美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

「馬琴と国芳・国貞 八犬伝と弓張月」展はやっぱり面白かった。

うっかりしていたが、太田記念美術館「馬琴と国芳・国貞 八犬伝と弓張月」展が終わってしまったよ。
観て喜んでたのに、なんということでしょう。何の感想も挙げてない(こともないが)。
しつこく書いてるが、人生の最初に「新八犬伝」に出会えたことは本当に生涯の喜びで、ここを起点に色んなものが好きになって行き、調べものをしたり色々動くようになったのよ。
その「新八犬伝」は馬琴の「八犬伝」をベースに「弓張月」のエピソードや敵役を織り交ぜていて、それで冒険が膨らんだのだ。

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八犬伝の展覧会はブログを始めてから2つばかり見ている。
・「八犬伝で発見」@文京ふるさと歴史館 感想はこちら
・「八犬伝の世界」@千葉市美術館 感想はこちら
どちらもいい展覧会だった。
他にもちょこちょこと。

馬琴の八犬伝はもう本当に長くて、途中で失明したうえ、清書してくれてた息子が病死して、文盲の息子の嫁お路を鍛え上げて口述筆記を続けた馬琴。
馬琴も凄いしお路も偉い。
この様子を若き清方が描いているが鬼気迫る図でしたな。
そしてこの家の状況を一ノ関圭も作品化している。

「八犬伝」の本連載は北斎の女婿・柳川重信の挿絵。これがまた非常によく出来ていて、馬琴も作中で称えている。
「作者云・・・この巻の出像(さしゑ)の中、金碗大輔孝徳が、川を渉す図のごときは、文外の画、画中の文なり。」
馬琴の他の作品は北斎の挿絵が多かったが、一説によるとどちらの稿料も高くなったので版元が違う絵師を支度したそうだ。
ヒトの好き嫌いが激しい馬琴も北斎の絵は日記でしばしば絶賛している。

それにしても凄い時代だ。
馬琴、北斎、大南北が同時代人なのだから。(年で言えば南北、北斎、馬琴の順)
この辺りを山田風太郎「八犬伝」が虚虚実実入れ混じった物語で描いている。
これがまた実に面白い。

そして「八犬伝」人気が固まったところへ、あの非常に難解な文字並び表現をたやすくわかりやすくしたのが「犬の草紙」などの抄録もの。
これが出たのは本当に良かった。みんなが読める。
そして武者絵の国芳が・芝居絵の国貞が八犬伝人気をいよいよ熱くする。

国貞は師匠豊国同様お客本位・国芳は北斎同様絵師本位なので自ずと立ち位置が違う。
国芳は武者絵のシリーズ「本朝水滸伝」のメンバーに八犬士を加え、雄姿をこれでもかと描く。
国芳の兄弟子・国貞は武者絵より優美な方向を向いているが、芝居絵・役者絵の第一人者、八犬伝が舞台にかかれば、たちまちそれを絵にする。
相反する二人の絵師が同時代にいて、本当に良かった。
ファンの楽しみは弥増すばかり。
後世の者もこうして楽しく展示を見る。

畳の間には普段は肉筆画だが、今回は「芳流閣」の間になっていた。
八犬伝にはたくさんの山場があるが、八犬士の最初の山場はこの芳流閣の戦い。
「孝」の玉持つ犬塚信乃が名刀村雨丸を献じて武士に取り立ててもらうつもりが、なんと差し出した刀はとんだ赤イワシ、「錆びたナイフ」もビックリのナマクラ刀。
これはさもしい浪人・網干左母二郎の仕業。
信乃も慌てて逃げ出して芳流閣の屋根の上。捕り手わらわら押し寄せる中に、「信」の玉持つ犬飼現八が十手握って現れる。
実は現八、殿様の勘気を蒙って処刑待ちの身の上、それが信乃を捕まえろと命が下って久しぶりに牢から出されたところ。

