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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

生誕150年 横山大観展

十年ぶりの大回顧展とあるので、あの展覧会からもうそんなに経ったのか、とそっちに驚いた。
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当時の感想はこちら
横山大観 新たなる伝説へ
そのときにわたしはこんなことを書いている。
‘88年から展覧会をハイカイしているが、横山大観がメインの展覧会をいくつ見たか考える。
・・・調べると毎年なにかしら見ている。と言うより、総花的な日本画の展覧会に行くと七割くらいの打率で、大観の作品があるのだ。大観だけの作品展だけでも多く見ている。

あれから十年、状況は変わらない。
あ、わたし今年で展覧会見て回るようになって30年か!こっちに驚くわ。

大観は当時の栄誉の反動か、現代になってどうもわるく言うヒトが少なくない。
尤も昔からそんな言葉もあるから大して変わらないか。
「日本一の画家」という認識に苦いものを感じるのかもしれない。
言うたらなんやけど、そんなこと思わずに見ればいいのだ。
ヘタなのもあるし、自信満々なのに限ってどうでもいい作品もあるし、小さな作品がとてもよかったりもする。
本人は最後まで水戸の書生っぽあがりのキモチが残っていたようだし、国士とかそんな気分でいたのもやっぱり明治初頭の生まれということも考慮してあげないと、嫌ってばかりいては可哀想だ。
まあ多くの人々が大観を尊敬しているけれども。
大観は好きな作品も色々あるし、今回は何よりも「生々流転」が見たくてやってきたのでした。

1.明治の大観
初めに「屈原」が来た。厳島神社所蔵の悲愴な様子の横長の絵。
ここから来るか…

無我 幼児のぼえーとした絵。最初に見たのは切手からだが、ニガテだったな。大学の時に友人からレクチャーを受けてねそれでようやく受け入れることが出来た。
抽象概念を絵にする課題に沿って作られたというのを知り、色々納得している。

井筒 白い撫子が咲いていたりと小さな幸せが凝縮された空間。そこにいる幼い男女。可愛いなあ。

迷児 出たか。これは宗教というか信心することに関してのメタファらしい。この絵は最初に大観記念室に行った時に絵はがきを購入している。

白衣観音 百年ぶりに登場だという。
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足首にもアンクレット。日美の予告で「シェー」する
観音だと言われてたなあ。

月下の滝  おお、植物がどんどん大きくなって、その中を滔々と…

彗星  おお、ヒューッ明治末のハレー彗星。大観もとても気になっていたそう。
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この彗星をみるとマーク・トウェーン、夏目漱石、そしてこの次の彗星を見た澁澤龍彦を思い出す…

2.大正の大観
瀟湘八景 東博  これも東博の近代画のコーナーでよく見る。リアルタイムの情景。こういうのが本当にいい。
女の人が子連れで漁師の傍を通り抜けるとか。

山茶花とリス  この絵を最初に見たのは今はなきつかしん、つまりセゾン系のデパート美術展でのことだった。
大観はこうした小品の方に本当はいいものが多いと思う。情感が豊かなのをこうしたところで発揮する。
左幅 リスとドングリ。おいしそうに食べるリス。
右幅 こちらがタイトルの山茶花がある絵。薄ピンクの花の下に葉っぱを持って立つリス。
大観はとても動物好きで、池之端の自宅にもたくさんの動物を飼うていたそう。

松並木 大きい絵。松林が続く。その並木道を二人の人間がゆく。松は気により菰が巻かれている。
実感として松並木あるいは松林を歩くと、風が松の間を行き過ぎる音ーそれにも耳を傾け、心地よくなり、いくらでも歩けるような心持ちになる。
松の並びが東アジアの人間を心地よくするのだろうか。この感性は今も続いている。
そしてその快さを大観は形にする。

荒川絵巻・長瀞之巻 ヤマタネ 山中から山道をゆく人もあれば、木を下ろす人もいる。秋の山。心地よさがある。

大観が生存中に意気投合し、彼を支援した数多くの実業家・素封家の内、ヤマタネの創業者・山崎種二と大倉喜八郎、細川護立らは特に大観の人柄を好んだ。
彼らは大観より年下だが、パトロンだからというだけでなく、どこかでこの無邪気な男を可愛いと思う気持ちがあったろう。尊敬よりそちらの方が強かったような気がしてならない。
そして彼らの手元にある絵は情緒豊かなものが多数を占めている。
大仰な絵についても時代に乗っただけで、大観はあんまりなにも考えていなかったとよく思う。

秋色 琳派風。みっしりと槇の木が続く。大きなツタ、群青の実がつく。オレンジの輪郭の中。そして緑のたらし込み。鹿が生きている。こうした絵の方がずっといい。

霊峰十趣のうち四点がでている。イメージ (922)

