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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

高畑勲展に行って その1

高畑勲展を見に行ったのは夜間開館日。
そうでないと絶対時間切れになる。
この判断は正しかった。
十分長居出来た、たくさん見た。だがそれでも時間が足りないくらいだった。

はじめに竹林の中に佇むような感覚を味わわせてくれる演出があった。
竹林と言えば最後の監督作品「かぐや姫の物語」である。
全ては竹林から始まったのだ。
そして少しばかり「かぐや姫の物語」の映像がある。

進むと、資料の森になっていた。迷路というか腐海というか、高畑さんのニューロンの一端を見てしまうような情景が広がっている。
もっとはっきりいうと、ヒトの脳髄の切れ端を形象化した展示だと言っていい。
凄まじい資料の大海が広がっているのだ。
複製品ではあるが、なんという凄まじさか。

中でわたしの興味を引いたのがユーリ・ノルシュテインから来たハリネズミのイラスト入りのもの、ナウシカについてのなにか、そしてドラえもんの企画書である。
このドラえもんの企画書は自身の仕事のためのものではなく、同業者からの依頼で、藤子不二雄にドラえもんの再度のアニメ化を許可してもらうための企画書だった。
今のように国民的作品になる以前のドラえもんのアニメをわたしは歌だけ一部覚えている。しかし作品自体は思い出せない。
だがその後のドラえもんは知らぬものとてない作品となった。
少しばかり中身を見たが、それはドラえもんという作品そのものへの深いオマージュであり、その作品の本質を衝いた優れた論文でもあった。
これをおくられた藤子不二雄は感銘を受けたのではなかろうか。
そんな風に思う。
変なたとえかもしれないが、「出師の表」を少しばかり思い出した。

初期の仕事の紹介コーナーへ。
文字資料だけでなく画像などもある。
・1stルパン三世の23話絵コンテ

・高畑さんの道を決めたと言われる「やぶにらみの暴君」の凄い映像  巨大な階段を飛ぶように逃げてゆく若い恋人たち、その階段を物凄い角度で描く。膝が砕けそうな階段。
・やぶにらみの暴君 ポスター

・王と鳥 ラストシーンのスチール 作品の概要などが記されている。「未来少年コナン」を少しばかり想起させる人間関係がある。

・安寿と厨子王 弟厨子王を逃がした後の安寿の入水シーンが幻想的な表現で描かれる。
美しく哀しい情景。水に沈む安寿の後に白鳥が飛び立つ。
白鳥は別にスワンである必要性はなく、鸛でも鶴でもよく、「大きな白い鳥」であることのみが注目される。
ヤマトタケルの昔から死んだ人間の魂が白い鳥となって飛び立つ、という幻影を日本人は見ている。

・ミニこけし イヌ、クマなどのフィギュアでもある。

・かぐや姫の企画ノート 「思考のプロセス」と題された、途轍もなく優秀な知能の人が記したノートである。
ここでは「かぐや姫の不在」も可能だとある。「拒絶と美しさ」という言葉が記されている。
わたしはこの「かぐや姫の不在」を日本古来の「留守文様」と捉えたが、高畑さんの真意までは到底掴めそうにない。

少し戻り年譜やスナップショットなどを改めて眺める。モノクロの写真と作品ポスターなどもある。
優秀かつ狂的な情熱・執意を懐く人間がいかにして作品を生み出してゆくか、その一端を見る。
全容を見ることは許されそうにない。

・わんぱく王子の大蛇退治 埴輪の馬か可愛い。

・狼少年ケン  モノクロ映像が流れる。街頭TVをみるゴリラたち。彼らはどうやら主人公ケンの敵勢らしい。
スラップスティック的な流れ。

そしていよいよ。
太陽の王子ホルスの大冒険
スタッフとの共闘の様子がリアルに感じられる。凄く濃密。
テンションチャート表とかいいな。こんなグラフ拵えてたのだなあ。
物語というものは基本「起承転結」か「序破急」で構成を考えるものだけど、何分目でこの盛り上がりとか静かな状況とか細かく設定する緻密さがいい。
ホルスの声優陣は俳優座の人々の出演が主か。あっ若き津坂匡章の名もある。
わたしの大好きな俳優さん、今の秋野太作。
他にも三島雅夫もいる。これまたアクの強い。
そして悪魔の役は平幹二朗。舞台役者として最高だと今も思う。
ヒルダは市原悦子。まさにこの人こそ千の声を持つ人。
他にも声優として親しみのある堀絢子、小原乃梨子といった人々が出演。
素晴らしいラインナップ。
スタッフも無論一流の面々。大塚さん、宮崎駿といった名を見るだけで胸が高鳴る。
本当に凄い作品だったのだなあ。

絵コンテの素晴らしさ、イメージボードの魅力、そして実際の映像。
ホルスはなかなか武闘派なのだね。斧の使い方が怖い。
「収穫の唄」のシーン、川の恵みに喜ぶ村人の様子とその混声合唱が非常に魅力的。
実にいい合唱。村人のハレの様子を掴んでいる。
スコアもすごいな。
「収穫の唄」の歌詞が少しばかり出ていた。
のぼれのぼれヤーヤーヤー
いそげいそげラーラーラー
当時はもう「歌声喫茶」の終焉期だが、丁度田舎から東京大学へ進学した高畑さんはその始まりの時代にいたわけだし、音楽に一家言持つような人でもあるし、更に労働運動とも密接なかかわりがあることを考えると、やはりこの混声合唱はこの作品に必須だったと思う。
更にこの作品への批判の一つにコミュニズムの影響が強すぎるというものを随分前に読んだことがある。
出典を出せないのは申し訳ないが、80年代にそうした記事を読んだということは、アニメ雑誌か映画雑誌かのどちらかの評論だと思う。
他に「婚礼の唄」もいい。

ヒルダのデザインの変遷、アニメーターたちの様々なヒルダがある。
奥山、小田部、森といった方々のヒルダ。
このあたりは丁度放送中の「なつぞら」にもこれをモチーフにした話があったようだ。
わたしは本当にホルスの大冒険を見ておらず、知ったのは和田慎二のマンガエッセイからだから、わたしの中でヒルダは和田さんの絵で再現されてしまう。

「ヒルダにホルスを溺れさせる」という表記がある。
ヒルダは15歳、ホルスは14歳というキャラ設定を改めて思い出す。
その心象風景、迷いの森の背景は東山魁夷の北欧の絵をモチーフにしたそうだ。納得である。
だが二人は生まれの違う双子のようでもある。

実はこのあたりの資料を見ていて思い出したのは、同じ東映動画で後年制作されたSFアニメ「惑星ロボ ダンガードA」でのあるエピソードである。
もうその頃には高畑さんらは東映動画を去っていたし、「ダンガードA」は芹川有吾と荒木伸吾と姫野美智の仕事だが、「異星人ノエルの微笑み」の話がこのあたりの影響をうけているようにもおもわれる。

善の心で子供を助けるヒルダに襲い掛かる冬の狼たち…
このシーンを和田さんのマンガで見ている。
とても正確な作画だということを知る。

太陽の剣を持ったホルスの凶悪なまでの強い顔がいい。
ここまでの力の発現を見せてくれるのか。
なるほど素晴らしい作品なのを深く納得する。

ああ、森康二さんの描いたヒルダの横顔の絵がとても素敵だ。

ところでこちらはもう終了したが、先日京都で上映されたチラシ。
イメージ (2134)
行きたかったが、無理だった。残念。


続く。
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