国芳、国貞、柳斎重春、芳年それぞれの対決+モブシーンが並ぶ。
国芳と芳年のこの絵の比較はよくあるが、今回は国貞のも見れてよかった。
縦2枚で捕り手が四天なのもいかにも芝居絵でいい、現八は坂東しうか、信乃は関三十郎。
しうかは女形だが威勢もよく、この配役もわるくはないが、わたしのイメージではお役はこの二人逆の方がよくないかな。

どの絵を見ても面白い。この場は本当に人気が高く、舞台に掛けられるのも多かったそうだ。
だからどの絵師も絵に力が入る入る。
ここだけでなく後にも芳流閣の場を描いた絵は出てくる。
国貞だと屋根の鯱ならぬ白虎と青竜の向きが逆バージョンというのもあったり。

八犬伝の本がある。重信らの挿絵入り。
・現八と道節(物語の終盤かな)
・対牛楼で「鏖」の一文を記す犬阪毛野
・芳流閣で四天がポンポン飛んでゆくところから、二人が川へ落ちて流されることを予測させて救い手(掬い手)の犬田文吾兵衛の立姿が別コマ。

まず国芳の武者絵がずらり。
本朝水滸伝シリーズから
・犬山道節 どこか異国風な風貌で妙な官能性が高くて素敵。左母二郎から取り上げた「抜けば玉散る氷の刃」たる村雨丸に見入る姿
・犬江親兵衛 幼児の姿で伏姫に抱っこされている。彼は一度物語の舞台から姿を消してこの世の外で養われるのだ。そばには雷獣もいる。
別シリーズ「本朝剣道略伝」では成人した姿を見せている。可愛い犬張子柄の裃を付けている。
・犬阪毛野 わんこ柄の着物が可愛い。そばには激烈な復讐の一文が。
「為父兄鏖讐為舊主云々・・・文明十一年・・・犬阪毛野胤智十五歳書」

曲亭翁精著八犬士随一シリーズ
・犬川荘介(額蔵)vs道節 玉がピカーッ
・犬村大角(角太郎) この人は化け猫の被害者で、とどめを刺すところ。これが一番多い。
他には維摩行の松葉咥えの絵が思い浮かぶ。
ジユサブロー師の人形ではなかなかのハンサムだったが、とてもおとなしい人。
「礼」の玉を持つからだろうか。

義勇八犬伝シリーズ
・親兵衛 すっきりした青年姿で裃は犬張子柄。
・毛野 坂東しうか。さぁ今から敵の連中をやっちまおうか、というツラツキがいい。
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・犬田小文吾 前掲文吾兵衛の倅で相撲の名手。このヒトは町人髷。8世團十郎なのでいい男に描かれている。

この小文吾と毛野の二人の絵もある。
毛野は女田楽・旦開野(あさけの)に扮して敵方に入り込みその技芸を見せていた時、小文吾にアプローチをし、小文吾も承諾したのだが、その後に同性だと知る。
二人は協力し合って脱出を試みるが、小舟の舵を取る毛野と敵と斬り合う小文吾が運命のいたずらから離れ離れになる。
小文吾はその後、長く毛野の行方を追うことになる。

国貞の役者絵・芝居絵をみる。
現八、信乃、浜路の三人を当初は海老蔵、菊五郎、羽左衛門で描いたが、役者が替わると顔部分だけ差し替え。九蔵、海老蔵、半四郎バージョンも並ぶ。
他にも信乃、現八を海老蔵、九蔵バージョン、訥升、羽左衛門バージョンと二種。
彼の八犬士はあくまでも役者の扮装なので、その様子がいかに映えるかに力を注ぐ。
なのでタイトルにも「俳優水滸伝豪傑一百八人之一個 信乃ニ扮スル図」などと役名と役者名を記す。

