美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

ジャコメッティ展にいく

ジャコメッティ展にいった。
立派な感想やレポを書く人が多いのだが、これはあくまでも後にわたしが思いだせるためのヨスガとしての存在なので、自分勝手なヨタを含めた感想を挙げる。
まあこれを読んでジャコメッティ展に行こう!とそそられる方はいなさそうだから(おった方がこわい・・・)好きなことを書ける、という利点がある。
いい展覧会なので宣伝はしたいが、なかなか難しい。
イメージ (634)

ジャコメッティと言えば最初に現物を見たのはブリヂストン美術館でだったと思う。
それから美術評論家の著書の中で、ジャコメッティと矢内原伊作との関係性について書かれたものを読み、大いに惹かれた。
とはいうものの、極度に細いフォルムには参った。
しかしボテロやニキ・ド・サンファルのようなポテポテ体形の彫像はこれまた自分を顧みて鬱屈するので、わたしはあまり好まない。

展覧会は時系列の展示で、映像もある。
先に結論を言うと、わたしはジャコメッティ作品では彫像よりペンによる素描やスケッチの作品群にとても惹かれた。
ジャコメッティにとって素描とは何か。
彼の記した「素描はすべての芸術の基礎である」という言葉どおり、膨大な数の素描を残している。
カフェでもどこででも描き続けたジャコメッティ。
それらは簡素な線描ではなく、重層的な構造を持つ素描だった。
きちんとしたノートでなく、時にはカフェのナプキンにも絵は生まれる。
手すさびではなく、芸術家ジャコメッティの「芸術」活動の一つ。
かれはどんな時でも手を動かしていた、という証言がある。動かしていないといてられなかったのかもしれない。

エルンスト・シャイデッカー(主にル・コルビュジエの傍らでその仕事を撮り続けてきた)によるカフェにいるジャコメッティの写真がなかなか素敵だ。表情がいい。

とりあえず最初から簡素に。
イメージ (633)

1.初期・キュビズム・シュルレアリスム
ディエゴの肖像 1919 弟さんを描いた洋画。後の<個性>はここには見出せない。
このディエゴも彫刻家で、代表作かどうかは知らないが、日本で最も愛されている作品が松岡美術館にある。
そう、猫の給仕頭ね。
賢くて機転がきいてしかもちょっとイタズラ好きそうなお猫さんの給仕頭。

とか言うてるうちに忽ちシュルレアリスムとキュビズムの影響のある作品が出てくる。

女=スプーン 1926-27 ブロンズ ああ、納得。おなかのへこみ具合はあれだけど、そこがスプーンだしな。

なんかほかにもどう見てもお碗としゃもじみたいなのや巨大瓢箪を半割にしたようなのがあった。

鼻 1947 ものすごーーーーーく長い鼻。禅知内供どころではないわい。

裸婦の素描を見る。
1922年頃と1940年と。どちらも腿がとても大きい。
わたしは男性の腿フェチだが、女性の腿にはあまり関心がない。

シュルレアリスムのアンドレ・ブルトン「水の空気」のための挿絵がある。1934年 エングレーヴィング
・・・顔がな、ウルトラマンしてはるで…それも本物やなしに偽ウルトラマンな・・・
こういうヨタが書けるのは嬉しい。

2.小像
ジャコメッティの距離感について解説を読んで、不思議ななあ…と思ったが、実際にめちゃくちゃ小さい像を見ると、「これはもぉあかんでしょう」という感じの小ささで、びっくりした。

そのうちの一つ、9.5cmの「小さな怪物1」は女に見えるが、細かいことはわからない。

3.女性立像
どんどん薄くなってゆく。本当に薄い。正面から見ると何かにプレスされてぺろんぺろんになったのかと思うレベルだが、横から見るときちんと横顔を見せている。

正面を向いたアネット 1955  数年前に結婚したアネットをモデルにしたエッチング。当時32歳の女性。
堅いペンでカリカリ描くことが手に合うジャコメッティ。

裸婦立像2 1961 リトグラフ 胸は垂れつつあるが、ウエストがいい。そして小股が切れ上がっている。腿も足も綺麗。

4.群像
3人の男のグループ1(3人の歩く男たち1) 1948-49 ブロンズ  行き交うのではなく、行き過ぎ合う、というべきか。

広場、3人の人物とひとつの頭部 1950 ブロンズ  ・・・「呪い」のアイテムかと。カリブ海辺りのブードゥー教のあれぽいような。

森、広場、7人の人物と一つの頭部 1950 ブロンズ  なぜ一緒に置く?三題話かーっ

林間の空き地、広場、9人の人物 1950 ブロンズ  これもあれか呪いのアイテムか・・・

5.書物のための下絵
鉛筆画。顔のない人物が多いが、どこかスタイリッシュでカッコいい。
挿絵好きなわたしとしては興味深い表現だと思った。

6.モデルを前にした制作
先の極度に小さくなっていった彫刻群を見る分では「モデルはいらんでしょう」と思うのだが、ここへ来ると、やっぱりモデルはいるのか・・・となる。

