美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

「白描の美 ―図像・歌仙・物語―」 (前期)

大和文華館で特別展「白描の美 ―図像・歌仙・物語―」展をみる。
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白描といえばコトバンクから引用すると
「東洋画で、墨1色を用い、筆線を主体として描く技法。また、その絵。中国では唐代に発達。日本では平安時代以降に盛行し、鎌倉時代には繊細な美しさを持つ白描大和絵様式の絵巻類がつくられた。」
という定義になる。

わたしが最初に見た「白描」はマンガだった。
画力の高い作家のそれもまたこの「白描の美」の系譜に連なるものだと思っている。

石川淳の小説にも「白描」がある。1939年の作で舞台は1936年。
作中に現れるクラウス博士はブルーノ・タウトをモデルとしている。
(1936年のタウトは熱海の日向邸を拵えている)
そのクラウス博士の肖像画を描こうとしても結局色は載せられず白描になってしまうというエピソードがある。
「…それはただの白描」
台詞として現れるのはここだけだったように思う。
しかし小説のタイトルはやはり「白描」なのである。
石川淳の小説とこの展覧会とは何もリンクしていないが、わたしはあの小説を思い出すことを止めなかった。

展覧会の趣旨をここに引用する。
「墨線を主体にモチーフを描き出す白描は、平安時代後半、様々な仏の姿を表した白描図像に盛んに用いられました。師資相承の中で密教僧の間に伝わった白描図像は、僧侶自身が転写することにより表れた楚々とした素朴な味わいがあります。やがて、図像の集積が進むと、高い画技を持った画僧や専門的な技術を持った絵仏師が携わるものも多くなり、観賞性の高い白描図像が制作されます。白描の持つ純粋で静謐な美しさには、彩色画とは異なる価値が見出され、歌仙や物語を描く技法の一つとしても展開します。
本展覧会では、白描の描法が用いられた図像・歌仙絵・物語絵を合わせて取り上げることで、画題による描線や画趣の差異、あるいは共通性を具体的に明らかにし、白描画特有の美意識に迫ります。また、中世の白描図像から幕末のやまと絵作品にまで視野を広げることで、時代による描き手や美意識の違いによって白描の技法がどのように理解され、表現と結びついていくのかを考察したいと思います。著色画や淡彩画とも異なる、白描画の魅力をご紹介します。たおやかな描線の美をお楽しみ下さい。」


ということで白描の世界へ向かう。
<図像>
高僧図像 観祐 1163 大東急記念文庫  解説が興味深かった。
・天台宗を中心に30人・善無畏から達磨から空海から円仁へ(「台密」の祖師が多い) ・真宗小野流の僧・観祐が石山寺で写した・油紙を使用。
わたしが見たときには義操、空海のあたりが出ていた。そこから慈覚大師の円仁あたりまで。円珍の智証大師について「三井の祖師」とも記されていた。こういう説明があるにしても、この時代ではすでに何らかのパターンがあったのだろう。

不動儀軌 兼胤 1245 奈良博  これも解説が面白い。それによると天台宗も「東密」の図像をこうした形で収集していたとか。だからこの兼胤も鎌倉で写したそうな。とはいえ原本は天台宗に伝わっているそう。
なんだかこうした事情と言うものが面白い。
紙は「宿紙」のような灰色。リサイクル用紙。シュクシ。
そこに色んな不動象のパターンが描かれていて、中には四面四臂の不動も。顔と首の間には獅子までいてたいそうにぎやかな不動。

十五鬼神図巻 13世紀 大和文華館  久しぶりに見た。赤ちゃんの夜泣きなどの原因となる鬼たち大集合図。トリ、フクロウ、蛇らの他に色々。
赤ちゃんをあやすのに困っている女たちの絵もある。最後に乾闥婆がいてにらみを利かせている。

<歌仙>
時代不同歌合絵(白描上畳本)小野小町・正三位家隆 13世紀  うつむく女の口元からは微かに鉄漿が見える。相対する公はどっしり座っている。
歌人同士の取り合わせとわかってはいるが、なにやらそこにも「わけ」がありそうな様子にも見えるのが面白くもある。
他にも同じシリーズで延喜帝(醍醐帝)、蝉丸の絵もある。
蝉丸は目を閉じ僧形で袈裟を付け、手には数珠。

時代不同歌合絵 蝉丸 15世紀 徳川美術館  こちらの蝉丸は睫毛の長い僧形のヒトで手には扇子。
なかなか菅楯彦クラスの美少年蝉丸はおらんのう。

釈教三十六歌仙絵巻 南北朝時代 東京国立博物館  達磨大師と16歳の厩戸皇子、こちらは和歌はなし。菩提僊那と行基。取り合わせが結構面白い。
達磨のアウトライン、行基の口に朱線が入るのもいい。
いずれも背景なし。

