美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

地獄絵ワンダーランド ―地獄は一定すみかぞかし―

三井記念美術館「地獄絵ワンダーランド」展で、地獄めぐりをしました。
奈良博の「源信 地獄・極楽への扉」展もよかったが、あれとこれは相互割引もしてはるそう。
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この展覧会も実は龍谷ミュージアムへ巡回するが、まぁ一足先に地獄めぐりをするというのもいいものさ、というわけで地獄遊行しました。

第 1 章 ようこそ地獄の世界へ
のんのんばあと地獄めぐり
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水木しげるの世界が広がっていた。
地獄絵が迫力+どこかユーモラスに展開する。
① 奪衣婆
② 閻魔大王
③ 等活地獄
④ 黒縄地獄
⑤ 衆合地獄
⑥ 叫喚地獄
⑦ 釜茹で地獄(表紙)
⑧ 大叫喚地獄
⑨ 焦熱地獄
⑩ 大焦熱地獄
⑪ 阿鼻叫喚地獄
⑫ 六道絵(餓鬼道)
⑬ 浄土
のんのんばあは幼い水木しげる(しげーさんと呼ばれる)を連れて地獄を行く。
行く先々で二人は傍観者・見学者の筈だが、恐怖に駆られて逃げ惑う。
そしてようやく一息ついてはのんのんばあの説諭を受けて、幼いしげーさんは地獄に落ちないようなヒトになろうと思うのだ。
だが、延々と地獄は続き、ようやくたどり着いた浄土でさえも同じくくりに見えてしまう。

OPにこれはよかった。
老若男女みんなが知る水木しげるワールドで地獄への道が開くのはいい。
水木しげるは作中スウェーデンボルグ、ウィリアム・ブレイクの影響を受けた地獄絵を描いてもいるが、ここでは純粋に日本の地獄が拡がる。
土俗的なものも含まれて見えるのがいい。
そして我々は地獄の種類をここで学ぶのだ。

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国宝など「今回の目玉」を置く展示室 2にはこれがある。
*往生要集の世界
往生要集 源信著 6冊 紙本墨摺 鎌倉時代・建長5年(1253)龍谷大学図書館  奈良博で色々見たが、人気の本なのでどの時代にもよく刊行される。
龍谷大は西本願寺なので、この本も当時からのを伝世したのかもしれない。
わかりやすい、よい書体である。

*六道・地獄の光景
様々な六道絵をみる。

六道絵 6幅 紙本着色 江戸時代 兵庫・中山寺 前後各3幅  けっこうはっきりした絵。修羅道と九相が一枚に描かれている。空しさをも教える構図なのか。
ああ、中山さんか。宝塚の手前、清荒神の近所の。
わたしにとってはご近所さんで安産のお寺、星祭が思い浮かぶが、地獄絵があったのか。
節分の時には宝塚歌劇の生徒さんが豆まきをする。奥の院までがしんどいんだ。

六道絵(文政本) 1.5幅のうち5幅 絹本着色 江戸時代・文政6年(1823)滋賀・聖衆来迎寺  本物は奈良博で展示中。とはいえお寺だって常にその本物は出せない。これは江戸時代の模本。名品だから模本もわるくない。
衆合地獄では相変わらず美少年に目がゆく。おなか刺されてる子もいれば色々とあれな人々が。
地獄に落ちても性質は変わらないし、変わらないから同じことをする。
結局救いがないということの本質はそこかも知れない。

十王図 4幅 絹本着色 室町時代 龍谷大学 龍谷ミュージアム 前後各2幅  本地垂迹(このカミは実はあのホトケ)によると、三番目で21日目担当の宋帝王の本地仏は文殊菩薩だそう。ところがこの絵ではどういうトラブルがあったのか知らないが、ここの獄卒たち(基本的に部署ごとにそれぞれ就職している)が空から来る普賢菩薩を攻撃している。
普賢と文殊は天界では仲良しの筈なんだが、地獄ではライバルなんだろうか。
ちなみに普賢はお隣の28日目の五官王の正体。

和字絵入往生要集 3冊 紙本墨摺 江戸時代・元禄2年(1689)刊・寛政2年(1790)再刻 龍谷大学図書館  ふふふ、ここでも衆合地獄が出ている。そっちの人向けの虐待も色々。
ただ、虐待になりにくい人もいるわね。
特に元禄年間に描かれたから、色々フジョシ向けかも知れない。

地獄草紙(原家本)模本 高取熊夫模写 1巻 紙本着色 明治18年(1885) 東京国立博物館  元は原三溪の所蔵。後期には鈍翁所蔵の模本などが出てくる。

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第 2 章 地獄の構成メンバー
*閻魔王・十王・地蔵菩薩
最近の「地獄」イメージ、これはもう圧倒的に「鬼灯の冷徹」なんだよな。
変な話、あのマンガを読んでから「地獄も一週間くらいなら…」と見学したいなと思うくらいになったものなあ。
とはいえ、閻魔大王といえばわたしの場合、先行作品として「ドロロンえん魔くん」「幽遊白書」があるから、あんまり一貫してはいない。

