美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

ムットーニ・パラダイスに溺れて

世田谷文学館のリオープン記念展は「ムットーニ・パラダイス」である。
元々ここには「山月記」「猫町」「月世界旅行」の三点が収蔵され、毎日決まった時刻にショーをみせてくれていた。
その後作品数も増え、また2007年2月には「ムットーニのからくり書物」展も開催されている。当時の感想はこちら
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先ほど「ショー」と書いたが、実際それは「ショー」と呼ぶべき「見世物」なのだ。
時間が来れば箱が開き、眠っていた人形や装置たちが歌いだし演奏し、ゆるく踊る。
ジャズや時にはカンタータもある。歌声は別な歌い手によるものだが、演奏はムットーニによるものも少なくない。
わたしは入館前に並び、早い時間からの観客になる。
受付からタイムテーブルが書かれた表をもらう。60分の間にいくつものエリアに分かれた先でショーが行われ、同時刻のものは一つを選ぶしかなくなり、見れなかったものは次に見る算段をしなくてはならない。
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エントランスには世田谷文学館の顔とも言える「山月記」「猫町」「月世界旅行」の三点が並ぶ。大体5分前後の作品で、続けさまに開始される。しかし彼らは1時間に2度の上演となり、あわせて15分上演後は15分休み、また15分上演しては15分休む、という律儀なリズムを繰り返している。
必ずどの時間でもどこかでショーが上演されている。
ただ、土日のある時間帯は休止し、彼らのメーカーであるムットーニが来場し、口上を聴かせながら自らの手で装置を動かすそうだ。
その時だけショーは恣意的な運びを見せる。
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不思議なことに自動タイマーで動き出すときの方が、彼らが人形であることを忘れることが多い。

エリア1
「漂流者」「摩天楼」「眠り」といったなじみの作品がある。
中でも「摩天楼」はベンチに座る二人のほのぼのとした様子がよく、特に事件も起こらないものの、ゆっくりと動くその情景に和む。
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「漂流者」は漱石「夢十夜」の第七夜。ゆっくりと海へ落ちてゆこうとする男の悔恨とどうしようもないあがきと絶望感と。
「眠り」は確か村上春樹の小説からだった。
ムットーニの低く魅力的な声が語るこの物語には、薄闇の恐怖が広がっている。

今回、「アトラスの回想」という二年前の作品を初めて見た。地球を背負わされるアトラスと地球と、そして現れる女と。
これは中也の「地極の天使」をモチーフにしたものらしい。
詩を読んだ今となっては少し不思議な感じがある。
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エリア2からは荘厳な音楽の後に賑やかなジャズが聴こえてくる。
「グロリア マリアが来たりて」の後に「ジャングル・パラダイス」が始まったのだ。
明るく元気よく、何かを振り捨てるかのように力強い歌声と演奏。
禁酒法時代、地下に展開するジャズクラブ、ジャングルを移住し、動物を人に扮装させて演奏しているのでは? 
そんな妄想が湧いてくる。

「サテライト・キャバレー」は「ジャングル・パラダイス」からハシゴした先にあるホール。
さっきとは趣は違うけれど、ここも違法の、そして享楽を味わえる場所…

疲れた体を鞭打つように次へ向かう。
「ヘル・パラダイス」…蝙蝠のシルエットが突端に見える。そして開かれたボックスからは棺が…
釈迦やキリストの復活とは違う、夜の魔物の眼ざめの時間、髑髏が元気よくジャズを演奏する。
クラブかと思ったらそうではなくて、そのまま地獄なのだった。
あまりに楽しくて威勢が良くて、そのまま地獄へ一直線。

ふと気づけばとっくに地獄の底にいた。
「蜘蛛の糸」 縦長の空間にお釈迦様の手のシルエットが浮かび、そこから蜘蛛の糸が…
カンダタ、よく見ればメガネにタイなしスーツ姿ではないか。いつの時代に地獄へ落ちたのだろう…

妖しいカンタータに始まり地獄でしめる。
エリア2は何度も何度もぐるぐる回ってしまう空間だった。
出口を見つけるのに苦労し、やっと他のエリアに行ってもまた戻る…


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エリア3
「ワルツ」「マイ・メランコリー・ベイビー/ユー・ドント・ノー・ワット・ラブ・イズ」「インターメッツオ」
いちばん観念的な作品が集まっているのかもしれない。
そしてムットーニの言葉が蘇る。
「見る人の数だけ物語がある」
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疲れたときにはここで休み、静かに作品を見る。

エリア4は面白い構造だった。
一つの舞台に幾台もがずらりと並び、時間が来れば早速歌いだし、パフォーマンスを見せる。
カエルも骸骨もいれば、セクシーな女もいて、そしてだみ声が素敵な黒人歌手もいる。
こういう並びもいいな。

エリア5ではメイカーであるムットーニのショーが開かれるのだろうか。
メイカーとは神なのだ。神の舞台を不在の間にのぞきこむ。
三本の作品の合計時間が5分30秒というのが短いようで長い。

エリア6
ここで世田谷文学館のレギュラーが再び姿を見せる。
「カンターテ・ドミノ」はメイカー・ムットーニの手元にあるが「スピリット・オブ・ソング」と「アローン・ランデブー」はここの所蔵・
荘厳な音楽を奏でるのは楽器ではなく天使の羽音かもしれない。
そして宮沢和史の音楽と共に動く人形をみる。
最後はアストロノーツ。

とても快い空間だった。
空間とはパラダイス。
パラダイスの語源はペルシャ語の「閉じられた庭園」
ここを出てしまえば当分は味わえなくなる歓び。

ときめきを心に残し、この世界を閉じよう。

6/25まで。
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