁面をつけていた。
・・・やっぱりこわいな。

能管 銘「音羽」 1管 江戸時代 三井記念美術館  象彦の蒔絵つき。
楽器蒔絵小鼓胴 伝千種 1口 江戸時代 三井記念美術館  楽器柄の蒔絵。
靫鉄砲蒔絵大鼓胴 銘「泰平丸」 伝折居 1口 桃山~江戸時代 三井記念美術館  靫と鉄砲が描かれている。

能の楽器は蒔絵コーティングしても音は変わらないのですな。

さて第二室へ。ここには一点、逸品がある。
能面 孫次郎(オモカゲ) 伝孫次郎 1面 室町時代 三井記念美術館  前期に行った際、非常に明るい表情に見えた。かすかに開いた口から何か言葉がこぼれて来ているかのようで、とても優しそうに見えた。わたしも挨拶をする。目元も明るく、とても幸せそうににこにこしているように思えた。
「神秘的な微笑」には見えなかった。これは不思議ではあるが、面と対するわたしの心模様が反映しているとしたら、そのときのわたしも幸せだったのかもしれない。
そして後期に行くと、あの前期のようなにこやかさはみられず、しかし美しさは変わることなくそこにあった。
横から眺めると、ガラスに映る顔もよく見えた。共に並び、前を見る。すると面から見た表情というものが私にも見えた。
これは鏡と同じで本人の見た顔なのだ。
我々がみているいつもの「孫次郎」の顔ではなく、孫次郎の見ている自分の顔をわたしも見たことになる。

茶室の横の空間に、「文楽人形三人遣い」の再現がマネキンでなされていた。
監修は桐竹勘十郎さん。四の切の忠信。

展 示 室 4   絵 画 と 芸 能
ここからは絵画が中心となる。

舞楽図屏風 6曲1双 江戸時代・17 ~ 18世紀 日光山輪王寺
舞楽図屏風 狩野探信 6曲1隻 江戸時代・17 ~ 18世紀 随心院
丁寧に描きこまれていて、とてもにぎやか。実際にはこんなに一堂に集まって同時にするのかどうかすらわたしは知らないが、絵として見るのは楽しい。
宗達の描いたあれが有名。
参考までに挙げよう。
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幼稚園のお遊戯にリノベしたのが山本太郎でしたなw

観能図屏風(翁) 8曲1隻 江戸時代・17世紀 神戸市立博物館 前期  太閤主催の天覧もの。女客が多い。椿の咲くころ。南蛮人らしき客もいる。

北野演能図屏風 4曲一隻 江戸時代・17世紀 国立能楽堂 後期  舞台では「船弁慶」の最中。松林が右手に続く。

様々な阿国歌舞伎図。
阿国歌舞伎図屏風 6曲1隻 桃山時代・17世紀 京都国立博物館 後期
阿国歌舞伎図屏風 6曲1双 桃山時代・17世紀 出光美術館 前期
阿国歌舞伎図屏風 6曲1隻 江戸時代・17世紀 出光美術館 後期
阿国歌舞伎図屏風 6曲1隻 江戸時代・17世紀 サントリー美術館 後期
表現はすべて違うのだが、当然共通するところも多い。細部を見るのが楽しい。餅屋さんが多いのがおいしそう。

四条河原遊楽図屏風 6曲1双 江戸時代・17世紀 個人(西尾市岩瀬文庫寄託)  これまた享楽的で楽しそう。射的で遊ぶ若い衆、円舞の連中、芝居を見てる客の中には女を口説いてるのもいる。外でもいちゃいちゃ。焙り餅がおいしそう。鴨川を泳ぐ奴もいる。
なんでもありの苦界ならぬ公界が広がる。

四条河原図屏風 6曲1双 江戸時代・17世紀 東京国立博物館 後期  懸想文売りの男ものぞいている。様々な職種の人間がいることである種のリアルさがみえるようだ。

上野花見歌舞伎図屏風 伝菱川師宣 6曲1双 江戸時代・17世紀 サントリー美術館 前期  時代が丁度そんな感じやな。

古狂言後素帖 4帖 江戸時代・17世紀  文琳型の色紙に1シーンが描かれている。靭猿、朝比奈、恵比寿毘沙門、汐汲、清水鬼、獅子踊り、宝の虫干し、砧、鬼三太、女山賊、…全く知らないものも少なくない。靭猿の小猿が可愛い。

