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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

天理図書館「小泉八雲ラフカディオ・ハーン」展

天理図書館の貴重書の展示はいつもありがたく思っている。
今期は小泉八雲の仕事の紹介。
タイトルは「小泉八雲ラフカディオ・ハーン」展。
名前そのままを使用。
ハーンが小泉八雲になって既に122年が過ぎ、かれが天に帰ってからも百年以上が過ぎている。
しかし今なお小泉八雲もしくはラフカディオ・ハーンの人気は高い。
イメージ (1408)

読者が最初に読むのが「怪談」であることはたぶん間違いないと思う。
平井呈一または上田和夫らを始めとする翻訳者の仕事はいずれも素晴らしく、ドキドキしながら怖い話を読みふけるのだ。
そして「もっと読みたい」という気持ちがわいてくると、次には「骨董」「仏の畑の落穂」「日本人の心」「神々の首都」などの著作からピックアップされて編まれた作品を読むことになり、そこに現れた八雲の「小さな生き物への優しさ」=思いやりを知ることになる。
そうなるともう離れがたくなる。

わたしなども今も折々八雲の著作を読みふける。
手元にあるのは講談社や新潮社の本だが、重複する作品も多い。
その時には翻訳者の個性の違いをも楽しむことになる。
いずれもラフカディオ・ハーンまたは小泉八雲の書こうとしていたことを正しく伝えようとしており、決して妙な改変などはしない。

中学生レベルの英語で原文も読み通すことが出来る。
晦渋な言い回しなどはなく、わかりやすい言葉を綴るのは、かれが新聞記者として世に出たからだと思う。
そしてかれは教師でもあった。
どの文もとてもわかりやすく、いい文章なのだ。
「むじな」の原文を読んだとき、そのことを思った。
また、日本語をも原文に取り込んでいる。
「耳なし芳一」で亡霊の武者が「開門!!」と呼ばわるシーンで原文は”Kwaimon!!”
…凄い迫力である。
Open the gate!!では到底この重々しさは出ない。
(むろん「開けゴマ」ではあかんのである。)
かっこいいとしか言いようがない。

小泉八雲ファンとしてわくわくしながら天理へ向かった。
銀杏の美しい道を進み、図書館へ入り展示室で原稿を目の当たりにした時、とても興奮した。
嬉しさがあふれ出すのを止めないまま、展示を見る。

イメージ (1409)

 『ラフカディオ・ハーンの初版本カタログ付 小伝』 1933  教え子の大谷青年の求めに応じての自製。

「夢魔の感触」零葉 自筆草稿  少しばかり怖そうな挿絵が入る。幼少期に「視た」ものを晩年の「影」に記したそう。

B.H. チェンバレン宛書簡[1894年8月17日付]  恩人であるチェンバレンへの手紙のあて先は箱根の富士屋ホテルだった。
・カーナボン城のイーグルタワーからの眺め(これについてはwikiに画像がある。)
・テオフィル・ゴーティエの作品の話
・昔乳母と過ごした先で見た極東の美しい本について
詳しい内容はわからないが、こうして箇条書きにすると、ハーンの描いた世界の一端がみえるようだと思った。

ジャーナリスト・ハーンの仕事も紹介されている。
『シンシナティ・エンクワイアラー』1873年5月1日-8月31日号  何かというと「皮革製作所殺人事件」の記事。細かい英文なので読み切れないが、国は違うが、雰囲気的にホームズが呼ばれそうな予感のする事件ぽい。

サン・マロ」『ハーパーズ・ウィークリー』1883.3.31  この「サン・マロ」とはミシシッピ川下流にあったフィリピン人の村のこと。調べると1915年にハリケーン被害を受けるまで存在していたようだ。ハーンの紹介記事により、この村とそこに住まう人々が知られることになったそう。

「ニューオーリンズ万国博覧会」 『ハーパーズ・ウィークリー』1885.1.31  この時ハーンは日本館をしょっちゅう訪問していたそう。そしてそこで官僚の服部一三と知り合う。  
この服部一三という人は内務官僚として有能なだけでなく、浮世絵コレクターとして当時著名な人物で、上村松園らがそのコレクションを見に行ってたそう。それらは帝室博物館で保管されていたというが、今はどうなったのだろう。

ハーンは翻訳もしていた。
T. ゴーチェ著 L. ハーン訳 『クレオパトラの一夜とその他幻想物語集』 これは名訳だったそうで、漱石も芥川も愛読していたらしい。時代性が伝わる話である。
他に『クラリモンド』もある。カトリックの僧侶と吸血鬼との恋を描いた『死霊の恋』である。
八雲、漱石、芥川の幻想文学へのときめきが伝わってくる。

『異邦文学残葉』1884  エジプト、南太平洋、インド、イスラム、イヌイットの口承文学をまとめたもの。…読んでみたい。
『中国霊異談』1887  こちらは中国のもの。こうしてみるとアンソロジーを編むのもとてもうまいひとなのがわかる。