釈教三十六歌仙絵巻断簡 弘法大師 南北朝時代 大和文華館  こちらは前掲のとはまた違うもの。大師のいるのは海の近くの御堂も傍らの木の洞。三鈷杵を持っている。松や土坡がうねる。物語絵のようにも見える。

釈教三十六歌仙絵巻断簡 喜撰法師 南北朝時代  だらけたタレ目のおっちゃん。
僧正聖宝 アタマが三つの山に分かれているところと言い、下がり眉と言い、鼻の形顎の形と言い、横山光輝が描いたのかと思いましたわー
印を結んでいるらしいがよくわからない。
 
<物語>
華厳五十五所絵巻断簡 13世紀 東博  
・文殊菩薩 善財坊やが林の中で文殊菩薩の説法をありがたく聴いているところ。他に七人いる。仏たちは蓮台。
・普賢菩薩 仏も多いが聴衆も多い。優しそうに仏が先に坊やに話しかけている。
善財坊やの旅の始まりと終わり。

金光明経第四残巻(目無経) 12世紀 東博  絵は正直なところあまりよくわからないが、ところどころに人体らしきものが見える。目無しどころかのっぺらぼうである。ただし女の手は可愛い。

伊勢物語下絵梵字経 13世紀 大和文華館  筒井筒、水鏡、宇津山。様々なシーンが描かれている。

伊勢物語下絵梵字経 13世紀 大東急記念文庫  帝を裏切る恋、女は蔵に閉じ込められ、その蔵の外で男が笛を吹く。
源氏より昔男の方がやらかしすぎているな。

源氏物語絵詞 鎌倉時代 徳川美術館  匂宮の従者が外で待つところ。
これと元は粘葉製本の仲間だったのが大和文華館にある。
源氏物語浮舟帖 室内にいる女たちの髪のうねりがとても魅力的。
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白描でいちばん魅力的なのは実は女の長い髪かもしれない。

隆房卿艶詞絵巻 鎌倉時代 国立歴史民俗博物館  詞書は金泥も。山らしきものが描かれている。絵は白描。庭の木を見る男女。松や紅葉や梅、それらが葦手に。2シーンが出ていた。

尹大納言絵巻断簡 14世紀 五島美術館  室内にいる男女の絵なのだが前後がわからないからどんな状況かがわからない。しかし案外ただ遊ぶ相談をしているだけかもしれない。←「紫式部日記」の絵からどうもそんなことを思うようになった。

善教房絵詞 鎌倉時代 サントリー美術館  模本を岡田為恭が描いている。どちらも展示されている。
まじめな善教房がある屋敷内でいろいろ説くのだがだれも聴いていない。
女たちの生き生きした様子がいい。魚をさばいたり文句を言ったり酒を飲んだり。こういうのも楽しい。

西行物語絵巻 室町時代 サントリー美術館 1巻を見た。まだ佐藤さんの時代。けっこうスピーディーな展開。横に物語が進むのだが空間も断絶していない。時間と空間の処理がいい。

源氏物語絵も多い。
源氏物語絵巻 須磨 室町時代 石山寺  素朴な絵柄。
どこの場面かわからないが枯れ蓮のえもよかった。

花鳥風月物語絵巻断簡 この話も思えばそれがどうしたのかと思うが、絵が可愛いからいい。
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源氏物語歌合絵巻断簡 室町時代 石山寺  藤壷は伏し目がちで秋好中宮は上目遣い。細かいところだが表情の違いもはっきりしてきた。

いよいよ職業画家の絵が現れた。
源氏物語図屏風 伝土佐光則 17世紀 東博  丁寧な絵で詞書は当時の公卿たちによるもの。金泥の雲の使い方がいい。

源氏物語画帖 伝住吉具慶筆 17世紀 根津美術館  こちらも細密で丁寧。御簾もいい。夕顔の家の様子も細かい。十二単の文様も素敵。

伊勢物語図屏風 17世紀 根津美  49シーンが描かれている。盛りだくさん。目つきはちょっとやらしい昔男くん。

竹取物語図 田中訥言 19世紀  室内で媼が優しく幼い姫を見守る。翁も傍らにいる。高畑勲さんの「かぐや姫」を思い出した。

藤原師長図 田中訥言 19世紀 琵琶べんべん。微かに色がついているがその薄さがまた上品でよい。
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納涼図 岡田為恭 19世紀 根津美  泉殿で老人、少年、少女がいる。
釣燈籠がいい。

謌神図 吉川霊華 1927  かしん・ず。上代風の女神。とはいえ装束は十二単で髪のみ上代風。松がゆったりと伸び、水面も静か。傍らには青銅鏡がある。
近代絵画だが心は古代のもののようにもみえる。とても美麗。

白描の面白さを堪能した。
後期展示も見に行こうと思う。
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