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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

「糸のみほとけ―国宝 綴織當麻曼荼羅と繡仏―」に驚く その1

奈良国立博物館は時々物凄いとしか言いようのない展覧会をする。
ここは確実に秋は正倉院展、真冬はおん祭展、春を呼ぶお水取り展を開催するので、その隙間を縫って特別展なり企画展なりが開かれる。
というか、この三大展覧会の隙間でないと、大きめの展覧会は難しいというべきか。

これまでにも「美麗 院政期の絵画」展「インド・マトゥラー彫刻」展「神仏習合 かみとほとけが織りなす信仰と美」展などを開催してきた。
突発的に厳島神社展もあったが、あれは台風被害の為に出開帳したのを展示したものだ。
そしてその展覧会も好意を以て受け入れられている。
尤も寺社の名宝展は他のところでも喜ばれることが多い。
奈良博は見せ方も良いということだ。

要するに奈良博にはとんでもなく凄い展覧会という系譜があり、そこに連なるものが今回久しぶりに現れたのだ。
「糸のみほとけ―国宝 綴織當麻曼荼羅と繡仏―」展。
イメージ (1190)

誰がこんな凄いものを目の当たりにすることになると予想したか。
チラシですでに十分に予想出来てはいたが、現物は更に物凄かった。
眼が眩んでしまった。

第1章 飛鳥時代―日本最初の仏像は繡仏だった
このタイトル見ただけでぞわぞわするわ。
結局人間てまず最初に何かを作ろう・何かを形にしたいと思ったときって手づくりからでしょう。
しかも古代。自分の手を使うところからモノが生まれ行く。
だから彫ったり縫ったりがある。とはいえまさか刺繍の方が先とは。

日本書紀(寛政六年版) 第十冊 1冊 紙本墨摺 江戸時代 18世紀 奈良女子大学学術情報センター  推古天皇の御代に銅の仏と刺繍の仏とを同時期に作成して元興寺にお納めした、というあたりが出ている。
「十三年夏四月辛酉朔、天皇、詔皇太子大臣及諸王諸臣、共同發誓願、以始造銅繡丈六佛像各一軀。乃命鞍作鳥、爲造佛之工。是時、高麗國大興王、聞日本國天皇造佛像、貢上黃金三百兩。閏七月己未朔、皇太子命諸王諸臣、俾着褶。冬十月、皇太子居斑鳩宮。
十四年夏四月乙酉朔壬辰、銅繡丈六佛像並造竟。是日也、丈六銅像坐於元興寺金堂。時佛像、高於金堂戸、以不得納堂。於是、諸工人等議曰、破堂戸而納之。然鞍作鳥之秀工、不壞戸得入堂。卽日、設齋。於是、會集人衆、不可勝數。自是年初毎寺、四月八日・七月十五日、設齋。」


大きい仏像なので入らないから戸を壊そうという話も出たが、さすが鞍作鳥がいるだけにうまいこといった、という話。
このあたりの様子を安田靫彦が描いている。
ご参考までにこれだろうな… 展示されてません。
イメージ (1198)

わたしの中ではイメージ的には「日出処の天子」のトリなんだよなあ。王子の予言は確かなわけです。

さて国宝・天寿国繡帳です。
今まで知らなかったけど、飛鳥時代のに鎌倉時代のを補綴していたそう。 そして後補の方が褪色著しい。
1面 紫羅地・紫平絹地 部分刺繡 飛鳥時代 7世紀 奈良 中宮寺  亀は甲羅に四文字載せる。この残っているのは厩戸王子の母・間人女王のこと。元々は百亀いたらしい。
月兎もいる。紫の絹に羅を重ねてそこへ刺繍という構造だそう。返し縫で製作。
改めてじっくりと拝見いたしましたわ。昨年の「国宝」展 第2期以来の再会。
当時の感想はこちら
イメージ (1196)

やっぱり可愛いアップリケ。
杵なし兎の戦闘ポーズイメージ (1195)

