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美術館・博物館・デパートでの展覧会を訪ね歩き、近代建築を見て周り、歌舞伎・映画・物語に溺れる日々の『遊びに行った日を記す』場所です。 

貿易扇 欧羅巴がもとめた日本美の世界

花園ラグビー場のある公園内に、東大阪市民美術センターがある。
過去何度かここで素敵な展覧会に出会えている。
今日は貿易扇というものを見に来た。

嵯峨美大(嵯峨芸術大)の所蔵品で、学外の展覧は初めてらしい。
『貿易扇 欧羅巴がもとめた日本美の世界』
元々は、今も現役の扇の上絵師さんが引越しの際に出てきた千数百点を寄贈されたところからのコレクションだという。
img149.jpg



扇は日本固有のもので、中国経由で欧羅巴に広まったそうだ。
日本の扇の歴史については、こちらがわかりやすい。
http://maisendo.co.jp/histry/index.html
9世紀に成立し、それが海外に伝播して行く経緯、それ自体もたいへん興味深いものだ。
(扇だけでなく例えば三猿や人力車、それらが海外に根付いている)

明治になり、海外諸国と肩を並べようとした日本は、1878年のパリ万博に気合を入れた。
出品された中に扇があり、それが海外バイヤーの目を惹き、心を奪った。
元々16?17世紀はオリエンタル、17ー18世紀はシノワズリー、その後はジャポニズムが流行していたのだ。

日本人の描く日本の美と言うより、外国人の目に映るNIPPONの美を需めた。
扇の上絵師たちもそれを拒まない。


展示されているものは、一見したところロココ調の絵画のようである。
微妙な官能性と優雅さとがある。
ヴァトー、ブーシェ、フラゴナールの作品を思い出せば、イメージが湧くと思う。
ああいう感じ。
歓談・内緒話・休息・音楽・散歩。
言葉を集めるだけで、秘めやかな語らいの声が聞こえてくるようだ。

明治から大正のこうした工芸の手は世界第一だと言っていい。
泉鏡花の作品で海外に輸出するハンカチの刺繍にまつわる話があった。
詳細は省くが、これが元で一人の女が死のうとする。技能があまりに高く、そのためにトラブルに巻き込まれる。しかもその刺繍の図案は・・・。
なんとなく、この話を思い出した。

原画の中に、『白い花の群れ』と言う作品がある。
赤と言うより臙脂の葉に白薔薇が咲き零れている。地は褪色したのか元からなのか、ややベージュがかっている。薔薇が好きな人には、ときめくような原画だった。

いたずらな猫のいる風景もある。
源氏物語の昔から、猫は思いがけない恋を運んでくる。
ヨーロッパでもそれは変わりないだろう。
扇から流れるような紐をフリンジと言い、そこにそっと香水瓶を忍ばせたものや、扇の閉じる端に小さな鏡を填め込んだものもある。
社交場での夜毎のざわめき・言葉の応酬・視線の絡み・キモチの駆け引きなどが直に伝わるようだ。

スパンコールを貼り付けたもの・コニャックの宣伝のものや、モダニズム風のものもある。
日本で言えば山名文夫風の女の眉と睫毛が文字になっているのだ。
それから1898年のカレンダー扇。羽は12枚あるわけだ。

一方、日本の扇も並んでいる。
カワホリ(蝙蝠)扇が今では主流だと言うことで、平安時代すでに檜扇は冬向け・カワホリ扇は夏向け、と分けて使われていたそうだ。
そしてここに三種の扇がある。
鎮折 まっすぐに閉じられている。今日のわたしのバッグに入っているのもそれだろう。
雪洞 なるほど少し開いてY字型。だからぼんぼりなのだ。
中啓 かなり開いている。儀式用の扇。
ふと思ったが、扇といえば清盛の日招き・日返しの伝説と、那須与一の弓の話だ。
どちらも檜扇のようなイメージがあるな。