展 示 室 5   歌 舞 伎 ・ 文 楽( 錦 絵 ・ 文 楽 人 形 首 )
浮世絵を大いに楽しんだ。

芝居きやうげんの図 1枚 寛保(1741 ~ 44)頃 国立劇場  浮絵風な「暫」の図。
浮絵歌舞妓芝居之図 歌川豊春 1枚 安永2年(1773)頃 国立劇場  「対面」。
桐座場内図 歌川豊国(初代) 3枚続 寛政7年(1795) 国立劇場  ここは市村座の仮櫓だそうな。
江戸両座芝居町顔見世之図 渓斎英泉 1枚 天保12年(1841) 国立劇場  にぎやかな図だが、火事でダメになったそう。
東都二丁町芝居 葛飾北斎 1枚 天保13年(1842)以前 国立劇場  市村座。ああ、ここがか。
中村座内外の図 歌川豊国(初代) 6枚続 文化14年(1817) 国立劇場  バタバタと忙しそうなところが何とも言えずいい。
中村座三階之図 歌川国貞(初代) 3枚続 文政7年(1824) 国立劇場  この絵は特に好き。百日鬘の幸四郎がいる。
東都繁栄之図 中村座 歌川豊国(三代) 3枚続 嘉永7年(1854) 国立劇場  人であふれる。「酒呑童子」の芝居か。

役者絵がかなりたくさん続く。見ているだけで楽しい。
初代市川雷蔵 鳥居清満(初代) 1枚 宝暦11年(1761) 国立劇場  鼓を持つ義経。

三代目沢村宗十郎、六代目中山小十郎、二代目小佐川常世 勝川春章 1枚 天明5年(1785) 国立劇場
四代目岩井半四郎の化粧坂少将、初代坂東三津五郎の朝比奈の三郎、二代目市川門之助の曽我の五郎 勝川春好 1枚 安永8年(1779)頃 国立劇場
団扇絵の元らしい。

五代目松本幸四郎 歌川豊国(初代) 1枚 文化6年(1809)頃 国立劇場  四天に素網のかっこよさ。刀を抜くところ、鼻高幸四郎のカッコ良さが光るが何の芝居かな。

大当狂言内 幡随長兵衛 歌川国貞(初代) 1枚 文化12年(1815)頃 国立劇場  これも鼻高幸四郎。

五代目松本幸四郎、七代目市川団十郎 歌川国貞(初代) 1枚 文化14年(1817)頃 国立劇場  卒塔婆ひき。四天に素網の二人。かっこいいなー。

三代目関三十郎の直助権兵衛、八代目片岡仁左衛門の民谷伊右衛門、五代目坂東彦三郎のお岩の亡霊・小仏小平亡霊・佐藤与茂七 歌川豊国(三代) 3枚続 (仕掛け絵)文久元年(1861) 国立劇場  隠亡堀のところで戸板返しの仕掛け。
この浮世絵は本当に人気で、同じ構図・仕掛けのが後々まで出た。

二代目片岡我童の田宮伊右衛門、五代目尾上菊五郎のお岩の霊 楊洲周延 3枚続(仕掛け絵)明治17年(1884) 国立劇場  怨みの表情を見せる瓢箪がいっぱいぶら下がる蛇山庵室。提灯にお岩さんの青い顔。瓢箪なのか鹿ケ谷かぼちゃなのかわからんような所がまたよろしい。

楽屋錦絵二編  歌川国貞(初代) 1枚 文化9年(1812)  シリーズもの。10枚ほどが出ていた。
こういうのを見るのがまた楽しくてね。当時の人々なんかもっとわくわくしていたろう。
メガネをかけたのやあぶな絵を見てるらしいのや地口行燈が吊ってたりとか色々。

大江巳之助の人形のカシラがずらり。一つだけ違うのもあるか。
この中で一番よかったのが両面の玉藻の前。狐と両面の娘の顔なんだが、横顔の綺麗さにどきっとした。
正面も綺麗。優しいだけの娘ではなく、きりっとしたところがとてもいい。
「修羅雪姫」を人形にしたらこうなるかもしれない。

展 示 室 6   演 芸( 錦 絵 )

曲枕の芸 花桐繁十郎 鳥居清長 1枚 天明3年(1783)頃 国立劇場  小さい木の枕での芸。

大坂下り軽業太夫 早竹虎吉 歌川芳虎 3枚続 安政4年(1857) 国立劇場  月からウサギや少年が飛びだしてくる。実際の芸はわからないが、とても賑やかで楽しそうで不思議な作り。この絵を見て実際に行った人も少なくはなかろう。