折井宏光えがく制作中の皆さん。ご参考までに。←展示されてはいません。
イメージ (1197)

その残欠ものも凄いな…幡足裂とか。それらは大切に大切に法隆寺、東博、徳川美、白鶴美などに収蔵されている。
聖徳太子関連の遺宝ではこれと玉虫厨子とが非常に印象深く、また怖いような感じがある。

金銅唐組垂飾 1条 銅製 透彫 鍍金 組紐 飛鳥時代 7世紀 大阪 藤田美術館  これはあれだ、ティアドロップ型の鈴のついたもので、赤の線に黒と金の間道に更にもう一色入ったもの。

縞地竜文刺繡残欠 1面(3片) 白羅地 部分刺繡 飛鳥時代 7世紀 東京国立博物館 法隆寺伝来品  これも返し縫。そしてその造形がどうもマティスの切り絵シリーズ「サーカス」に似ていたりする。
1300年後の異国に、形の似たものが手から生まれるのは楽しい。

薄い金属プレートに細線で天人の絵が刻まれた幡。
金銅灌頂幡 四隅小幡 2旒 銅製 透彫 鍍金 飛鳥時代 7世紀 東京国立博物館 法隆寺献納宝物
金銅小幡残欠 1面 銅製 透彫 鍍金 彩色 飛鳥時代 7世紀 兵庫 白鶴美術館
白鶴のは「目ヂカラ美人の飛天三人組」とわたしは呼んでいる。
最近ではこの展覧会で見た。
白鶴美術館「作品は深く語る 中国・日本美術の地平」展をみる

東博の法隆寺宝物館でみかける幡足裂の数々。
黄、緑、紺などの色の縬地。黒を下地にしていたり、色もよく残っている。
藤田美や大和文華館には古裂帖貼にその残決がある。
名だたる古美術蒐集家のもとにこうして活きている。
中でも藤田のには三美人が現れる。
中央は相当な美人で、左は映画「ざくろの色」の主演者に似ており、右は「あーれー」と言いそうである。
個人蔵のでは天人が琵琶を弾くのもある。

イメージ (1193)

第2章 綴織當麻曼荼羅―奇跡の綴織
今回の展覧会のメインだという。
見学に行ったこの日、「国宝綴織當麻曼荼羅 ―― その図様と意義」という講義があり、マンガ家・近藤ようこさんが聴いておられた。合流してお茶を飲みながら少しばかりそのお話を伺う。
わたしは沈黙したまま人の話を聴くということがほぼ不可能なため、こうした形でなら、しかも大好きな近藤さんからなので、お話が聴ける。

連珠円文綴織残欠 2面 綴織 飛鳥時代 7世紀 東京国立博物館 法隆寺伝来品  こうした連珠円文を見るたび龍村平蔵の再現の苦労がしのばれ、たとえ彼の手掛けたものでなくともドキドキするのだった。
本物以上にたぶん初代龍村平蔵再現品が好きなのだろうなあ。
かれの再現したのは「獅子狩文錦」でしたが。

いよいよ登場。

綴織當麻曼荼羅 1幅 綴織 中国・唐または奈良時代 8世紀 奈良 當麻寺 綴織 縦396.0cm 横396.6cm  大きいなあ。わたしなどは「そうか、藤原南家郎女が蓮の糸を織ったからか」とあの様子を思い浮かべるが、姫本人が織ったかどうかは本当のところはわからない。
サイトにはこうある。
「奈良時代に高貴な女性(中将姫)の祈りによって、蓮糸を使い一晩で織り上げたと伝えられ、わが国の浄土信仰の核となった曼荼羅である。図様は極楽浄土の様子を中心に『観無量寿経』を絵解きする内容」