木造 閻魔王坐像、司命・司録坐像 源三郎作 3軀 木造 室町時代・永禄2年(1559)奈良・當麻寺(護念院) たいへん力強い造形。なんだかぐっとくる。

地蔵十王図 11幅 絹本着色 中国・南宋時代 京都・誓願寺  カラフルで綺麗。
あら、宋帝王の補佐官のヒト、髭モジャやな。
後期には壬生寺のが出るが、あそこも地獄関係とは深いな。

第 3 章 ひろがる地獄のイメージ
*山のなかの地獄
立山曼荼羅 松平乗全筆 4幅 紙本着色 江戸時代・安政5年(1858)個人  これはもう絶対に立山曼荼羅。この絵は西尾藩主直筆もの。かなりうまい。蓮の葉をかぶった亡者もいる。
山上他界という概念を以前国立歴博では展示していたが、今はない。
立山、立石寺といった山の中のあの世についてわたしは深くは知らない。
しかし非常に惹かれるものを感じてもいる。

*「心」と地獄
熊野観心十界曼荼羅 1幅 紙本着色 江戸時代 個人  わたしが最初に熊野比丘尼を知ったのは高校の頃に読んだ資料からだが、そのヴィジュアルはマンガで読んで初めて知った。
まず杉浦日向子「百日紅」で後の渓斎英泉がついつい熊野比丘尼を買ったエピソード、そして近藤ようこ「安寿と厨子王」の安寿が化けた熊野比丘尼、他に池上遼一版「修羅雪姫」の熊野比丘尼。こちらは明治の世に、売春組織の御殿を立てるために曼荼羅を得ようと暗躍する話。
現物を見たのはもう少し後年で、京都だったと思う。
五年前の龍谷ミュージアム「絵解きってなあに?」展が思い出される。
当時の感想はこちら

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ナマナマシイ絵。こうした絵で絵解きをされる方が心に届きやすい。

そうだ、「絵解きってなぁに?」展のナビゲーターを務めた比丘尼ちゃん・こびくにちゃん・こおにくんたちが、次の巡回先の龍谷ミュージアムで出てきてくれたら嬉しいな。

*地獄めぐりの物語
地獄めぐりをする数多の者がいる。

北野天神縁起 巻第四 芝観深筆 6巻のうち1巻 紙本着色 室町時代・文安3(1446)大阪・佐太天神宮  炎熱地獄を行くようだが、亡者が数人いるが、みんなわりに平気そう。「じごくのそうべえ」や落語の「地獄八景」を思い出す。
米朝さんが十八番にしてはった噺。

米朝さんが亡くなった直後、息子の米團治がどこかの寄席で「地獄八景」をやったが、地獄の寄席に「桂米朝来演」。死にたてのほやほや。地獄の観客がわくわくしているというのがあった。
息子が聴きに行ったらみつかって「来るのが百年早いわ!」…ええ話や。

ところで西条八十「トミノの地獄」をここに挙げておこう。
トミノの地獄
姉は血を吐く、妹は火吐く、可愛いトミノは宝玉(たま)を吐く。
ひとり地獄に落ちゆくトミノ、地獄くらやみ花も無き。
鞭で叩くはトミノの姉か、鞭の朱総(しゅぶさ)が気にかかる。
叩けや叩けやれ叩かずとても、無間地獄はひとつみち。
暗い地獄へ案内をたのむ、金の羊に、鶯に。
皮の嚢(ふくろ)にゃいくらほど入れよ、無間地獄の旅支度。
春が来て候(そろ)林に谿(たに)に、くらい地獄谷七曲り。
籠にや鶯、車にゃ羊、可愛いトミノの眼にや涙。
啼けよ、鶯、林の雨に妹恋しと声かぎり。
啼けば反響(こだま)が地獄にひびき、狐牡丹の花がさく。
地獄七山七谿めぐる、可愛いトミノのひとり旅。
地獄ござらばもて来てたもれ、針の御山の留針(とめばり)を。
赤い留針だてにはささぬ、可愛いトミノのめじるしに。

*「ひろがる地獄のイメージ」から「地獄絵ワンダーランド」へ

長寶寺縁起 詞:勘解由隆典筆 絵:倉橋泰貞筆 1巻 紙本着色 江戸時代・元文2年(1737)大阪・長寶寺  慶心尼の地獄めぐりの話。蘇生すると額に閻魔の印がついていた。これは別に懲罰的なものではない。
キン肉マンは額に「肉」、「デトロイト・メタル・シティ」のヨハネ・クラウザー二世は額に「殺」の字、カインもなんか額に神の印をつけられていたな。
この尼僧はしばらくすると蜘蛛の知らせを受けて地獄を再訪する。

