美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 **自宅でログイン出来ないので、現在「遊行七恵、道を尋ねて何かに出会う」で感想を挙げています。

万葉に詠う ―「額田女王」挿絵原画を中心に―

松伯美術館で久しぶりに松篁さんの万葉の世界に触れた。
万葉に詠う ―「額田女王」挿絵原画を中心に―
イメージ (22)

松篁さんの「額田女王」の挿絵を中心にした展覧会は2010年以来。
「万葉に遊ぶ―上村松篁の描いた万葉世界を中心に―」展
当時の感想はこちら

その時にコンパクトな図録も購入して鍾愛しているが、それでも原画を見る悦びは捨てがたい。
いそいそと雨の中、出向いた。

井上靖の小説「額田女王」は昭和43-44年にサンデー毎日で連載された。
松篁さんは京都の自宅で毎日忙しくも楽しい日々を送ったそうだ。
前回の展示でもそうだが、今回も松篁さんの描く古代世界の美と儚さにのめりこんでしまった。

tou640-1.jpg

前回までは描かれた情景に夢中だったが、今回は少し細かいところに目を向けた。
松篁さんの本領たる花鳥画を挿絵で楽しむ、ということをしたのだ。
現代と違い万葉の時代は鳥も植物もすぐ近くにいた。
だから人物の背後に飛び立つ鳥や揺らぐ植物があっても、背景処理または演出効果というよりも、「ああ、きっとこんなだったろうな」という納得が活きるのだった。

イメージ (46)

・一人立つ額田女王の背後に飛ぶ鳥たち。彼らの動きが彼女の心の動きを示す。
・神の声を聴く力を持つだけに、時には一人星の下に座ることもある。星の煌めきが彼女に何かを伝える。
・雪の中、鷹がキジを襲う。水墨画などで時に見かける画題だが、物語の挿絵にこの情景が加わることで、話の展開に不穏さを感じる。
・盂蘭盆会、蓮取り舟に乗る女たち。唐とほぼ同じことをしている。労働であり、また優美さを見せる情景となる。
・桔梗の頃、大海人皇子から中大兄皇子が自分を欲しがっていることを聞かされる額田女王。
・大海人から中大兄のもとへ。
・大友皇子と話す額田女王、その向こうでは楽しそうに娘の十市が高市皇子と遊んでいる。
・観月の宴、華やかな女たちの輪から離れて一人座す額田女王。
・十市を勧められるままに大友皇子に嫁させる。散歩する額田女王に向けて怨みの小石を投げつける高市皇子。
・木蓮の下、輿から現れる額田女王、そこへ寄り来る大海人皇子。
・戯れ歌が戯れにならぬことに気づき、一人不安を抱える額田女王。
・法隆寺全焼
・空を行く天智天皇、嘆く女たち、一人俯く額田女王。
・・・

イメージ (23)

様々なシーンが美しい一コマとなって表現されている。
物語絵としても美人画としても花鳥画としても楽しめる挿絵だった。
イメージ (45)


「美人画はお家芸か、かくし芸か」と称えられた松篁さん。
母上とはまた異なる美人たちは万葉の時代にそぐう明るい表情を見せたものが多い。
壁画「万葉の春」のための下絵や写生をじっくりとみる。
実物大サイズの美しい顔はやはり桃の花びらのような美しさを見せていた。
近代的な顔立ちではあるが、それでいていにしえびとであることをも感じさせる。
そして壁画「万葉の春」がここにある。
素晴らしい絵だといつもいつもときめき、この時代に憧れる。
イメージ (47)

松篁さんの思い出話が楽しい。
挿絵の中で、女のもとへ向かおうとする天智天皇がもののけに脅かされるシーンがあるが、さてその時の衣服がわからない。
上衣はともかく下は何を履いているか。
考えた末に松篁さんは所蔵する中国の春画の画集を開くが、明確な答えはない。
結局柱に隠れる天智天皇を描いたわけだが、描いてから下袴のありようを専門家から教わったそうだ。
風俗考証にも丁寧に当ったのだが、話が話だけに面白い。

74年頃に文芸春秋の表紙絵も担当していたそうだが、そこにも万葉人が描かれている。
清楚でいて馥郁たる美がある。

松篁さんの一枚絵をみる。
春 萌黄色を背景に顔を上げるキジがいる。アザミかなにかをじっと見る。
キジは何かを考えているような顔つきでその草花を見ているが、松篁さんの鳥や小動物たちは皆なにかしら物思いにふけっているようなところがある。
イメージ (43)

下照る道 緋桃の下に美しく清楚に微笑む。

松篁さんはお年を召してから銀潜紙を愛用されるようになったとか。
小品によってはそれが銀潜紙なのかそうでないのかわたしにはわかりかねる作品もある。
だが何であれ松篁さんの絵は素晴らしい。

丹頂 対の作品でそれぞれに鶴がいるが、胡粉でキラキラしい。芦が巨大なシルエットを見せ、全体的にグレーのトーンに一点の赤が眼に残る。

春輝 特に好きな作品。薄紅桃に山娘というヤマドリが楽しそうにいる風景。

松園さんの唐美人もいろいろ。
楊貴妃、楚蓮香を見比べると、楊貴妃のふくよかさは松園さん本来の絵ではないことに改めて気づく。
たくさんの下絵、写生などを見ても松園さんは圧倒的にほっそりした女性を描いている。
楊貴妃はふくよかで、玄宗皇帝からも「お前が踊ると床が抜ける」というようなジョークをいわれ、観ててごらんなさい、とふくよかさをより際立たせるような踊りを見せたこともあるという。
彼女の登場以来唐美人の条件が変わった、というのも凄い話だ。

スケッチや模写の中に後漢の班婕妤(倢伃)もいるし、誰かをモデルにしたほっそり楊貴妃もいる。
しかし何よりも驚いたのはその当時の現代美人の絵だった。
シャツにズボンの短い髪の若い女がいた。顎に手をやりキツイ眼で何かを見ている。
模写なのかモデルなのかなんなのか。
とてもかっこよかった。

松園さんは菱田春草を尊敬していた。
彼に頼んで描いてもらった「霊昭女」の絵がある。
丸顔の清楚な娘。明治の末の丸顔、大正の丸顔ブームの走りかもしれない。

最後に淳之さん。
大極殿の壁画の試作の四神図があった。
百虎は可愛いが、玄武はなかなかコワい。そして青竜は青銅の竜でもあり、ワイバーンでもあるようだった。
イメージ (44)

心地よい展覧会だった。1/29まで。
関連記事
スポンサーサイト
最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

フリーエリア