美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

杉浦非水 モダンデザインの先駆者

細見美術館に杉浦非水の作品が集まっている。
愛媛県美術館に所蔵されている7000件のうちの一部がやってきたのだ。
そして入れ替わりに細見美術館の名品が伊予松山に出向いていた。
わたしは先だって愛媛県美で細見コレクションの設営をみた。
この地の人々が京の名品を楽しまれることをねがって、愛媛県美の常設を愛でた。

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杉浦非水の大がかりな展覧会と言うものは案外少ない。
長く暮らした渋谷区の郷土文学館・資料館では杉浦夫妻の展覧会を開催し、大阪中央図書館では本の装幀を中心とした展覧会があった。
前者の感想はこちら
後者の感想はこちら
今回、様々な分野の杉浦作品を網羅した展示となっている。

杉浦の仕事は多岐にわたる。
まず三越での仕事の精華が現れた。
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アールヌーヴォーの様々な要素がここに集まった一枚である。
どこまでも夢のように綺麗な絵。

室内に飾られた絵もステキだ。
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大正頃、蝶々の翅をつけた美人や子どもの絵が流行った。
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やはりレヴューの影響が強かったのではないかと思っている。

三越の雑誌の装幀も魅力的なものが多い。表紙の表裏を使った構図のものもあるし、大胆な空間の使い方をしたものも多い。
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大阪三越の雑誌も東京のとはまた別に拵えていて、楽譜が背景に使われたりして、明るい画風のもので占められている。
三越の新店舗開業ポスターもいくつかある。
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こんな構図、ほんと、かっこいい。

著名な企業のポスターもたくさん手がけている。
南満州鉄道、ヤマサ醤油、カルピス。
カルピスではゾウさんのポスターが二種あったが、こちらはファンキーなゾウさん
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もう一枚はなんとマンモス。
「…マンモスの昔からの経験と…大正の文明…」と文がついていた。
あとは水玉の包装紙の意匠も。青版と赤版と。
わたし、毎日カルピス飲んでますよ。冷たいカルピスもいいがホットカルピスも大好き。

ヤマサ醤油ではトビウオと一緒に海を行く醤油瓶、というシュールなものもあった。
ヤマサの御曹司で世界的な版画家の浜口陽三はこれを見ていたろう。

わたしが最初に見知った非水のポスターは東京の地下鉄開業のそれだった。
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これを偶然上野駅で見て、当時まだ写メもない時代だったので、翌月わざわざカメラを持って上野へ出向いたのだった。

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シルエットタイプもある。

地下鉄に対抗するわけでもないだろうが、道路のポスターもある。
「国の文化は道路から」とコピーが着いた、スゴイ鳥瞰図だった。

非水は基礎に四条円山派がある。川端玉章から学び、写生を徹底した。
その基礎があるからこそ自在な意匠の製作が可能だったのだ。

彼の描く植物画も素晴らしい。冷徹な目で描いたものではなく、情緒があるのが素晴らしい。
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写生の良さがでている。
その基礎があるからこうした可愛い意匠も可能なのだ。
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縮図帖がある。
江戸絵画の縮図だと思う。
白いわんこの背中に凭れるハチワレわんこ。どちらものんびり。可愛い。

スケッチも質が高い。その中で面白いものが1つ。
1902-04大阪 たぶん四天王寺での境内だと思われる。
篝火のもとで兎踊りというものが開催されていた。チャンチャンコを着た兎が杵を持って踊るのを人々が見ている図。
ウサギはもちろんコスプレだと思うが、元ネタを探しきれないのが無念。
春秋の彼岸のタコ踊りは以前からこのブログで何度か挙げているが、兎踊りは知らんなあ。

時代の流行もあったか、登山好きだったようだ。そんなスケッチも多い。

再び雑誌の表紙絵。
講談社の「現代」も様々な技法・画法で表現しているが、中にいちまい面白いのがあった。
1921年6月号の表紙は「現代」と文字の浮かぶ雲を猿股一枚の男が持ち上げている。
この様子が今刊行中の「股間若衆 せいきの問題」の表紙絵になんだか似ていて、個人的にウケてしまった。

「少年世界」の表紙では「ハーメルンの笛吹き」もあった。
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足元に鼠がいる。1911年12月発行の翌年正月号。1912年は子年。丁度いい。

JTBの「ツーリズム」も素敵だ。
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素晴らしい図案の数々があふれている。
ステンドグラス(実際に作られたかどうかは知らない) シャクナゲの中のイタチ
山また山に古代の青年
斎藤清より太い線の猫たち
いくらでも挙げてゆくことになるのでここまで。

単行本の装幀もいいのばかり。
押川春浪「生さぬ仲」の装幀も非水だったのか。鷺がいる図
バニヤン「天路歴程」、ペスタロッチの幼児教育本もある。
菊池幽芳「百合子」上中下はそれぞれ違う。
ヒロインの名前にちなんで百合の花がアールヌーヴォー風に描かれている。
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これは下巻。上巻は群青地、中巻は白地に百合が咲く。

プレゼント用の団扇もいい。琳派+アールヌーヴォーにモダンさが加わった感じの素敵な団扇である。
日本たばこのデザインも担当している。「光」「パロマ」「日光」などなど。

以前の展覧会の感想にも書いたが、非水は几帳面な性質で自分が旅先でもらったホテルラベルや絵葉書、素敵な意匠のものは丁寧に分類してスクラップしていた。今回もその一部がある。やはりデザインということで勉強もあったと思う。
並べ方自体にも味がある。
カッサンドルの有名な絵が時刻表に使われているのもいい。

非水は意匠の本もたくさん出している。
自分の技術も考えも惜しみなくオープンにしている。
素敵だなあ、そういうの。

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非水のもとへきた年賀状もいいものが多い。
やはり名うての意匠家に来るものは印刷物でもよいものが集まる。
同じく図案で活躍した橋口五葉からのは黒馬たち。1918年
清方は歌舞伎の名場面などを入れたオリジナルの絵双六。め組、兜検め、釣鐘などが描かれ、上がりは竜宮城。
「昭和戊辰」とあるから1928年か。
芋銭は馬に乗る人を描く。庚申 1920年。同年には中澤弘光から石楠花の賀状が来ている。
龍子はタツノオトシゴの絵。年は不明。
百穂は中国の石碑風な表現で中国の高士または身分のある老人が岩を射る。
恩地孝四郎は馬の絵を描く。1930年。

非水自身の賀状も多く残っている。半世紀以上の長い年月、どの作品も魅力的。
さらさらっとした線だけでモダンな女性の横顔を描いたものが特にいい。腕にはそれだけが緻密に描いた蛇の腕輪。
ハチ公 1958年、銀の羊 1918年。この辺りが印象深い。

やっぱり杉浦非水はいい。最初から最後までとても楽しかった。
わたしは彼のファンでよかった。

6/11まで。




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