閻魔王大実判 1顆 江戸時代 大阪・長寶寺 慶心尼が閻魔大王からもらったハンコ。「王」の字がある。
 
小野篁地獄往来(地獄一面照子浄頗梨)山東京伝作、北尾政演画 1冊 紙本墨摺 江戸時代・寛政元年(1789)刊 早稲田大学図書館  地獄でいろんな大会が開催される。畜生道で流鏑馬、修羅道で剣術大会などなど。
お江戸の草双紙は楽しいよなあ。

本朝酔菩提全伝 山東京伝作、歌川豊国(初代)画10冊のうち2冊 紙本墨摺 江戸時代・文化6年(1809)刊 早稲田大学図書館 前後各1冊  これも芝居になってたような。

死に絵もいくつかある。
死絵「四代目中村歌右衛門・八代目市川團十郎・初代坂東しうか」 3枚続 紙本多色摺 江戸時代 国立劇場  地獄で大暴れ。

死絵「八代目市川團十郎(六道の辻、賽の河原)」 1枚 紙本多色摺 江戸時代 国立劇場  児雷也としての團十郎、彼のファンのちびっこたちが賽の河原の小石を投げて加勢する。

壬生狂言面「閻魔」「地蔵」 2面 木造 江戸時代 京都・壬生寺  閻魔は赤くベシミ風。地蔵は白い顔。

*「心」字の展開
善悪双六 極楽道中図絵 黒川玉水筆 1枚 紙本墨摺 江戸時代・安政5年(1858)龍谷大学図書館  面白い。心学のキャラたちがでている。

心字絵解図絵馬 林文吾筆 1面 板地着色 明治14年(1881) 和歌山・二沢観音堂  稚拙ながらよく描いている。ザンギリの人がいるのが明治なところ。

第 4 章 地獄絵ワンダーランド
誰も地獄はおろか十王も本当に見たものはいないので、道教のスタイル+アルファという装いをしている。

地蔵・十王図 13幅のうち10幅 紙本着色 江戸時代 東京・東覚寺  楽しいヘタウマ画。小5くらいの子供が班ごとに「地獄描きましょう」という課題に、熱心に取り組んだ絵、という感じがする。

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十王図 4曲1隻 紙本着色 江戸時代 日本民藝館  これまた素朴画。いいなー。民間伝承というものはやっぱりおもろいもんです。

孝子善之丞感得図絵 鈴木猪兵衛筆 8幅のうち4幅 紙本着色 江戸時代・文政13年(1830)愛知・観音院  これは先にも「孝子善之丞感得伝」2冊 紙本墨摺 江戸時代・天明2年(1782)刊 愛知・観音院 前後各1冊 というのが出ていた。
少年・善之丞が父の前世の因果を知り、替わって贖罪する。少年の孝心に感銘を受けた十王も獄卒もみんなで寄ってたかって浄玻璃の鏡を見せながら説明して、仕方ないんよねと言うが、少年は・・・
これがすごい大ヒットしたそうな。
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えらい噛まれようやな。
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閻魔・奪衣婆図 河鍋暁斎筆 2幅 絹本着色 明治時代 林原美術館  このキャプションは龍谷ミュージアムのチラシから。
暁斎はわりと閻魔が女に振り回される絵を多く描いている。
婆さんも若衆に色々してもろて気持ちよさげ。まあな。
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木造 十王坐像・葬頭河婆坐像・白鬼立像 木喰明満作 12躯 江戸時代・文化4(1807)兵庫・東光寺  猪名川の方のお寺らしい。知らなんだな。みんなけっこう可愛い。
そして龍谷ミュージアムのチラシがまたいいんだ。
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記念撮影ですな。にこにこ。

第 5 章 あこがれの極楽
*厭離穢土・欣求浄土

二河白道図 1幅 絹本着色 室町時代 富山・光照寺  追われてるね色んなものから。
この絵の細い道、「カイジ」の鉄骨渡りを思い出すな・・・他の「二河白道図」ではそんなこと思わなかったが。

地蔵菩薩来迎図 1幅 絹本着色 室町時代 個人  優しそうなお地蔵さん。救いはあるわけだ。ないと哀しい。
それから有名どころ。
山越阿弥陀図 1幅 絹本着色 室町時代 京都・清浄華院
阿弥陀二十五菩薩来迎図 1幅 絹本着色 南北朝〜室町時代 京都・知恩院
一種のデモンストレーションとパレードかな。

法如(中将姫)像 1幅 絹本着色 江戸時代 大阪市立美術館  可愛らしい。にっこり微笑んでいて、近代的な感じもする。

当麻曼荼羅 1幅 絹本着色 南北朝時代 個人
やはり〆はこれですな。
極楽浄土を描いた絵はやはりこれに尽きる。

楽しいワンダーランドでした。
前後期と展示替えもあるのでどちらも行くのがいいよ。
その後はちょっとお茶してから出光へも行こう。
あっちも地獄・極楽がある。
それを見損ねたら次は龍谷ミュージアムで地獄が待っている。
龍谷ミュージアムで地獄絵ワンダーランドを楽しんだら、目の前の西本願寺や斜め後ろの可愛い伝道院をチラ見して現実の地獄へ帰ろう。

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