美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

「花*Flower*華 琳派から現代へ」展を楽しむ

山種美術館の「花*Flower*華 琳派から現代へ」展にいった。
まずこのチラシをご覧いただきたい。
田能村直入「百花」
イメージ (285)

文字と花の絵とが塩梅よく配置されている。
右から左へ花を追い、左から右へ文字を追う。
そして段を下りてゆく…
最後まで来た時には続きが見たい気持ちになる。
いいチラシ。

なお、これより以下の全ての画像は特別の許可を得て撮影したものです。

渡辺省亭「牡丹に蝶図」のみ個人蔵。
それ以外は全て山種美術館の所蔵品です。


花の絵を見ると気持ちがなごむ。
これは多くの方に言えることだと思う。
木花、草花、庭花、瓶花、様々な状況で花は活き、そしてぐったりとしおれた姿でさえも、複雑な魅力がある。
色褪せ、花びらも散り、茎も葉も枯れ始めていても、そこはかとなく艶めいたものを見出したり、悲哀の想いを懐いてみつめることもある。
実際描かれた花の絵を陶然と眺めるお客さんも少なくなかった。

四季の花それぞれの美と、花のユートピア、そして牡丹の特集があった。
順に沿って歩くうちに季節の移り変わりを知り、豊かな喜びを味わった後には枯淡な静けさに心を鎮め、やがて花の楽園へと導かれる。
更に壁面全てに牡丹が咲きこぼれる一室を訪れ、ここで展示は終わるのだが、そのときには観た人の心に様々な花が咲いている。
大きな花から小さな花まで、その人の心のありようが、花を咲かせる。

最初に迎えてくれるのは、今が盛りの花菖蒲だった。
古径えがく菖蒲は見事な瓶に活けられている。
遠い季節の花でなく、今のこの季節に出会える花が迎えてくれたことで、自然と花に挨拶が出来る。
『よく来たね』『よく開いたね』
瓶花の花菖蒲は、やってきたお客に対し、精一杯身を乗り出している。

春の花から始まる。
第一章 春―芽吹き
近頃世の人に再び愛され始めた絵師の絵がある。
渡辺省亭 桜に雀 三羽の雀は今年の花見を楽しんでいるように和やかな様子をしている。
それぞれうっとりした目で桜を見ている。雀の花見。

大観の山桜もある。土坡が拡がる。優しくなだらかな線。木はノビノビと花を開く。
絵の大小関わらず、木花を始め、天然の姿を描いた大観の絵は好ましい。

小林古径 白華小禽 泰山木か木蓮かわたしにはわからない。痕で教えてもらったところ、泰山木だそうだ。
そこに瑠璃鳥がいる。葉の表裏の色の違い、何もかもが綺麗。


山種美術館と関わりが深い画家は多いが、奥村土牛は長命だったこともあり、特に長い時間よいつながりがあったそうだ。
以前にここでお話をうかがい、感銘を受けた。
土の牛と名乗り、「牛のあゆみ」という著書を86歳で刊行しただけに、才気煥発と言うタイプではなく、時間をかけてじっくりじっくり熟成し、ようよう世に出た、と思った頃にはもうみごとな絵を描いていた。
長い人生をかけてひたすら良い絵を生み出し続けたが、決して濫作ではなかった。
そんなことを思いながら土牛の絵の前に立つと、色・形・構図だけでない何かが絵にあることに気づき、ただじっ とみつめることになる。

奥村土牛 木蓮  深みのある紫の花がそこにある。人を誘う花ではなく、わたしはこの色で生まれてきたのです、とこちらをみつめる花だった。
KIMG3080.jpg

この絵を熱心に眺める仲良しさんがいた。
お二人で同じ喜びを黙って味わっている。静かな楽しさがそこにある。
少しだけお話をきいて、花の絵を眺める嬉しさを改めて想った。