弟ディエゴも妻もとても忍耐強いので驚く。ディエゴの胸像を見ても似てるのかどうかはわからないが、描かれたディエゴはよく似ているように思う。いや、似ようが似まいが関係ない。
アルベルト本人の目にどう見えるかだけが真実となるのだ。

それにしてもディエゴの忍耐力、すごい。えらいぞ。
ゴッホ兄弟、ジャコメッティ兄弟、みんな胸が熱くなる。

石碑1 1958 ブロンズ  これを見て思い出したのが「コブラ」に出てくるソード人の王様。そう、刀剣の形をした生命体。柄のすぐ下位に顔があった。あれによく似ている。

洗面所に立つアネット 1959  シュミーズ一枚でこちらを見ている。ずっと動かずに来れはつらかったろう・・・
作品がいいとかより、そちらが気にかかる。

女性の絵はみんなアネットなのだろうか。職業モデルは彼の欲求にこたえられないと聞いた。
身体を動かすことが許されないというのは本当につらい。
なので、ここにある女性像は皆アネットに見える。

7.マーグ家との交流
マルグリット・マーグの肖像 油彩 1961
エメ・マーグの肖像 鉛筆 1959
男女、同じ顔に見えた。
ジャコメッティの表現なのか、この二人が同じ顔なのかは知らない。

8.矢内原伊作
実はこのコーナーを一番楽しみにしていた。
ジャコメッティと矢内原の関係性にときめいているからだ。
勝手なことを想像し、ドキドキするのは得意中の得意、妄想だけで生きてきたようなものだ。
なので胸を抑えながらここへ向かった。

・・・映画「イレイザー・ヘッド」の主人公を思わせる髪型の矢内原。 
とにかく矢内原伊作はものすごく誠実にジャコメッティのモデルを務めた。
ここにあるボールペンや鉛筆で描かれた矢内原の顔や様子をみていると、かれらの関係性の深さに息をのむばかりだった。
紙ナプキンに描かれた矢内原の表情などもいい。
想像以上によかった。絵を見ながら物思いにふける。
こういうときがいちばんその作品に惹かれているとき。
作品を見ながら物思いにふけり、音楽が脳内に流れてくるときがいちばん幸福な状態なのだ。

9.パリの街とアトリエ
ずっと同じところに住んだジャコメッティ。決して広いところではなかったそうだ。
しかしジャコメッティはとても満足していたようだ。

アトリエ2 1954 リトグラフ  なにか見覚えが。ヒルコみたいですな。

犬、猫、絵画 1954 リトグラフ  アトリエの中、真ん中に猫、右に犬の像。
後から出てくるが、猫はディエゴの飼うてた猫だそうだ。

胸像 1954 リトグラフ  これまたなにかいるな…

アトリエのアネット 1954 リトグラフ  すらりと立つ姿。スカートをはいている。

10.犬と猫
猫 1951 ブロンズ  これはええよ、ああジャコメッティやもんな、と思うから。顔だけ猫らしさがあるが体が糸のよう。

犬 1951 ブロンズ  …痩せすぎていて可哀想やわ…なんかみじめそう。

11.スタンパ
田舎の小村。のんびりした様子。
家の中で読書する老母を描いたり、村を鳥瞰したり。

12.静物
セザンヌ賛江という面もあるのかもしれない。いや、ないか。
しかしジャコメッティがセザンヌの絵に惹かれていたのはわかる。

リンゴの絵、セザンヌの絵の模写などがある。
しかしジャコメッティが描くと背景は灰色となる。

13.ヴェネツィアの女
連作ものだが小さいピンのようなものが逆三角形に立っている様子がまるでポーリングのようだった。
ストライクをキメたい…!

14.チェース・マンハッタン銀行のプロジェクト
空間に1959年制作の三体のブロンズ像が置かれていて、ここだけは撮影可能。
わたしも少しだけ撮った。
銀行前にこんなのがあるのか…
不思議な空間だと思った。

この銀行は小池一夫・原作/平野仁・絵「サハラ」で知ったのだが、これらの彫像があの作品の中にあったかどうかは未確認。
あろうがなかろうが本当はどうでもいいのだが、実際の空間にはこの像がある。
そのことを妙にドキドキしながら受け入れていた。

15.ジャコメッティと同時代の詩人たち
三人の詩人たちの本にジャコメッティが挿絵を担当している。
ジャック・デュパン「ハイタカ」 、アンドレ・デュブーシェ「うつろな熱さの中で」、ミシェル・レリス「生ける灰、名もないまま」
いずれもエッチング。

16.終わりなきパリ
1969 リトグラフ150点、パリの様々な様子を一瞬で切り取ったような作品集。
カフェ、街角、道路、車内…
1960年代がここに封じ込められている。

ジャコメッティは1966年に亡くなっている。
20世紀の始まりに生まれ、20世紀の真ん中少し過ぎに死んだ。
50年経ってもちっとも古びない。いや、新しいこともない。
ジャコメッティはジャコメッティ。
どの作品もやっぱりジャコメッティ。

見に行けてよかった。

9/4まで。




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