『ニューオーリンズ周辺の歴史スケッチと案内』1885  なんと今も人気のガイドブックらしい。無論実際にはいろいろ変化しているからどうかは知らないが、歴史的な場所がそこに生きてある限りは、このガイドブックは確かに不滅かもしれない。

『ゴンボ・ゼーブ』1885  フランス系クレオールに伝わることわざを集めた本。本のタイトルはクレオール料理の名前。
そしてそのクレオール料理のレシピ本も同年刊行。
蟹、海老入りの牛肉とハムの煮込みなど。
大学の時、友人と松江の八雲の足跡を追うツアーに参加した。翌日は足立美術館に行ったのだが、松江のホテルではニューオーリンズの料理が出た。ハーンが食べたものということでのメニュー。
全然関係ないが、そのときのツアコンのオジサンがあまりに横柄で何を食べたか忘れてしまうほどだった。惜しいことをしたなあ。

 二冊の完全オリジナル小説がある。 
 『チータ』1889  少女チータの数奇な運命。
 『ユーマ』1890  若い黒人の乳母ユーマの自己犠牲の話。

いよいよ日本へと道が開く。
恐らくこれらの本はよい参考書となったのだと思われる。
B.H. チェンバレン訳『古事記』[1882]  これには古代日本での神話の舞台となったちを示した地図もついていた。九州から大体佐渡島辺りまでの地域が描かれている。
ハーンはそれを見て「神々の首都」たる出雲の国へ向かおうとしたのだ。

P.ローウェル著『極東の魂』1888  
明治の日本の<不思議さ>は外国人のみならず、百年後の子孫たる我々をも魅了する。

「日本への冬の旅」 『ハーパーズ・ニュー・マンスリー・マガジン』1890.11月号  船に乗り横浜へ入港するまで。

M.C. マクドナルド宛書簡 1900年1月21日付  この人は後に横浜のグランドホテル(ニューグランドホテルの前身)を経営し、ハーンの友として未亡人となった節子さんらを支えたそうだ。

さていよいよ…
 『知られぬ日本の面影』1894 2巻  表紙が竹の絵なので「竹の本」とハーンに呼ばれた。
この本を手始めに小泉八雲の本は植物が表紙のものと決まってゆくようだった。

W.B. メイソン宛書簡 1892年9月25日付  メイソンの妻は日本人シカ子。それもあり仲良くした。ここでは作家キプリングの鎌倉大仏の記事を評価している。
ところで今調べると、キプリングは92年に二度目の来日をしているが「鎌倉の大仏」という詩を書いた、とある。現物を知らないのでそのあたりのことはわたしにはわからない。
しかし改めてキプリングが同時代の人だということを知る。

小豆澤八三郎宛書簡[1894年1月13日付]  生徒で特に仲が良かったそう。

B.H. チェンバレン宛書簡 1894年3月4日付  ここには日本での自由な暮らしへについて記し、しきたりを守ったり東京で暮らすことへの嫌悪についても。

『東の国から』1895  心中する 「赤い婚礼」や大津事件の「勇子」の話など。
『心』1896
この辺りの作品は今もピックアップして別なものと共に一冊に編み直されて刊行されたりしている。

東京での生活へ。
小泉八雲にとても親切だった東京帝国大學の文科教授で大学長・外山正一との親しいやりとりがいくつか展示されている。
また、学生だった上田敏宛書簡もある。上田を讃えた内容。新体詩というものの鮮やかさを八雲も実感したのだろう。

『仏の畑の落穂』c1897  好きな本…タイトルも「仏陀の国の落穂」とどちらもいい。
『異国風物と回顧』1898  表紙はへちま。
『霊の日本』1899  「梅の本」と呼ばれた。
所載の「破片」零葉 自筆草稿 これはフェノロサ夫人メアリの聞き書きを元にしたもの。仏教説話。
『影』1900  「蓮の本」
『日本雑記』1901 「桜の本」ここには名作がいくつかある。恐怖の 「破られた約束」零葉集 自筆草稿などなど
『骨董』1902 表紙には鳳凰のデザイン。
『怪談』1904 でた!!

ちりめん本もある。
 『猫を描いた少年』明治31年8月10日  表紙は鈴木華邨。屏風に描かれる猫
 『団子をなくしたお婆さん』明治35年6月1日  鼠浄土の話。
 『ちんちん小袴』明治36年3月15日  ものぐさな若妻がそのしっぺ返しをいえば付喪神から受ける話。
 『若返りの泉』大正11年12月10日  挿絵も面白かった。

家族への愛情もとても強かったのが印象的。
写真資料もよかった。次男巌のスーツ姿もある。この人は京大から桃山中学の教師となり40歳で没。
可愛いイラストを最後に紹介する。
イメージ (1455)
黒足袋に草履の子どものアンヨである。
小泉家の子どもの足がモデルだそうだ。

11/11までの展示だったが、見に行けて本当に良かった。

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