美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

静嘉堂「国貞」展をみる

静嘉堂文庫で歌川国貞展を、浮世絵太田美術館で江戸の女装と男装展をみた。
どちらもとてもいい状態の作品ばかりだった。
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国貞は実に息の長い絵師で、現代では弟弟子の国芳に人気が集まっているが、当時は大巨匠として常に売れ続けた。
観客本位というか客の好きなものを、客が自分にどんな期待をしているかを知り尽くしていて、期待通り+期待以上の作品を作り続けた。
だが、それが結局のところ近年かれの名を埋もれさせた原因になった。

先年、ボストン美術館所蔵の「俺たちの国芳 わたしの国貞」展で今の世にも国貞の魅力が広まって、本当に良かったと思った。
国芳の面白味はこの四半世紀の間に知れ渡ったが、逆に国貞の魅力が埋もれていたので、今回こうした企画展があるのはめでたい。
永青文庫での春画展にも国貞のいいのがあったことだし、彼が当代随一の美人画の描き手だったことも知られたと思う。
なお、こちらは当時の感想
俺たちの国芳 わたしの国貞
「SHUNGA 春画展 前期」 版画と豆版

さて、楽しもう。
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見立てもの、名所、月次風俗、と様々な背景に美人を配する。
時には風景画の名手・広重とコラボすることもあり、それらは魅力が倍加する。

役者を気取る(見立て)美人たちの絵もいい。今の世のわたしたちは往時の役者の魅力を直接に知ることは出来ないが、こうした絵からそれを偲ぶことも出来るのだ。
実際わたしなどはここから江戸の歌舞伎役者に興味を持つようになった。

杜若きどり 岩井半四郎を気取り姐御風な女。
梅好きどり 咥え楊枝で婀娜っぽい。
こうした様子の女たちの絵を楽しめる江戸庶民がうらやましい。

国貞は美人画と役者絵を中心にして、読者(!)が喜ぶ構図をリサーチして、それに合わせた。
そして先人たち同様、女の日常の仕草も絵にした。ちょっとした様子を絵に仕立て上げ、それを魅力的に見せることが出来るのはやはりすごい。

当世美人合シリーズ
身じまい芸者 身じまいは化粧。
俄 年に一度の楽しい祭に男装してお獅子に寄り添う。
富士詣ノ夕立 傘をさす女の着物は玄武と朱雀の古風な柄物。扇面には富士詣につきものの麦藁細工の蛇のおもちゃ。

明治になってから芳年が「風俗三十二相」シリーズで様々な身分・立場の婦人の様子を描いたものを出したが、幕末にもむろんある。
国貞「当世三十二相」
りこう相、たてひき相、しまひができ相、あづまのお客もうき相、ゑらい所のお娘御じや相、世事がよさ相・・・

たてひき相 雁金文七の見立て。着物の紋が三羽の雁らしいが、どう見ても千鳥。侠客気取りなので鬢も跳ね気味。
しまひができ相 腕に好きな男の名を刺青していそう。
あづまの・・・ これは大坂芸者。江戸の女と違いふっくらしもぶくれに描かれている。笹紅も下唇に。シャッキリせずモッチャリしているが、可愛い。
お娘御 これも江戸でなく上方の娘らしい。笹紅の下唇に着物の首から背に可愛らしい布を垂らしている。これは上方風俗で松園さんも描いている。

明治の世になり男のモード?は変わった。ちょんまげからザンギリになったり、着物から洋装になったり。
しかし女の方は鹿鳴館に出入りするものはともかく、大方は江戸と地続きの和装・和髷だった。
大転換はもっと後。そして変わるときは本当にスパッッと変わる。

