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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

山口蓬春展をみる

難波の高島屋に山口蓬春展の巡回展がきた。
待っていたので嬉しい。
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彼の絵は今だと葉山の神奈川近美の向かいの山のところに記念館があるので、そこへ行けば何らかの作品に出会えるようになったが、わたしが最初に蓬春の絵を見始めた頃はあまり機会がなかった。
かれの回顧展を最初に見たのは1992年の大丸心斎橋店での生誕百年記念展だったか。
それ以前には大きな展覧会は見ていない。
かれも参加した金鈴社の回顧展や歌舞伎座、山種美術館などでは見ているが、やはりこれだけのまとまった作品群と一度に会えるのはなかなかないので、嬉しい。

蓬春は小樽生まれで、今の東京藝大に入り、当初は洋画家を目指した。
洋画は新しいものだという意識が強い時代である。
それは北海道という新しい地に育った性質からだと本人は言ったが、その絵の本質を見定めた教授により日本画への転向を勧められた。

数点の洋画作品があるが、白馬会のわりに「小径」以外はなんというか関西の洋画に近い雰囲気があった。
1914年「路面電車」は小出楢重の本町を描いたのにも似ているし、1916年の「ニコライ堂」はシャイム・スーティンぽくもあった。
そのままでいれば後年のモダニスト蓬春は誕生しなかったろう。
わたしは今回の展示で初めてかれの油絵を見て、こんなことを思った。

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早い時期の日本画を見る。
虹 1919-20  縦長の絵で上部に虹がかかる。その真下の橋に二人の白川女がいる。頭上に花を集めた籠を載せ、紺色の着物なので白川女だろう。
彼女らの頭上の虹は向かって右側の寺の本堂と塔の辺りから始まっている。
この寺は山を背景にしている。何寺だろうか。この橋は賀茂大橋かとも思ったが、自信はない。

伊都久嶋 1923-24  厳島神社の回廊を背景に一頭の鹿がいるやまと絵である。回廊には釣り灯篭が並ぶ。
この頃は新興大和絵の松岡映丘に師事していたので優美なやまと絵を描いている。
1930年に新興大和絵から離れるまではその枠から離れることはなかった。

初夏の頃(佐保村の夏) 1924  温室のある庭を逍遥する幼い少女の蕩けそうな眼差しが印象的。
白い温室のそばにはねむの木が豊かに花を咲かせている。
そして鳥かごが吊り下げられ、少女はその籠の小鳥に目を向けているのがわかる。
白い衣服のおかっぱ少女。ちょっと生意気に綺麗なネックレスをつけているが、石が服に引っ掛かっている。
小鳥を見て蕩けそうな眼をしていると思ったが、もしかするとねむの木の甘くてよい匂いに惹かれてるのかもしれない。
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ところで今調べたら「佐保村」はこの描かれた前年に奈良市に入り、村としては廃止されたそうだ。
この年は他に「秋二題」を帝展に出している。そちらは薬師寺周辺の農家の風景である。

新興大和絵会のお題で描いたものもある。
「東都近郊十二景」のうち「木場」を描いている。
木材を保管する町の様子は江戸時代のそれとあまり変わりがない。
その町の一隅で吠える黒犬を描く。
関東大震災の後の絵なので、意図としては在りし日をしのんだか、復興を示したかのどちらかかもしれない。
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武陵桃源 1927  桃は満開ではない。風が吹いているのを感じる。大和絵だが、どこか南画風な味わいもある。

緑庭 1927  大きい絵で、奥の緑の表現が素晴らしい。緑と括ったが、様々な<みどり>で構成されている。
そして手前の御所車。静かな鳥の群れ。
新興大和絵の美。
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那智の滝 1929  荘厳な瀧。上から下への流れに沿って四季が描かれる。異時同時でもある。
この絵は大倉男爵主催の羅馬日本画展に出品されたそうだ。

春秋遊宴 1929  平安貴族の遊びを描く。春は龍頭鷁首、二隻がずれて浮かぶ池の様子を描く。秋は紅葉の賀で舞楽。

扇面流し 1930  奔流を背景に物語絵と植物絵の扇面が流れる。力強さを感じる。
「新興大和絵」の破格の絵だとも思う。

ふと思ったのだが、新興大和絵は結局は平安貴族の優美さをその当時の現代に蘇らせるような画題が主で、表現のみならずそういった形式・構成に蓬春はもともと無縁でもあるだけでなく、無関心だったのではなかろうか。
それでとうとう1930年に耐え切れなくなってやめたのではないのか。
…などと勝手なことを想う。

新しい団体に参加して、異なる表現で描く。
二曲一双の「夏雨秋晴」1935 は右の夏が墨絵で左の秋が着色だが、その墨絵が実によかった。湿気を感じた。

梅を描いた「如月」1937と「夜梅」1938はそれぞれ梅のある空間を描いている。梅の花をメインにしたのではなく、梅のある空間そのものを絵にする。前者は薄闇の中の白梅、後者は黒い梅に金の月、枝は付け立てで表現。

