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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

清方描く「雨月物語」より「蛇性の婬」

清方描く「雨月物語」より「蛇性の婬」を2007年と2017年のアートコレクションで見た。
記録と記憶のために挙げる。
文はすべて2007年のこの記事から。
今回はいくつかの絵を差し替える。

清方の雨月物語。これは『蛇性の婬』を描いている。
雨月物語の中でもこの物語は特別好きな一本で、わたしも思い入れは深い。8シーンが出ているが元は絵巻なのを額装にしている。
1.雨宿り
イメージ (61)
網元の末子・豊雄が雨宿りする軒に、少女を連れた佳人が来る。向こうに小舟があり、鵜が二羽ばかりいる。
美人画家というだけでなく、清方は優れた挿絵画家であったので、こうした物語絵には深い情趣が活きている。

2.まろや そのタイトルは化生の少女の名から。浅葱の着物を着たまろやが豊雄を迎えに来る図。
女の家を探して歩く豊雄の前にまろやが現れ彼を導くのだが、ぼろが出ないようにしている。
よくよくみればまろやの両目はおかしい。焦点があっていないのである。
豊雄はぼんやりした男なので、これ幸いとついてゆくばかり。キキョウが静かに咲いている。

3.ちぎりmir219-2.jpg

イメージ (68)
いよいよ豊雄はこの家の女主人・真女児と結婚の約束をする。
嬉しい祝い事の場で、女は多少乱れを見せていて、それが艶かしく美しい。
イメージ (62)
画面には紅葉があかあかと燃え繁り青い葉と見事なコントラストを見せている。庭には他に菊や萩も咲き乱れているが、床の間の太刀に意識を向けねばならない。この見事な太刀は亡夫の佩刀だと女は言い、それを豊雄に佩かせるのだが、これが後日の禍となる。

4.黄金の太刀
イメージ (63)
石川淳の『新釈雨月物語』から抜き出すと、「金銀をちりばめた太刀の、あやしきまでに鍛えた古代のもの」が末弟の枕元にあるのを、長兄がいぶかしむ。
ここは異時同時図で、まず家内争議となる。網元としては由緒もあるが武家ではないので、この太刀が及ぼす禍を恐れているのだ。

5.もののけmir219-3.jpg

例の太刀は熊野権現から盗まれ、詮議中の物件だった。豊雄は事の次第を語るが、そんな女はいないと言われる。
皆で押し寄せると、あばら家の中に女が座している。絵はその情景である。
<モノ凄き>と言うべき情景。
女のじろりとする横目といい、口元といい、全く動じていない。
さすがはもののけである。

6.泊瀬 
イメージ (66)
大和の泊瀬は長谷観音の門前である。平安以降賑わいでいる地に住む姉を頼った豊雄は、二月のある日その賑やかな雑踏で真女児とまろやに再会する。女たちの後には馬も通り、昼日中の明るい景色の中、男だけが青褪めている。遠くに長谷寺の長い長い回廊が見える。(この長谷寺は牡丹寺としてもたいへん有名で、今も多くの観光客・参詣人が来る)清方は一度だけ奈良に来ているが、こちらにまで足を伸ばしてはいない。

7.吉野 
イメージ (65)
男は巧く丸め込まれ夫婦気取りである。そんなある日、一家揃って吉野に花見に出かけた。吉野行きを渋っていた真女児とまろやだが、仕方ない。
座る女たちの前に現れる老人を清方は描く。老人は二人の正体を喝破する。

8.蛇身
色の映りの違うものが二点あるのでどちらも挙げる。
イメージ (64)

イメージ (67)

老人に「邪神」と見抜かれ、慌てて二人は激流に飛び込む。その荒々しい姿を清方は捉える。
女たちの着物が蛇、鱗、水流を暗示させる。恐ろしい形相をして、女たちは逃げてゆく。清方の中でも珍しい表情である。

・・・物語はこれ以後も続くのだが、絵はここで終わっている。
清方は随筆の中で、岩佐又兵衛の『浄瑠璃姫』『山中常磐』などを念頭に置きながら、その怪異味を出そうとしたことを記している。
幸いなことに随分前に手に入れていた集英社の画集の中に、数枚が掲載されていた。
とても嬉しい。
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