やがて土牛の描いた中で最も人に知られる花が現れた。
奥村土牛 醍醐  素晴らしい枝垂桜。
わたしの従妹は何も知らずにこの絵を元にした切手を見て、それだけで醍醐寺の花を見に行った。
「ほんまの桜も綺麗かったけど、絵ぇの桜、すごいよかった」
そう従妹はいい、小さな切手を使うことなく小さな額に収めていた。
わたしは山種美術館で「醍醐」の絵葉書を購入し、彼女にあげた。
従妹はその絵葉書を切手の隣に並べた。
いつか本当の絵を見に行けることがあればいいね、とわたしは思っている。

奥村土牛 ガーベラ
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花も可愛いが、それを活けた瓶、まるで古代ガラスのような銀化がみえて、とても魅力的だ。


夏になった。
第二章 夏―輝く生命

ここでも土牛の鉄線花を描いた「初夏の花」があった。
上半分の余白がいい。
正直な所、この絵を見たとき、土牛よりもう少し昔の京都画壇の人が描くような構図だと思った。
栖鳳、麦僊、彼らの花の絵を思い出し、その仲間の様だと思い、ある種の親しみを感じた。
上方の古い町家の床の間に似合う、そんな風情がある、だが決して古くはない。
1969年の作だが、どうかすると大正から戦前ののびやかでモダンな時代に生まれたような、そんな良さがある。
そう思うのはわたしが芯からの上方人だからだろうか。

花の絵には様々な楽しみ方がある。

洋画家の花の絵もここにある。
梅原の派手で豪華でキモチが大きくなるような薔薇の絵。
彼より丁度5歳下で同じく長命だった中川一政の力強い薔薇の絵。
どちらも元気さが爆発したような明るさがある。
決して静かな絵ではないのが、夏の良さだ。
だから薔薇の傍らにミカンの美味しそうなのがあってもこの絵は夏の絵の仲間なのだ。
完熟したミカン、リンゴらしきものもある。
どれもこれもものすごく甘そうで、絵なのはわかっていてもその味が口の中に広がってくるようだ。
ああ、いいな。

福田平八郎、松篁さんの花菖蒲も咲き誇る。
今年は巡り合わせがわるく、桜は堪能できたが花菖蒲は会えそうにない。
画家の丹精した花菖蒲を愛でていよう。
わたしはどちらの花菖蒲も好きで、ただただうっとりと眺めていた。
都内で花菖蒲の名高い地と言えば堀北菖蒲園、根津美術館、そしてこの山種の展示室だ、と今なら言える。

山口華楊も山口蓬春もどちらもモダンさが好ましい。
華楊の芍薬はグレーの背景に豊かな花が開く。
蓬春の芍薬は色の取り合わせがいい。
時代も少しばかり違うし個性も違う。同じ花ではあるが別な美を見せる。
ただ共通することは、薄い花弁から仄甘い匂いが漂っている。
そんな錯覚が楽しい。
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山口華楊 芍薬

紫陽花は山口蓬春の「梅雨晴」で楽しもう。
胡粉がキラキラしているのは、日差しがそぉっと降りてきて、雨に反射して、紫陽花をより綺麗に見せるためだと知る。
本当に素敵だ。
この絵は山種美術館開館のために揮毫されたもの。とても綺麗な緑の絵。

この美術館が開館したときの画家たちの歓びと期待とを思うと、胸が熱くなる。
そしてこの美術館が存続してくれたことで多くの日本画の美術館が活きたと思う。
そのことへの感謝の念についてはこちらに記している。

日本の色の名前欄をみると、みどりを示す色の多さに驚く。多様なみどり。
古人は自然にあるものに名を付ける。みどりの名が多いのはそれだけ自然に様々なみどりが存在している証だった。