わたしは「夜」が好き。グレーと白の夜。
巧いとかどうとかでなく、可愛げがある。
音楽的な美を感じるのもこのシリーズの特徴。

胡蝶花 葉っぱの隙間からぴょこんと顔を出すイタチのとぼけた様子が好ましい。

さていよいよ「生々流転」である。
今回全巻を開いているというのでそれを楽しみに来たのだ。
十年ぶりか。
90年代初頭、夏になると東近美は全館で所蔵品展をしていた。その頃にも一度見ているはずだが、資料が見あたらない。
この絵巻を描くに当たり大観は下絵を手洗いにも手放さずに描きに描いた。
そしてこの絵は関東大震災の当日、初めて世に出たのだ。
朝から鏑木清方は弟子と共に見に行ったが、そこで地震に遭った。
そのあたりのことは「続こしかたの記」に詳しいが、とにかくこの絵は無事だった。
また上野にほど近い池之端に住まう大観は尻はしょりに鉢巻姿で、甲斐甲斐しく立ち働いた。避難した人を開放した自宅に招き入れ、個人的に支援した。
これらは当時の講談社が実録ものに記している。

絵はこのサイトでも見ることができる。
そしてこの絵巻を見る前に四つの画面で絵の随所の面白さ、技法の解説などが流れる。
それを見た後で絵巻を見に並ぶ。
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墨絵の濃淡がいい。鹿も猿もいるのをみつけた。杣もいる。松ぼっくりもころころ。川もあれば山もある。筏も流れる。笹もイキイキ、松もワサワサ、お化け顔の岩もある。
小島には小さな鳥居が立つ。

じぃっ と見る内に人生の長さについても少しだけ思いをよせてみる。
俳優の殿山泰司は戦争前の不安な頃に、この絵を見に行った。
彼は彼なりにいずれ戦争にゆかねばならない身の上について思い悩んでいたのだ。
しかし答えは出ない。
だからこそ彼は「生々流転」を見に行ったのだ。
そんな心情を思いながら見る。

雪旦 薄墨の白椿。ふくら雀。情緒あふれる一枚。雪の朝の情景。

3.「昭和」の大観

夕顔 墨の濃淡の美を味わう。

大観の言葉が紹介されている。
その中の一つはこんな感じだった。
「絵の絶対境地は口では伝えられない。筆で描いて説明する。(…中略…)本当の心が感じせしめるものでなくてはだめです」
1936/12/5 読売新聞
ずっと絵を描き続けて来た人の抱く実感だと思う。

飛泉 大観も応挙も滝をよく描いた。これは京近美の滝。野間のもいい。

柚子 薄黄色というより色なしに近い。裏箔。工夫をこらす大観。

昭和5年には大倉喜八郎男爵主催の羅馬日本画展が開催され、当時一流の日本画家の作品が大量に海を渡った。
大観もローマへ行ったが、その時の写真がとても好きだ。袴の捌き方の見事なこと。
風貌もいいから、本当に立派で素敵だった。

とはいえその辺りの絵はここにはない。
そして翼賛関連の絵が現れる。
ちょっとイケズさを感じる選択でもある。

龍蛟躍四溟 北斉の祭文の一節から採ったタイトルだという。北斉といえば蘭陵王のいた国か。
四海に躍る龍やみづち。出目の龍がファンキーである。何を意図したかは知らんが、案外可愛い龍たちの絵。

海に因む十題 そこからいくつかが出ている。中でも「濱海」が好ましい。
苫屋もあり、小舟もゆれる。
自然と人の関わりがそこにある。

春園之月 やや太めの月が上り、低木の桜がみえる。下絵もあるので大観の構想の推移も伺える。

大観を戦争賛美者とみなすのもわかるが、あの時代の、明治生まれの、絵を描く以外に世過ぎを知らない、終生書生っぽさの抜けない人を批判しても仕方ないのだ。
大観は日本を信じていただけにすぎない。

野に咲く花二題 蒲公英・薊 可愛らしい。コオロギも飛ぶ野。繊細な絵。蒲公英の方には紋白蝶もいて、杉菜も咲いている。

南溟の夜 戦争中に描かれた名作。左上の小さな星の群が心を掴む。そしてその下の島にはジャングルが広がる。
南方、日本の南進政策、犠牲。
そして全く違うのだが、糸満漁師のもとで過酷な生を歩む少年と少女を描いた「海の群星」うみのむりぶし を思い出すのだった。

春光る(樹海) 戦後一年めの一作。富士山の裾野に湧き立つように咲き乱れる草花。
片岡球子の富士シリーズはこの後に生まれている。

被褐懐玉 美少年二人の寄り添う姿が好きだ。この絵も随分昔に絵はがきを買っている。サンダル履きの足の白さが目に残る。
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最後に再び中国の故事をもとにした絵が現れた
風蕭蕭兮易水寒  荊軻が旅立つ際に呼んだ歌をタイトルにした。
犬なのかなんなのかわからないものが柳の下にいる。悲愴な心のありようを想う。

「屈原」に始まり「易水送別」で終わる。
現代とは合わないかもしれないが、それでも大観の良さを否定することはしたくない。
無論無批判で讃えることもしないが。
しかし少なくともわたしは大観の絵の中でも叙情性の高いもの、美人が描かれたものは推す。

後期は5/8から。
そこには美少年「菊慈童」のほか、名作と名高い「夜桜」、叙情性豊かな「作右衛門の家」などの良い作品がある。
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