三枚続のいい絵をみる。
春待月娼家の餅花  みんなで餅作りに勤しむ。こねるもの・小さくこしらえるものなどなど。べろーんと大きく重たそうな餅がいい感じ。

神無月はつ雪のそうか  これは前々から好きな作品。「そうか」は「惣嫁」と書き、上方の低いレベルの街娼であり、江戸の夜鷹と同じ。
「そうか」といえば二つの話を思い出す。
溝口健二「西鶴一代女」のお春は御所勤めから男ゆえの流転を重ね、遂には惣嫁にまで落ち、生んですぐに取り上げられた息子が大名になったことでその家から今の暮らしぶりを責め立てられる。
惣嫁でホームレスの彼女は三十三間堂で休む時に、仏像たちを見てこれまで関わった男たちを思い出す。物語はそこから始まる。
もう一つは藤本義一による織田作之助を描いた小説「蛍の宿」で「四面楚歌」をパロって「四面惣嫁」と笑うシーン。

ここでは二八そばの屋台を取り囲んで女たちがはあはあと息を上げながら熱いそばを食べて暖を取る。
客を取れればそれで暖も取れるが、客も来ないこんな雪の夜では蕎麦でも食べないと身が暖まらない。
せつなさが身に染みる。

そういえばたばこと塩の博物館で随分前に見た国貞の遊女の堕胎図、女郎への仕置き図はいつか再見できるのだろうか。

母子と名所を描いた絵も少なくない。それらは一枚の情景の中に多くの情報量が入っている。
それらを一つ一つひも解くのも楽しい。

国貞は物語の挿絵で名作も多く残した。
「田舎源氏」「しらぬい譚」などはその代表。
田舎源氏の光氏豪遊の絵が二点。
花街遊覧 横浜随一の岩亀楼で遊ぶ。店の前で立つ姿がいい。遠近がうまい。手前に光氏、奥に楼。いかにも浮世絵的な遠近法で、これは後世のマンガの表現にも使われる。西洋のそれとは違う遠近感が好きだ。
花魁の打掛、金糸梅の模様や外人の顔の模様、海棠もある。

長崎円やま 名高い丸山に遊びに行ったようだ。その背景には海が広がり船も行き交う。この背景は二世広重、つまり「茶箱広重」が描いた。「茶箱広重」については一ノ関圭の作品を読むべきだ。素晴らしくいい。

初代広重とのコラボシリーズがある。
双筆五十三次 広重が風景を国貞が人物を描く。
はら ここでは白酒売りが寛ぐ姿。白酒売りと言えば歌舞伎「助六」の白酒売り実は曽我十郎というのがあるが、当時どれほど白酒が売れていたかというと、川柳にもいろいろ読まれていたりするし、豊島屋の売出日は列が長かったともいう。
この白酒売りは担いで売り歩くもの。

岡部 平忠度を斬った岡部六弥太ゆかりの地。桜の枝を持つ六弥太。

他にも「荒井」の検め婆さんの絵などもある。

役者絵をみる。
鼻高幸四郎のかっこいい横顔の「仁木弾正」は今回のチラシ。
五世団十郎の景清、小団次の天日坊などの大首絵。

師匠の豊国を襲名してからの「豊国漫画図絵」が二枚。
弁天小僧菊之助 この絵が元で黙阿弥が五世菊五郎にあてて弁天小僧を書き下ろしたという話もある。
頽廃的な美に彩られた作品で、わたしもとても好きだ。
この絵は横溝正史「蔵の中」でもなかなか重要なアイテムとして使われている。
美しい弁天小僧のその妖艶さを支えるのは、女装と共に刺青である。聾唖の姉が美少年の弟の腕に刺青をしようとしてもめるのだが、確かにこの絵を見ていると、少女が欲望に駆られるのもよくわかる。

最後に肉筆画が来た。
芝居町 新吉原 風俗絵鑑 
・芝居茶屋 ・仲之町の桜・格子先・表座敷
大賑わいな様子が描かれている。群衆の端にわんこがいたりもして、細部を見るのも楽しい。
物を食べるわんこを見る女たちもいれば、有名な仲之町の桜を堪能する人々もいる。
御馳走は大鯛だが、大抵は残されたまま…

突飛な構図のものはここにはなかったが、とても楽しかった。
いい発色のものも多く、大事に保管されてきたのをこうして楽しめてよかった。

3/25まで。
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