泰山木 1939  縦長の画面に満開の白い大きな花花。戦後の新しい表現を模索していた頃の作品にも通じるような感覚がある。

錦秋 1944  紅葉とセキレイのいる空間。この「間」の絶妙さ。

蓬春は戦時中南方へ行った。伊東深水はシンガポールなどにいったが、かれは台南に行って風俗・風景を描いた。
南嶋薄暮 1940  コブウシと煉瓦を土台にした白壁の民家とその中で編み物をする漢民族のチャイナドレスの若い女と、道を行くパイワン族の若い娘二人。
細部がいい。
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煉瓦を白く塗った壁面、窓の装飾、頭上の壺や瓜を入れた籠、家の庇に唐辛子を入れた皿。
この絵のモデルになった家やパイワン族の娘たちやコブウシのモノクロ写真がある。
貴重な記録写真でもある。

戦後になり、日本画不要論などという廃仏毀釈みたいなのが世に出て、多くの日本画家がその問題に直面した。
自分のスタイルを守る清方もいたが、「新しい日本画」を模索する画家たちも多くいた。
蓬春は新しいスタイル・表現を模索した。

緑陰 1950  歌舞伎座に掛かる名画の一つ。下方に花菖蒲、ノムラモミジ、青楓の空間をすっと飛ぶ青い鳥。
描かれたものたちは戦前の日本画の題材と変わらないが、やはり新しさを感じる表現。
これは松篁さんもそうで、以前からの素材を新しい時代に活かした。

夏の印象 1950  モダンムーブメントの旗手、と言ってもいい。
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朝顔の葉っぱの外線をペン画のように描くのはフランスの絵を参照にしたというが、とても鮮烈だ。
中でも中央の帽子。この構成がとても印象的。
好きな作品の一つ。

1953年にそれまで誰も見たこともない日本画を蓬春は発表する。
望郷
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ホッキョクグマと南極のペンギンの競演。ここにパンダがいればヒガアロハ「シロクマ・カフェ」になるか。
誰もこんな絵をみたこともない。

ところで今回ここに小下絵が二点ある。
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こちらは東山魁夷の旧所蔵品。チラシの絵である。
ペンギン三匹。

そして1955年にまたこの小下絵が描かれる。そちらは熊好きの六世中村歌右衛門に贈られた。
こちらの望郷にはペンギンは不在。

リアリズムを求める蓬春
まり藻と花 1955  ガラスカップの中のまりもが水と光の加減で実際より大きく見える様子を描く。
陰の部分も含めいかにもその時代性を感じさせる。

蓬春は花や植物を素敵なやきものとあわせた静物画も多く描いた。
小倉遊亀もそうだが、かれらの描く器がまたとても見事なのだ。

九谷焼に乗せた「枇杷」1956 この器はあの広田不孤斎からの借り物だという。
遼三彩鉢と果物 1956  これもいい鉢で白に緑に黄土色の遼三彩のよいところへ巨峰がのり、外に洋ナシがころん。
他にも素晴らしい器と果実・植物の取り合わせ絵が並ぶ。
染付、赤絵の描写の魅力。

ばら 1962  青花尊式瓶に白・ピンク・赤の三本をいけるのだが、どこかケルベロスのような…色自体は不透明な釉薬のようでそこが面白い。なにも「透明感」ばかりがよいわけではない。これはいえばバタークリームのようなものだ。
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瓶花 1961 白椿ばかりを集めているが中央の花の左側の花が薄くピンクをみせていて、その右隣の椿はピンクをは白で隠したような花。とてもいい。抑制が効いている。

「瓶花」というタイトルの絵は色々あり、ここに出ていないものだけでも、他にポピーに白の黒搔落、花菖蒲もそう、五色椿に青緑の瓶、桔梗と青花尊式瓶というのがある。探せばもっとあると思う。

陽に展く 1968  ひまわり、ひまわり、ひまわり。
こうした対象物が満員御礼のような絵もいい。

今回完全に初見でいちばん惹かれたのがこの絵。
夏影 1963
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蓬春の紫陽花も花菖蒲もよく見ているのだが、両者がこのように遭遇するのは初めて見た。匍匐前進してきたのがバッタリ遭遇といでもいうような状況で、とてもいい。

蓬春は1960年代以降は花鳥風月を描くようになった。色彩や構図が素晴らしくよく、見ていて飽きない。
やがて1970年には皇居の杉戸のために「楓」を描いた。
無論本ものは皇居に入っているのでここにあるのは下図。
そして同じ絵を記録の為にか記念の為にか残している。
これは以前にも山種美術館でみているが、やはり見事だった。

最後の作品「桃」1971 背景は彩色されているのに皿とその中の桃はそのまま。金泥の背景はグラデーションが素晴らしい。

蓬春へのオマージュとして魁夷と片岡球子の絵も出ていた。二人の蓬春へのリスペクトを記した文と共に。

こちらは画室の再現


最後に高島屋の所蔵する蓬春作品が紹介されていた。
高島屋史料館で見たことのある作品たちである。扇面、うちわの原画など。
いずれも明るい感覚の作品たち。

久しぶりに魅力的な日本画展をみれてよかった。
9/9まで。
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