FC2ブログ

美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

「悪を演(や)る-歌舞伎の創造力-」展をみる

「悪を演(や)る-歌舞伎の創造力-」
国立劇場伝統文化情報館でのこの展示は、浮世絵太田・東洋文庫・国立演芸場資料室などで開催された「悪展」のフィナーレを飾るもの。
他はもう終了している。
イメージ (1316)

この展示についての解説がある。
「歌舞伎の舞台には、ときに悪の華が咲きます。観客は残忍非道をはたらく悪人たちが活躍する作品に魅了され、創造する側はその魅力を伝えるべく創意工夫をします。藤原時平、仁木弾正、石川五右衛門、岩藤、切られお富、土手のお六…歌舞伎の悪の役は、身分も様々、主役にも端役にも、立役にも女方にも登場するのが特色といえるでしょう。悪を演じる役者たちは、帝の地位を狙う公卿悪の妖気、謀反を企てる実悪の凄み、天下人と対抗する大盗賊の活躍、涼しい美貌で残忍な殺しをする色悪の魅力、転落の身の上から反社会的な生き方を選ぶ悪婆の艶などをどのように表現すべきか、演技はもちろん化粧や衣裳にもこだわって役を創造します。
また、悪の華が開く場面は「殺し場」「ゆすり場」「責め場」など罪を犯す行為の名で呼ばれる見せ場となり、舞台で使われる道具や装置には歌舞伎独特の美意識、その創造力を見ることができます。このたびの展示では、江戸から今日まで、歌舞伎が創り出してきた悪をテーマに、作品の種類や代表的な役を中心に錦絵や道具、押隈や舞台写真等の資料を展示いたします。」


解説にある通り、歌舞伎の悪の華は酷く魅力的だ。
半世紀近い前に刊行された「残酷の美」という写真集がある。
これは歌舞伎・文楽・能狂言などの伝統芸能に現れる無惨な情景ばかりを選んだ写真集で、今見ても非常に魅力が深い。
映像表現での残酷表現は不快なものが少なくないが、極度に洗練された様式美の中での犯罪情景は、まさに「悪の華」が咲きこぼれたものに他ならない。

展示のリストはなく、英文・中文・ハングルの解説リーフレットのみがある。
わたしは英文のをもらってそこに書き込むことにした。
なぜ日本語がないのかは不明。
英文は読む程度なら大概どうにでもなる。わからない単語があれば調べたらよいし。
ハングルや中文より絶対まだ理解できるはず…だよな?

皇国自慢初陽因雲閣 こうこくじまん はつひのでちなみのうんかく 国周 1884  三枚続きの浮世絵で、大屋根とその下の階を舞台に盗賊やなんだかんだが集まってそれぞれキメてる図。
左から屋根を芳流閣にして信乃と現八の戦闘、満月に雁行。
その下には奴凧のような手をする奴と「夜這い星」=「流星」、傘を差した岩藤。
中、空飛ぶ化け猫婆にそれを見上げる児雷也と彼に寄り添う田毎姫。柱の陰には高砂勇美之助、欄干に脚をかけて「絶景かな」とやる石川五右衛門、座る慶寿院は三世田之助。
右端では日本駄右衛門が捕り手と戦う。
かっこいいわー。

明治の浮世絵らしく赤を多用している。そしてこれは実は見立絵。
この時代既に田之助はいない。国周のノスタルジーか客の願いか。

ここで歌舞伎における「悪役」の種類について名称が紹介されている。
・立敵  まあかっこいいわな。
・半道敵  半分道化的な。
・手代敵  世話物の商家でヒロインの恋を邪魔する…
・端敵  大して大物でもないが、いないとつまらん。
・伯父敵(女だと継母敵)  実はこういうのがいちばん難儀だと思う。
(わたしの勝手な解釈である。)

公家悪 
これはもう常人から遠く離れた絶対悪の存在とみなされる。
青隈の立派な拵えで荒れる荒れる…

6世坂東彦三郎の押し隈がある。この坂彦さんは六代目菊五郎の弟で、非常に面白い逸話の多いひと。
歌舞伎の故実に詳しく、しかも大正年間で自宅に無線局を開設していたという…
イメージ (1317)