原作より舞台が、という客も多い。むしろ舞台を見てから本を読んだ人も少なくなかろう。
これは現在でもあんまりかわらないと思う。
かつて角川映画のキャッチコピーにこんなのがあった。
「見てから読むか、読んでから見るか」
角川文庫の映画化の本質を衝いた名コピーだと思う。
現代もマンガが原作の「逃げ恥」「あなそれ」のドラマの大ヒットはめでたいが、原作を読んでる人がそのドラマファンにどれほどいるか。
逆に原作ファンであるがゆえに見ない人もいる。

八犬伝はとにかく山場の多い物語で、一人一人にドラマがあるからそれを絵にするのもやりがいがあったろう。
何しろこの8人は最初は誰も自分が何者であるかを知らず、相手が何者かも知らず、知るまでにかなりの時間がかかるのだ。
そして知ってからも仲間探しにたいそう時間がかかる。
伏姫ゆかりの八犬士と言いながら、その証拠は仁義礼智忠信孝悌いずれかの文字が浮き出る玉と牡丹の形の痣なのだが、それらは時期が来るまで隠されていたりする。
誰かの犠牲により現れたり、お祝いの席で捌いた鯉から飛び出て来たり色々。

八犬伝は幕末でもよく売れた。
菊川英山や英泉えがく美人画では八犬伝の本が小道具になっていたりもする。
上方でも八犬伝は人気が高い。
北英は富山の場を描く。これは天保7年の上方の舞台からか。
玉梓はけいせい姿(既に亡者である)、鉄砲を構える金鞠大輔(嵐璃寛)、伏姫(中村富十郎)、弓を持つ杉倉木曾之介(関三十郎)。

国芳で面白い絵があった。
毛野、道節、親兵衛らの他に狸の化身の尼・妙椿とその眷属の狸らがいるが、狸一派が飛んで逃げる。
八犬伝は犬が優位に立つが、他に化け猫、狸、それから猪まで出てくる。

妖怪絵の木曾街道六十九次シリーズもある。
蕨 道節 彼は「寂寞道人肩柳」と名乗る修験者でもあり、火遁の業を身に着けている。それでちょっとおカネを要することになり、諸人に替り罪穢れを負うて火定するという。
火定(かじょう)=仏道修行者が、火中に身を投じて死ぬこと。
絵は口に何かの布を噛み、指は印を結ぶ。
原文「唫踊(きんじゅ)すること三遍(みたび)して、煽々(せんせん)たる猛火(めうくわ)の中(うち)へ、身を跳(おど)らせて投(とび)入るれば、火焔(くわゑん)発(はつ)と立冲(たちのぼ)り、膏(あぶら)沸き、宍(しゝむら)焦(こが)れ、」
まぁ無論これはサギというかあれなので、道節は数時間後に現れる。

絵柄として人気が高いのは芳流閣がいちばんだが、他にも毛野の対牛楼、それから化け猫退治が特に人気がある。

国貞 対牛楼 三枚続き。群像シーン。毛野は二刀流で戦う。外に小文吾もみえる。

国周 毛野 刀を振り上げる。鎖帷子がのぞく。三世田之助がにんまり。国周は国貞の弟子で大首絵を得意とした「最後の浮世絵師」の一人。

国貞、芳虎の化け猫退治図も迫力がある。

二代国貞 八犬伝犬の草紙のうち尼妙椿 これは数ある八犬伝絵のうちでも特に凄いものの一つだと思う。
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おもちゃも少なくない。
芳虎 八犬伝かるた 「ろうにん あぼしさもじらう」「でかした やつふさ」…
「北斗の拳」かるたをちょっと挙げる。「あたたたた 北斗神拳 秘孔突く」

二代国貞 八犬伝双六 上の方には芳流閣。山賊酒顛次がシブイな。
この二代国貞は八犬士たちより脇キャラの絵がみんないい。

最後に犬の草紙、仮名読八犬伝が出ていた。読みやすい普及版。
それぞれ芳流閣、対牛楼の絵が出ている。

八犬伝はここまで。
弓張月はまた別項で。
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