美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

シャセリオー 19世紀フランス・ロマン主義の異才

西洋美術館でシャセリオー展を見た。
「19世紀フランス・ロマン主義の異才」という副題である。
文学・音楽・美術、とロマン主義が席巻したその当時に憧れる。
シャセリオーの作品をこんなにたくさん一度に見ることが叶うとは本当に嬉しい。
そして彼のみならず彼に影響を受けた象徴主義のモロー、シャヴァンヌ、そして師匠のアングル、友人のデ・ラ・ペーニャらの作品も併せて展示されている。
とても豪勢な内容なのだった。
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1.アングルのアトリエからイタリア旅行まで
16歳の自画像がある。 一目見て「女優の高畑充希に似てるな」と思った。
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フランス人の父とクレオールの母との間に生まれた子のひとりだという。
父はプエルトリコの領事などもしている。
お気の毒に若いうちに仕事上のあれこれで自殺されたそうだ。
テオドール本人も長命ではないが、しかし温かな家族や優しい友人らがいて、師匠とは芸術上の問題で袂を分かったが、あんまり難儀な人間関係はなかったようである。
(ただし、女性関係は措く)

リストに沿って感想を記そうとしたが、年代を飛び越えて印象的な位置に展示されている作品もある。
また要所要所に手紙やパスボードなどの資料もあり、それらも興味深かった。


お仲間の絵がある。同じ額縁で同じサイズの小さめの絵。
ナルシス・デ・ラ・ペーニャ 木陰に立つ若い女
テオドール・ルソー 小道に立つ羊飼い娘と犬 
もしかするとモデルと場所は同じところかもしれない。そんな感じがある。
夕暮れの中、消失点は中央のペーニャ、小さいながらも白犬だとわかるルソー。
キモチが優しくなる。

いよいよ怒涛のロマン派なのが出てくる。アングルの弟子だけに描写は正確だがドラマチックである。

放蕩息子の帰還 右手に赤衣の父と、左にはその父に取りすがり、やや上目使いの次男。ただし目は本当には何処を見ているのやら。
わたしは長女なので弟妹のこういうしたたかさ・甘えというものがイヤだ。

黒人男性像の習作 アングル先生の依頼を受けて色んなポーズを描き、ついでに言われた以上の仕事をするシャセリオー。
おお・・・空に全裸黒人男性が浮かんでいます、という情景。手だけ浮いてたりもするのはシュール。
いい身体。ときめくわ。
で、これを元にしたアングル先生は「サタン」にしてしまうわけです。
鉛筆描きのが出ていた。

若いシャセリオー、画力は最初からかなり高かった。
オリーヴ山で祈る天使 21歳でここまで描くか。大きな天使とキリストとが密着。

物語性が高くなる絵がだんだん出てくる。
アクタイオンに驚くディアナ 女神は後姿。他にも何人もの女たち。
もう早やアクタイオンはほぼ上半身は鹿になり犬たちに取り囲まれている。
鹿男あおによし ならぬ 鹿男あなかなし。
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石碑にすがって泣く娘(思い出) フィアンセの墓に取りすがる。小さな花がひっそり咲くのも哀しみを増す。知人の娘さんを描いたものだそう。

イタリアツアーでだいぶ意識も変わったらしく、絵もどんどんイキイキしてくる。
岩に座るナポリの若い漁師 まだ少年のような肢体。日焼けした肌、エキゾチックさとリアリズムとがある。

ポンペイの町を描いたものもいい。現地の人々を描いた絵はいずれも彼らの個性が強い。
母子像もあるが、やさしい空気が漂う。

2.ロマン主義へ―文学と演劇
いよいよ20歳になりましたが、早世するだけに既に完成されている。

女性半身像 むっとした女の表情がシンプルでいい。わたしもついつい写したが、この顔は描きやすそうな雰囲気がある。

見捨てられたアリアドネ テーセウスに置き去り、叫びながら彼を探す様子がリアルに迫ってくる。

アポロンとダフネ 両腕を上げたダフネは取りすがるアポロンをもう恐れず、なにも忖度することなく目を静かに開くだけ。
身体は半ばまで木に変わりつつある。アポロンの嘆きは遠い。
この構図は気に入ったか、同一のものがあり、更にモローもこれを参考にしたか、位置は逆だが似た構図のものがある。
並べてあるので比べることが出来るのも面白い。
モローとシャセリオーは仲良しだったのだ。
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モローは神秘的な絵が多いが、先生として生徒をとても大事にして慕われたし、こうした友人関係にも恵まれていた。
母親とのつながりは強いが、実質婚していた人もいたしで、そんなに偏屈な人ではないのだった。