さて日露戦争以後の受注と出荷状況。
イタリア・フランス・イギリス・アメリカは日本の人物画・山水画・花鳥画をもとめ、スペインだけは違った趣味を押した。
実物を見ると、なるほど他と違い、色々やかましい注文が入っていたようだ。
複雑で、重厚で、プラド美術館を持つ国だけある、と勝手に感心した。
花の輪というより、花のアーチが何重にも開いたような作品もある。和の文様で言う熨斗が何本も伸びている、あれの親戚。
スペインで扇を持つ女といえばすぐにカルメンの盛装を思い出す。
黒いレースのドレスに身を包み、ドン・ホセに刺されながらも、立とうとする女。

ところで一つ面白いものが。
上部には桜が並ぶが、一枚ごとにお寺とアメリカの国会議事堂とを交互に描いたものがあった。
開き方により、アメリカだったりニホンだったりするのだ。
某首相が喜びそうな感じ。

ねこの扇があった。こちらの猫は日本の猫で、表にも裏にもにゃあっとした姿を見せている。
透かしがあるのが楽しい。
トム・ソーヤーみたいな小僧共の姿もあった。表でも裏でもいたずらばっかりしている。

さすがに時代を感じるものがあった。
国旗の形の扇である。四角く出来て、骨も異なる配列である。
満州の国旗があった。これまでマンガなどでは見ていたが、色のついたものは初めて見た。
実は今日、漱石の『満韓ところどころ』を読みながら来たのだった。

子供向けなのか風刺画なのか、動物の出演している扇がある。
議会風景は風刺だろうが、猫と犬の合奏会はどうかな、わたしはちょっと欲しくなったゾ。
セスナ機で三日月に近づき、酒を飲ませる悪童たちもいた。

他に目立つところでは、世紀末絵画風の作品が意外と多かった。
アールヌーボー風なのや、ステンドグラスを模したものもある。
コマ絵がいくつもついていて、それらがロシア構成主義風なのも面白かった。
背景がWモリス風の青い森で、鳥に囲まれる女や、クリムト的色彩の扇もある。
バルビエやイリーブと言ったイラストレーターの仕事もある。
アラビアの踊り、ギリシャの人々(どう見てもエジプトだ)、スペインの中庭のある邸宅、夜のキリスト、シノワズリーな少女、『アジアの嵐』に現れそうな謎の中国人、京劇『玉麒麟』(この字を見ると水滸伝を思い出すが、それなのかどうなのか、調べるのは又今度にする)

ロシア・アニメやイラストのようなきれいな色彩の扇に惹かれた。
ビリービン風ではないが、ロシアの世紀末のような、と言えばなんとなく伝わるかなぁ。
天蓋ベッドの中でロシア風の被り物をつけた女と孔雀がいる。
わたしはこういう作品を偏愛するのだ。

日本風景・情景を描いた扇もある。
たとえば祇園祭・都踊りなどであるが、どれもこれも妙に違うところがある。
描いたのは日本人であっても、望んだのが外国人であるため、わざと彼らに合わせたようである。ははぁ、なるほど、と言う感じ。
嵐山、厳島、両国の花火、潮干狩り、地元の目ではなく、観光客の目に映る景色。
しかしその一方で、江戸懐古趣味に基づく作品もある。
新年の挨拶、花見、正月風景、初夏、川遊び、舟遊び、川床などなど。
扇の形そのものを使った太鼓橋の風景は巧いと思った。

キッチュな引き札風のもの、北斎や豊国のカバーもの(?)、大和絵風のもの。
透かしは広東のスワトーレースを挟み込んでいるそうだ。
先月のJAL機内誌でスワトーレースの特集があったのを思い出した。
家にもスワトーレースのハンカチなどがあるので、帰ってから広げてみよう。

アルプス、夜の灯台、赤頭巾ちゃん、人気子役のシャーリー・テンプルなどなど。
梅に金閣、抱一風の花の透かしにスワトーレース。
能扇もあった。
すごいなあ、ほんとうに。