実際他で見る當麻曼荼羅はどれも皆楽しそうな極楽の様子が表現され、わたしなどは「極楽アイランド」と呼んでもいる。
周囲のコマ絵はいわゆる王舎城の悲劇が描かれている。
それは王妃韋提希の献身の物語であり、同時に阿闍世王子の悲惨な物語である。ただし物語を知らないと、何を描いているかはわからない。わたしもこの一コマ一コマがどのシーンに当たるのかはわからない。
さてこちらはかなりの変色があり、仏の表情というものは確認できない。

そこで登場するのがこちら。
綴織當麻曼荼羅 部分復元模造 1面 綴織 現代 平成30年(2018) 京都 川島織物セルコン  川島織物が来た。部分でもはっきりした絵が現れた。そうか、こういう表情なのかと納得がゆく。
ああ、綺麗。

これはやはり「死者の書」の世界でもある。
原作を読むもよし・川本喜八郎の映像作品を観るもよし・近藤ようこさんのマンガを見るもよし。そうして「死者の書」を、高貴の姫が見た浄土を<体感>するがいい。
わたしはそれらの作品を思い出しながらこの巨大な曼陀羅の前に佇む。

イメージ (1189)

第3章 奈良時代―巨大な繡仏の時代
奈良時代はそれまでの時代にない「巨大なもの」をいくつも作っている。
しかもそれらは仏教関係。この国に仏教が完全に浸透した証明だと思う。

8世紀の唐招提寺からいくつもの刺繍残欠が来ている。
飛雲文、人面文、王字、花文など。太い眉の立派な顔。花文はわからないものもある。
1300年間守り伝えられてきたものと会えたのだ。

白茶地花葉文刺繡裂 1枚 白茶綾地 部分刺繡 奈良時代 8世紀 東京国立博物館 正倉院伝来品  両面刺繍。素晴らしい…

ところで刺繍と言えば「ドグラマグラ」の呉家に祟る絵巻を飾る刺繍が縫い潰しという凄い技術のもので、今調べると相良刺繍というものらしい。
「それは真物の「縫い潰し」といって、今の人が誰も作り方を知らない昔の刺繍だったのだそうです」と作中にある。

その相良刺繍についての説明は以下。
「相良刺繍とは【読み:さがらししゅう】
中国三大刺繍の一つです。中国では漢の時代より見られ、日本でも奈良時代に仏像の羅髪((らほつ=巻き毛)の部分に使用されています。相良刺繍は生地の裏から糸を抜き出して結び玉を作り、これを連ねて模様を描いていく技法です。非常に技術と時間を要しますが、とじ糸がなく糸が引っかからないのでどの刺繍よりも丈夫です。玉のように縫い込むことから別名を玉縫いとも呼ばれています。光沢はなく蘇州刺繍と同じ糸を使用しているとは思えないほどの落着き、上品さは、日本の着物には最高の技法とされています。


「きもの用語大全」さんから。
後にこの刺繍が当然ながら現れる…

鳳凰や獅子たち。
刺繡鳳凰残欠 一括 平絹地 刺繡 中国・唐 8世紀 東京国立博物館  割と大きめ。
刺繡獅子連珠円文残欠 1面 赤綾地・白平絹地 刺繡 飛鳥時代 7世紀 大阪 叡福寺  正面顔の獅子。歯抜けでガオー。可愛いぞ。

御釈迦様。
刺繡霊鷲山釈迦如来説法図 1面 白平絹地・麻地 部分刺繡 中国・唐 8世紀 英国 大英博物館  足元に獅子。表情豊かな一対。



刺繡釈迦如来説法図 1面 白平絹地 総繡 奈良時代または中国・唐 8世紀 奈良国立博物館  これは鎖縫いと相良縫いとで構成されているそうな。

長くなりすぎるので一旦ここまで。

驚異。凄いもの見たとしか言えない。刺繍万歳。
なんだろう、この執心。
染められた糸が返し縫・鎖縫・相良縫などの技法で仏を形作る。
糸だけでなく、髪もまた絵に縫い込まれて二百年五百年を生きる。
渦巻きが仏の頬になり、みっしり縫いこまれて月兎や亀になる。
凄いものを見た、そうとしか言いようがない。
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