他にルドン「目を閉じて」もあった。

シャセリオーはサッフォーもいくつか描いている。絶望的な状況だが、彼女たちの存在感は強い。

ヘロとアンドロス(詩人とセイレーン) 構図は結構シュール。これは女のもとへ灯りを頼りに通う男の話で、あるとき灯りがなくなり死亡、女も死ぬという物語。しかし女は冷たい顔で男を見ている。そこから二つ目のタイトルが出てきたのかもしれない。
元の物語は日本でもよくあるもので、佐渡情話、椿の乙女などがある。

面白いのは連作「オセロ」
これは本当にドラマチックで面白かった。
オセローを取り巻く人々の中には「プロスペロー」みたいなのもいる。イアーゴーが案外いい。
デズデモーナとその傍らにいる女の対比もいい。名場面に沿って物語は進む。
とうとう妻殺し。ムーア人の男の疑いの根にはコンプレックスがあった、それが表情にある。
枕落としで妻殺害、そして自身も破滅。

モロー 牢獄のサロメ ここにこの絵があるのも意味深だ…

ドラクロワ 連作「ハムレット」も並ぶ。たいへん嬉しくなる。
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オフィーリアの死

モローのサロメの関連習作がたくさんあるのが嬉しい。
それにしてもいかにモローがこの題材に力を入れていたかがよくわかる。
小さなシーンばかりだが、ドラマティックな様相を見せている。

シャセリオーはマクベスも描く。ドラクロワも同じシーンを描く。
マクベスが三人の魔女から予言を与えられるシーン。
かれはとてもマクベスが好きだそうだ。
そういえばわたしが最初に知ったシェイクスピアもマクベスだった。

気絶したマゼッパをみつけるコサックの娘 こういうのを霊威の高い娘と言うべきなのだな。
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アリス・オジーという美人に翻弄されるシャセリオー。
ヒトの事だからあまり言えないが、色々と気の毒。
しかしそれで名作が生まれたのなら、彼の苦しみも多少は報われた…のか。

泉のほとりで眠るニンフ これがアリスの肉体。素晴らしい。

クールベ 眠れる裸婦 これも彼女なのかどうかは知らない。一人寝のあれね。

それにしてもたいへんロマン主義。ドキドキする。

3 画家を取り巻く人々
ここでパリの市街地マップがでる。
シャセリオーとお付き合いのある人々の住まいが表示されているが、おおー、友人知人の多いこと。
ヌーヴェル・アテネ地区はロマン主義だらけ。
素敵。

そしてシャセリオー描く肖像画が並ぶ。
チラシに選ばれた黒髪の美女もいる。たいへん綺麗。
この目がまた魅力的。

友人たちもみんな個性的。最後まで彼に親切だった人、ちょっとシニカルな人、色々特性が顔に出ていた。

4 東方の光
オリエンタリスム。エキゾチックな世界。
アラブの宝飾品や室内履きのスケッチがいい。
アラブの女性たちの魅力は深い。
眼に魅せられる。

コンスタンティーユのユダヤ人女性 すごい目。この目に惹かれて描いたのではなかろうか。

ドラクロワ、ルノワールに至るまでのときめきのオリエンタル。
西洋美術館所蔵の名品が並ぶ。

5 建築装飾―寓意と宗教主題
シャセリオーの大仕事の一つ、そして失われてしまった建物。
オルセー駅の前身には会計検査院があった。
そこの大階段のための巨大な壁画。
その為の素描がまだ残されているが、それをみるだけでもいかに立派な作品だったかが偲ばれる。
全く惜しい。

最後にモロー、シャヴァンヌらの作品が現れたが、それは彼の死を悼んだものも含まれている。

シャセリオーの宗教的主題の作品が最後に来たのもなんとなくせつない。

ロマンティックで本当に素敵だった。



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