美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

鴎外の〈庭〉に咲く草花―牧野富太郎の植物図とともに

文京区の鷗外記念館では鷗外の愛した草花についての濃やかな紹介があった。
鷗外は家庭生活を愛した人だったが、庭の草花への愛情も深かった。
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展覧会の紹介文にすごいことが書いてある。
「鴎外は自身の作品の中にもたくさんの草花を登場させています。その数500種以上、植物専門家でもないひとりの作家が取り上げる数としては、並外れた数といえるでしょう。」
そう言われれば、と鴎外の作品に現れる草花を思い出す。
そして今回の展示では、鴎外と同い年の世界的な植物学者・牧野富太郎の植物図がそれこそ「花を添え」、鴎外の文章世界と描かれた草花との見事なコラボを楽しむことになる。

1.観潮楼に咲く草花
バショウ、シラン、モモ、ウメ、ボケ…それらが当時要する作品名も記されている。
日記も花の事が書いてある。
庭いじりの楽しみが身についているのを感じる。

数年前回顧展のあった宮芳平のハガキがある。鴎外との温かな関係を思い出す。
彼の落選した絵は「椿」だった。
当時の感想はこちら

鴎外から奥さんへの手紙にはレンゲの押し花も。
こまめな人だなあ。優しくていい。
豪奢な花でなく草花を愛した、というところも好ましい。

貝原益軒「大和本草」の付録などが出ている。昨日もちらりと書いたが、日本の本草ものは魅力的。
山川草木という言葉があるものなあ。

本多錦吉郎「日本名園図譜」、籬島軒秋里(秋里籬里)らの「築山庭造伝」が紹介されている。
「日本名園図譜」は国立国会図書館のデジタルコレクションにある。
桂離宮、修学院離宮、銀閣の庭園、黒谷さんなどの著名な庭園の写真と紹介文が綴られた素敵な本だった。
挙げられているのは全て京都の庭園なのがまたよろしい。

籬里の「摂津名所図会」も人気だが、この本も当時のベストセラー・ロングセラーだったそうだ。
この内容はこちらのサイトがワードで読めるようにもしてくれている。
かなり実践的な内容である。

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2.作品に咲く草花

いい感じの装幀がある。
「塵泥」ちりひぢ この表紙可愛いなあ。

そして鴎外の草花を愛するキモチが作品にあふれているのを掬い上げて紹介してくれる。
鴎外ファンでもあった石川淳が書いた言葉が挙げられているのも、石川淳ファンとしてはとても嬉しい。
「鷗外は花卉草木の詩人であつた。」
いい言葉だ。断定が石川淳らしくてたまらなくいい。
石川淳の語る鴎外像にいい感情が流れてゆく。

鴎外の作品がいくつか挙げられている。
「うたかたの記」「藤棚」「田楽豆腐」「サフラン」「伊沢蘭軒」…
そこに描かれた植物の紹介や関連する絵葉書などが出ているのがいい。
見たいものが出ているのは嬉しい。

いい絵葉書がある。小石川植物園に咲く藤と躑躅、芍薬、花菖蒲、桜などなど。
昭和初期のもので手彩色ではないと思う。綺麗なフルカラー。
長いこと小石川の植物園にも行っていない。
久しぶりに行きたくなってきた。
そういえば1992年の映画「外科室」は小石川植物園が主な舞台だった。
つべに映像が少しある。

高輪の岩崎邸の写真もある。そうか「藤棚」はここがモデルか。
戦前の大邸宅を見るのが好きだ。小川一真のいい写真。
これも国会図書館のデジタルコレクションにある。
とても嬉しい。

牧野の植物画といえば、先般小磯良平記念館で見ている。
当時の感想はこちら
わたしはそのときこう書いた。
「小磯は植物の皮膚を・牧野は内臓を描いている。
小磯にある情緒は牧野にはないが、情報が詰まっている。」
今回もその考えは変わらない。
牧野の植物画は本草を描いた絵から出発し、やがて「牧野式植物図」と呼ばれるようになる。
その変遷を見る展覧会が練馬で開催中。イメージ (520)
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鷗外記念館でこのチラシを貰い、初めてここのことを知った。
アクセスもよさそうなので好きな植物が咲くころに行きたいと思う。

3.草花を見つめた二人

鷗外はしばしば小石川、向島といった植物園や花園に出向いている。
1918年の手紙をよむと正倉院の曝涼に立ち会いに来た鷗外が、奈良の子供らがどんぐりを「かっちん」ということを記している。
これは櫟の木の団栗だから本当は「いっちん」ということを書いていて、それでわたしもその言葉を覚えたりもする。
ちょっとしたことだが、それも展覧会の楽しい思い出になる。

この展覧会のリストのラストページには鷗外と牧野の交流略年譜が書かれている。
この年譜が「草花を見つめた二人」の様子を想像させる。
濃密ではないようだが、やさしい心持で互いに対していたことが伺える関係性だと思う。
よい展覧会だった。

なおモリキネカフェではこの展覧会の間、花をモチーフにした生和菓子を提供している。
こちらの自慢の紅茶と共に味わうのもよいことだと思う。

展覧会は7/2まで。


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