しかし、世界恐慌の辺りからすっかりダメになってしまった。
最後のコーナーには国内の子供向けのものがガラスの中にざらっ とあった。
お相撲さん、舞妓さん、バンビ、桃太郎、金太郎、雀のお宿、パンダもいれば、サリーちゃんとカブもいるし、パンダや、内藤ルネ・高橋真琴の作品もあった。多分、付録だったのだと思う。

扇に煽られて、機嫌よく会場を出た。
暑い中、ここまで来た甲斐のある面白い展覧会だった。
暑いから、日傘と扇が必需品なのでした。
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コメント
こんばんは。コメント&TBありがとうございました!気ままに書いているブログですが、楽しんでいただけたのなら嬉しい限りです。こちらからもTBさせていただきました。
読ませていただいて、またあの時の楽しさを思い出すことができました。それに忘れていたものも。色々詳しくていらっしゃるのですね。興味深く読ませていただきました。美術道も建築道も歩き始めたばかりですので、奥義を教えていただけそうで嬉しいです^^ では、またお邪魔させていただきます。
2006/07/23(日) 23:46 | URL | こいちゃ #EVuTtBQQ[ 編集]
こんにちは こいちゃさん
こちらこそたいへん楽しませていただきました。
行く先が割りと重なっているので、こいちゃさんのカフェ情報などにとても関心が湧いています。わたしも行こう、と思うような素敵なご案内ですね♪
また楽しませてもらいます。
2006/07/24(月) 09:04 | URL | 遊行 #-[ 編集]
扇のオリジンが日本だとは知りませんでした。面白そうな展覧会ですね。私は、近鉄奈良線にあまり乗ることがないので、あちらの方向と聞くと気持ちが萎えてしまいます。まあ、これだけしっかりした「報告発表」を読ませていただいた後は、行ってきたような気分になるものです。
2006/07/24(月) 11:15 | URL | red_pepper #-[ 編集]
近鉄奈良線はたしかに北摂から阪神の人間には遠い地です。
しかしこの沿線には、終点に奈良博・奈良県美・間に大和文華館・松伯・中野、ここや司馬記念館があるので、てくてくと。
それから何度も紹介しちゃいますが、やっぱりレジェール・ソルティのケーキがあるので、それを励みに出かけてしまいます。
扇、たいへんきれいでした。
2006/07/24(月) 11:31 | URL | 遊行 #-[ 編集]
リンクありがとうございました!こちらもさせていただきました。よろしくお願いします。
なにやら↑美味しそうなお話ですね・・・・レジェール・ソルティっていうケーキ屋さんなんですね。これは一度行ってみなければ!^^
2006/07/25(火) 20:20 | URL | こいちゃ #EVuTtBQQ[ 編集]
レジェールソルティはイチオシです。
東大阪の吉田駅下車、北に5分歩くとあります。
ここはもぅ、ほんっっとにおいしいです。写真はこちらのはなさんのブログをごらんください。
http://blog.livedoor.jp/h_box3150/archives/50402867.html
近隣の駅に別な有名ケーキ店もあり、食べ比べしてしまいました。
総合的にこちらに軍配を上げます!
2006/07/25(火) 22:13 | URL | 遊行 #-[ 編集]
ありがとうございます!美味しそうですね~
遊行さんのイチオシ、スルッと関西の3dayチケットの期間中になんとか行きたい!(笑) 
2006/07/26(水) 07:23 | URL | こいちゃ #EVuTtBQQ[ 編集]
暑い日でした。カタログがなくて残念でした。宝塚へ行く途中で鑑賞しました。
2008/02/14(木) 13:09 | URL | hitomi #-[ 編集]
すみません。ヤフーブログからTBできず、楽天ブログよりTBしました。
2008/02/14(木) 21:21 | URL | hitomi #-[ 編集]
hitomiさん こんばんは
カタログが無いのは残念でしたが、この元々の所蔵先たる京都嵯峨美大にはもしかすると研究書めいたものがあるのかも、とか思います。それにしても凄く沢山の扇でしたね。
2008/02/16(土) 21:36 | URL | 遊行七恵 #-[ 編集]
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