高山辰雄 緑の影 とても綺麗なみどりの絵。数多のみどり色が集まる絵。
爽やかで、そして思索的でもあるみどり。様々なみどりが世界を深める。

夏の花はほかに朝顔、向日葵、芙蓉が元気に咲いていた。

秋の七草―萩、桔梗、女郎花、藤袴、葛、撫子そして芒。
第三章 秋―移ろう季節

土牛の桔梗、御舟の桔梗。
5歳違いの二人の画家。御舟がその短い生を終えた頃、土牛はまだ埋もれていた。
舟足は速く、牛はゆっくりと歩んだ。

川崎小虎 草花絵巻 小虎のやさしい絵が好きだ。どの季節の絵もみな優しい。
いつかここで回顧展があれば、といつも思う。

何もないわけではない、冬。
第四章 冬―厳寒から再び春へ
現存の牧進から遡り酒井抱一、そして作者不詳の優雅な絵。

奥村土牛 早春
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そう、淋しくはない。寒いけれど花もある。冬の時間が少しずつうすれ、春へと入った頃にはこんな喜びがある。

牧進 明り障子  作者の自宅の庭に竹林があり、水仙が咲いている。そこに十羽ばかりの雀がいる。
それは牧家で可愛がられている雀のピー太の姿だった。
ビー太と友達が一緒なのか、ピー太の残影なのか。
そんなことを思うのも楽しい。

抱一 月梅図 この絵は今回の展覧会で撮影可能な作品。
光が入り込んでしまったが、それがまるで月光のようになった。
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花のユートピア
様々な季節の中に不意に顔を見せる花たち。

松篁さんの屏風絵と又造さんの屏風絵とが並んでいた。
壮観な眺めだった。どちらも屏風上に扇面を描いている。
松篁さんは「日本の花・日本の鳥」を、又造さんは華扇と名付けた花の絵の扇面を屏風を散らしていた。
どちらもとても優雅だった。
二人の出自は共に京にある。
四条円山派の血脈の末から生まれ、そこから羽ばたいた松篁さんと、琳派を現代に蘇らせた又造さんと。
その二人の屏風絵を並べる。
思えばとても豪華だ。

其一 四季花鳥図 金屏風に四季折々の花が咲き乱れる。
この屏風にはあるイメージが活きている。館長の山崎妙子さんが新聞のインタビューを受けたときの記事、和装のうつくしい館長の背景にこの屏風があった。
やさしくほほえみ、美術館の所蔵する名画についてお話しする館長。
いつまでも目に残っている。

山元春挙、小茂田青樹、速水御舟、彼らの描く「百花」。
絹に描かれた春秋の草花、紙に描かれたやさしい草花、御舟の写生したダリアと白木蓮または泰山木。
春挙の絵はそのままだが、青樹と御舟の絵とは会期途中でページが変わる。

最後の部屋へ向かう。
魅惑の華・牡丹
そこは牡丹園と化していた。
其一、省亭、春草、靫彦、小倉遊亀らの描く花の王。
小さな牡丹園にはいずれも絢爛な花が咲きこぼれていた。

渡辺省亭 牡丹に蝶図 クロアゲハが牡丹の薄い花びらにくちづける。

鈴木其一 牡丹図 よい香りが漂うようだ。

展示室はどこもかしこも馥郁たる様相をみせていた。
花を愛するきもち、花に愛される心持ち。
二次元のものであっても、何故か良い香りを感じ、心地よい逍遥を続けた身体は優しくしびれる。
この心地よさをぜひとも多くの人が味わってくれればいい、と思う。

地下の展示室から地上階へ上がる。日差しが心地よく入り込むカフェに入る。
展覧会ごとに新たに拵えられる和菓子たち。
一期一会の出会い。
この日のわたしは「夏の日」を選んだ。


山種美術館のカフェは和菓子がメインだけどケーキもあるので、選択肢が拡がって嬉しいツラサがある。
和菓子に緑茶・紅茶・珈琲いずれかのセットで千円、抹茶のセットもあり。レシートの店名の文字も床しい。

いい心持になる展覧会だった。
6/18まで。

なお、次の展覧会は川端龍子展。
大田区に川端龍子記念館があるが、この山種美術館でどのような展示がなされるのか、とても興味深い。
こうした興味と期待を抱かせてくれるのが、山種美術館の魅力だと思う。
「花」を楽しんだ後には「龍子」を待とう。
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