美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

追悼水木しげる ゲゲゲの人生

大丸京都と高島屋京都、同じ四条通にある二つの百貨店で同時期にすごくいい展覧会が開催されている。
烏丸の大丸では「追悼水木しげる ゲゲゲの人生」展。
河原町の高島屋では「ウルトラセブン 放送50周年記念 モロボシ・ダンの名をかりて」展。
どちらも昭和の子どもたるわたしを直撃する、いい展覧会。

道順で先に大丸に行ったのでそこから。
とにかく大混雑。老若男女でぎっしり。
イメージ (252)

水木サンの子供時代はいくつかの著作から「ああ、こういう子供だったのか」と知ったわけだが、そのあまりの絵の巧さにびっくりした。
童画が特に素晴らしい。文字の大きさをあえて変化を付けるとこらは武井武雄や初山滋の世界に近い感じがした。
絵そのものは川上四郎のノスタルジックな雰囲気もある。
しかし絵柄の多彩さにも驚いた。
小学生で個展をした(教頭の勧めで)ときに新聞に取り上げられたのも納得。
チラシの絵はパステル画だが水彩画とペン画が特によかった。

コレクションの一端も出ていた。へその緒入りの箱がある。それをみて初めて歌舞伎や文楽の「ほぞのお書き」というものの実態がわかった気がした。
あとスクラップブックの凄さにも驚いた。
中でも様々な新聞のロゴマークを集めたものは一見の価値ありだと思う。
こういうコレクターだからこそ、無限の知識が集まるのだ。

展示は生涯の紹介と作品展示のみならず、水木サンの言葉を折々に挙げていて、それがポイントになっている。

やがて戦場へ。
このあたりの絶望感がひしひしと伝わってくる。
すっきりした男性二人の軍装姿の絵がある。少尉になったお兄さんと二等兵の水木サンである。
ラッパ兵としてだめだと思い転属を願い出たがために、国内から南洋へとばされることになった。戦後にそのことを知る水木サン。
人間の運命なんてどこでどうなるか知れたものではないのだ。
水木サンの手記、英和辞典、ゲーテの本などがある。
ゲゲゲのゲーテなのだ。

戦後しばらくしてから描いた戦記マンガと「総員玉砕せよ!」の原画がある。
基本的に原画は2頁展示である。
しかしこの「総員玉砕せよ!」はもう少し多い。
展示の多いことの意味をよく考えねばならない。

またパプア・ニューギニアでの現地の人々との交流を描いた絵もある。
気に入られて歓待された、という話は以前にも読んだが、これも水木サンの人徳というか魅力がなせるわざだろう。

奥さんとの新婚時代の貧しすぎる住処の再現があった。
水屋には軍艦の模型がある。
夫婦で仲良く模型作りに励んだことは「貸本末期の紳士たち」にも描かれている。そして小さなちゃぶ台には黒くなったバナナが大量に…
水木サンはバナナを食べる時の擬音が「ガーッ」だったように思う。
なんでやねんと思いながらもそれが意識に残り、バナナを見る度「ガーッ」と食べる水木サンの絵を思い出す。
食べ物への執着は今のグルメマンガとは一線を画し、よりリアルなナマナマしさがある。
水木サン、杉浦茂、この二人の「ものを食べる」シーンはとても印象的。
ああ、どちらもしげるだ。

貸本時代の作品がずらり。
まさかのバレエマンガまであるがな。
すごい幅広いが、それはあくまでも「描かされたもの」だそうだ。
いくつかは読んだものもある。

さて「墓場鬼太郎」がある。可愛くないが、これが可愛くなるのは「ゲゲゲ」以降である。
それにしてもすごい貧乏暮らしである。
ドラマ「ゲゲゲの女房」にもよく描かれたが、さすがにドラマは華やかな美男美女で演じられた上、当時の貧乏さはちょっと再現できないようだった。
とはいえ、新婚ほやほやの水木サンの写真を見ると、TVで演じた向井理に似た感じがあった。その一枚だけそう見えた。
貧乏な中でも奥さんは偉かった。そして水木サンは奥さんと二人の娘さんを大事にした。
そのあたりがとても好ましい。

イメージ (253)

いよいよスポットライトが当たる時代がやってきた。
「テレビくん」の成功である。原画は、インスタントデコレーションケーキを見たテレビくんが「今日のおやつにするか」とテレビに半分入り込んだときに足を掴まれるシーンが出ていた。
わたしは最初にこのマンガを読んだとき、マンガだとわかっているのに「おいしそう、いいなー」と思ったものだ。

「悪魔くん」は松下一郎の方のが紹介されていた。
山田真吾の方はイラストが出ていた。
話の面白さは松下一郎の方だが、可愛さは真吾に尽きる。
私見だが、水木キャラで唯一の美少年ではないかと思っている。
その真吾と百目の子とがいる図が出ていた。

集団絵の中で、真吾の方のメフィストと一郎とが一緒にいるのがあった。
パラレルワールドと言うか設定が違うから「悪魔くん」はけっこうややこしい。
タイトルを変えてくれたらよかったのに、とたまに思う。

「河童の三平」の表紙絵が並ぶ。
68年の第三回の表紙絵は可愛らしい森の中にいる三平、かんぺいらの絵だった。
この表紙絵の森はそれこそ童画風な雰囲気で満ちている。
色もパステルカラーで、なんとなく朗らかなキモチになった。
とはいえ、三回目というと話はちょっと暗かったように思う。
チラシのは五回目。こちらは細密描写の森と言うか関東のヤトのような所が描かれている。