曲独楽 竹沢藤次(為朝) 歌川芳宗(初代) 横位置ヨコ2枚続 弘化元年(1844) 国立劇場  強弓を引くというのに合わせての芸の他にもいろいろ。

曲独楽 竹沢藤次(怪談) 歌川芳宗(初代) 横位置ヨコ2枚続 弘化元年(1844) 国立劇場  かさねの顔がのばーっ。井戸もあるしでなかなかムードがあっていい。

展 示 室 7   歌 舞 伎 ・ 文 楽 ・ 琉 球 芸 能 ・ 民 俗 芸 能( 衣 裳 ・ 文 楽 人 形 ・ 仮 面 ・ 道 具 等 )
歌舞伎の衣裳がずらり。昔の三越は貸衣装もしていたそうだ。

紫地唐花唐草石畳文繻珍直垂 九代目市川団十郎着用 1領 明治時代・19世紀 株式会社三越伊勢丹  南北朝風に拵えたそうな。大森彦七の衣裳。

黒繻子地雪持竹南天雀文様打掛 五代目中村歌右衛門着用 1領 昭和時代・20世紀 株式会社三越伊勢丹 前期  政岡の。

白木綿地雲龍波濤文様縕袍 五代目中村歌右衛門着用 1領 昭和時代・20世紀 株式会社三越伊勢丹 後期  「山門」の五右衛門。五世歌右衛門は鉛毒で手足が不自由になったけれど立派な大役者で、座ってのこの芝居は本当に錦絵のようだったそうな。

黒繻子地正月飾文様傾城打掛 六代目尾上菊五郎着用 1領 昭和時代・20世紀 株式会社三越伊勢丹 後期  これは揚巻。
本人はやりたがったそうだが、やはり義兄のがよろしかったでしょうなあ。

黒綸子地雪持松文様羽織・着付 六代目尾上菊五郎着用 1領 昭和時代・20世紀 株式会社三越伊勢丹 前期  松王丸。菊五郎の松王と初代吉衛門の源蔵が素晴らしかったことはよく聴いている。衣裳から偲ぶ。

黒地呉絽服連地雲龍宝尽文様唐人服 七代目松本幸四郎着用 1領 大正時代・20世紀 株式会社三越伊勢丹 前期  「毛剃」。龍が可愛い。

黒綸子地庵木瓜文様羽織・着付 七代目松本幸四郎着用 1領 昭和時代・20世紀 株式会社三越伊勢丹 後期  「庵木瓜」という紋なんて初めて見たが可愛いな。「対面」の工藤。

木綿地龍丸入格子文様羽織・着付 七代目松本幸四郎着用 1領 昭和時代・20世紀 株式会社三越伊勢丹 前期  竜の顔がいい。

黒繻子地竹雀文様羽織・着付 七代目市村家橘着用 1領 昭和時代・20世紀 株式会社三越伊勢丹 後期  刺繍の雀たちが愛らしい。

寄せ裂着付 七・八代目市川中車着用 1領 大正時代・20世紀 国立劇場  俊寛。ツヅレなのだなあ。

文楽人形の構造(裸人形) 1体 現代 国立劇場  これは大阪歴博にも似たのがある。勉強になっていい。

人形着付一式 武蔵坊弁慶 1体 現代  国立文楽劇場  立派。
人形着付一式 初菊 1体 現代  国立文楽劇場  可愛い。

追儺の鬼面 7面 室町〜江戸時代 長田神社  怖い顔やなー!アクが強いわ。もうすぐ節分ですなあ。

榊鬼の面、衣裳(上・下)、持ち物(鏡・まさかり)1組、 伴鬼の面 1面、ねぎ・みこ・翁の面 3面 愛知・東栄町(東栄町立花祭会館保管)  地方の芸能としての儀式の装束はとても興味深い。

民俗芸能スケッチ帳 片山春帆 全15冊及び未装本の内 大正~昭和時代・20世紀 国立劇場  よくぞこれだけのものを写して残した、とただただ感心。貴重なノート。おお、琉球の「執心鐘入」の絵もある。
そうそう、「執心鐘入」は近々国立劇場で上演されるそうです。

水色地牡丹鳳凰菖蒲文様紅型衣裳 1領 現代  国立劇場おきなわ
白色地松皮菱繋ぎに檜扇団扇菊椿文様紅型衣裳 1領 現代  国立劇場おきなわ
小道具 花笠   1点 現代  国立劇場おきなわ
小道具 綛枠 1組 現代  国立劇場おきなわ
可愛い。女優の仲間由紀恵さんは琉球舞踊の名手だそうな。

江戸上りの図 (転写本) 1巻 近代  国立劇場おきなわ  虎に羽のついた絵の幟を持っているのが面白い。

ショップで仕掛け絵本というか、芝居の絵本があった。忠臣蔵。飛び出す絵本。こういうのも楽しいな。

楽しい展覧会だった。
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