芳幾 黒主と「象引」の「白眼」を上下に描く。上の白眼は目がピカッとするくらい大きく描かれ、下の黒主はいかにも腹黒そう。

国周 公家悪の大本・時平と入鹿を大首絵で描く。迫力あるわー

時代物の悪を集める。
ここでいきなり「伽羅先代萩」の奥殿の場に使われる「毒入り菓子」の登場!
さすが大名家の菓子だけに作り物とはいえよく出来ている。
5種x2の10個の菓子は落雁風もしくは練り物風で、黄菊、梅に椿、笹に竹、松、イタリア式トリコロール。
これが鶴千代君を誘う誘う…しかしすんでのところで千松が必死で菓子を食べ、残りを蹴っ飛ばし、毒のせいで苦しみだす。即死の毒を入れるとはなあ。
それを八汐がぶすっと刺し殺し…
この八汐や栄御前は憎々しく見えないとダメなので、女形ではなく立役が演じる。
わたしが見てよかったのは今の仁左衛門丈の八汐。
子役の巧いのがピクピクしながら「あーーー」と断末魔を挙げるのも哀れでいい。

そして仁木弾正の登場。
考えたら意味不明な展開だが、こういうのがまた客の心持の転換に役立つのだ。
仁木弾正のドロドロとスッポンからせりあがるのがまた素敵だ。
九代目團十郎のその姿の写真がある。
裏方の人たちが花道の下で働く姿と仁木の姿を合わせて「楽屋十二支」シリーズの「子年」の出来上がり。

仁木の襦袢、素網もある。かっこいいよなあ。

白浪もの
黙阿弥大先生が書きまくったおかげで本当に「浜の真砂」くらいな数の盗賊たちが現れた。
三世豊国の白浪ものがたくさんあるので、この分野は実に華やか。

鼠小僧 小団次が演じて人気作に。その鼠小僧の絵が面白い。廊下に佇むその影が大きなネズミ。彼は別に妖術使いではないのだが、絵はやはりこれくらいのインパクトがある方が楽しい。

江戸城のお金蔵から本当に小判を盗み出したのがいて、それを芝居にした「四千両小判梅葉」.の絵もある。明治になってからでないと、こんな芝居やれない。
わたしは昔前進座ので見た。
国梅 縦二枚続き 知らない絵師だなあ。1884年 団菊の二人が演じている。


石川五右衛門特集がある。
「ルパン三世」の五右衛門は「13代目」を名乗っているが、五右衛門の子どもも一緒に釜ゆでにされたので、別系統の子孫かも…などと考えたり。

五右衛門の鬘は百日鬘。これは別名「大百の垂れ」ともいうそう。
イメージ (1318)
「絶景かな絶景かな」はこれかぶってるのね。
これより少し髪が少ないのは「五十日鬘」…
ところでわたしの石川五右衛門のヴィジュアルはやっぱり「黄金の日日」の根津甚八のそれなんだよなあ…

最後に世話物。
鶴谷南北キャラの登場。
五世岩井半四郎の土手のお六。これがよかったので次世代にも継がれた。
坂東しうかのお六と願哲のいる図もいい。
大正になってから六世梅幸のいい姿が現れる。ブロマイドが素敵だ。

「四谷怪談」の田宮伊右衛門、「累」の与右衛門、「桜姫」の権助などなど、やっぱり南北描く色悪はどいつもこいつも悪の魅力がみなぎっていてゾクゾクする。

「切られお富」も出ている。「切られ与三郎」の書き換え狂言だが、村上元三がこれを翻案した小説はなかなか面白かった。
イメージ (1319)
三世田之助は手足を失ったが、元気なころはとにかく嗜虐的な役が特別魅力的だったそう。
このお富も田之助。幕末の頽廃的な美の象徴。

まだこの頃「河原崎権十郎」だったかれはそれを苦々しく見ていたそう。
だから明治になり九代目団十郎になった時に、くそまじめな活歴みたいなのをやらかしたわけです。
しかしそれではやっぱり歌舞伎は死んでしまう。
歌舞伎にはそうした面も必要だが、まずはやっぱり悪の魅力がないといけない。
扇情的な要素を捨ててはいけない。

今回の展覧会にはそうした要素が集まっていて、とても楽しかった。
やっぱり殺しと濡れ場がなければ、歌舞伎の魅力は半減する。
悪を為す人間を描く面白さ、これが最高にいい。

9/24まで。
関連記事
スポンサーサイト
最近の記事
月別アーカイブ
カテゴリー
全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

フリーエリア