短編の紹介を見ていると続きが読みたくてならなくなる。
中でも信州のどこかの神聖な土地と言うのが出てくるとドキッとする。
「悪魔くん」の中でも「入らずの森」というのが出てくるが、あの森の深さ、森の圧倒的な存在感、その存在の理由などを思うと、心にいくつでも謎がうまれ、知りたいような知るのが怖いような心持になる。

「ゲゲゲの鬼太郎」の紹介で「霧の中のジョニー」があったのがいい。
ジョニーの屋敷が出ていた。凄い建て増しに継ぐ建て増しで、とても魅力的な風貌を見せる建物になっている。
水木サン、初期の松本零士、宮崎駿、彼らの描く建造物は異様に魅力的なものが多い。それで思ったのだが、マンガに描かれた魅力的な建物の絵ばかりピックアップした画集があってもいいのではないか。
きっととても素晴らしいと思う。

このジョニーもいいキャラだが、とにかく強いので鬼太郎は「骨と肉が」離れ離れになった状態にされ、風呂敷に包まれてねずみ男に背負われて療養の旅に出る。これを考えるとモノスゴク怖い。妖怪だからなんでもありかもしれないが、「ゲゲゲの鬼太郎」ではたまに物凄く怖い怪我を負うことがある。
わたしなどはよく震え上がったものだ。

鬼太郎が高校生に変身している作品も出ていた。ああ70年代、という感じが強い。そしてこの時代に描かれた鬼太郎を見ていると、いつも思うことがある。
ガンバ大阪のヤットさん、遠藤選手、かれ、やっぱり鬼太郎に似ているなあ。
特撮でウェンツくんが演じたが、本当はかれよりヤットさんの方がいいキャスティングだと思う。風貌だけでなく、あのクールさがとても原作鬼太郎に近い。

いいアシスタントが揃ったのはいいが仕事のし過ぎだと水木サンが苦しむのがこれまた印象的ではある。
奥さんとの対話がすごい。そうか、と納得する。多忙な人間はやっぱり棺桶の中に入った時くらいしかのんびりできないのだ。

妖怪研究による一枚絵、このシリーズも好きだ。
そして場内では水木サンの仕事場の再現(オバケが出てくる!)と、水木サンのコレクションとが展示されていた。
妖怪ギャラリーである。古いものから近年のフィギュアまで。洋の東西を問わず世界中から集めたものたち。

そして水木さんの世界旅行の地図とスナップ写真とがある。荒俣宏さんの同行があるものが多い。いいなあ。
また、ファンレターの中に子供時代の山田かまちの自作妖怪つきハガキがあった。これにはびっくりした。

どういうわけかわたしは大人向けの作品を子供の頃からよく読んでいた。
水木サンでいえば「糞神島」だったか、あの単行本をオジが持ってたからだが。
これで思うのだが、原作のアニメや特撮をよく見ていたが、実際に最初に読んだマンガは大人向けというのはわたしの場合かなりある。
しかもそれが尾を引いたか、その作家の子ども・少年向けの作品より大人向けの作品の方が好きだというのも多い。それも今に始まったことではなく、子供の頃からそうなのだ。
手塚治虫、石森章太郎あたりは完全にそれ。

前述のとおり、水木サンの作品はかなり子供の頃から読んでいたが、リアルタイムに本当に面白く読み始めたのは90年以降のことで、水木サンが「東西奇っ怪紳士録」「神秘家列伝」「カランコロン漂流記」=のちに「わたしの日々」を描いている間、本当に熱心に読んだ。
今でもしばしば再読するのは「…紳士録」だが、どこを開いても面白い。
個人的に好きなのはそれらと大人向けの短編、そして真吾の方の「悪魔くん」、一郎の方の「悪魔くん」、「河童の三平」が特に好きだ。
「ゲゲゲの鬼太郎」は案外読んでいない。
これは手塚の「アトム」を読んでないのと同じような理由から。

ところで展示には水木サンの描いた設計図面などもあった。
水木サンは普請道楽なので自宅もとんでもなく建て増しされている。
いつかそっと遠望したいものだと思っているのだが…

妖怪から離れた作品の紹介もある。
近藤勇やヒットラーを描いたもの。
ヒットラーについては「…紳士録」でも取り上げていたが、彼がいなければひいては自分の腕の損傷もなかった、という結論が水木サンにはある。

ところで水木サンは挿絵も描く。
わたしが見たのは少年雑誌の口絵のものなどだが、そうした仕事の一つに1979年か、福島第一原発に勤務していた方のレポにつけた絵が凄まじかった。

最初に絵を見てからタイトルや解説を見るので、「うわー、御年90歳近くになられても、やはり正義のキモチが」と思ったのだが、そうではなかったのだ。
しかし現在と状況は全く変わらない。すごい先見性…
というより、、戦争体験がやはり人間への眼差しを鋭くしたのだろうな、だから何十年経っても古くならない意識があるのかもしれない。

最後に「ゲゲゲの女房」である奥さんのインタビュー映像をみた。
奥さん、どうかお体を大事に、もっと長生きなさってください。
そして各界の著名人による追悼メッセージ絵馬がすばらしい。
中でも池上遼一鬼太郎が可愛すぎる。ボブでキュートな鬼太郎。離れた位置にいるねずみ男の足元は池上らしさが強いけど、あの鬼太郎のキュートさ、尋常ではありません。ほんまに可愛い。
それからしょこたんの水木しげる猫の集団がたまりません。このヒトは楳図かずおも水木しげるも自在に描けるのだなあ…

この日、わたしは朝から晩まで洛中を這いずりまわったが、最後に訪れた海北友松展で見た襖絵、その引手がぬりかべの眼の形にそっくりで、ちょっと嬉しくなった。

水木サンの大きな一生、その一部の時間だが、同時代に生きてこれて、とても嬉しく思う。いい展覧会だった。
5/8まで。 

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